家族ゲーム 第3話 「誕生日会に家庭教師がクラス全員招待!」 | 日々のダダ漏れ

日々のダダ漏れ

日々想ったこと、感じたこと。日々、見たもの、聞いたもの、食べたものetc 日々のいろんな気持ちや体験を、ありあまる好奇心の赴くままに、自由に、ゆる~く、感じたままに、好き勝手に書いていこうかと思っています♪

家族ゲーム

第3話
誕生日会に
家庭教師がクラス全員招待!



吉本) ♪ さよなーらすーるのはつーらいーけど。
    さよなーらすーるのはつーらいーけど。
    さよなーらすーるの、さよなーら・・・
慎一) ちょっと。
吉本) さよな・・・あ?
慎一) ドリフの大爆笑のエンディングで歌われていた
    いい湯だなの替え歌の中でもとりわけ寂しいフ
    レーズを壊れたレコードみたく繰り返すのは何
    かの暗示ですか? どんどん人里離れていくし、
    街灯もほとんどないし。僕は一体どこに向かっ
    てるんですか?
吉本) まくしたてるねえ。怖いの?
慎一) 殺されたくないだけです。
吉本) いいねえ。君の中で僕は得体のしれない殺人
    鬼ってとこか。
慎一) 当たらずとも遠からずってところです。大体僕
    はあなたの名前すら知らないんですから。確か
    に卒業生の中に吉本荒野という名前がありまし
    た。あなたは一体誰なんですか?

吉本) 俺が吉本荒野じゃなかったとして、それが一体
    何だってんだ?

慎一) 名前が違うんですよ?そんな人に全幅の信頼
    を
寄せられるわけないじゃないですか。
吉本) 名前が合っていたところで、君が一家庭教師
    に
全幅の信頼を寄せるとは思えないけど。
慎一) 論点をすり替えないでください。
吉本) すり替えてるつもりは ないよ。
    名前が何だって、俺が茂之をいじめから救った
    のは
紛れもない事実だ。
慎一) それは結果論です。
    あなたのやり方は間違ってる。

吉本) だったら君が正しいと思うやり方で茂之を救っ
    て
あげればよかったじゃない。何もしなかった
    人間が
理想だけを語るなんて卑怯だとは思わ
    ないか?正直に言えよ。君は俺が怖いんだろ?
    自分のものさしではかれない存在が不気味で
    仕方がない。裏を返せば、俺という人間が少し
    でもわかれば安心できるってわけだ。だから君
    に教えてあげようと思って。
    俺の、ストーリーの一部を。


**********

慎一) 病院?
吉本) さ、パンドラの箱を開けようか。

 


吉本) 彼が、本物の吉本荒野。俺の弟だ。出来の
    悪い俺とは対照的に、弟は絵に描いたような
    優等生でねえ。君たち兄弟とは逆だな。彼は
    教師になるのが夢でねえ、東大に入っても、
    両親の反対を押し切って中学教師になった。
    でもその直後だった。事故にあったのは。や
    っと自分の夢に向かって邁進できるっていう
    ときに、彼はすべてを奪われた。それが自分
    のように悔しくてね。だから、俺は弟の夢を叶
    えるために、教師になったんだ。

慎一) 何で学校の先生じゃなくて、
    家庭教師なんですか?

吉本) 簡単な話だよ。俺は教員免許を持っていな
    い。
でも・・・俺は俺のやり方で、弟の名に恥
    じぬように
生徒と向き合っているつもりだ。
    これでも茂之を教える資格がないというなら、
    ご両親に言ってもらって構わない。
慎一) 本当の名前を教えてください。
吉本) 雄大。
慎一) 雄大・・・。

吉本) でも俺は・・・
    これからも「吉本荒野」を名乗り続けるよ。


**********


佳代子) いちるの望みだったんです。今日で変わ
     れるんじゃないか。
この誕生会で思い描い
     てた家族になれるんじゃないかって・・・。

     でも、やっぱり駄目でした。
     どこまで苦しめれば気が済むの?
     見てください。あなた1枚も写ってません。
     子供のことは全部私に押し付けてきたから。
一茂) 押し付けてって・・・しょうがないだろ。
    仕事が忙しかったんだから。
佳代子) 仕事? 仕事仕事! その言葉が私を壊
     したんです。
この頃は可愛かった。どんな
     に腹が立っても、一瞬の笑顔で、やさしさで
     すべて許せた。
でも大きくなるにつれて、言
     うこと聞いて
くれなくなって、愛することさえ
     も、義務のように
思えてきて。今ではこの子
     達が何を考えているのか全くわかりません。

     理解したいとも思いません。

吉本) うわあ、思ったよりヘビイだなあ。
    大丈夫かな、茂之君。


佳代子) 嫌なんです。結婚しなければ、子供、生
     まれなければ、私には別の
人生が待って
     たんじゃないかって。
そんなことを思う自分
     がたまらなく嫌なんです。

     こんな妻になりたくなかった。

     こんな母親に、なりたくなかった。



一茂) すまなかった。
    何もわかってやれなくて。俺が悪かった。
    子供たちに罪はない、だから・・・
佳代子) わかってます。今日、今日だけですから。


**********

吉本) 大人だねえ。けど、茂之にとっては悲惨な
    誕生日になっちゃったなあ。




慎一) ふざけんなよ! お前。あんたのせいだよ。
    あんたが全部ぶっ壊したんだ。

吉本) 勘違いするな。俺は舞台を用意しただけだ。
    ここで起きているのはすべてリアル。本音だ
    よ。
君だって茂之を祝う為にここに来たわけじ
    ゃなかったんだろう?
俺の弱みを探す為に参
    加したにすぎない。
つまり、君にとっても、茂
    之なんか
どうでもいい存在だったんだよなあ。
慎一) 違う。 いや、違う。
吉本) だったら、こういう時に茂之がどこに行くの
    か知ってるのか? 
親戚のおじさんのほうが、
    茂之のこと詳しかったよ。


**********


吉本) 簡単に友達ができると思ったか? 
    自分で突き放した家族が変わらぬ愛情を注い
    でくれると思ったか? 

    友達が1人もいない。家族からも見放されてい
    る。
それがお前の現実だ。悔しいか。だったら、
    お前が変わるしかないんだよ。
立て。立てよ!
    もう泣くな。
今日は、黙って涙を拭け。
茂之) でも・・・。

吉本) 明日になっても涙が出るなら、その時は俺が
    一緒に泣いてやる。
前に言ったろ。お前の味方
    だって。
俺がいる。俺が、お前を変えてみせる。





**********

慎一が言ったように、茂之にとって絶対的な存在にな
るのが目的だったかもしれないけど、確かにあれが、
あの家族にとってもリアルで、やっと噴出した本音で。
一見普通に見えて、普通に見えるように、取り繕われ
た家庭は、案外少なくはないのかも。しかもそのこと
に、気づかないまま「普通の家庭」を演じているような。
黙っていれば・・・我慢していればいいと、思い込んで。
親も弱い人間だから、一人だけで抱え込むと、おかし
くなってしまうものかもしれない。佳代子さんのように。

吉本荒野という名前は、弟のもので、本当は雄大だと
いう、吉本。何が真実なのか、どこまでが本当なのか、
どこまでが嘘で、どこまでが作り物で、仕掛けたもの
なのか。疑えば限りなく怪しいし、だからといって、全
てが嘘というわけでもなく、もともとあるリアルがもとと
なっているわけだし。その胡散臭さが、何が起こるか
予想がつかないところが面白い。吉本VS慎一の攻防
戦も。吉本が抱える心の闇、過去の真実も興味深い。
桜井君が、じつに・・・いいねえ~♪なのでした(*^。^*)


●「家族ゲーム」HP

「家族ゲーム」関連ブログ↓
第1話 「君は成績を上げたいと思うかい?」
第2話 「弟が家庭教師の犬になる!」
第3話 「誕生日会に家庭教師がクラス全員招待!」
第4話 「家庭教師強引にデートを仕込む!」
第5話 「慎一は沼田家が生み出したモンスターだ」
第6話 「緊急家族会議!議題は家庭教師解雇の件」
第7話 「沼田家の崩壊は3年前から始まっていた! 母佳代子の絶望」
第8話 「家庭教師による家族ゲーム、結果発表!」
第9話 「吉本の衝撃の過去!崩壊の先に・・・」
第10話 「あの男が家庭教師になった理由~彼は誰を殺したのか?」


ランキングに参加しています。
ポチっとしていただけると、嬉しいです♪



にほんブログ村


家族ゲーム (集英社文庫)/集英社

 

¥473
Amazon.co.jp