小説「TOUBEE-3」



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第六章 「その名はエデン」



第二話 「途絶」




 

ハイジャック事件から半年。


室田は、都内のとある大型見本市会場に来ていた。


年に一度開催される、国内最大の国際オートバイ見本市の準備のためだ。




ピラミッドを二つ、逆さまに並べたような外観の建物。


この日はブースの設営だけなので、室田の助手はメカニックの福田だけだった。


最新型のマシンに、更なるチューニングを施した室田コンプリートが固定された木製の枠組みを、電動フォークリフトで慎重にトラックから降ろし、展示用の台の上まで移動する。



「最近じゃあ、何でも無公害が流行で、電動だなぁ。」


「そうですねぇ。」


「前に仕入れた外国製の電動バイク、ありゃ余りの遅さにビックリしたけどよぉ、今の技術ならイケるよな。」


「えぇ。」


うなずきながら梱包の枠を剥がす福田。



今回の展示車両は二台。


高出力のスーパーマシンと、資源と環境に配慮したハイブリッドなエコマシン。


どちらも室田と福田の力作だ。




ここで室田の携帯が鳴った。


美由紀からだった。


「はい、もしもし室田です。」


「湾岸支局から緊急連絡です。海上自衛隊の潜水艦が小笠原諸島海域で正体不明の生物と接触。警戒網を突破して、まっすぐ東京湾に向かっているとのことです!」


「ナニッ?そりゃここに向かってるってことじゃねぇか。」


「はい。雷駄さんと藍さんは既に現場へ向かいました。真喜志研究所にも出動要請しますか?」


室田は周りの目を気にして小声で返す。


「そうだな。こんな人口密集地で騒ぎを起こされちゃかなわん。その前に何とかしたい。緊急要請だ。」


「了解!」


電話を切った室田は、敢えていつもと変わらぬ様子で福田に言う。


「忙しくなりそうだから、ここは早いとこ片付けちまおうぜ。」


福田は黙ってうなずいた。




その頃、連絡を受けた真喜志研究所では、チャーガンジューの面々が特殊戦闘機ハンティングイーグルでスクランブル発進。
ハイジャック事件からの教訓で、全員が操縦の訓練を終えての初出撃となった。


藍もSHEFFIELDの飛行モードで目標を目指す。


雷駄はSOLINGENで首都高を走っていた。




太平洋上では、不気味な生命体が水上に姿を現したために、埼玉の飛行場から報道のヘリコプターが飛び立った。


だがこれに対し、海上保安庁から警告が発せられた。


現場海域から予想経路にかけては、自衛隊機以外は無人となった。


そこへ最初に到着したのは藍だった。


「美由紀さん、只今現着しました。」


藍はPASSAGEに無線を入れた。


「了解、状況を報告して下さい。」


「はい。目標は伊豆大島から南南西に約10キロの海域にて、海面から顔を上げて泳いでいます。先ほど上空から接近して確認したところでは、体長は約20メートル。一見すると爬虫類か両生類のように見えます。」


「了解しました。いま雷駄さんが向かっています。そのままもう少し監視を続けてください。」


「了解。」


「雷駄さん聞こえますか?」


「あぁ、聞こえてた。説明からすると、まるで恐竜のようだが、やけにデカイな。」


「え?恐竜が大きいとおかしいんですか?」


「いや…、そうじゃなくて、今生きているってことがおかしいんだよ。」


「あ、そうか…、今の海の環境に適応出来るわけ無いですよね。」


「あぁ、恐竜が氷河期を生き延びられなかった原因の一つに、大きく成りすぎたということがある。だが万一生き残った種があったとしても、爬虫類は身体の構造上、魚ほどには泳ぎは上手くないし、巨大化するにつれて動きも緩慢になるからな、成長する前に、サメやシャチに食われちまうのがオチだ。」


「じゃあ、あの怪物は…?」


「もしかしたら、巨大な水棲生物…、例えばクジラなどに、0号獣人のような改造実験を行ったのかも知れない。」


「そんなぁ…。」


「人間に可能なら、他の生物でも不可能では無いはずだ。と言うより、動物実験の方が先だったんじゃないかな?」


「でも、野生動物はそう簡単に操れないんじゃ…。」


「時間は掛けたんだろうよ。だから今ごろ現れたってことなんだろう?」


「そんな…、石垣島では、あれだけの数のゾンビ獣人を送り込んでおきながら…。」


「何処かに奴らの拠点があるんだろう。そこを叩かない限り、次から次へと新手を送り込んで来るだろうな。」


「それは前から捜しるけど…。」


「あぁ、解ってる。簡単には見付からないさ。連中も馬鹿じゃない。」


雷駄は湾岸線から埠頭に降り、人目に付かない場所で変身。


SOLINGENを飛行形態に変形させて飛び立った。


「こちら雷駄。藍、聞こえるか?」


「はい、聞こえます。」


「マシンの航続時間は、あとどれくらいだ?」


「30分ぐらいかな…。」


「よし分かった。俺はいま東京湾を抜けるところだ。藍は墜落しないうちに大島辺りで給油しとけ。」


「でもコイツは…?」


「大丈夫。俺もそんなに時間はかからんし、功勇たちも向かってるんだろう?…なぁ!」


「おう!いま四国沖だ。超音速だから、あっと言う間に着くやっさあ!」


「はいたい!藍ちゃんお久~ぁ♪」


「奈瑠美っち?元気してた~ぁ?」


「がんじゅー、がんじゅー、ちゃーがんじゅー!」


「おい奈瑠美ぃ、今は作戦行動中やしぃ、あんしお喋りさんけぇ。」


「あ、じゃあまたね~♪」


「うん、了解。東雲藍、これより給油に下ります。」




間もなく、入れ代わるように雷駄が到着。


「どうやら間違い無さそうだな…。俺が今まで戦ってきた獣人たちと、似た特徴が見られ…。」


「こちら室田だ。了解。弱点は判るか?」


「…。」


「雷駄、聞こえるか?」



返事がない。


「雷駄どうした!?応答しろ!」


「雷駄さん?……。雷駄さん?……。ダメです。こちらにも応答ありません!」


「藍は?」


「藍さんは、先程から大島に着陸。給油中のはずです。」


「藍!そっちの状況はどうだ!?」


「それが…、島中獣人だらけで…。」


藍は、島民たちを護るために獣人と戦っていた。



「なにっ!?…罠か…。」





第三話へつづく。