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Kierkegaard

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『散歩』

旅人は、立ち止まり腰を下ろした。

緑の絨毯に寝転び空を見上げた。

「君が好きだ・・・」

ホーホー、ミミズクが鳴いている、木漏れ日が地面に緑の影を作っている。

「受験には息抜きも必要だろう?」

そう言って蓮はキョーコを東京湾野鳥公演に連れ出した。


小鳥が囀っている、緑は初夏の陽にきらめき、緑の影を作っている。

桜の実が落ちている・・・あれはムクドリの幼鳥であろうか。

小型の双眼鏡で水辺の鳥や山野の鳥を観察した。

「蓮兄、いいところだね」

「ああ、春は桜もきれいなんだ」

二人は、広い園内をゆっくり散歩する、人工的に作られた干潟にはムツゴロウが生息している。

ゆっくりのんびりてくてくと、疲れたら木陰のベンチで休もう、他愛ないお話をして、お弁当を食べよう。

「うまい・・」

「良かった、おむすびにしようと思ったけど、ピクニックには、ローストビーフとチキンのサンドが一番よ」

籐で出来たバスケットの中には、数種類のサンドとサラダ、デザートなど盛りだくさんだ。

キョーコは、オレンジをナイフでカットして、オレンジージューサでフレッシュジュースを作ると、アイスボックスから凍を取り出してグラスに入れ、絞り立てのジュースを注いだ。

「はい蓮兄」

「ありがとう」

「あのねえ蓮兄、この間は誘ってくれたのごめんなさい」

「別に謝ることなんて、受験勉強大変なんだろう」

「ち、違うの・・・私・・・あの日、連兄たちを見てショックを受けていたの」

「・・・」

「私・・・蓮・・兄が、好き・・・、小さい頃からずっと好き・・・ご、ごめんなさい」

キョーコは、真っ赤な顔を下に向けた。

蓮の指がキョーコの顎の下に添えられ、そっと顔を上に向けさせた。

「・・・俺も君が好きだよ・・・大切な・・・君は・・・」

「蓮・・兄・・・」

チュッ・・・蓮の唇はキョーコの額に降りたのだ。

「あ・・あ・・」

「今日から君は妹じゃなくて、俺の恋人だから・・・印だよ」

「・・・はい」

手を繋いで歩こう、キョーコは蓮の妹から恋人になった。

指先から互いのぬくもりが伝わる、頬が赤くなるが海から吹く風が熱を下げてくれるだろう。

***

蓮とキョーコは、休憩時間に野鳥を観察した。

見ていると飽きないなあとキョーコは思った。

雛鳥がいる、ムツゴロウも、鳥の鳴き声も・・・キョーコは両の手を空に掲げる、私も鳥になって空を飛ぼうか?

その時、ふわっと後ろから抱きしめられた、あ、なんだか気持ちいいなあと思った、あ、懐かしいなあ、せ、セラピーとほわんとなった・・・で、正気に戻る。

「つ、敦賀さん・・・」

「チッ、正気に戻ったか」と蓮は小声でつぶやくがキョーコには聞こえない。

「なんだか君が、夏空に消えてなくなりそうだったから・・・」

彼は麗しい顔で囁くのだ・・・キョーコは、何も言えない。

「トリップしてました・・・すみません」

ポンポンと蓮がキョーコの頭を叩いた、

「行こうか・・・」

一陣の風が吹いた・・・緑の葉がざわめいて、鳥が鳴いた。


Kierkegaard


つづく その6