「機動警察パトレイバー」に関する現実的考察2
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「機動警察パトレイバー」に関する現実的考察5
「機動警察パトレイバー」に関する現実的考察6 最終章

以前から予告しておりました機動警察パトレイバーに関する考察です。

建築エコノミスト 森山のブログ

機動警察パトレイバーといえば、ゆうきまさみ先生原案、企画チームヘッドギア原作のリアル警察現場ストーリータイプの名作です。
このパトレイバーを元にして攻殻機動隊が生まれたとか、踊る大捜査線がつくられたとか、言われている。
いわば伝説的漫画およびアニメ作品なわけですが、この作品の特徴は描かれた当時がバブル経済華やかしき80年代後半から90年代というところが、なんとも懐かしいというか、作品自体にそこはかとないユルさを孕んでいてちょっとほっとする作品のひとつです

物語は作品発表当時1990年から5年後の近未来に、関東大震災級の東京南沖地震と呼ばれる巨大地震が発生し、都内に壊滅的被害が勃発、特に23区でいうところの足立、江戸川、葛飾区あたりにおける被害の復興過程において、瓦礫の除去や工事の円滑化を目的とした人型汎用重機として通称「レイバー」と呼ばれる工事用ロボット車両が開発市販され市場投入されるようになったという舞台設定がなされております。

しかもこのレイバーは実際の工事重機として以下のメーカーから開発出荷されたことになっています。
篠原重工 → 住友重機?コベルコ?
菱川島造船 → 石川島播磨
菱井インダストリー → 三菱重工
皮崎重工 → 川崎重工
マナベ重工 → コマツ?
トヨハタオート → トヨタ?クボタ?
淵山重工 → 富士重工?
井野 → 日野自動車
エセキ重工 → 井関農機

というわけで、これらレイバーメーカーのうち通産省主導のもと篠原重工が先行開発したのが極限作業用ロボット「レイバー90」でした。
その後、菱井インダストリーや海外メーカーシャフトエンタープライズ、そしてマナベ重工もレイバー1号機を発表します。
そして、篠原重工が「レイバー」の登録商標を放棄したことにより、搭乗型汎用人型重機の呼び名として「レイバー」という呼称が一般化します。
そして、東京南沖地震の復興計画と地球温暖化による海面上昇を見越して、東京湾埋め立てと防波堤工事を推進する「バビロンプロジェクト」と呼ばれる国家的土木プロジェクトが発動され、「レイバー」が工事車両として活躍していくことになるのです。

ところが、この人型汎用重機「レイバー」は、
多足歩行作業機械として、いうなればスーパーロボットの簡易版であり、高速移動能力や多重積載能力、さまざまな作業アタッチメントにより、土木・建設工事や解体・破砕工事に従事する目的で急速に普及する反面、この「レイバー」の圧倒的な重機能力を利用した暴力行為、破壊工作といった犯罪に利用される事件が多発することになるのです。

これらのことを総称して「レイバー犯罪」と呼ばれ、社会問題化しました。
レイバーを操縦する犯罪者、犯罪集団に対し、通常の軽装甲の警察車両や人力ではまったく歯が立たないという事態です。

そこで、目には目を、レイバーにはレイバーをということで篠原重工に警視庁直々に発注したのが警察用のレイバー、パトロールカーならぬパトロールレイバー、パトレイバーだったのです。

この「パトレイバー」を支給された警察組織が特車二課と呼ばれるセクションでした。
この特車二課を舞台とする物語が「機動警察パトレイバー」なのです。

特車二課には第一小隊と第二小隊というふたつの部隊がありまして、この特車二課第二小隊に配属された泉野明(いずみ のあ)巡査を主人公、そしてその泉巡査をサポートする立場の篠原遊馬(しのはら あすま)巡査が準主人公といった感じです。

特筆すべきは、近未来SFロボット作品にもかかわらず女性をそのパイロットとして描いていることと、この特車二課という組織そのものの人間模様を主体とする大人のドラマに仕上がっているところです。

ちょうど1980年代後半は「男女雇用機会均等法」の制定もあり、女性の社会進出や大企業における女性総合職採用なども話題になったころです。

「機動警察パトレイバー」においても、そういった社会事情を如実に反映してか、特車二課のうち優等生チームである第一小隊は、南雲しのぶ警部補が隊長を務め、落ちこぼれ軍団の第二小隊の隊長の後藤喜一警部補を含め特車二課を実質取り仕切っています。

私は、この「昼行灯」といった感じで、いつもはっきりしない後藤さん(実は元公安の凄腕で、カミソリ後藤と呼ばれるくらいキレル人なんです。)が好きなんですけどね。

実は「機動警察パトレイバー」とは、こうした人間関係のドラマを含めた組織論がストーリーのほとんどを占めており、今見ても人的資源管理の観点からも刮目すべき多くの示唆に満ちているのです。

一見、ロボット、近未来、女性パイロット、現実背景のリアル設定など後の漫画やアニメのオタク力の粋を集めていると評価されがちの「機動警察パトレイバー」なのですが、むしろそれまでの日本のTV映画漫画における人間関係ドラマの粋を集めて作られているといっても過言ではありません。

当時は、いわゆる終身雇用やOJT(オンジョブトレーニング)といった、長期雇用における企業内でのスキルアップが当然のように図られていた時代でもあり、特車二課の警官たちだけでなく、レイバー整備部においても先輩後輩の関係や年配の頑固親父によるカミナリ教育、終業後の飲み会などにおける人的フォローなど、「機動警察パトレイバー」においても、日本型組織の良いところが数多く見てとれます。

そこらあたりにも何か、懐かしさだけでなく、見ていてほほえましい多くのエピソードが描かれております。

この「機動警察パトレイバー」は漫画版、アニメ版、映画版とさまざまに別のストーリーが設定されており、多くの派生ストーリーがありますが、ここでは主に漫画版を元に論を展開したいと思います。

つづく


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