エピブラストステムセルとヒトES細胞(その2) | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

エピブラストステムセルとヒトES細胞(その2)

エピブラストステムセルとヒトES細胞 」の続きです。


(10年7月5日追加)

マックス・プランク研究所のHans R. Schölerらのグループにより、マウスエピブラストステムセル(EpiSCs)とヒトES細胞(hESCs)におけるFGFシグナリングの保存された役割と異なった役割を明らかにしたという論文が発表されました。

EpiSCsとESCsとの変換に関連する因子についての解析もしています。


Cell Stem Cell, Volume 6, Issue 3, 215-226, 5 March 2010
Conserved and Divergent Roles of FGF Signaling in Mouse Epiblast Stem Cells and Human Embryonic Stem Cells
Boris Greber, Guangming Wu, Christof Bernemann, Jin Young Joo, Dong Wook Han, Kinarm Ko, Natalia Tapia, Davood Sabour, Jared Sterneckert, Paul Tesar, Hans R. Schöler
http://www.cell.com/cell-stem-cell/abstract/S1934-5909%2810%2900004-4


Schölerらはまず、GOF18-GFPx129SvのE5.5胚から、ヒトES細胞培養条件下でEpiSCを樹立し(E3)、Oct4, Nanog, Sox2がマウスES細胞と同レベルで発現していること、エピブラストマーカーであるFgf5, Fgf8は強く高発現しているが、マウスES細胞特異的遺伝子であるRex1, Esrrb, Klf4, Dppa4, Dppa5はマウスES細胞よりもずっと発現が低いこと、テラトーマを介して三胚葉分化できること、Oct4の発現に関してエピブラスト特異的な近位エンハンサーが優先的に使われていること、LIF/STAT3経路の阻害に非感受性であるが、SMAD2/3シグナリングの抑制に感受性を示すこと、グローバルな遺伝子発現が他の研究室で樹立されたEpiSCと非常に類似していることを確認しました。


SMAD2/3は、ヒトES細胞において直接的にNANOG発現を制御することが報告されていますが、マウスにおいては、(putative)SMAD2/3/4結合部位のほとんどが保存されていませんでした。

そこで、その点に関してEpiSCで調べるために、まず、SMAD2/3シグナリングを刺激できる生理学的なレベルのActivin A(ActA)を含むMEFコンディションメディウムを用い、フィーダーフリーコンディション下でEpiSCを増殖させた後、SB431542処理でSMAD2/3シグナリングを12時間ブロックしたところ、NANOGタンパク質レベルが減少する(OCT4, SOX2は変わらず)ことを示しました。

次に、Nanog発現がActAのパラクラインで支持されているのか調べるために、EpiSCを組成決定培地に低濃度で移し、様々な量のActAで処理したところ、Nanog発現レベルは培地中のActA濃度と相関することが分かりました。

また、EpiSCにおいて、SB処理後3時間以内にNanog発現が70%減少するが、ActAの再刺激により、急速にNanog発現が誘導されるのに対し、Oct4は短期反応をほとんど示さないことから、SMAD2/3シグナリング経路とNanog発現の直接的な関連が示唆されました。

また、マウスES細胞においては、SB処理はNanog発現に影響しなかったことから、SMAD2/3阻害への感受性はEpiSCを定義する特徴であることが示唆されました。

さらに、SB処理EpiSCにおけるNanog誘導には新たなタンパク質合成が必要ないことがcycloheximide処理により示され、リン酸化SMAD2/3抗体を用いたChIP-qPCRにより、SAMD2/3活性化条件では、マウスNanogプロモーター中の推定SMAD2/3/4結合部位をまたぐ2つの領域が陽性を示すが、SMAD2/3不活化条件では、そのシグナルが消失すること、Nanogプロモーターに変異を入れるとSMAD2/3に対する反応性が低下することが示されました。

次に、E3 EpiSCは、十分な濃度で塊として継代する時は未分化性を維持するのにActA添加が必要でないが、低濃度で小さな塊として継代すると、Nanog発現が減少することが分かり、SMAD2/3を刺激するオートクラインシグナリングがこれらの細胞中で働いていることが示唆され、ActA遺伝子はヒトES細胞と異なりEpiSCでは発現していないことから、Nodalがこの効果を媒介していることが考えられ、それを確認するために、RNAiでNodal発現を抑制したところ、Nanogが発現低下し、分化することが示されました。

また、Nodalノックダウンは、SMAD2リン酸化よりもむしろterminal SMAD3に影響したことから、オートクラインNodalが選択的なエフェクターとして用いられていることが示唆されたのに対し、コンディションメディウムもしくは組換えActAを含む培地を用いて培養すると、ノックダウン効果は少なくとも部分的にレスキューされたことから、パラクライン因子はオートクラインNodalを代用できることが示されました。


次に、FGF2がいかにEpiSCの自己複製を支持するのか調べました。

まず、MEF依存的培養において、FGF2はフィーダー層からのActA分泌を誘導するが、E3 EpiSCはFGF2のみを添加したN2B27培地でも未分化状態を維持できることが分かりました。

この際の自発的分化率はMEFコンディションメディウムよりもいくらか高かったものの、FGFを介した短期の効果を調べるにはN2B27で良いと考えました。

そこで、FGF2/ERKシグナリングがEpiSCの生存を促進するのか調べるために、細胞接着試験を行ったところ、FGF2添加が、単一細胞/小塊への解離後の接着/生存を有意に促進することが分かり、FGF経路の阻害はある程度細胞生存を減少させることが示されました。

また、FGF2添加により細胞増殖が促進されるわけではないことも分かりました。

次に、長期の影響を調べるために、EpiSCをFGF/ERK阻害剤であるSU5402(SU)もしくはPD0325901(PD)存在下で培養したところ、細胞死と分化が増加することが分かりました。

また、passage 2でのグローバルな遺伝子発現解析により、SUとPDで発現上昇する遺伝子には神経発生に関連するものが高度に濃縮されており、EpiSCにおいてFGFシグナリングは神経分化を抑制していることが示唆されました。

なお、ヒトES細胞においてもFGFシグナリングによって神経分化が阻害されていることが報告されており、EpiSCでも同様の効果があるのか調べたところ、SMAD2/3シグナリングを阻害することにより神経分化を誘導すると、FGF2存在下でも、Sox2とSox1が明らかに誘導されるが、FGF2添加なしでは、Sox2とSox1の発現上昇が少なくとも同様に明らかであり、Pax6が有意に強く誘導されることが示されました。

また、FGF/ERKシグナリング阻害でも同様のパターンが得られました。

さらに、終末分化も影響を受けるのか調べたところ、SB+FGF2もしくはSB+PDでの誘導後、容易に神経が形成されるが、SB+PDの方が効率がよく、神経マーカー発現も何倍か高くなることが示されました。

これらより、FGFシグナリングはEpiSCにおいて、ヒトES細胞と同様、神経外胚葉分化を完全ではないが阻害することが示されました。


次に、ヒトES細胞においては、FGF2シグナリングが自己複製や多能性を制御するネットワークに影響を与えることが示唆されており、OCT4がFGF2発現を制御していることが示唆されているのに対し、EpiSCでは、Fgf2が発現していないことが分かりました。

また、ChIP-qPCRにより、ヒトES細胞においてはOCT4がFGF2に結合していることが確認されましたが、EpiSCではそのようなことが見られないことが示されました。

次に、ヒトES細胞においては、SMAD2/3のみならずFGFシグナリングがNANOG発現を支持するが、それらを繋ぐメカニズムはよく分かっていないことから、それらのシグナリングを阻害してみたところ、FGF/ERK阻害はNANOG mRNAレベルを12時間以内に50%減少させること、SMAD2/3阻害の効果はより強いこと(85%減少)、組み合わせるとさらに減少することが分かり、これら二つの経路の相互作用が示唆されました。

しかし、EpiSCで同様の実験を行っても、Nanog発現に影響は出ないこと(複数のラインで確認)が分かったことから、ヒトES細胞では、FGFシグナリングがSMAD2/3シグナリングと相互作用してNANOG発現を調整するが、EpiSCでは、SMAD2/3活性化のみに反応することが示されました。


次に、LIF, GSK3β阻害剤(CHIR99021, CH), MEK阻害剤(PD)を含む培地が、EpiSCをES細胞様状態に復帰するのを促進することが報告されていることから、FGF/ERKシグナリングの他の役割として、脱分化を阻害することでエピブラスト状態を安定化しているのではないかと考えました。

そこで、E3 EpiSCを小塊としてMEF上にまき、PD, CH, LIFで別々に処理したところ、CHで処理した細胞は明らかな分化を示した一方、PDもしくはLIFで処理した細胞は、依然として偏平なEpiSC様のコロニーを形成することが分かったものの、それぞれの条件で3日以内に小さいドーム型のコロニーも現れることが分かり、組み合わせて処理すると、より多く(全体の1/3)のES細胞様コロニーが形成されることが分かりました。

また、これらのPD/CH/LIF処理細胞を単一細胞に解離して継代すると、分化細胞が競争に負け、上記の細胞が濃縮されることが分かり、1回か2回の継代後に均一になって、形態的にマウスES細胞と区別がつかなくなることが分かりました。

E3Rと名付けられたこれらの細胞は、E3 EpiSCと異なり、ゼラチンコート上で増殖でき、アルカリフォスファターゼ強陽性であること、マウスES細胞様の遺伝子発現パターンを示すこと、Oct4の発現に関して遠位エンハンサーが使われていること、SMAD2/3阻害に非感受性であること、LIF/STAT3阻害でES細胞マーカーが発現低下すること、グローバルな遺伝子発現が元となったEpiSCと異なりES細胞と類似していること、高い寄与率を示すキメラを作製でき、ジャームライントランスミッションすることが示されました。

また、同様の実験を、ほとんど129近交系バックグラウンドのT9 EpiSCでも行ったところ、ES細胞様コロニーへの復帰率はE3 EpiSCよりも低いことが分かったものの、これらはLIFのみで維持できるという意味で、復帰細胞は強いということが分かりました。

さらに、3番目のライン、E5でも復帰できること、PDをFGF阻害剤であるSUで代用できることも分かりました。


次に、E3 EpiSC細胞株の復帰率がとても高かったことから、異なった分子で処理した後のES細胞特異的遺伝子発現の誘導を追跡できるのではと考え、PD, CH, LIFのみもしくは組み合わせて3日間処理した後(ES細胞様コロニーが最初に現れる時)の遺伝子発現を調べたところ、ES細胞特異的マーカーの誘導が容易に検出されたのと同時に、体細胞および胚体外組織への分化マーカーも発現上昇することが分かりました。

なお、LIFのみでEpiSCを処理した場合、ほとんど分化を示さなかったことから、CHの追加がこの現象に主に貢献していることが示唆されました。

それらに対し、3分子は、マウスES細胞マーカーの誘導に協同して働くことが示唆され、組み合わせて用いるとES細胞様のコロニー数が増えることと一致しました。

次に、様々な培地で処理後4日でES細胞様のアルカリフォスファターゼ陽性コロニーの数を計測したところ、CHもしくはLIFの存在、非存在に関わらず、PD処理が有意に復帰率を促進するのに対し、FGF処理はES細胞様コロニーの形成を大きく減らすことが分かり、FGF/ERKシグナリングはEpiSCの脱分化を阻害するために使われていることが示唆されました。

次に、3因子を介したEpiSCの復帰が、選択的というよりは誘導的なプロセスであるのか調べるために、3時間のみの短期処理を行い、下流遺伝子への影響を調べたところ、PD処理でEgr1が抑制、CH処理でTが促進、LIF処理でSocs3が促進され、それぞれの経路の直接的な標的遺伝子の発現に変化が見られることが示されました。

また、Klf2がFGF/ERK阻害によって誘導されることが分かり、その発現上昇はPD/CH/LIF処理でより強くなることが分かりました。

さらに、同様の実験をあと2つのタイムポイントで行い、その結果をアレイとリアルタイム解析によって確認したところ、Klf2(but not Klf4)は、全期間で徐々に誘導され、FGF/ERK阻害は中間-初期に効果を持つ一方、CH処理は、より後のタイムポイントでの活性化に関係し、これらの分子はKlf2の活性化において協同で働いているようでした。

また、EpiSCにおいてKlf2をRNAiで抑制すると、期待通りEpiSCの自己複製を妨げないものの、ES細胞様への復帰効率が低下することが分かりました。

これらより、PD/CH/LIFカクテルによるKlf2の誘導がES細胞様コロニー形成率と相関し、PD/CH/LIFを介したEpiSCの復帰に内因性のKlf2が必要であることが示唆されました。


次に、上記のようにEpiSCは3つのシグナリング経路の活性を操作することでES細胞様細胞に復帰できるということ、また、マウスES細胞においてLIF経路の活性化がKlf4発現を維持することが分かっているが、LIF処理はEpiSCにおいてKlf4発現を誘導しなかったことから、逆の処理がES細胞からのEpiSC細胞の形成を支持するのか調べました。

まずオートクラインの影響を排除するため、マウスES細胞をLIFとPD存在下で培養した後、FGF+LIF, JAK阻害剤+PD, JAK阻害剤+FGFで12時間処理してみたところ、EpiSCにおいてFGF/ERKシグナリングの抑制がKlf2発現を誘導したことと一致して、マウスES細胞においてFGF/ERKシグナリングを刺激すると、穏やかではあるが有意なKlf2抑制が起こることが示されました。

それに対し、LIF刺激はEpiSCにおいてKlf4発現を誘導しないが、LIF/STAT3経路の阻害はマウスES細胞において有意にKlf4を抑制することが示されました。

次に、ES細胞とEpiSCの両方の増殖が競合する、フィーダー細胞上での培養でも同様の処理をしたところ、FGF処理とLIF/STAT3シグナリングの阻害の両方で2日以内にEpiSC様コロニーの形成が見られた一方、組み合わせるとより早くに効果があることが分かりました。

また、リアルタイムPCRにより、Klf2抑制がFGF/ERK刺激と相関すること、Klf4抑制がLIF/STAT3阻害と相関することが確認されました。

さらに、上記の形態変化と一致して、LIF/STAT3阻害はエピブラストマーカーであるFgf5の発現を強く誘導する一方、FGF/ERK刺激もこの効果に貢献することが分かり、組み合わせて処理すると最もFgf5レベルが高くなることが示されました。





この種の研究は細胞株間での再現性が低いことがやや気になりますが、EpiSCからESCへのreversionをFGF/ERK signalingが抑制しており、Klf2がこの経路の抑制ターゲットであるというのはreasonableだと思います。





(10年7月5日追加)

スクリプス研究所のSheng Dingらのグループにより、単一細胞解離後のヒトES細胞の生存を促進する小分子の作用機構を明らかにし、また、マウスES細胞様状態を安定化させる小分子を利用してマウスES細胞様のヒトES細胞を樹立したという論文が発表されました。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 May 4;107(18):8129-34. Epub 2010 Apr 20.
Revealing a core signaling regulatory mechanism for pluripotent stem cell survival and self-renewal by small molecules.
Xu Y, Zhu X, Hahm HS, Wei W, Hao E, Hayek A, Ding S.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20406903


小分子による多能性幹細胞生存と自己複製のためのコアシグナリングメカニズムを明らかにした

マウス以外の種におけるマウスES細胞様ES/iPS細胞の樹立 」をご参照下さい。





(10年7月5日追加)

マサチューセッツ工科大学(MIT)のJacob Hanna、Rudolf Jaenischらのグループにより、マウスES細胞と同様な生物学的・エピジェネティックな特徴を持つヒトES細胞・iPS細胞を樹立したという論文が発表されました。


Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 May 4. [Epub ahead of print]
Human embryonic stem cells with biological and epigenetic characteristics similar to those of mouse ESCs.
Hanna J, Cheng AW, Saha K, Kim J, Lengner CJ, Soldner F, Cassady JP, Muffat J, Carey BW, Jaenisch R.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20442331


マウスES細胞と同様な生物学的・エピジェネティックな特徴を持つヒトES細胞

マウス以外の種におけるマウスES細胞様ES/iPS細胞の樹立 」をご参照下さい。





(10年7月5日追加)

ホワイトヘッド研究所、マサチューセッツ工科大学(MIT)のMaisam Mitalipova、Rudolf Jaenischらのグループにより、生理的な酸素濃度下で培養することによって、X染色体不活化前のマウスES細胞様のヒトES細胞を樹立したという論文が発表されました。


Cell. 2010 May 12. [Epub ahead of print]
Derivation of Pre-X Inactivation Human Embryonic Stem Cells under Physiological Oxygen Concentrations.
Lengner CJ, Gimelbrant AA, Erwin JA, Cheng AW, Guenther MG, Welstead GG, Alagappan R, Frampton GM, Xu P, Muffat J, Santagata S, Powers D, Barrett CB, Young RA, Lee JT, Jaenisch R, Mitalipova M.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20471072


生理的な酸素濃度下におけるX染色体不活化前のヒトES細胞の樹立

マウス以外の種におけるマウスES細胞様ES/iPS細胞の樹立(その2) 」をご参照下さい。





(10年7月5日追加)

ハーバード大学のNiels Geijsenらのグループにより、マウスES細胞様状態はヒト多能性幹細胞において遺伝子改変と相同組換えを促進する


Cell Stem Cell. 2010 Jun 4;6(6):535-46.

A murine ESC-like state facilitates transgenesis and homologous recombination in human pluripotent stem cells.
Buecker C, Chen HH, Polo JM, Daheron L, Bu L, Barakat TS, Okwieka P, Porter A, Gribnau J, Hochedlinger K, Geijsen N.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20569691?dopt=Abstract


マウスES細胞様状態はヒト多能性幹細胞において遺伝子改変と相同組換えを促進する

マウス以外の種におけるマウスES細胞様ES/iPS細胞の樹立(その2) 」をご参照下さい。





(10年9月21日追加)

スクリプス研究所のSheng Dingらのグループにより、小分子阻害剤を用いたTGFβ経路の阻害もしくはヒストン脱メチル化酵素LSD1の阻害により、エピブラストステムセル(EpiSC)を、マウスES細胞様の形態に変化させ、ICM特異的な遺伝子を発現させることができ、また、EpiSCを、LSD1, ALK5, MEK, FGFR, GSK3の阻害剤を組み合わせて処理することで、キメラ寄与能を持つマウスES細胞様の状態に変換できることを示したという論文が発表されました。


J Biol Chem. 2010 Aug 12. [Epub ahead of print]

Conversion of mouse epiblast stem cells to an earlier pluripotency state by small molecules.
Zhou H, Li W, Zhu S, Joo JY, Do JT, Xiong W, Kim JB, Zhang K, Scholer HR, Ding S.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20705612?dopt=Abstract


Dingらは、EpiSCは、ICM由来のマウスES細胞よりも“安定”でない多能性状態にあり、in vitroでゆらぎのある培養条件下におくことで“自発的に”マウスES細胞の状態に変化する能力があると考えました。

そこで、マウスES細胞の自己複製を促進するがEpiSCの分化を誘導するような条件下で、EpiSCコロニー中の“変換された”マウスES細胞様の細胞を捕獲/選抜し、増殖させるという考えに基づき、EpiSCをトリプシンで単一細胞にし、~500細胞をマウスES細胞が自己複製するような条件下に移してみました。

まず、フィーダー細胞を用いLIFを添加する従来のマウスES細胞増殖条件下で培養すると、EpiSCは最初の継代で分化し、何継代してもコロニーができないことが分かりました。

また、通常のマウスES細胞自己複製条件下で、EpiSCを、FGFR阻害剤であるPD173074(0.1μM)とMEK阻害剤PD0325901(0.5μM)の組み合わせ(2PDと命名)で処理したところ、EpiSCの分化が加速し、全体的に増殖が減少すること、2PD/LIF培地で維持しているとほとんどの細胞が死ぬこと、何回かの継代を経てもマウスES細胞様のコロニーは現れないことが分かりました。

同様に、2PD/LIF条件にGSK3阻害剤であるCHIR99021(3μl)を加えても、EpiSCからマウスES細胞様状態への変換を促進したり捕獲することはないことも分かりました。

これらより、EpiSCは、マウスES細胞の自己複製を促進する条件下で自発的にマウスES細胞様状態へ簡単に変換できない安定的な多能性状態にあることが示唆されました。


次に、EpiSCの樹立にはFGFおよびTGFβ/activin/Nodal経路活性を必要とすることから、TGFβ/activin/NodalがEpiSCの抗分化シグナルを供給していることが示唆されること、E-cadherinは1細胞期から胚で発現しているが、胚盤胞の着床を促進するシグナルにより発現降下すること、TGFβ/activin/Nodal活性は原腸陥入の間、E-cadherinの発現降下によりepithelial-mesenchymal transitionを促進することから、TGFβ/activin/Nodalシグナリングの阻害がmesenchymal-epithelial transitionの過程を促進し、結果的にEpiSCからマウスES細胞様状態への変換を促進するのではと考えました。

そこで、選択的なALK4/5/7阻害剤であるA-83-01(0.5μM)で、bFGFを添加したEpiSC培養条件下においてEpiSCを処理したところ、従来の報告と同様、急速な分化を誘導したのに対し、LIFを添加したマウスES細胞培養条件下においては、A-83-01処理によりEpiSCの多くの集団が、マウスES細胞コロニー形態に類似しアルカリフォスファターゼ陽性な、よりコンパクトなドーム状のコロニーを形成するようになることが分かりました。

また、多用される他の特異的ALK4/5/7阻害剤であるSB431542でも、同様の効果があることも分かりました。

さらに、A-83-01で処理したコロニーを、選抜のために2PD/LIF条件にさらしたところ、>50%のコロニーが自己複製でき、アルカリフォスファターゼ活性を維持できることが分かり、それらのドーム状のコロニーは全体的な細胞集団として継代され、ALK5, MEK, FGFR, GSK3の阻害剤を添加したマウスES細胞増殖培地でさらに増殖できることが示されました。

なお、この際、day ~22で安定株をピックアップしました。(mAMFGi条件と命名)

これらの細胞は、mAMFGi条件で長期間自己複製できること、マウスES細胞コロニー形態と区別がつかないこと、Oct4, Nanog, SSEA1などの多能性マーカーに加え、ICMマーカーであるRex1を発現していることが示されましたが、桑実胚とアグリゲーションさせてもキメラマウスを得られないことが分かりました。


次に、マウスES細胞の生殖細胞寄与においてStellaが重要な遺伝子であり、EpiSCやマウスES細胞中のエピブラスト様細胞において転写サイレンシングされていること、マウスES細胞においてヒストン修飾がStella発現を制御していることが知られていることから、サイレンシングされたin vivo多能性に重要な遺伝子座の脱抑制が、マウスES細胞様状態へのエピジェネティックな制限/閾値をEpiSCが乗り越えるのを促進するのではと考え、ヒストンH3K4のモノおよびジメチル化を特異的に脱メチル化するヒストン脱メチル化酵素LSD1を阻害することでグローバルなH3K4メチル化を増加させることが示された小分子であるParnateを用いました。

すると、2μMのParnate処理後4日間で、EpiSCの70-80%までがマウスES細胞増殖条件下で小さくてコンパクトなコロニーを形成することが分かり、Parnate処理細胞を2PD/LIFで選抜したところ、~20%の細胞が生き残り、ドーム状でアルカリフォスファターゼ陽性コロニーとして選抜されることが分かりました。

これらのコロニーは、全体的な細胞集団として継代され、MEK, FGFR, GSG3の阻害剤(mMFGi条件と命名)を用いて、もしくはmAMFGi条件下で、さらに増殖され、両方の条件で、マウスES細胞と区別のつかない形態を示す安定的な細胞株が得られました。

そこで、これらの細胞をGFPで標識し、桑実胚とアグリゲーションさせ、胚移植したところ、Parnate/mAMFGi細胞から7匹(生まれた9匹中)の成体キメラが得られることが分かり、E13.5日胚の複数の組織(生殖巣を含む三胚葉)への寄与も確認され、生殖巣からGFP/SSEA1ダブル陽性細胞がFACSにより単離され、生殖系列マーカーであるBlimp1とStellaが発現していることも確認されました。

一方、Parnate/mMFGi細胞の13.5日キメラ胚では、卵黄嚢だけしかGFP陽性細胞が見られなかったことから、以後、Parnate/mAMFGi細胞についてさらなる解析を行いました。

これにより、Parnate/mAMFGi細胞は、グローバルな遺伝子発現がマウスES細胞とずっとより類似していること、Oct4, Nanog, SSEA1, STELLAを均一に発現していること、Dax1, Esrrb, Fbxo15, Fgf4, Pecam1, Rex1, Stella, Stra8を含むICM特異的および生殖系列マーカーを発現している一方、エピブラストや初期胚葉関連遺伝子であるFgf5, Brahcyury(T)が減少もしくは検出できないこと、StellaおよびFgf4のプロモーター領域が脱メチル化されており、StellaのH3K4とH3K27メチル化パターンがEpiSCと異なりマウスES細胞と類似していること、マウスES細胞と同様な増殖率を示すこと、胚様体を介して三胚葉分化できること、マウスES細胞と同様、BMP4処理により中胚葉特異的マーカー遺伝子であるBrahcyury(T)が誘導されること(EpiSCの場合は、栄養外胚葉マーカーであるCdx2と原始外胚葉マーカーであるGata6が誘導される)、マウスES細胞と同様の効率で拍動する心筋に分化誘導できること(EpiSCでは、同じ条件下で適切な心筋マーカーを発現したり特徴的な拍動を示す細胞を作製するのが難しい)、単一細胞に解離しても、フィーダーフリーのN2B27化学決定条件下で、マウスES細胞と同様の効率でOct4陽性コロニーがクローナル増殖することが示されています。





Sheng Dingのグループは、似たような論文を次々と出してきますね。。

他のグループでの追試の結果が気になります。





(11年3月14日追加)

マックス・プランク研究所のHans R. Schölerらのグループにより、マウス線維芽細胞にOct4, Sox2, Klf4, c-Mycを導入しエピブラストステムセル(EpiSC)の培養条件下で培養することでinduced EpiSCs(iEpiSCs)を直接的に作製できることを示し、転写因子を介したリプログラミングにおける培養環境がリプログラミングされた細胞の細胞運命を決定することを示した論文が発表されました。


Nat Cell Biol. 2011 Jan;13(1):66-71. Epub 2010 Dec 5.

Direct reprogramming of fibroblasts into epiblast stem cells.
Han DW, Greber B, Wu G, Tapia N, Araúzo-Bravo MJ, Ko K, Bernemann C, Stehling M, Schöler HR.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21131959?dopt=Abstract


Schölerらはまず、EpiSCではKlf4の発現が非常に低いことから、Klf4を除くOct4, Sox2, c-Mycの3因子のみをレトロウイルスで導入してみたところ、約3週間後にコロニー形成細胞が得られ、そのうちの約5%がSSEA-1陽性であることが分かったものの、真のES細胞もしくはEpiSC様細胞を得ることに失敗しました。

そこで、GOF18ΔPE(Oct4遠位エンハンサーの発現制御下でGFPを発現)マウス由来のマウス胎児線維芽細胞(MEF)に4因子全てを導入し、ヒトES細胞のフィーダーフリー培養で多用されているコンディションメディウムで培養したところ、EpiSCに形態が類似したiPS細胞コロニーが出現し、おもしろいことに、ES細胞培地を用いた場合よりも、より早い時期ですら、より多くのコロニーが得られることが分かりました。

さらに、bFGFの添加により、顕著にiPS細胞作製効率が促進されることも分かりました。

しかし、EpiSCのキャラクターとしてOct4-GFPレポーター(GOF18ΔPE)のサイレンシングが挙げられるのですが、抗LIF抗体の存在下であっても、全てのEpiSC様iPS細胞コロニーでOct4-GFP陽性細胞のクラスターがコロニーの中心部に見られることが分かり、EpiSC様iPS細胞コロニーはOct4-GFP陽性ES細胞様iPS細胞から間接的に作製された可能性が示唆されました。


次に、培地の調整中にMEFは内因性のLIFを産生しているかもしれないことから、より厳密な条件を用い、ES細胞様iPS細胞の形成を阻害できるか調べるために、化学的に組成が決定された培地(CDM、FGF2, Activin A, LIF antibodyを含む)を用いてみたところ、Oct4-GFP陽性細胞の形成が見られなくなり、ES細胞培地と比べ少数のコロニーが形成され、約3-5週間で成熟したEpiSC様コロニーの形成が見られるようになることが分かりました。

また、bulk cultureの遺伝子発現解析を行い、EpiSC特異的遺伝子発現パターンを示すこと、ES細胞特異的Oct4-GFP発現が完全に見られないこと(FACSでも確認)も示しました。

これより、CDM培養下で出現するEpiSC様iPS細胞(以降induced EpiSC, iEpiSCと表記)はMEFから直接的に形成され、ES細胞様の中間状態を介したものではないことが示唆されました。

また、LIF antibodyなしのCDM中で培養した場合、数百コロニーのうち1つOct4-GFP陽性コロニーが得られたことから、LIF活性の阻害はiEpiSCの作製に有用であることも示唆されました。

さらに、X-GFP reporter system(X染色体にGFPトランスジーンを持つ)を用い、X-GFP陰性MEFからiEpiSC誘導を行い、CDMで培養した場合GFP陽性コロニーが現れないこと(ES細胞培地を用いた場合、ほぼ全てのiPS細胞コロニーが遺伝子導入後約2-3週間で陽性になる)(FACSでも確認)を示し、iEpiSCは確かにMEFから直接的に作製されていることを確認しました。

なお、iEpiSCは成体の線維芽細胞からでも作製できることも示しています。


次に、iEpiSCは形態的にEpiSCと見分けがつかないこと、iEpiSCは非常に弱いアルカリフォスファターゼ活性を示すこと、Oct4, Sox2, Nanogを発現しているが、NanogとSox2の発現はiPS細胞よりもiEpiSCでわずかに低いこと、グローバルな遺伝子発現プロファイルがEpiSCとほぼ同じで、MEF, ES細胞と異なること、iEpiSCとEpiSCで約750-850遺伝子が異なって発現しているが、個々のEpiSC細胞株間の発現差以内に収まること、EpiSCと同様のエピジェネティックマークを持ち、Oct4-GFPおよびStellaの両方が完全にメチル化されていること、テラトーマを形成し、三胚葉分化できること、モルラへのアグリゲーションによりICMに取り込まれるがキメラには寄与できないことを示しました。


次に、iEpiSCを、MAPKシグナルおよびGSK3の阻害剤およびLIFを添加した培地(2i+LIF、「ES細胞における自己複製の基底状態 」を参照)に移し、naive pluripotencyの状態に移行できるか調べたところ、これだけではiEpiSCのreversionを誘導するのに不十分なことが分かりました。

そこで、Klf4を強制発現(Klf4-2A-Td-Tomato)させ、2i+LIF培地に移したところ、iEpiSCのES細胞様状態への効率的なreversionが誘導できることが分かりました。

また、reversionした細胞(iEpiSC-R)は典型的なES細胞培地では維持できず、2i+LIF培地で安定であり、以前の報告と一致することが分かりました。

次に、loxP-flanked Klf4-2A-Tomatoを用い、iEpiSC-RがCreの強制発現でKlf4導入遺伝子を除去しても状態を維持できるか調べたところ、Tomato発現を失った細胞(iEpiSC-RC)は、2i+LIF培地で安定的に維持でき、コンパクトな形態、Oct4-GFP発現、ES細胞特異的遺伝子発現、エピジェネティックマーク、正常核型を維持しており、モルラアグリゲーションで効率的にICMに取り込まれ、キメラに寄与、ジャームライントランスミッションできることが示され、iEpiSCはEpiSCと同様にnaive pluripotent stateにrevertできることが分かりました。

しかし、reversionは追加のレンチウイルスKlf4存在下でのみ見られることから、qRT-PCRを行い、Oct4, Sox2, c-Mycの導入遺伝子はiEpiSCで完全にサイレンシングされているが、多くの継代を経た後でもKlf4は低く発現していることが分かり、ES細胞様状態へのreversionには一定レベルのKlf4が決定的であり、iEpiSCにおける残存するKlf4レベルでは不十分であることが示唆されました。

最後に、なぜiEpiSCが2i+LIF培地ベースのES細胞様状態へのreversionに抵抗性を示すのか調べるために、それぞれ2つのEpiSCとiEpiSC細胞株でマーカー遺伝子(Dkk1, Gata6, Sox17, Cer1(以上がEpiSCマーカー、中胚葉誘導とも関連), Foxa2, Eomes, Acta2, Gsc, T)の発現を比較したところ、EpiSCマーカーおよび中胚葉マーカーがiEpiSCにおいて有意に発現しているが、iEpiSCにおける発現はE3 EpiSCおよびT9 EpiSCよりも高く、おもしろいことに、iEpiSC中の中胚葉マーカー遺伝子の発現が、2i+LIFベースのES細胞様状態へのreversion能と逆相関することが分かり、得られたiEpiSCはEpiSCと比べいくらか後期の発生段階にあることが示唆されました。






ちなみに、この研究、私がiPS細胞の研究を始めた時の最初のテーマです(笑)

マウス、ヒトでともに同じ4因子でiPS細胞がとれたことから、山中因子は多能性の前駆状態に導くのに十分であり、培養中の培養条件が最終的な細胞の特性を決定することを明確に示したくて同じことを考えました。

JAKiを使っていましたがうまくいかなかったのを覚えています。

懐かしいな。。





(11年3月14日追加)

San Raffaele Scientific InstituteのVania Broccoli、ハーバード大学のNiels Geijsenらのグループにより、エピブラストステムセル(EpiSC)の培養条件で得られた129およびB6マウス由来のFGF依存性iPS細胞(FGF-iPS細胞)は、シグナリング経路もActivin/NodalおよびFGF経路に依存し、JAK-STAT経路が必要とされないが、naiveなES細胞様/ICM様の特性を示し、X染色体活性化、多分化能、テラトーマ形成能、キメラ寄与能を有することを示した論文が発表されました。


PLoS One. 2010 Dec 30;5(12):e16092.

An ES-like pluripotent state in FGF-dependent murine iPS cells.
Di Stefano B, Buecker C, Ungaro F, Prigione A, Chen HH, Welling M, Eijpe M, Mostoslavsky G, Tesar P, Adjaye J, Geijsen N, Broccoli V.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21209851?dopt=Abstract


Broccoli, Geijsenらはまず、E14 Oct4-GFP(BL6/tgOct4-GFP)のマウス胎仔線維芽細胞(MEF)に、Oct4, Sox2, Klf4, c-Mycを導入、d3にフィーダー上に継代、d7からbFGF培地(DMEM, 20%KSR, 4ng/ml bFGF)で培養したところ、d10-12で密でコンパクトなOct4-GFP陽性コロニーが出現することが分かりました。

また、d17にコロニーピックアップを行い、さらにbFGF培地で継代培養したところ、意外なことに、均一にマウスES細胞様の形態およびOct4-GFP発現を維持し続けることが分かりました。

FGF-iPS細胞と名付けられたこの細胞は、ES細胞様形態に加え、SSEA-1陽性であるがSSEA-3, SSEA-4, TRA-1-60, TRA-1-81陰性であること、内因性のOct4-GFP, Sox2, Nanogを発現していること、正常核型を維持していること、Oct4プロモーター領域が脱メチル化されていること、外来リプログラミング因子が完全にサイレンシングされていることが示されました。


次に、成長因子コンディションの影響を調べるため、129/BL6 F1のMEFをLIF/serumもしくはbFGFの存在下でリプログラミング(ドキシサイクリン誘導レンチウイルスでSTEMCCA(「単一ベクターによるiPS細胞樹立 」を参照)を導入)、ドキシサイクリン誘導後d1でLIFもしくはbFGFが存在する培地中に分け、d5からd15までの間にドキシサイクリンを除いて外来リプログラミング因子を抑制し、d18でコロニーをクリスタルバイオレット染色してみたところ、どちらの条件でも約d10-12でiPS細胞コロニーが現れ、LIF由来iPS細胞は典型的なES細胞様のコロニー形態を示したのに対し、bFGF由来のiPS細胞は偏平なEpiSC様のコロニー形態を示すことが分かりました。

しかし、このEpiSC様コロニーは不安定で、外来リプログラミング因子の除去で、ほとんどが線維芽細胞様の形態に変化したこと、Oct4-GFPレポーター陰性であることから、これらは部分的なリプログラミングを受け内因性の多能性プログラムの活性化に至っていないことが示唆されました。

しかし、FGFコンディションでは、外来因子サイレンシングの後も、わずかなコロニーが残り、bFGF存在下で安定的に増殖するが、典型的なマウスES細胞様のコロニー形態を示さないことが分かりました。

また、安定的なFGF-iPS細胞コロニーの数はリプログラミング時間が長くなると増加すること、bFGF存在下では安定的なiPS細胞コロニーが9日間のドキシサイクリン処理以降に出現する一方、LIF存在下だと4日間早くなることも示されました。


次に、樹立したFGF-iPS細胞は、Rex1, Nanog, Oct4, Sox2, Sall4, Gdf3, Erasを含むES細胞特異的遺伝子を発現する一方、FGF5, Eomes(Tbr2), FoxA2, Cer1を含むEpiSCマーカーを発現していないこと、グローバルな遺伝子発現もES細胞やLIF由来iPS細胞に類似しEpiSCとは異なること、強いアルカリフォスファターゼ活性を持つこと、ES細胞やLIF由来iPS細胞と同様、ES細胞特異的遠位エンハンサーでOct4発現が制御されていること、活性化X染色体を持つこと(約90%)、Xist-cloudを示す細胞の割合はES細胞(0.5%)よりもFGF-iPS細胞(10%)の方が多いことが示されました。

また、FGF-iPS細胞は高いレベルのNodalおよびInhba発現を示すのに対し、LIF-JAK-STAT3シグナリング経路の下流遺伝子(Stat3, Jak1, Jak2, Pim1)の発現は低く、従来のES細胞やiPS細胞と異なることがマイクロアレイおよびqPCRによって示されたことから、JAK阻害剤(JAKi)で処理してみたところ、確かにSTAT3リン酸化が効率的に除去されたのが確認されたものの、7継代以上JAKi存在下で増殖でき、未分化状態およびOct4-GFP内因性発現を維持できることが分かりました。

さらに、この細胞は、強いアルカリフォスファターゼ活性を示すこと、me3H3K27が検出されないこと、ES細胞様マーカー(Stra8, Rex1, Stella(Dppa3))の発現を維持している一方エピブラストマーカー(Cer1, Dkk1, FGF5)を発現していないことが示されました。

また、逆に、FGF-iPS細胞は、type I Activin receptor(ALK-I)の特異的阻害剤で処理してTGFbeta/Activinシグナリングを阻害すると急速に分化すること、FGF除去もしくはSU5402によるFGF受容体阻害により細胞死が誘導されることも示されました。

さらに、ES細胞およびLIF-iPS細胞はSmad1/5/8のリン酸化を示し、Bmpシグナリングの活性化が示唆されたのに対し、FGF-iPS細胞では、Smad2/3が強く活性化されており、Smad1/5/8は検出できないこと、FGF-iPS細胞では、Bmp4が有意に発現抑制される一方、Bmp4アンタゴニストとして知られるGdf3およびGremlin-1(Grem1)が発現上昇することも示されました。


次に、フィーダー細胞の影響を排除するために、FGF-iPS細胞をfibronectinコートプレートに移して培養したところ、passage 6(5週間培養)の時点でも、内因性のOct4-GFPおよびNanogの強い発現が見られること、アルカリフォスファターゼ活性を持つこと、X染色体不活化が見られないこと、Nanog, Rex1, Stella(Dppa3)をES細胞と同レベルで発現している一方、EpiSCマーカーであるCer1およびFGF5の発現上昇は見られないことを示しました。

また、おもしろいことに、STAT3によって誘導される遺伝子であるSocs3の発現が強く抑制されたことから、このシグナリングはこの培養条件において概して抑制されることが示唆されました。


次に、FGF-iPS細胞におけるLIF刺激の影響を調べるために、慣習的なマウスES細胞培地(20%血清、LIF)で10日間培養したところ、大多数が急速に分化するものの、小さなコロニー中で密に接着したわずかな細胞が強いOct4-GFP発現を維持していることも分かり、トリプシンで単一細胞に解離、MEF上で増殖させることで、典型的なマウスES細胞様コロニーが形成され、10回の継代(6週間の培養)を経た後でも形態を維持し続けることが分かり、LIF stimulated FGF-iPS細胞と名付けました。

その変換効率は約~0.01%であり、以前報告されたEpiSCからマウスES細胞様細胞への変換効率と同等でした。

なお、この細胞を再び元のFGF培養条件に移すと、FGF-iPS細胞の形態的特徴を全て再獲得することも分かりました。


最後に、FGF-iPS細胞は、胚様体およびテラトーマ形成により三胚葉分化能を持つこと、キメラに寄与し、ジャームライントランスミッションすること、Dlk1-Dio遺伝子座の解析により少なくとも一つのFGF-iPS細胞株が正常なGtl2発現を示すことを示しています。





定説とは違うので疑う方もおられると思いますが、似たようなことやってた自分としては、確かにそうだと思う経験があるので、すんなりと受け入れられる論文でした。

これを論文にする発想はなかったのですが。。

マウスしかも、129とかだったらnaiveな状態の方が落ち込みやすいというのはreasonableだと思います。