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Kierkegaard
その前の話 その1

旅人は立ち止まり、空を見上げる・・・

この空は想い人である君に繋がっている・・・

***

鳥たちが恋を囁やきあっている、濃い緑が眩しい陽の光を遮るように影を作っている。

衣替えで夏服となった制服に身を包んだ少女は公園のベンチに腰掛、小さな紙片を熱心に見つめていた。

風がそよぐ、茶髪の後れ毛が揺れ項が露になり、うっすらと汗が滲んでいた。

その少女に真っ直ぐ近づく背の高い青年が居た。

「キョーコ、何を熱心に見ているの?」

青年はぬうっと少女を頭上から覗きこんだ、少女は面を上にし、幼馴染の青年に笑を零した。

「あ、蓮兄。もう大学は終わりなの?」

「四年だと卒論のゼミに顔だすだけでいいんだ。それこの間の模試の結果?」

「うん、合否判定でA判定だったけど、志望先を変更しようと思って」

「キョーコは医学部を目指してなかったっけ?」

「それは母の希望、私は民俗学か考古学を学びたいの」

「それはそれは、君の母上とひと悶着ありそうだね」

「それで悩んでいるの」

「俺は応援するから」

「ありがとう、蓮兄」

ぽんぽんと大きな手がキョーコの頭をなでた、キョーコの胸は暖かいものに満たされる。

大好きな大好きな・・・でも、好きだと言えない、私では彼の隣は似合わない。

幼馴染の特権で妹のように甘えることは許されてしかるべきだ、夏空の下、他愛のない会話、大好きな人の顔をいっぱい焼き付けよう、そうキョーコは思った。

蓮もまた傍らの少女を妹以上に大切に想っている、けれど、・・・

「カット!」

シーンの撮影が終了し、スタッフが次のシーンの撮影準備をするために30分程度休憩となった。

蓮と京子は、木陰で休むことにした、蓮のマネージャである社は、二人にペットボトル飲料を手渡すと打ち合わせがあるからと傍を離れた。

「最上さん?どうしたのぼーとして」

「な、何でもないです。綺麗ですね、お花畑、都心からほんの30分なのに、きれいな緑が広がっているなんて」

「そうだね」

二人は静かに花畑を見つめていた、キョーコはふと幼い頃出会った妖精の王子さまを思い浮かべた。

金の妖精の王子様、彼はこの花畑の空を飛んでいる?キョーコの頬は薄桃色に輝いていた。

「最上さん?」

「あ、すみません、コーンを妖精の王子様が居ないかなと」

蓮は一瞬ポカンとしてくすくすと笑を浮かべた。

「ああ、彼は、目の前の空を飛んでいるよ」とかっての王子様は断言した。

「そうですね」

二人の頭上で鳥が恋いの歌を囀っている。

Kierkegaard

つづく