ワイン法 その7 (EU法と仏ワイン法) | ろくでなしチャンのブログ

ワイン法 その7 (EU法と仏ワイン法)

         ワイン法 その7(EU法と仏ワイン法)

 

ぶどう E U

 

 ヨーロッパでは、多国間で経済と軍事に於ける重要資源の共同管理を図る為1952年7月23日欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立され、さらには経済分野での統合とエネルギー分野での共同管理を目指し、1958年1月1日より枠組みの広い欧州経済共同体(CEE)と欧州原子力共同体(EURATOM)が設立されます。

 これらは国と言う枠を超えた共同体の設立ということとなります。さらにはこれら3組織の共同体として1967年に欧州諸共同体(EC)が成立します。

 1986年には、設立当初のドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグに加えてイギリス、デンマーク、アイルランド、ギリシァ、スペイン、ポルトガルが参加し、現行は27ケ国(多分)が参加。

 その後、域内市場統合、EMU(経済通貨統合)、政治統合等を目指し1992年2月7日に欧州連合条約が調印され、1993年11月1日に欧州連合が発足しました。

 まあー、簡単に言っちゃうと共同体としての経済的、社会的統一を目指すと言うことのようです。


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                       1984年制定欧州旗。12ケ国分しか星が。  

 

 これら総枠の話は置いといて、ワインに関係する項目を拾ってみると、1958年1月に発足した欧州経済共同体(CEE)は、食料の安定供給等を目的として6ケ国内で関税を廃した1つの自由な取引経済圏を目指し、共通の農業政策(PAC)を採用することとします。

 

 1962年、CEE理事会規則24号/1962によってワインの共通市場制度創設が決定されました。規則第24号の実態は基本事項の確認であり、具体的施策は各国検討の規制策を講じていくこととされます。

 また、同年農産品の共通価格水準を設定し、域内の農産品価格の平準化を図ることとします。

 

補 足

  荒っぽい表現をすると1958年の欧州経済共同体(CEE)が1967年

 に欧州諸共同体(EC)となり、1992年に欧州連合(EU)となります。

  EUに於ける立法権限は、各加盟国の閣僚で構成される理事会が有し

 ます。執行権限については各国から選出された27名で構成された欧州

 委員会が有します。 

  農業分野に於ける協議は各国の農業担当閣僚が自国政府を代表し、

 合意事項は理事会規則となり、各国に対して強制力を持ちます。

  EC法であるとかECワイン法という法律がある訳ではなく、前記理事会

 規則と欧州委員会の発する執行規則の総称を指すものと思われます。

 

 1968年7月1日(当時は6ケ国)には特定製品に対する域内での関税が撤廃されました。

 

 1970年ワイン共通農業政策として共通市場制度としての規制策、CEE理事会規則816号/1970、同817号/1970が発せられ共通市場制度が具現化します。

 制度確立までに時間がかかったのは各国のワイン事情が大きく異なっていたためであり、共通の規制策を調整する必要があったようです。

 フランスに於いては長年市場管理を行っており、イタリアはお国柄からか規制が少なく、あっても余り・・・・。まあー、自由な栽培を行っておりました。ドイツは外国産ワインに直ぐに飛びつくような雰囲気でもなく、危機感は薄かったように思われます。

 

 共通市場の問題点は如何に市場管理(主として過剰生産の抑制)を行い、どのようなワインの品質規定を設けて域内ワインの品質向上を図るかと言うことに尽きるようです。

 フランスは品質規定の策定では、ゴールデン・ボンバーと山口百恵のジョイント・コンサートを度々開催します。 ん? 何の話だ!

 『女々しくて音符女々しくて音符 ちょっと待って音符ちょっと待って音符』 失礼

 

 前述理事会規則第817号/1970により共通市場に於けるワインは次の区分とされます。 

 

1.指定地域優良ワイン(VQPRD)

    ヴァン・ デリミテ・ドゥ・ カリテ・ シューペリュール 

    Vins delimites de qualite superieure

2.日常消費用ワイン(Vin de Table)

 

フランス・ワインの品質区分は、

 

1.AOC~Appellation d'Origine Controlee

      アペラション・ドリジーヌ・コントロレ 原産地呼称統制名称ワイン

2.AO VDQS~Vin Delimite de Qualite Superieure

      ヴァン・デリミテ・ド・カリテ・スペリュール 原産地呼称上質指定ワイン

3.ヴァン・ド・ペイ Vin de Pays

4.ヴァン・ド・ターブル Vin de Table


 となっておりました。ここで共通市場制度を採るので、品質区部もCEE(ECは各組織全体の総称)の2区分にするかと思えば各国の区分をCEEの区分に当て嵌めるという運用?を行ったようです。

 但し、肝心のワイン生産量の抑止策は実施すると言う、名より実を採ったということではないでしょうか。フランスとしてはAOCの名称や区分を死守しなければならなかったのでしょう。

 

1.指定地域優良ワイン(VQPRD)の区分

    AOC~Appellation d'Origine Controlee
    AO VDQS~Vin Delimite de Qualite Superieure

 

2.日常消費用ワイン(Vin de Table)の区分

    ヴァン・ド・ペイ Vin de Pays

    ヴァン・ド・ターブル Vin de Table    

 

 域内のワイン生産量の抑止策は1.指定地域優良ワイン(VQPRD)区分のワインは対象とせず、2.日常消費用ワイン(Vin de Table)に対して行われ、価格動静を鑑みて在庫量の増減や醸造したワインを工業用・飲料用アルコールに強制的に蒸留し流通量を減じる市場介入を行うこととしました。

 

 1976年には新しい植樹制限、抜根奨励金(抜根~葡萄樹の引き抜き~日本での減反政策に相当)制度を導入します。

 

さくらんぼ EUの新たな方向性


 EUは日常消費用ワインの過剰生産対策を継続せざるを得ない状況にありました。特に新たにスペイン、ポルトガルのEU参加により過剰生産対策はより重要となりました。

 しかし、1990年代になると新世界のワインが大きく台頭し、さらには1995年のウルグアイラウンド(GATTの多角的貿易交渉)によって関税障壁が崩され市場開放が進むと、ECは日常消費用ワインの生産量を減らしているだけでの対応では済まなくなってきました。

 根本的にニュー・ワールドのワインに品質面でも対抗できるワイン生産が重要項目となってきました。新たな方針は

 

 農産物全体に関して品質保証制度原産地特定(保証)制度の統一

~農産物の品質と原産地を保証が簡単に認識される制度。

 

さくらんぼ フランスの苦悩

 

 フランス共和国はヨーロッパ連合(英語表記ではEU、フランス語表記での略称はUEと逆となります~Unione uropeenneユニオン・ウロペンヌ)創設の旗振り役でもあり、中心的存在でもありました。

 

 フランスでは、ワインやチーズなどの伝統的な農産物を保護し、消費者に製品の品質を保証するための、AOC(Appelation d' Origine Controlee)という原産地統制呼称制度を設けており、特にワインに関しては400を超えるAOCがあり、特定のAOCはブランド化の域に達しております。

 フランスの本音としては、長年に渡るPR活動により、ようやく認知され始めたAOCを捨て去ることはしたくありません。

 特にアメリカ・マーケットを考えるとAOCの廃止は命取りともなりかねないからです。

 アメリカはランク(順位)を重要視し、AOCや格付けなどが大きな販売戦略となっているからです。要は1番がお好きなお国柄。
 しかし、EUの牽引役としてEU内農産物における品質の一貫性を打ち出さなければならなかったのです。

 

2008年理事会規則479号/2008年

 

 要点は、偽装品やコピー商品の撲滅に向けて、現在の食品市場に製品の品質や特徴が産地に依っていることを認証する統一制度を設けます。

 新制度は、フランス共和国の独立表示であるAOCではなくヨーロッパ全体に通用する統一表示AOPにしました。

 

    AOC(Appellation d'Origine Controlee)

       アペラション・ドリジーヌ・コントロレ~原産地呼称統制
            ダウン

  ① AOP(Appellation d'Origine Protegee)

       アペラシオン・ド・リジーヌ・プロテジー~原産地名称保護

 

 このAOPの性格と言いますか捉え方は、原産地呼称統制のEUバージョンであるとか、AOCと欧州で同等レベルの品質とされました。

 また新たに、

 

  ② IGP (Indication Geographique Protegee)

       インディケーション・ゲオグラフィク・プロテジー

     ~製品とテロワールとに関連があることを保証 を設けます。

さくらんぼ 一般農製品とマーク

 

 2009年5月1日、フランスの農製品は、製品の包装に、欧州レベルのAOPのロゴ(ロゴマークまたは文字で表記)を掲示することが義務付けられます。しかし、ワインはフランスの法規制を未だ受けている(法改正しないで存続させ、代替措置としてエチケットにAOCの表示を行う。~何も変えてないじゃん!)ので、当面この対象から外されました。

 結果的に、欧州の原産地名称の製品はすべて、共通のロゴが導入され、フランスの殆どの農製品からAOCの表記なくなりました。
 この新マークは、産地、原材料、製造方法、製品の品質を保証するものであり、消費者が安心して購入することの出来る製品との認知を受け、ヨーロッパ商品全てに貼られ、ギリシャ産フェタチーズ、イタリア産生ハム、スペイン産ワインなどにも当然貼られていきました。

 

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       AOPマーク             IGPマーク  

 

さくらんぼ ワインの分類

 

 農製品であるワインに関しても、前記に遅れる事3ケ月、2009年8月1日にEUワイン共通市場制度(OCM)が新たに施行されました。
                           理事会規則479号/2008

 

1970年規則の廃止。

    1.指定地域優良ワイン(VQPRD)

    2.日常消費用ワイン(Vin de Table) 

         の2区分とされていた品質分類は廃止となりました。

 

新品質分類

 

① AOP/PDO アペラシオン・ドリジーヌ・プロテジー

   (Appellation d'Origine Protegee

         /英 Protected Designation of Origin)

② IGP/PDO インディケーション・ゲオグラフィク・プロテジー

    (Indication Geographique Protegee

         /英 Protcted Geographical Indication)
③ Wine

 

 英語だと判りやすく ①は原産地 ②は地理的 となっており、①と②は

地理的表示があり③は地理的表示がなされていないため、

 

 1.地理的表示のあるワイン

 2.地理的表示のないワイン の大枠では2区分となりました。

 

① AOPは、品質と特徴が特殊な地理的環境に起因し、指定地域内で栽

 培された葡萄だけを用いて造られるワインであって、葡萄品種はヴィティ

 ス・ヴィニフェラ種に限られ、指定地域内で生産されなければならない。
 

② IGPは、原産地に由来する品質、名声、特徴があり、指定地域内で栽

 培された葡萄を85%以上使用。葡萄品種はヴィティス・ヴィニフェラ種

 及びヴィティス・ヴィニフェラと他のヴィティス種の交配種に限られ、指定

 地域内で生産されなければならない。


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 これに伴いフランスでは、これまで4階層のフランス・ワインの品質分類について、

 

1.AOC~Appellation d'Origine Controlee

      アペラション・ドリジーヌ・コントロレ 原産地呼称統制名称ワイン

2.AO VDQS~Vin Delimite de Qualite Superieure

      ヴァン・デリミテ・ド・カリテ・スペリュール 原産地呼称上質指定ワイン

3.ヴァン・ド・ペイ Vin de Pays

4.ヴァン・ド・ターブル Vin de Table

 

 以上の4段階で構成されていました。しかし、ECの新品質区分に合わせなければならず2011年末までに整理統合が求められました。

 

 1.AOCは、AOP相当と認めさせて存続。AOP(AOC)とかAOC(AOP)と

  か変てこなことに。

 2.のAO VDQSについてはAOCへの昇格運動により1977年にはコー

  ト・ド・ルーションが昇格。1985年にはコート・デュ・ランドック、コルビ

  エール、ミネルヴォワ等が相次いでAOCへの昇格が認められてきまし

  た。

   AO VDQSは、運動の発祥地でもあったラングドック・ルーション地区

  に多く存在していたのですが、1979年の農業調査で同地区の面積に

  占める割合は20%程度あったものが、10年後の1988年には僅か

  1%の面積を占めるに過ぎませんでした。残るAO VDQS全部に付き

  AOCへの昇格を認め、指定期限までにAO VDQSは消滅させます。 

 3.のヴァン・ド・ペイは全153程あったようですが、こちらもIGPへの移

  行を認め、半数以下の75がIGPとして指定期限内に成立しており、こ

  ちらヴァン・ド・ペイも現在は消滅しています。

   153のヴァン・ト・ペイと言っても名前だけで実態の無かったものも多

  数あったようです。IGPへの昇格を諦め消滅したヴァン・ド・ペイ(新 テ 

  ーブル・ワインとも呼ばれる地理的表示のないワインとなる。)があった

  のか不明です。何れにせよ、ヴァン・ト・ペイの根拠法を廃止しているも

  のと思われます(法律上ヴァン・ト・ペイは存在しない)。

   ヴァン・ド・ペイ・ドックとしてはメジャーだったVin de Pays d'Oc(ヴァ

  ン・ド・ペイ・ドック)も2009年8月1日にIGPを認められ、名称もペイ・

  ドック(Pays d'Oc)と変更しました。なお、IGPはINAOの管轄下に入り

  ました。  

 ① AOP(AOC)              旧AOC、旧AO VDQS(消滅)

 ② 地域的表示のあるワイン(IGP)   旧ヴァン・ド・ペイ(消滅) 

 ③ 地理的表示のないワイン      旧ヴァン・ド・ターブル

 

 めでたし、めでたし!

 

 今回の改正は簡単に言ってしまうと、フランス・ワインもEU産ワインなので2つに分類しましょう。1つは特定の地域名を入れた上質バージョン(地理的表示付きワイン)、2つ目は地域名の入らない一般バージョン(地理的表示のないワイン)としましょうと言う事ですが、フランスは今までのブランド化されたAOCをどうしても残したかった~『女々しくて音符・・』の由縁。

 そこで、地理的表示付きワインといっても超高級品と高級品があるということでEUの地理的表示付きワインをさらに2つに分けて、AOPの名の元にAOCを残した(AOCは特別とのブランド・イメージの存続)ということでは?

 

 他方、もう一つの眼目は、アメリカをはじめとするニュー・ワールドのワインは品種名を前面に打ち出したものであり、消費者に判りやすいものでした。フランスワインのエチケットは特に難解です。そこで、ニュー・ワールドと同じに簡単表記に直しましょうと言うでエチケット表記についても改正がなされました。

 

ワイン法 その1 (不正防止に関する法律) 詳解はこちら
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ワイン法 その5 (AO法その後・VDQS)   詳解はこちら

ワイン法 その6 (ヴァン・ド・ペイ等)     詳解はこちら

ワイン法 その7 (EC法と仏ワイン法)     当ブログ

 

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