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Kierkegaard

その前の話 その1 その2

旅人は海を見たいと思った・・・

抜けるような空と空を映した海を・・・

***

雨がじとじと降る、そんな日だった、湿度が80%以上で半袖だと寒いとキョーコは思った。

雨傘から雫が落ちて制服に染みを作った。

昨晩母親と進路のことで喧嘩した、大学で考古学を民俗学を学びたいのだと意思表示を示したのだ。

医学部以外の受験は認められないとけんもほろろだったが。

蓮兄に相談してみようかと思って、キョーコは蓮が通う大学方面へ足を向けた、その時だった。

「蓮、待って!」

「君は・・・、俺は断ったはずだ」

「この間は付き合ってくれたじゃない?ねえ、お願い、私と蓮の仲じゃない」

親しげに見える二人に、キョーコはとっさに物陰に隠れた。

「綺麗な人・・・そうか・・・蓮兄・・・付き合っている人がいたんだ」

ぽつり・・雨の雫と違う粒が溢れた・・・私は妹みたいな・・・ただの幼馴染で・・・

遠くで雷がなった、雨足がひどくなりそうだ、重い足を引きずりキョーコは家路をいそいだ。

***

その夜、気乗りしない受験勉強をしていると、机の脇に置いた携帯の着信音が鳴った、ディスプレに表示されたのは蓮の名前だった、キョーコは躊躇いながら携帯をとった。

「はい」

「キョーコ?」

「・・・」

「どうしたの?キョーコだろう」

「あ、蓮兄・・な、何でもない、えーと何?」

「受験勉強の息抜きも必要だろう?今度の日曜に鎌倉の海を見に行かないか?キョーコは民俗学をやりたいと言っていたから、興味あるかと思って」

「あ・・ごめん・・今度の日曜は模試があって、また誘って蓮兄」

「そうか、じゃあまた今度」

「うん、それじゃまたね、勉強したいから切るね」

何時もは、他愛ない話をするのに・・・

妹でもいいと思っていた、蓮兄の一番じゃなくても、どうしてこんなにショックなんだろう。

「ごめん蓮兄、会うと辛いから・・・」

蓮は、ツーツーとなる携帯を見つめていた、キョーコの変化に戸惑いを隠せなかった。

「キョーコ、どうした、何があったんだ」

***

「今日の撮影は終了です!」

ガヤガヤと人が動く、蓮はキョーコの元へ急いだ。

「最上さん、遅いから送ろうか?」

「あ、敦賀さん、ありがとうございます。でも、今日は寄るところがあるので」

「俺も付き合うよ」

「とんでもありません、先輩にそんなこと・・・」

「俺の親切を・・・」

「わかりました、よろしくお願いします」

車の窓に街の灯りが映る、キョーコは物憂げにその景色を眺めていた。

「最上さんどうしたの?」

「何でもないです、ただ・・・夜の空は何を映すのかなと思って」

「へ?」

「海の色が青いのは空の色を映すから、空が青いのは海の色を映すからと古(いにしえ)の詩人は詠い、夜の空の闇色は何の色を映すのでしょうか?」

「・・・月や星が映る為に、黒いのではダメ?」

「スクリーン・・・」

「うん」

「そうですね、そうかもしれません」

蓮くんもキョーコも詩人だった・・・

Kierkegaard

つづく その4