文献種別コードと、公報番号翻訳の難しさ | 特許翻訳 A to Z

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1992年5月から、フリーランスで特許翻訳者をしています。

公開公報や特許公報には、出願から権利化までの「どの段階で」発行されたものなのかを示すコードが記載されています。
 

英語では「kind code」、「kind of document code」、日本語では「文献種別コード」、「公報種別コード」、「特許種別コード」などと呼ばれ、WIPOの「STANDARD ST.16」に沿って付されます。

(※ST.16には 特許以外のdocumentに対するコードも規定されており、その意味で「公報種別」や「特許種別」は正確ではないのですが、日本では区別なく使われています。)

このコード、「文献種別」とはいっても、ST.16には大ざっぱな規定しかありません。
アルファベット部分(letter code)と数字部分(numerical code)に区別され、前者の「A」は出願後に最初に発行された公報、「B」が2回目、「C」が3回目という具合です。

たとえば公告制度のあった時期の日本の公報なら、公開が「A」、公告が「B」、特許が「C」
公告が廃止されて以降は、公開が「A」で特許が「B」

出願公開制度のなかった以前の米国なら、特許が「A」
公開制度ができて以降は、公開が「A」、特許が「B」になります。

同じ国でも、時期による制度の違いによって、コードが異なるということです。

 

下の画像は、米国特許第5,546,523号に対するパテントファミリをesp@cenetで表示させた結果の一部と、ファミリの公報の一部を切り出したものです。
時期によってA公報だったりB公報だったりしていることが、一目瞭然にわかります。

 


一方、アルファベットの後ろに続く数字は、使用の有無も含めて、各国特許庁に規定が一任されています。

たとえば欧州なら、A1はサーチレポートまで含む公開公報、A2はサーチレポートのない公開公報、A3がサーチレポートだけの別発行です。
(→欧州 Basic Definitions工業所有権情報・研修館による説明
各国に任せられていますから、当然、国が変われば数字の意味も変わります

このように、文献種別は意外と奥が深く、外国語の明細書に書かれた公報の番号表示を翻訳するときにも、注意が必要です。

時期による制度の違いはもとより、国による番号の意味の違いも考慮しなければならないためです。

また、出願、公開、(公告)、特許に別の番号が付される国もあれば、出願番号だけが違って以後は同じ番号で動く国もあります。
欧州が後者の典型で、たとえば「EP 0 832 465」と書かれているだけでは、公開なのか特許なのか判断できません。
ようするに、「欧州特許第832465号」と訳すと、誤訳になるかもしれないことを意味します。

もっといえば、esp@cenetなどのデータベースでステータスを確認し、特許になっていることが判明したとしても、原文が書かれたと想定される時期に、権利化されていたかどうかは別問題

引用された出願の特許日より、原文の出願時期のほうが古ければ、書き手にとってその番号は「公開」公報だったと考えられるからです。

そんなことまで気にする必要がある・・・・のかどうかは、もちろん、ケースバイケースでしょう。
ただ、何も知らずに安易に翻訳するのと、コードの意味を理解した上で翻訳するのでは、天地の差。

特許翻訳者は、文献種別コードひとつとっても、おろそかにはできません。
たかが番号でも、ひとたび「翻訳」しようとすると、そんなに簡単ではないわけです。

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