小説「TOUBEE-3」
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第六章 「その名はエデン」
第三話 「示唆」
雷駄とは通信が途絶え、藍は一人で獣人たちと交戦中。
室田は功勇たちに警告する。
「真喜志くん、これは罠だ。だが、放っておくわけにもいかん。接近には十分に気をつけてくれたまえ。」
「了解!」
「藍ちゃん、いま行くからね!」
「こちら功勇。玲、聴いていたか?」
石垣島の研究所にも警戒を発した。
「あぁ、こっちも緊急警戒態勢を取ったところだ。」
「了解した。OK、室田さん、こちらは大島を肉眼で確認。指示をお願いします。」
「こちら室田。よし、作戦を指示する。先ずは島民の安全を最優先。機内には操縦士を一人置いて、他の者は取り残された島民を自衛隊の艦船に誘導。ハンティング・イーグルは地上の支援と同時に上空より偵察し、雷駄の安否確認に努めろ。尚、獣人は元々島民である可能性があるため、自衛隊員からの攻撃による援護はない。君たちだけが頼りだ。以上、行動開始!」
「ちゃーがんじゅー、了解!」
奈瑠美を操縦席に残し、功勇たちは機体下から各アジャスターで降下。
ここで言うアジャスターとは、室田の設計したチャーガンジュー用の乗り物で、二輪で走行はするが、研究所の各マシンにそのまま収納させることで乗り込む事が出来る。潜水艦行動の多い彼らにとって、減圧室などに入る手間を省くことが主目的で製造されたマシンである。
島に降り立つチャーガンジューたち。
するとたちまち、そこかしこから獣人たちが群がってくる。
「老人、子供、怪我人が優先だ。」
「これが伏竜改…?」
石垣島で見たゾンビ獣人とはまた違った敵に、野獣のような強さを本能的に察知した華寿美が、その弱点を分析し始めた。
功勇と淳士が先頭に立って、襲い来る獣人たちに応戦。
その間に、日登美が藍と合流し、生き残った島民の救出に向かう。
「藍!」
「日登美ねーね!」
藍は、かつて石垣島で淳士から譲り受けた超重力エークを使って、獣人たちに足払いを食らわしていた。
だが、回復力に優れた獣人は、しばらくすればまた立ち上がり、狂ったように向かってくる。
「なんか、さっきからキリが無いのよね…。何処かにこいつらの変身音波を出してる所があるはずなんだけど…。」
「藍ちゃんにも判らないの?」
「うん。獣人からも音波が出てるから、これだけ多いと共鳴しあって区別がつかないわ。」
「ある程度、まとめて数を減らさないとダメなのね…。」
「それをさっきから遣ってるんだけど…。」
だが、この会話は日登美のナンクルナイザーを通じて他の全員に共有され、ハンティング・イーグルの奈瑠美から室田の無線機にも届いていた。
「そうだ藍。お前の判断は間違っていない。」
「でも…。」
「あぁ、言いたいことは解る。雷駄も同じことを考えて、自分から進んで罠に堕ちたんだろう。」
「え…?じゃあ…。」
「変身音波の出所は、たぶんあのデカブツだろうな。雷駄はそれに気付いて、咄嗟の判断で相殺音波を…、つまり変身を解いたんだ。」
「怪物の目の前でですか?」
「あぁ、だから自衛隊の艦船も島に近付く時間ができた。あいつも自分の事より島民の安全を優先したのさ。俺たちを信じ、ヒントを残してな。」
「罠と判っていながら?」
「あいつはそういう奴さ。戦いたくて戦ってるんじゃない。許せない奴がいるから戦ってるんだ。」
「悪い組織を?」
「いや、もっと具体的に、人間を人間じゃなくさせる奴らをだ。」
室田のこの言葉に、そこで戦っている全員の心が打ち震えた。
奈瑠美から通信。
「上空からは、まだ雷駄さんの姿は見当たりません。」
だが、藍がこれに応えた。
「大丈夫。雷駄さんの音波を感じるわ。」
「この状況で?」
「不思議なんだけど、ビーちゃんと合体するとね…。」
これは、本人たちはまだ気付いていないが、お互いが同じ蜂の音波によって二段変身を遂げているために、その気になれば雷駄と藍は完全に同調し合うことも出来るようになったのだ。
それに加えて、以前の戦いで蜂が雷駄の体の一部をかじっていたことで、雷駄の遺伝子が蜂の体内に宿っていることも要因になっていた。
「だったら、雷駄さんは何処に?」
「状況からして、奴らに捕まった可能性が高い。」
と室田が答えた。
ここで美由紀から連絡。
「SOLINGENの信号をキャッチしました。海底でスタンバイ状態です。」
「よし、藍、SOLINGENを呼んでみろ。」
「え?私がですか?」
「そうだ。SHEFFIELDの反応機構はSOLINGENからコピーしたものだからな。お前にも呼び出すことぐらいは出来るはずだ。」
「はい、やってみます。」
獣人からの攻撃は、いったん日登美がすべて受け止める。
そして、藍の呼び掛けに、SOLINGENは水中から飛び出して来た。
「うわぁ、ホントだ!」
戦闘モードとなって、藍の前に降り立つSOLINGEN。
「室田さん、SOLINGENが到着しました。」
「よ~し、SOLINGENのAIには、雷駄のベルトの相殺音波の周波数が記憶されている。それはお前も知っている、いつもの雷駄からの音波と同じはずだ。」
「はい。」
「そいつをSHEFFIELDのAIと同調させて増幅してもらいたいんだが、できるか?」
「やってみます。」
何の設備も無いこの島で、何重にもロックのかかったSOLINGENのAIからは、相殺音波のデータをロードすることが出来ない。
だから室田は、雷駄の他にただ一人シンクロできる藍からの指令によって、SHEFFIELDのAIに学習させようというわけだ。
斯くして、SHEFFIELDはSOLINGENの相殺音波を記憶し、ただちに同じ音波を放射した。
二台による相乗効果で、取り囲んできた獣人たちの動きが鈍った。
その様子を、藍が室田に報告する。
すかさず室田の指示。
「思った通りだ。奈瑠美、お前のナンクルナイザーでこの音波を拾えるか?」
言われるより速く、日登美を通じて奈瑠美のナンクルナイザーが音波をデータ化していた。
「OKです!」
「よし、それをハンティング・イーグルのコンピュータに入力して増幅させ、下のデカブツに浴びせてやれ。」
「了解!」
奈瑠美は海の怪物めがけ、上空からの避難誘導に使う拡声器で相殺音波を発射。
それは、地上で発射された音波と合わさって、より強い威力を発揮した。
島の獣人たちは人間の姿に戻りつつ、皆崩れるように眠ってしまった。
急激に変身させられたためだろう、体力の消耗が激しいのだ。
かつて羽祟り村で同じ経験をしたことのある藍は、安全を確信して変身を解いた。
藍と分離した蜂はそのまま藍の肩にとまり、羽ばたきを止めた。
「日登美ねーね、ありがとう。もう大丈夫よ。」
「藍ちゃんだけでも、間に合って良かったわ。」
「うん。今度は雷駄さんを助けに行かなきゃ。」
「えぇ、でもそれには作戦を立て直す必要がありそうね…。」
日登美には、上空から偵察していた奈瑠美から、怪物がナガスクジラのような姿にに戻って海中へ姿を消したという情報が伝わっていた。
それでも、藍の肩で休む羽祟り蜂は、雷駄の居る方角を正確に指示していた。