はじめに


 幸せなんて、逃げたっていいよ
 逃げていくよな、幸せなんか、いらない
 (自作小説『優しい赤』美紅の即興歌より)


 精神疾患だけに限ったことじゃないのかもしれないけれど、病名という奴は、付くまでに時間がかかったとしても、その手前の奴は無視して、現在のものを優先するらしい。だから、僕の場合、最初がパニック障害だったとしても、現在は、パニック障害でうつ病で統合失調症、ではなく、統合失調症onlyなんだそうだ。本当かどうかは知らないが。どう検索していいものやら。


 しっかし憎たらしいわあ、この、“こころの病気”って言葉!僕は、ときどき思考回路や言動がなにやら病気めいておかしいとしても、こころだけは病気じゃなかったと自負している。こころはいつも葛藤していた。「ああ、もっと上手く喋りたいのに!全然言いたいこと言えない!」「こんなことしたくないのに、何でやっちゃう(起こっちゃう)んだろう?」etc.割りたくないグラスを、手が滑って割っちゃった時みたいなことが毎日起きているんだ。それが病気で、こころまで侵されているとしたら、心境はこうだろう、「わーい、大好きなグラスだ。割っちゃえ♡」。これならこころの病気だって認めてもいい。でも違う。やっぱり私はグラスを割りたくない。


 今、楽しくって楽しくって仕方がない。別にそう状態ではない。新しいアイディアを見つけ、喜びに静かに打ち震えている(嘘つけ、嬉しくて歩き回ってたじゃねーか)。


 ハタチまで、目標や使命感も、なんもなく、人から与えられたゲームとか漫画とかアニメで笑いあっていた頃より、楽しい。


 この魔法のペンで、病気と、社会と、闘えることが、嬉しい。


 (糖尿病はなるべくガチンコしたくない強敵だが…orz)

 

昨日まで落ち込んでたりしたのが、嘘みたいで。


 僕が死なないのは、この瞬間のために、生きているからだろうな。いつかすごく美味しいエサ(希望)がやってくるのをわかってるから、絶望しないで(もちろん寸止めまでは行く)、カットもオーバードーズも嘔吐もしないで、文化のケダモノみたいに生きている。


 また落ち込むが、また復活するぜ。またイライラするが、またどんと構える岩の音のように鳴るぜ。また嫌いになるが、また愛するぜ。それだけ人間は、強さを秘めている。


 あなたは病気かもしれない。


 明日死ぬかもしれない。


 慣れない自傷のつもりで、はさみで肉の切り方を間違って、自分で自分を殺してしまうかもしれない。 

 

 それでも死ぬまで、みな、生きてゆく。

 

 いやあ、実に楽しい。

 やがてこの永久には続かない、楽しさがしぼんで、人生に失望したとしても。


 病気になってから、僕は自分でバンバン扉を開けた。扉の向こうは大体絶壁で、架け橋すらなかったけれど、僕は自分でバンバン橋をかけた。やらないことで後悔するのはもうたくさん。障害者だろうとなんだろうと、扉がないなら、作っちゃえ!社会という名の満員電車に乗り込むんだ。終点まで我慢して乗るんだ。いざとなったら人の目気にせず地べたに座り込んじゃえ。疲れが取れたらまたつり革つかんで揺られて、自分の席が開くまでずっと待つんだ。時にはつり革自体が人生だったと気づくこともあるけど、それはそれ。

 

 やっぱ楽しいいっスよ!


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エッセイ 「僕の病歴ですが、なにか?」目次

はじめに

カルテ0 誰が誰を差別するんだ?

カルテ1 パニック障害でしたが、なにか?

カルテ2 うつ状態でしたが、なにか?

カルテ3 過食状態でしたが、なにか?

カルテ4 糖尿病ですが、なにか?
カルテ5 統合失調症ですが、なにか?

カルテX 大事なことを、一つか二つ