ワイン法 その4 (AO法からAOC法へ) | ろくでなしチャンのブログ

ワイン法 その4 (AO法からAOC法へ)

          ワイン法 その4(AO法からAOC法へ)

 

 

AOC法

 

 1929年世界大恐慌の嵐はフランスのワイン産業にも容赦なく襲い掛かりました。

 多くの葡萄栽培者、ワイン生産者は消費者に信頼されるワインを供給しなければ誰も自分達のワインを買ってくれないことに気付きます。

 

 政府の無策と法の不備を解決するため、政府や裁判所の判断に頼ることなく自分達で解決すべく活動を始めます。

 この活動を担った組織体が各地区の生産者組合(サンディカ~ Syndicat~1919年アペラシオン・ドリジーヌの保護に関する法律以降創設)であり、後にワイン醸造販売協同組合(カーヴ・コーペラティブ~cave cooperative)へと組織変更されたものが多かったようです。 

 

           ワイン醸造販売協同組合 詳解はこちら

 

 彼らの意見の集約を上院議員であったキャプュスが1935年3月12日上院へ法案として提出します。

 法案の内容は、ワインの品質保証管理(コントロール)を盛り込んだものでした。

 生産地域の指定とともに、品質規定として葡萄品種、ヘクタール当たりの収量、ワインの最低アルコール度数、栽培・醸造方法の制約を為すなすことにより品質の保証(品質を間接的に証明)をするものです。

 管理手法としては生産者組合が行うこととし、フランス全産地代表者全員の署名入り法案支持書が1935年3月22日に議会に提出されます。

 

 全ての御膳立てを整え、法律の制約を受けるであろう生産者の同意を示して法案の成立を迫った画期的な法案です。結果は明白であり1935年7月30日AOC法が成立します。

 

    アペラション・ドリジーヌ・コントロレ

            ~Appellation d'Origine Controlee

 

 原産地呼称統制、原産地統制名称(ワイン)等と呼称されることが多いようですが、成立経緯等を考慮すると「特定原産地品質証明・管理に関する法律」とでも訳すべきだと勝手に思っています。
 

 法律の内容を最も厳しいであろうAOCマルゴーの政令(入手出来た邦訳であり、変更されている可能性あり。)で基本項目を見ると、

 

第1条 生産地域はアペラシオンが示されており、アペラシオン全域が指

  定される訳ではなく栽培に不向きな地所は除かれているようです。 

   この線引きも見直しが為されるようで、都市計画の何々地区のように

  AOCの適用を受け得る範囲が決められているようです。

 

第2条 品種制限が為されています。各AOCにより指定される品種は異な

  ります。ハイブリット種(交配種)禁止が明示されております。


第3条 最低糖分及びアルコール度数が示されています。但し、収穫年の

  作柄により各制限数値の変更(緩和)を別途政令で行っているようで

  す。

   INAOの試飲検査に適わなければ品質証明書が発行されないことを

  明示しています。また、収穫年の翌年3月1日以降流通開始とされま

  す。(ボージョレの解禁日も同様に政令で決められている。)

第4条 最大収穫量が制限されます。ワインの品質低下を防ぐための制

  限ですがこちらも収穫年の作柄により一定の幅で制限数値の変更(緩

  和)を別途政令で行っているようです。

   また、ワイン対象葡萄は樹齢5年以上とされているようです。

 

第5条 葡萄樹の選定方法が細かく規定され、芽数まで決められており植

  栽密度の制限が規定されています。(これらは各AOCにより異なりま

  す。アペラシオンによっては畝間、葡萄樹間の制限もあるようです。)

 

第6条 醸造法が指定され、各AOCにより異なりますがシャンパーニュや

  ロゼ等の特色あるに関しては特別の規定が盛り込まれているようで

  す。

 

第7条 AOC表記は「appellation controlee」で行うことが明示されていま

  す。この明示を行わなければ流通・搬出・販売も出来ないようです。

 

第8条 誤認を生じさせる恐れのあるAOCマルゴーの表示・表記の禁止。

 

      参照 AOCワイン「マルゴー」に関する政令 こちらへ

 

 AOC法の根底にあるのは伝統的な栽培方法・醸造法の承継であり、これらを守ることで各AOCの高品質の特色あるワインが生産出来るとする考えであり、品質の証明の証とするものだと思われます。

 

 結果的にこれらの伝統にそぐわないシュヴァル・ブランやヴァランドローが行った葡萄畑へのシートを敷く手法は認められず、灌水も認めていないようです。

 対して暗渠や排水管の敷設、余剰水のポンプによる汲み上げ排水、二酸化硫黄の添加、砂糖添加、補酸等は伝統的に行ってきたので可とする考えであり、安心・安全なワインを消費者に供給するために自然農法による葡萄の栽培や有機物の使用を禁じるべきとの考え方とは一線を画するものです。場合によってAOC法の解釈を行うに当たり合理的な説明が出来ない事案も想定されます。

 フランスとしては伝統的栽培方法・醸造法への拘りを棄てることはAOC制度を棄てることを意味し、併せてフランス・ワインの優位性をも棄て去ることとなります。

 伝統的栽培方法・醸造法への拘りを堅持しつつ、新世界の合理性を追及するワイン製造潮流と対峙せざるを得ないのでしょう。

 

INAO

 

 1935年7月30日、AOCの認定・運用などを管理する目的でフランス農林省管轄の組織として「ワイン及び蒸留酒に関する原産地呼称全国委員会」(単に国立委員会~Comite National と表記される場合もあるようです。)が設立されます。

 

 AOC法案提出に当たり管理は生産者組合が担いますとの主張のとおり、実質の主体は生産者組合の選出者がメンバーですが、組織の建前上生産者・消費者・行政の代表から組織され、初代委員長はカピュ議員、1947年から20年間ル・ロワ男爵が務めたようです。以降代表は行政官がなっているようです。

 

 1947年に名称が変更されます。「ワイン及び蒸留酒に関する原産地呼称全国機関」と Comite(委員会)がInstitut(機関)に変更されました。

 組織の改編関係では1990年7月2日から管轄範囲をワイン・ブランデーだけでなく他の農産物にも拡大され名称は、

 

   アンスティテュート・ナショナル・デ・ アペラシオン・  ドリジーヌ        

     Institut  National des Appellations d'Origine  となります。

 

 邦訳は原産地呼称委員会、国立原産地名称研究所等とされているようです。一般には頭文字のINAOからイナオと呼ばれるようです。

 

 お仕事(Comite~委員会当時の)は、フランス国内外のワイン・ブランデーに関する原産地呼称の保護と防衛、原産地呼称の新設、統廃合の承認、全国ワイン同業者連合事務局~オニヴィス~ONIVINS(2006年全国果実・野菜・ワイン・園芸同業者連合会~ヴェィニフェロール~VINIFLHORに変更)、消費管理・不正行為取締局~DCRF、間接税総局~DGIと共同で、ワイン製造から流通、消費に至る各段階での点検などとされています。

 ワイン法その3、カイヨ法で述べたようにワイン生産申告がなされますので、収穫量が把握され、その後の流通過程においてもAOCワインは帳簿記載義務が課せられているため数量の誤魔化しがきかないようです。また、税務当局との連携が強く、特に規定以上の砂糖添加ワインの摘発には効果を発揮しているようです。  

 

 2007年1月5日法改正に基づき、品質保証マークを持つAOC(原産地統制名称)、PGI(地理的表示保護)、TSG(伝統的特産品保証)、ラベル・ルージュ、有機農産物も管轄することとなり、名称は

 

   アンスティテュート・ナショナル・ド・オリジン・エ・ド・ラ・カリテ

       Institut   National  de l'Origine et de la Qualite      

 

 邦訳、国立原産地・品質研究所とされますがINAOの略称は継続するとされています。

 

 AOC産品はAOCマークをラベルに印刷するかマーク・シールを貼付することとなっておりますが、ワインの場合はAppellation Controleeの代替表記が認められているため、AOCマークを見かけないこととなっているようです。

 

 

ワイン法 その1 (不正防止に関する法律) 詳解はこちら
ワイン法 その2 (ボルドー合意)       詳解はこちら
ワイン法 その3 (AO法改正と混乱)     詳解はこちら
ワイン法 その4 (AO法からAOC法へ)    当ブログ

ワイン法 その5 (AO法その後・VDQS)   詳解はこちら

ワイン法 その6 (ヴァン・ド・ペイ等)     詳解はこちら

ワイン法 その7 (EC法と仏ワイン法)    詳解はこちら

 

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