予期せぬことに怯えるより
予期せぬことに夢馳せたい
未曾有の絶望を救うのは
これまでから、今へと続いた希望
以上が、僕の病歴である。これから増えていくかもしれないし、この先は待ち望んでいた平安が訪れるかもしれない。僕の体の機嫌次第だ。自分で調整できるところはするつもりだが。
大事なことを、一つか二つ。
病気にならなかった人は、運がいいのか、人より丈夫なのか知らないが、決して自分ひとりの力で築いた健康ではないのだと気づいてほしい。普段の食事にしろ、欠かさず飲んでいるサプリメントにしろ、必ず他の命や誰かの労力、地球の歴史を、自分の健康へと変換しているのである。それ＋自分の努力（行動）＋天運なのだ。だから、不運にも病気になった人を、どんな病気であったとしても、蔑まないでほしい（たとえ、その人の悪行が原因だったとしても）。病気になった人の気持を、察してほしい。特別扱いしろと言っているのではない。あなたなりの作法で、思いやることはできないだろうか？人それぞれやり方は異なって良いのだ。
人生の岐路に達しているかもしれない、彼らの背中を後押すことはできないとしても、理解をもって見守ってあげてほしい。差別や誹謗中傷など、言語道断である。自分の健康を武器に、弱者を馬鹿にしている人は、もはや人ではないと思え。自分たちの「普通」と違っているから、なんだ。それが面白いか？笑えるか？笑うところではない。
この話は病気の患者のものとは違うが、私が専門学校にいた時、（たぶん社会進出していた）身体障害者を、“シンショー”と略して、自分たちとつりあわない、喋り方や見た目、態度を笑いもの、あるいは不気味・傲慢・同じ人間とは思えないと、しょっちゅう馬鹿にしていた奴らがクラスにいた。あんなのはクズだ。あなたはそんなクズにならないで。もし、今現在クズ野郎だったとしたら、すぐにでも態度を改めるべきだ。クズはその場では「そうだよね」などと共感めいたことを言われるかもしれないが、影では、「いまどき障害者（あるいは病者）をわざわざ笑う、あいつはおかしいよな」と呆れ顔でささやかれているのだから。時代は、様々な抵抗に遭いつつ、ゆるやかだが必然で、福祉社会へと向かっているのだ。弱者を笑う奴は、必ず報いを受ける。
病気になった人は、運が悪いのか、人よりもろいのか知らないが、研究でもしない限り、いちいち原因の原因を過去にさかのぼって探して、くどくど言うものではない。病気になったきっかけは治療上重要だが、それは問題の本質ではない。一番大切なのは現状で抱えた諸問題と、その解決策である。過去のあら捜しをして、解決・反省するならまだしも、「あれが悪かった。なんて自分はバカだったんだ。こんな自分、生きている価値などない…」、「あいつのせいで…許せない！補償しろ！」などと、実のない感情に揺れ動いて、現在をないがしろにしては、元も子もないのだ。大事なのは、現在である。未来である。そのための、過去なのだ。確かにあなたは過去も現在も苦しい。未来も苦しいかもしれない。苦しいまま、終りが来るかもしれない。しかし、苦しいということは、残酷だが、生きている証しなのだ。死んだ人には欲しくとも手に入れられないものである。安らぎもまた、生きている人間にしか、手に入れられないのだ。ぜひ、生きのびて、工夫次第でささやかでも安らぎを手に入れようではないか、どうせ死ぬまで生きているのだし。今の状況がどんなに悪くても、絶望には値しない。まだだ、まだやれる。まだ命は尽きていない。
病気にかからないように努めることは難しい。人類はまだ、人類自身と、病の本当のメカニズムを、知らないからだ。風邪にかからないように手洗い・うがい・殺菌をしても、ひいてしまうときは風邪をひいてしまうように。しかし、未知だからこそ、病気から学ぶことも大変多い。病気にかかった人も、その家族も。赤の他人も、社会も。
だから、あなたも私も、病気のことをバカにできないのだ。
ただの病歴は勲章ではない。しかし、闘病暦は勲章に値する。
１０年闘っても治らない人にも、そこから何かを学びとれば、たとえ病気そのものは完治しなくとも、病気をする以前よりも豊かな人生が待っているのである。
体験も、何も学べなければ、それで終わりだ。
自分は何を欲している人間なのか？どの道を進めばよいのか？それともあなたの進む道は前人未到で、自分で作るものだろうか？
すべては自分しか知らないことである。誰もが皆、内に答えを秘めている。
求めよ、さらば、開かれん。
エッセイ 「僕の病歴ですが、なにか？」目次