彫刻家 渡辺 忍さん 第5回~女性彫刻家の気になる話~ | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさま こんにちは。

彫刻工房くさか 日下育子です。


今日は素敵な作家をご紹介いたします。

彫刻家の渡辺 忍さんです。


アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-顔150

渡辺 忍さん


前回登場の原 透さんからのリレーでご登場頂きます。

  彫刻家 原 透さん 第1回 第2回、   第3回,  第4回 第5回 ,  第6回  第7回  



渡辺 忍さん 第1回 ~岩手大学で出会いがありました~

         第2回   ~布の流れをテーマに制作しています~
          第3回   ~大理石に出会って方向性が見えました~

         第4回   ~日常の生活の中に入っている彫刻を作りたいです           


第5回の今日は、女性彫刻家ならではの特別編で、
制作と家庭の両立についての対話をお送りします。


美大生の方など、これから制作の道に進まれる方の

お悩みが開放されるような、参考になれば幸いです。


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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-那須野が原2004

「草原のおくりもの」
御影石 
栃木県 大田原市
那須野が原国際彫刻シンポジウム

2004年設置




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-矢板市結ぶ

「結ぶ」
本小松石  
栃木県矢板市  2010年設置 




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-おくり渡辺忍

おくりもの-2011
H75×W80×D105
赤御影石
2011年制作



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-結ぶ

結ぶ
H68×W17×D15
大理石(シベック)
2012年制作




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-13おくり

おくりもの‐2013
H22×W65×D45
大理石(シベック)
2013年制作




日下
渡辺 忍さんと前回ご登場の原 透さんはご夫妻とのことですね。
彫刻家同士のご夫婦ってそう多くはないかと想うのですが。



渡辺 忍さん
私のまわりには、案外いらっしゃるんですよ。
ただ、素材が石同士という方たちは、あまりいらっしゃらないかも知れませんね。

木彫をやっていらっしゃる奥さんに、石彫のご主人さまとか。
あと粘土をやっていらっしゃる奥さんに、金属のご主人様とか。

結構、彫刻家同士はいらっしゃるんですよ。
それでもそんなに多くはないと思うので、世間的にみると珍しいんでしょうか。


音楽でピアノの先生や演奏をしていらっしゃる奥様と、
彫刻の御主人様も多いんですよ。
なかなか面白くて素敵だなと思うんですけど。


一般的に、芸術家と関係のない世界の奥様だと、始めは苦労されるのかなと、
大変なのかなとちょっと心配になったりするんですけど。

少しでも制作のことが分かっていたりすると、「ああ~、しょうがないか。」って

あきらめてやっていけるのかと思います。



日下
渡辺 忍さんと原 透さんはお互いにアーティストでいらっしゃるということで、
何か気を使ってしまうこと、あるいはご一緒で良かったと想うことはおありでしょうか。



渡辺 忍さん
私の場合なんかは随分、原に助けられていると思います。
素材が石ということもあるので、自分一人ではとっても出来ないようなことも
やっぱりサポートしてもらえれば、広がりますよね。


ここで出来ないから諦めよう、別な方法で、というんじゃなくて
身近にそういう事を打ち明けて相談できたり、助けて欲しい時に手を貸してもらえたり、
物理的にも、精神的にも支えてもらえているので
続けてこられたんだと思うんですね。


やはり彫刻を続けている女性の方を見ていると
家庭に入ると彫刻を続けていくというのはかなり難しいし、
お子さんが生まれたりすると女性はまたそこで一つの大きな決意が必要だと感じます。

今は育メンとかいって男の方も、いろいろなかたちで育児と関わっていらっしゃると思うんですけど
やはり女性にとっては人生設計の中でそういう結婚出産、
あと最近は介護とかも人生の中で入って来ると思うんですけど、
かなり、いろんなところで究極の選択をしなければならない事が多いので。



日下
そうですね。
私は、3年前結婚し、今、まさに子供が2歳のところです。
なので、今は制作そのものよりは、この学び場美術館のインタビューの比重が大きいです。
ですが、制作を止めた訳ではありません。



渡辺 忍さん
私は子どもはいないので、自分勝手にやっていられるので贅沢な環境かなと思います。
本当に、子どもを育てながら活動をしていらっしゃる方を見ると
やっぱり、生活のリズムが完全に変わって、子供に対しての様々な出来事を
乗り越えながら少しずつ自分の時間も作って頑張っていらっしゃることが多いですね。

失礼ですが御主人様もこういう分野の方ですか。



日下
いえ、私の場合は全然違います。
私の場合は、ずっと制作を続けてきて、
やがて、心の底で自分も結婚をしたいと感じてそれを望んだ時に
知人のご紹介で会社員の方をご紹介頂いて結婚することが出来ました。


なので、夫は全然美術分野の人ではないのですが
良い意味で干渉せずに応援してもらっているというかたちです。

渡辺さんと原さんの出会いは国画会展でいらっしゃるのでしょうか。



渡辺 忍さん
岩手大学の彫刻には、シンポジウムというかたちで
公開制作の企画をしていらっしゃる先生がいらしたので、
そこで原が参加したということで、岩手で出会ったんです。


原は東京造形大学を出ているんですが
その大学の大成浩先生という方が岩手大学の特別講師として、
毎年いらして、石彫を教えて下さっていたので、

その関係で造形大学の方とは結構交流があったのですね。

原 本人よりも、作品の方を先に知ったかなという感じです。



日下
では、若い時からお互いにご存知だったのですね。



渡辺 忍さん
もう、二十代の中頃、大学を出た時ぐらいから知っていました。



日下
そうでしたか。



渡辺 忍さん
日下さんは今、子育てをされていますよね。
これから、日下さんご自身はどうお考えですか。



日下
はい。アーティストたるもの、いつも新しい表現の作品を作るとか
トップを目指してとかいう考えもあると想うのですが・・・。

私自身はこの頃、本当に喜んで下さる方のために彫ろう、
と少し考えが変わって来ているんですね。


大学卒業後すぐの頃は、いろいろな公募展を見て
自分も公募展に毎年出品して充実した活動のできる作家になろうと想っていました。

ですが、実際にある団体展に一度出品させて頂いてみて、
東京に毎年出品し続けるのは、経済的にも時間的にも自分には困難だなと
すぐに分かりました。

そこで地元の河北美術展という公募展に長いこと毎年出品させて頂き、
あと宮城県の芸術協会に所属・参加させて頂いています。


今後は何かしらご縁のあるものの活動をしていこうと想っています。
無理にどこかに出品しなければいけない、ということではなく
本当に喜んで下さる方にご覧頂けて、お届け出来るような活動をしたいと
心が決まってきたのです。


なので、子育て中にはなりましたが
いつも彫っていないといけないとか、
いつも彫れていない自分を許せないとか、そういう風には考えずに
望まれた時にお応え出来るように、全力でやれるようにしようと想ったら
焦りが少なくなったという感じです。


私は、首都圏の著名な美術大学に行った訳ではないのですが
いろんな方のお世話にはなってきていて、
その美術界に対してお返し出来ているものが少ないなと想ったので
こういうインタビューをさせて頂こうと想いました。


同じ作り手として作家の皆様を応援させて頂き、
少しでも一般の方に美術に興味をもって頂けたら
いいかなと想い、続けさせて頂いています。



渡辺 忍さん
大変ですよね。こういう活動と、子育てと家庭もあって。



日下
はい、そうなのかもしれないのですが
義母と同居しているので、その方がなんだかんだ言いながらも
助けてくれているとは想います。


それと美術で頑張っている方のお話をお聴かせ頂くというのが
自分にとってとても刺激になる楽しいことで、
このインタビューの編集も苦よりは楽しいことなのでありがたいと想っています。




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-おくり

おくりもの 
H34×W32×D35
大理石(オーロラ)
2008年制作




渡辺 忍さん
私は、今年で53歳になったんですけど、
私が岩手大学に入った時は、もちろん女性で彫刻をやっていらっしゃる方はいましたが
身近に石彫をしていらっしゃる女性の方がいなくて、
本当に男社会というか、まわりは男性ばかりだったように感じましたね。

なんでしょうね、どういう活動をしていったらいいんだろうという具体的なものが私には見えなくて、
つまり目標とか、こういう風になりたいという目指す方向が見えなかったので。


本当に、先ほど日下さんも仰ってたように
がむしゃらにやんなきゃとか、つくらなきゃとか焦っていて
すごくつまらないことでも、負けないように頑張らなきゃとか、
「だから、女は駄目なんだ」とよく言われてきたので、やっぱり悔しいと思いながら。

今、思うと何か違うところで頑張っちゃっていた。
でもそれが私にとっては、しがみついてこられた理由だったのかもしれないですけど。
そういう時期があったので、今は少しずつ時代も変わってきて、力が良い意味で抜けてきたというか…。


私自身も今日まで暮らしてきて、生きてきて、変わってきて、
無理にこうしなくちゃいけないというんじゃなくて
自然体でものを見られるようになりたいなと思うようになりました。



日下
ああ、素晴らしいですね~。
渡辺さんと私は10年違いだと想いますが、
今の渡辺さんのお話の、石彫をするときに男性社会の中で
がむしゃらに頑張っていらしたというのは、感覚として分かる部分があります。


もう昔の話なのですが、私は彫刻の恩師から
「女で本当に彫刻をしていきたかったら、結婚しても
『私は子どもを産みません』と言いなさい。」と言われたことがありました。
意図はそのぐらい真剣でないと続けられない、ということだったのでしょうが
私は正直なところ、違和感を覚えました。


私自身、「彫刻を頑張るために結婚はしない」と公言していた時期もありますし、
でも年をとってきて「結婚したいけどまだ御縁が無くて」という言い方に変わってきて(笑)
それでようやく御縁に恵まれ39歳で結婚し、40歳で子どもに恵まれという
ことでやってきました。


第一線に躍り出なければならない、という考えでなかったら、
何がしかのかたちで続けていけるとは考えています。



渡辺 忍さん
第一線って何なのかなって疑問に思いませんか?
こういうのって本当に答えのない世界で…
商業ベースに乗って売れていればいいでしょうという話もあるんですけど、
名前が知れているとか。
でもそれだけの世界じゃないのが、また面白いですよね。



日下
そうですね、いろんなあり方があって。



渡辺 忍さん
ええ、いろんな在り方があって、いろんな立ち位置があって、
それを自分で見つけていけるというのが、やっと最近、
本当に最近なんですけど、楽に考えられるようになってきました。

まわりの方々のやっていらっしゃる、いろんな活動の仕方があるということが見えてきて
だから、私も39歳で結婚したんですけど。



日下
あっ、そうだったんですか~。意外です。
もっと、お若い時から結婚していらっしゃるのかと想いました。



渡辺 忍さん
ずーっといろんな意味で、結婚に拘っていなかったんです。
原とは20代から出会っていたんですけど、結婚はまだ全然考えていなくて、
30代はまだまだ飛ばしていかなきゃいけないぞと
そんな感じで夢中で過ぎてきた時代だったので。



日下
そうですか~。でも渡辺 忍さんは本当に素晴らしい実績をお持ちだと想います。
本当に続けるだけでも大変な分野ですので。



渡辺 忍さん
今、私は子どももいないので
自由気ままに、そして主人も同じ職業なので
本当に恵まれた立場なのですけど、
今度は北海道の母親のことを考えたりするといろんな葛藤が出てきて
人間として生きて行く上での、また一つの選択が来るのかなと
漠然とですけれど考えています。
ごめんなさい、個人的なことを・・・。



日下
いえ、でも女性の彫刻家さんとお話をさせて頂く時には
こういう内容もとっても興味があります。



渡辺 忍さん
そうですね。私はこういう種類の話をいっぱい聴かれます。
私は愛知県立芸術大学で、2回ほど彫刻科の女性の学生さんたちと
お話をする機会があって、そういう時も即こういう話で。
やっぱりあの子達も、そういう話が一番切実に気になるみたいで
女性として彫刻を続けて行くときに
どういう時にどういう風に悩んだかというのをよく聴かれます。


東北芸術工科大学に行っていたときにも
石彫場での実習以外に、講義形式でお話をしなきゃいけないこともあって、
そんな時にも最後に質問は?というと結構そういう話題が出てきて
子育てや家庭のことなどで、彫刻家同士の夫婦はどうですかとか
毎回、毎回どこへ行っても聴かれます。

やっぱり私たちのような彫刻家同士の夫婦が珍しいと言われて。

十日町のシンポジウムに参加させて頂いた時にも、初めての女性の作家ということで、
オルガナイズしてくださった方もかなり心配されていたんですね。
例えば、体力面でちゃんと最後まで作ってもらえるのかなとか、
やはり、女性の彫刻家というと気を使いますよね。
いろんな面で細やかな配慮をしてくださっていたと思います。

そういう意味で世間ではまだまだ、女性の石彫家は
「えっ?」っていう目で見られたりする面もあった時代なので。

最近は本当にそういうことが大分なくなってきたし
道具に関しても、かなり女性が使い易い道具が一杯出てきているので変わりましたよね~。

だからこれからは本当に女性の作家の時代が来るぞとすごく感じてます。



日下
ええ、楽しみですね。



渡辺 忍さん
日下さん、頑張りましょう!



日下
はい、頑張ります!



渡辺 忍さん
あッ、でも・・・頑張らなきゃいけない、じゃなくて、ね。
気張らないで自然体でやっていくことが、大事ですよね。
女性のほうがコツコツと
持久力は抜群だと思うので
きっとすごいことが出来ると思います。

私も女性の彫刻家の方とお話をする機会がとっても少ないので
楽しかったです。ありがとうございました。



日下
はい、そうですね~、楽しんでやれるようにやるのだと想いますが
頑張って行きます。
今日はとても楽しいお話をありがとうございました。



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館-懐想

懐想
H55×W18×D15
大理石
2005年制作


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今回、原 透さんのご紹介で
初めて、渡辺 忍さんとお話をさせて頂きました。


渡辺 忍さんと原 透さんは実はご夫妻でいらっしゃいます。
同じ石を素材とする彫刻家同士のご夫婦ということで、
とても珍しがられるそうです。


私は、以前、国画会展を見ていた時に渡辺 忍さんの作品を拝見していて
大理石で布のリアリティーある造形表現をされていること、
その作品の存在感がとても印象に残っていました。


また、学び場美術館への石の女性彫刻家ではお二人目の登場となります。


渡辺 忍さんには彫刻のパブリックでの在り方を考える場がスタート地点にあって、
今は、ご自身の作品にふさわしい空間への関わり方を考えていらっしゃるとのことでした。
自然体での制作を追求されていることが、とても素敵だと想いました。


渡辺 忍さんとは、女性が石の彫刻を制作すること、
結婚や家庭との両立など、女性の彫刻家にとってはとっても気になることについても
お話をさせて頂くことができ、とても楽しく、共感いたしました。
皆さまにもシェアさせて頂く機会があるかも知れません。


皆さまも渡辺 忍さんの作品をご覧になって見てはいかがでしょうか。


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◆渡辺 忍さんが登場するWEBぺ―ジ

 ◇国画会   http://kokuten.blog.shinobi.jp/Entry/126/

         

 ◇十日町石彫シンポジウム

渡辺 忍さんは第8回にご参加されています。



 ◇那須野が原国際彫刻シンポジウム in大田原2004

太田原市ホームページ ⇒教育文化⇒国際彫刻シンポジウム

  ⇒那須野が原国際彫刻シンポジウムin大田原2004 でご覧いただけます。 


      

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