単一ベクターによるiPS細胞樹立 | 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞-

単一ベクターによるiPS細胞樹立

少し前に、ボストン大学のGustavo Mostoslavskyらのグループによって、4つの遺伝子を一つのベクターに載せて遺伝子導入し、マウスiPS細胞を樹立したという論文が発表されてましたが、ちょっと忙しかったので後回しにしてました。

ポリシストロニックな発現を可能にするベクターを用いてのiPS細胞樹立なら以前、

ウイルスを使わないでiPS細胞を樹立

の報告で山中先生が報告されてましたし、その山中先生の報告とは違い、今回の論文はc-Mycも一緒に載せちゃってるんで、最終的には使えないだろうと思いますので、簡単に紹介させていただきます。


Stem Cells. 2008 Dec 18.
iPS Cell Generation Using a Single Lentiviral Stem Cell Cassette.
Sommer CA, Stadtfeld M, Murphy GJ, Hochedlinger K, Kotton DN, Mostoslavsky G.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19096035?ordinalpos=5&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum


著者の中にはこのブログでもおなじみのホッケドリンガーの名前も見られますね。


彼らは、Oct4とKlf4、Sox2とc-Mycをそれぞれself-cleaving 2A peptideで繋げたものを、さらにIRESで繋げた『STEM-Cell CAssette(STEMCCA)』なるものを、EF1αプロモーターもしくはドキシサイクリン誘導プロモーターによって発現を制御できるレンチウイルスに入れて使っています。


胎仔および新生仔由来の線維芽細胞に、EF1αプロモーターの方のベクターを用いて遺伝子導入したところ、6日後にはES細胞様のコロニーを形成しました。

ドキシサイクリン誘導プロモーターの方のベクターを用いた場合、Sox2-GFP Rosa26-M2rtTAダブルノックインマウスのしっぽ由来の線維芽細胞に導入し、ドキシサイクリンを添加すると、d6-8で形態が変化し始め、d12-14でES細胞様のコロニーを形成しました。

これらのコロニーはアルカリフォスファターゼ、SSEA1(後者はSox2-GFPも)の発現が確認され、このコロニーから樹立されたiPS細胞においてOct3/4, Fgf4, Nanog, Rex1, Esg1, Gdf3, Ecat1, Dax1, Zfp296, Cripto, Nat1の発現も確認されました。

また、レンチウイルスの挿入数を調べたところ、1-3コピーのみであることも分かりました。


過去の報告と同様、ドキシサイクリン導入後、d8-9でGFP発現が見られ、この時の効率は、10%という低い遺伝子導入効率にも関わらず、0.5%(100,000個の細胞から50±8個のGPFポジティブコロニー)であり、過去の報告(0.01-0.05%)に比べ、約10倍でした。


得られたiPS細胞は、テラトーマ形成により三胚葉形成能、キメラへの寄与を確認しました。


最後に、ドキシサイクリン誘導プロモーターの方のベクターで作ったiPS細胞のキメラ由来の細胞を、ドキシサイクリン存在下で培養すると、たった4日の処理だけでもSox2-GFPポジティブなコロニーが現れることも確認しています。





この論文のポイントは、たった一つのウイルス挿入でもiPS細胞樹立は可能であり、効率もよいという点ですね。

c-Myc入れるのはまずいでしょうけど。

将来的にはCre/loxPで飛ばすことも視野に入れているようです。

1箇所だけに入っているんであれば、変な飛び方はしませんしね。


遺伝子を入れた順番が、Oct4, Klf4, Sox2, c-Mycなんですが、このうち、Oct4, Klf4, Sox2という並びは、

ウイルスを使わないでiPS細胞を樹立

で紹介した山中先生らのグループによって報告された一番効率の良い並べ方です。

たまたまこの順で並べたんであったら運が良かったということになりますね(笑)





(12月28日追記)

ボストン大学・ハーバード大学のグループとほぼ同時に、毎度おなじみマサチューセッツ工科大学(MIT)のRudolf Jaenischらのグループによっても同様の報告がなされました。


Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Dec 24. [Epub ahead of print]
Reprogramming of murine and human somatic cells using a single polycistronic vector.
Carey BW, Markoulaki S, Hanna J, Saha K, Gao Q, Mitalipova M, Jaenisch R.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19109433?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum


Jaenischらは、Oct4, Sox2, Klf4, c-Mycの4遺伝子を、この順番で、すべてself-cleaving 2A peptideで繋ぎ、ドキシサイクリン誘導レンチウイルスベクターに入れて用いています。

このベクターと共に恒常的にテトラサイクリン制御トランスアクチベーター(M2rtTA)を発現するレンチウイルスベクターを、Nanog-GFPレポーターを持つマウス胎仔線維芽細胞(MEF)に導入し、ドキシサイクリンで処理したところ、数日で形態変化が見られ、25日後にはNanog-GFPポジティブなコロニーが現れました。

このコロニーから樹立されたiPS細胞は、ドキシサイクリンなしでも増殖でき、AP, SSEA1, Nanog-GFPポジティブでした。

次に、14週齢の成体マウスのしっぽ由来の線維芽細胞(TTF)でも同様の実験を行い、成体細胞からもこの手法でiPS細胞が樹立できることを確認しています。

また、MEF由来iPS細胞は、テラトーマ形成により三胚葉分化能が確認され、キメラへの寄与も確認されました。


樹立したiPS細胞におけるウイルス挿入数を調べたところ、1~3箇所だけであることも分かりました。

リプログラミング効率を調べるために、0.25×10の6乗個の細胞を20日間ドキシサイクリンで処理し、d25でGFPポジティブなコロニー数を調べたところ、平均14.7±4個のコロニーが得られ、0.0001%という低い効率であることが分かりました(感染効率は約70%)。

また、ドキシサイクリン処理は約8日間必要であることも確認しました。


次に、新生児包皮由来ケラチノサイト(NHFK)を用いて同様の実験を行いました。

この際、感染効率は約10%であり、6日間ドキシサイクリンを含むケラチノサイト培地で培養した後、ゼラチンコートしたディッシュに継代し、ドキシサイクリンを含むES細胞培地で培養しました。

d12からコロニーが現れ始め、d22とd35でヒトES細胞様の形態を持つコロニーをピックアップしました。

これらのコロニーから樹立されたiPS細胞は、ドキシサイクリンなしでも増殖でき、AP, Oct4, Nanog, Sox2, SSEA4, Tra-1-60, Tra-1-81ポジティブであり、核型も正常でした。

また、DNAフィンガープリンティングによりコンタミでないことが示され、ウイルス挿入数はそれぞれ3つ、2つでした。

最後にテラトーマ形成により三胚葉形成能を持つことが示され、また、神経への分化誘導が可能であることも示されました。





Jaenischにしては突っ込みどころの多い、微妙な論文ですが、それでもPNASに出せるまでに仕上げてくるのはさすがJaenischと言うべきか、はたまた彼の推薦で載っただけで大した価値がないと言うべきかは個人のご判断にお任せします。。





(09年2月28日追加)

アラバマ大学のTim M. Townesらのグループおよびメイン医学研究所のWen-Shu Wuらのグループによって、ポリシストロニックレンチウイルスベクターを用いたiPS細胞樹立に関する論文が2つ報告されました。

特に1報目の方は、以前から提唱されていた、Cre/loxPシステムとの組み合わせによる、複数の導入遺伝子の同時除去に成功しており、結構重要だと思います。


STEM CELLS Published Online: 12 Feb 2009
Polycistronic Lentiviral Vector For Hit and Run Reprogramming Of Adult Skin Fibroblasts To Induced Pluripotent Stem Cells
Chia-Wei Chang, Yi-Shin Lai, Kevin M. Pawlik, Kaimao Liu, Chiao-Wang Sun, Chao Li, Trenton R. Schoeb, Tim M. Townes
http://www3.interscience.wiley.com/journal/122199959/abstract


Cell Res. 2009 Feb 24. [Epub ahead of print] Links
Generation of iPS cells using defined factors linked via the self-cleaving 2A sequences in a single open reading frame.
Shao L, Feng W, Sun Y, Bai H, Liu J, Currie C, Kim J, Gama R, Wang Z, Qian Z, Liaw L, Wu WS.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19238173?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum
Townesらはまず、遺伝子の挿入ができるだけないiPS細胞を作製するために、ヒトOct4, Sox2, Klf4の3遺伝子をブタテッショウウイルスの2A配列で繋げたポリシストロンを、欠損を入れた3’LTRにloxP配列を持つself-inactivating(SIN)レンチウイルスベクターのEF1alphaプロモーターの下流にサブクロしてベクターを作製し、ヒトの鎌状赤血球貧血症遺伝子を組み込んだモデルマウスの成体のしっぽ由来の線維芽細胞に導入しました。

遺伝子導入後、d19-30までの間に4つコロニーをピックアップし、iPS細胞を樹立しました。

これらのiPS細胞ではアルカリフォスファターゼ、Nanog、SSEA1がポジティブであることが示され、ポリシストロニックなOSK RNAおよび内因性のOct4, Sox2, Klf4, Nanog, Criptoの発現とOct4, Nanogのプロモーター領域における脱メチル化が確認されました。

また、テラトーマ形成により三胚葉形成能を持つことも確認しました。


次に、この作製されたiPS細胞において、ゲノムに挿入されたポリシストロニックベクターを除去するために、Cre組換え酵素を発現するプラスミドをエレクトロポーレーションにより導入、もしくは、Cre組換え酵素を発現するアデノウイルス(Adeno/Cre)を感染させました。

サザンブロッティングにより挿入されたベクターのコピー数を調べたところ、Cre導入前は3-4コピーあったのが、全て無くなっているのが確認されました。


次に、ベクターの挿入部位を調べたところ、4コピー挿入されていたラインでは、3つがイントロンに、1つが遺伝子間領域に挿入されており、3コピー挿入されていたラインでは、3つともイントロンに挿入されていたことが分かり、コーディング配列、プロモーター、既知の制御因子を妨害することなくiPS細胞を樹立できることを示しました。

さらに、Cre処理後のiPS細胞において、ベクター挿入部位をクローニングしてシークエンスすることで、291bpの3’LTRのみがゲノムに残っていることを確認しました。

このLTRはSIN LTRなので、プロモーター、エンハンサー活性を持たず、それゆえに、挿入変異による内因性の遺伝子の活性化および抑制の可能性は低いと言えます。


作製したiPS細胞は、Cre処理によって外来遺伝子を除去した後でも、アルカリフォスファターゼ、Nanog、SSEA1がポジティブであることが示され、内因性のOct4, Sox2, Klf4, Nanog, Criptoの発現の維持とOct4, Nanogのプロモーター領域における脱メチル化の維持が確認されました。

また、キメラ形成により全身に高率で寄与でき、三胚葉分化能を維持していることも示されました。





Wuらはまず、2A配列を用いてKlf4, Oct4, Sox2, c-Mycの順番で4遺伝子を繋ぎ、さらにIRES-hrGFPを繋いで、CMVプロモーターによって発現制御を受けるレンチウイルスベクターにサブクロしたベクター(pLentG-KOSM)を作製しました。

マウス胎仔線維芽細胞(MEF)への遺伝子導入後、6-8日で、感染したGFPポジティブの細胞のうち、3.15%でES細胞様のコロニー形成が見られました。

d15で24個のコロニーをピックアップしたところ、そのうち10個(42%)のコロニーがアルカリフォスファターゼポジティブであり、そのうち8個がOCT4, SOX2, NANOGタンパクポジティブでした。

また、Eras, Esg1, Rex1, Klf4, Oct4, Sox2の発現も確認されました。

これらにより、GFPポジティブのMEFのうち、1.04%±0.03%がES細胞様にリプログラミングされることが分かりました。

また、作製されたiPS細胞におけるグローバルな遺伝子発現もES細胞と類似していることも示しています。


導入遺伝子のサイレンシングをGFPの発現で評価したところ、遺伝子導入後d6でのES細胞様コロニーではGFPの発現が見られるが、d12にはほとんど見えなくなることも分かりました。

また、RT-PCRによってもKOSM導入遺伝子の転写産物が検出できなくなることも示しています。


作製されたiPS細胞は正常核型を示し、胚様体形成およびテラトーマ形成により三胚葉分化能が確認され、キメラ形成に寄与できることも示されました。

また、作製したiPS細胞から分化させた細胞において、KOSM導入遺伝子の再発現が見られないことを確認し、サイレンシングが持続していることを示しています。


最後に、作製した8つのiPS細胞株における外来遺伝子の挿入部位を調べたところ、5つは1コピーしか挿入が見られず、残りの3つも2コピーだけであることが分かり、より安全なアプローチであることが示唆されました。





前者の論文はもっと評価されるべき論文ではないかなと思います。データを増やしたらもっといいジャーナルに載ったのではないでしょうか。

後者は、サイレンシングされにくいはずのレンチウイルスで強くサイレンシングを受けているところが、ちょっと怪しいかなと感じました。

ウイルス挿入部位の少なさ、もしくは、CMVプロモーターの使用により、サイレンシングが促進されているのではないかと筆者たちは考察していますが。。

やはりレンチを使う場合は無難にドキシサイクリンの系を用いるべきと思います。

読んでも特に得るものはないかも。。気になるのは遺伝子の順番くらいかな。





(09年11月14日追加)

ボストン大学のDarrell N. Kotton、Gustavo Mostoslavskyらのグループにより、3'LTRにloxP配列を含む、Oct4, Klf4, Sox2, c-Mycの4遺伝子もしくはc-Mycを除いた3遺伝子と蛍光タンパク質を発現するポリシストロニックレンチウイルスベクターを用いてiPS細胞を樹立し、Cre発現によってプロウイルスの大部分を除去することで、iPS細胞の分化能を向上させたという論文が発表されました。


Stem Cells. 2009 Nov 10. [Epub ahead of print]

Excision of Reprogramming Transgenes Improves the Differentiation Potential of iPS Cells Generated with a Single Excisable Vector.
Sommer CA, Gianotti Sommer A, Longmire TA, Christodoulou C, Thomas DD, Gostissa M, Alt FW, Murphy GJ, Kotton DN, Mostoslavsky G.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19904830?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=1


Kotton、Mostoslavskyらは、上記で紹介した同グループの以前の論文で使用したベクターを改良し、Oct4とKlf4、Sox2とc-MycもしくはmCherryをそれぞれself-cleaving 2A peptideで繋げたものを、さらにIRESで繋げた『STEM-Cell CAssette(STEMCCA)』を、3'LTRのdU3領域にloxP配列を含み、EF1αプロモーターで発現を制御されるレンチウイルスベクターに入れて使用しました。(STEMCCA-loxP, STEMCCA-loxP-RedLight)

これにより、iPS細胞を樹立後、Creを発現させることで、ゲノムに挿入されたプロウイルスのうち、LTRの一部の領域を除いた大部分を除去できるようになり、また、mCerryの蛍光の有無により、ベクター除去の確認ができるようになります。

これらのベクターをSox2-GFPレポーターを持つマウスのしっぽ由来の線維芽細胞に導入したところ、以前のSTEMCCAを用いた手法と同様な動態と効率(~0.5%)でiPS細胞を樹立できました。

なお、3遺伝子(STEMCCA-loxP-RedLight)を用いた場合では、4遺伝子(STEMCCA-loxP)を用いた場合よりも、リプログラミングが遅く(Sox2-GFPコロニーが現れるまでにかかる時間が25-30日vs15-20日)、効率も悪い(0.01%)こと、iPS細胞樹立後もmCherry発現を維持していることを確認しました。


次に、サザンブロッティングにより、STEMCCA-loxPで作製したiPS細胞では、スクリーニングした9個のうち3個が、STEMCCA-loxP-RedLightで作製したiPS細胞では、スクリーニングした7個のうち3個が、シングルコピーのみのゲノム挿入しか持たないことを突き止めました。

このゲノム挿入を除去するために、Cre recombinaseをアデノウイルスで一時的に発現させたところ、感染させた全てのiPS細胞株でベクターが除去されたことが、ゲノムPCRおよびサザンブロッティングにより確認されました。

なお、アデノウイルスのゲノム挿入が起こっていないことも確認しています。

リプログラミングカセット除去後のiPS細胞では、STEMCCA転写産物が検出されないこと、STEMCCA-loxP-RedLightを用いた場合では、mCherryレポーターの消失が蛍光顕微鏡観察およびFACSにより確認されました。

(Adeno-Cre感染後、100コロニー中96コロニーでmCherry発現が消失)

STEMCCA-loxP除去後作製された2つのサブクローンをSEFL1-Cre、SEFL2-Cre(それぞれ由来はSEFL1, SEFL2)とし、アルカリフォスファターゼ(AP)およびSSEA1ポジティブであること、Sox2-GFP, Oct4, Klf4, Sox2, c-Myc, Gdf3, Nanog, Zfp296, Rex1, Esg1, Fgf4, Cripto, Dax1, Utf1, Nat1が発現していること、Oct4とNanogのプロモーター領域が脱メチル化されていること、少なくとも20回、未分化性を維持したまま継代できることが確認されました。


次に、SEFL1およびSEFL2をを用いてテラトーマ形成実験を行ったところ、同グループの以前の論文と同様、これらは恒常発現プロモーターの制御下にあるリプログラミング因子を持つにも関わらず、三胚葉由来組織からなるテラトーマを形成できることが分かりました。

これは、in vivoでSTEMCCAがサイレンシングされたか発現抑制されたからではないかと考え、実際、in vitroで継代している際にはSTEMCCAの発現が残存しているのに対し、テラトーマでは、未分化iPS細胞と比べて顕著に低い発現を示すことを示しました。

しかし、キメラ形成実験を行ったところ、インジェクションした15個の胚のうち、5つだけしかE11.5まで発生せず、そのうちキメラであったのは3つだけでした。

また、3つのキメラ胚は全て、脳ヘルニア、神経管欠損、サイズ減少、体節パターン形成欠損を含む重度の形態異常を示しました。

さらに、恒常発現STEMCCAもしくはSTEMCCA-loxPベクターを含む異なる3つのiPS細胞クローンを用いて4回試行しましたが、生きたキメラを得ることはできませんでした。

一方、CreでSTEMCCA-loxPを除去したiPS細胞を用いた場合、インジェクションした14個の胚のうち、11個がE11.5まで発生し、そのうち7つがキメラであり、5/7が正常な発生形態を示すことが分かりました。

また、生きたキメラを得ることにも成功しました。


次に、Activin A存在下で培養することによる内胚葉系細胞への分化誘導について検証してみたところ、STEMCCA-loxPが挿入されたクローンでは、胚様体は形成できるものの、キー内胚葉転写因子であるbrachyury, Foxa2, Sox17, Gata4, Gata6の発現上昇があまり見られず、Rex1とEsg1の発現が残存していることが分かったのに対し、STEMCCA-loxPを除去したクローンでは、内胚葉転写因子の発現上昇および多能性因子の発現抑制が改善することが示されました。

さらに、中胚葉、外胚葉への分化誘導についても調べ、flk1を発現する中胚葉細胞およびTuj1を発現する神経外胚葉細胞への分化も、リプログラミング導入遺伝子の除去により有意に促進されることが示されました。


最後に、Cre発現の前後で核型異常は起こらないが、STEMCCA-loxPを用いて作製したiPS細胞8クローンのうち2つ(25%)、STEMCCA-RedLight-loxPを用いて作製したiPS細胞9クローンのうち1つ(11%)で、8番染色体のトリソミーが見られ(リプログラミング前にはないことを確認している)、Y染色体が欠落している細胞もあることを示しています。





この論文により、外来リプログラミング因子の除去は、安全性の向上だけでなく、分化能の向上にも効果があることが明確に示されましたね。

ドキシサイクリン誘導ベクターを用いた場合の微弱な発現残存の影響がどれくらいあるのかはまだ何とも言えませんが。





(10年9月24日追加)

ボストン大学のDarrell N. Kotton、Gustavo Mostoslavskyらのグループにより、STEM-Cell CAssette(STEMCCA)を持ちCre/loxPシステムで除去可能な単一レンチウイルスベクターを用いて、嚢胞性線維症、α1-アンチトリプシン欠損症関連気腫、強皮症、鎌状赤血球症を含む肺の上皮、内皮、間質区画に影響する様々な疾患を持つ個人から100以上の肺疾患特異的iPS細胞株を樹立し、さらに、それらのヒトiPS細胞を胚体内胚葉、肺上皮の発生学的前駆組織にin vitroで分化誘導したという論文が発表されました。


Stem Cells. 2010 Aug 16. [Epub ahead of print]

Generation of Transgene-Free Lung Disease-Specific Human iPS Cells Using a Single Excisable Lentiviral Stem Cell Cassette.
Somers A, Jean JC, Sommer CA, Omari A, Ford CC, Mills JA, Ying L, Sommer AG, Jean JM, Smith BW, Lafyatis RA, Demierre MF, Weiss DJ, French DL, Gadue P, Murphy GJ, Mostoslavsky G, Kotton DN.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20715179?dopt=Abstract


単一の除去可能なレンチウイルス幹細胞カセットを用いた導入因子なしの肺疾患特異的ヒトiPS細胞樹立 」をご参照下さい。





(10年11月15日追加)

テクニオン-イスラエル工科大学のJoseph Itskovitz-Eldorらのグループにより、単一の除去可能なポリシストロニックレンチウイルスベクターを用い、毟り取った1本の毛の毛包由来のヒトケラチノサイトからiPS細胞を効率よく樹立し、機能的な心筋への自発的分化を確認、挿入されたベクターをCre-loxPシステムで除去することで分化を促進したという論文が発表されました。


Cell Reprogram. 2010 Oct 21. [Epub ahead of print]

Enhanced Reprogramming and Cardiac Differentiation of Human Keratinocytes Derived from Plucked Hair Follicles, Using a Single Excisable Lentivirus.
Novak A, Shtrichman R, Germanguz I, Segev H, Zeevi-Levin N, Fishman B, Mandel YE, Barad L, Domev H, Kotton D, Mostoslavsky G, Binah O, Itskovitz-Eldor J.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20964482?dopt=Abstract


単一除去可能レンチウイルスを用いた毛包由来ヒトケラチノサイトからのiPS細胞樹立および心筋分化 」をご参照下さい。


また、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のYuet Wai Kanらのグループにより、bacteriophage ΦC31 integraseによる部位特異的な挿入を用い、マウス胎児線維芽細胞(MEF)およびヒト羊水細胞からiPS細胞を樹立したという論文が発表されました。


Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Nov 9;107(45):19467-72. Epub 2010 Oct 25.

Generation of induced pluripotent stem cells using site-specific integration with phage integrase.
Ye L, Chang JC, Lin C, Qi Z, Yu J, Kan YW.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20974949?dopt=Abstract


Bacteriophageは、phage attachment site(attP)およびbacterial attachment site(attB)として知られる短い配列を用い、integraseによって自らの染色体を組み込むことが知られており、“pseudo attP”および“pseudo attB”と呼ばれるattPおよびattB siteに相同な配列が哺乳類ゲノム中にあり、phage integraseを用いて外来DNAをそれらの部位に特異的に挿入できることが示されています。

また、挿入は普通、一細胞につき一コピーであり、その部位はしばしば遺伝子間領域、低頻度でイントロン中に見つかることから、phage integraseは、内因性遺伝子機能に干渉することなくiPS細胞を作製できる代替法となるかもしれないと考えました。

Kanらはまず、OCT3/4, SOX2, KLF4, cMYC(O,S,K,M)およびGFP(G)を2A peptideで繋いだポリシストロニックコンストラクトを2種類(遺伝子の順序が異なるOSKM(G)およびOKSM(G))作製、Tet-On Advanced systemを使えるよう、TRE-Tight promoter下流に組み込み、また、chicken insulatorを挟んでCAG-rtTAも一緒に、pseudo attP siteとの組換えを促進するattB siteを持つ単一ベクターに組み込み、HEK293細胞に一時的にトランスフェクションして、ドキシサイクリン誘導により、4因子およびGFPが発現することを確認しました。

また、5μgの上記DNAを106個のMEFにエレクトロポーレーションで導入し、20日間ドキシサイクリンを添加して培養したところ、OKSMおよびOSKMコンストラクトの両方でiPS細胞コロニーが形成されることが分かり、サザンブロット解析によりそれらのコロニーの70%が単一の挿入部位を持つことが示され、単一コピーでiPS細胞樹立が可能なことが示唆されました。

(以上のintegraseなしでの実験は、コンストラクトを確認するためだけであり、部位特異性も期待していないので、それ以上コロニーを解析していません。)


次に、リプログラミングに対するintegraseの影響を調べるために、10μgのΦC31 integrase発現プラスミドもしくは等量のirrelevant plasmidの存在下で、0.5μgのOSKMもしくはOKSMを106個のMEFにエレクトロポーレーションで導入し、1日後から2μg/mlドキシサイクリン存在下で10日間、0.4μg/mlドキシサイクリン存在下でさらに4-10日間培養したところ、d20で、integrase plasmidを用いた場合、29個のコロニーが得られることが分かりました。(irrelevant plasmidの場合、1つのみ)

また、それらのコロニーのうち60%が安定的なiPS細胞となり、マウスES細胞に特徴的な脱メチル化パターンを示すこと、Nanog, SSEA1を発現していること、胚様体およびテラトーマ形成を介して三胚葉分化できること、キメラに寄与し、ジャームライントランスミッションできること、グローバルな遺伝子発現がES細胞と類似していること、サザンブロット解析およびFISHにより単一部位に挿入されていることが示されました。


次に、プラスミドを周辺の配列とともに回収し、シークエンスすることで、ゲノムへの挿入部位を特定したところ、細胞株のうち6つは、4つの染色体(2,6,14,15番)上の遺伝子間領域に挿入されており、最も近い既知遺伝子は422bp離れており、最も遠いのは160kb離れていることが示されました。

なお、細胞株mIntOK8の15番染色体への挿入が、隣接する2つの遺伝子(squalene epoxidaseおよびhypothetic protein)に最も近かったため、それらの遺伝子の発現への挿入の影響を調べたところ、分化、未分化細胞において遺伝子発現レベルに影響はないことも示されました。

また、1つの細胞株では、4番染色体上のvacuolar protein-sorting 13D遺伝子のintron 3に挿入されていることが示されました。

さらに、おもしろいことに、3つは、14番染色体上の同じ部位に挿入されていることが分かり、このpseudo attP siteは、他の挿入部位と比べ、野生型attP配列とより類似していることが示されました。


次に、ヒトにも適用できるか調べるために、0.25μgのOKSMおよび5μgのintegrase発現プラスミドを106個のヒト羊水細胞にNucleofector IIを用いてトランスフェクションし、24時間後から2μg/mlのドキシサイクリンで処理したところ、d9からiPS細胞様コロニーが現れ始めることが分かりました。

d16にはコロニーが成熟したように見えたので、ドキシサイクリン処理を続けるものと除去するもので分けて培養し、d35-40で、前者のグループから4つのコロニーを選抜してみたところ、それらのiPS細胞様コロニーはドキシサイクリンなしで培養すると平べったくなり線維芽細胞様形態に戻ることが分かり、d30からドキシサイクリン処理を再開すると、2細胞株がiPS細胞形態を再獲得し、d60で回収しました。

なお、このiPS細胞は、多能性マーカーを発現していること、多能性細胞に特徴的な脱メチル化パターンを示すこと、胚様体およびテラトーマ形成を介して三胚葉分化できること、ES細胞様の形態を維持したまま20 passage以上培養できることが示されました。

また、得られた6つのiPS細胞株の挿入部位を調べたところ、3細胞株では6番染色体に挿入されており、同じ配列を持っていたことから、同じ細胞由来であることが示唆された一方、3の細胞株では6,2,3番染色体の遺伝子間領域に挿入されていることが分かり、既知遺伝子からの距離は7.5kbから1.2Mbでした。

さらに、2つの細胞株は正常核型を有していましたが、3つ目の細胞株は3;13転座を起こしていることも分かりました。

ちなみに、得られた細胞株の挿入部位に既知のmicroRNA遺伝子座もないことも示しています。





うーん。中途半端な感じですね。。

ヒトでドキシサイクリン依存的な細胞株って、それでいいの??

このコンストラクト単一コピーのみでは、ヒトでの完全なリプログラミングが難しいのかな。