みなさま こんにちは。
彫刻工房くさか 日下育子です。
今日は素敵な作家をご紹介いたします。
彫刻家の原 透さんです。
前回登場の小淵俊夫さんからのリレーでご登場頂きます。
彫刻家 第1回 原 透さん 第1回
第2回目の今日は、制作テーマの「時間軸」と「特異点」について
取り組み始めたきっかけなどをお聴かせ頂きます。
お楽しみ頂ければ幸いです。
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時間塊7
295×165×145
赤御影石 2009年
長野市 上千歳町広場設置
時間軸―S―2
40×560×170
赤御影石 2002年
特異点のある石
85×80×80㎝
赤御影石 2012年
85×110×140㎝
本小松石 2013年
時空の扉
240㎝×80㎝×120㎝
黒御影石 1984年
日下
制作テーマについてお伺いします。
原さんが「時間」という対象物としてつかみにくいものを
彫刻にされているというのは、とても独特だと想います。
そのきっかけをお聴かせ頂けますでしょうか。
原 透さん
これは石を始めてからなのですが
石って、「億年を宿す」とよく言われるように、
実際に彫っている時に、目の前の石が組成されたというのは
はるか前で、人類の歴史より古い訳ですよね。
だから最初からテーマがあって石を彫り始めた訳ではなくて
大学で彫刻の素材として石を使い出した時に
非常に時間の蓄積を石の中に感じたということですね。
日下
大学でも最初の頃からそうだったのでしょうか。
原 透さん
卒業制作からですね。
「時空の扉」という題名の作品です。それが最初の一点ですね。
「時間の持つエネルギーを視覚化する」というテーマで
制作していました。
日下
今回「特異点」のコンセプト文章を送って下さいました。
作家の考えをステートメント、文章にしたものを
はっきり出していらっしゃる作家はそう多くはないかと想います。
その点でとても素晴らしいと想いますし、またとても内容が濃いですね。
理科系が不得意な私個人にとっては少し難しいですが。
原 透さん
僕はずっと「時間軸」という制作を20年位やっています。
それをやめてしまった訳では無いのですが、
この2,3年前から「特異点」というテーマを始めました。
「特異点」のシリーズは理系寄りの内容を
文系の分野に持ってきたという感じですかね。
だから友人たちからも「非常に難解だ」と言われます。(笑)
以前、個展をした時、上半分が写真、下半分が文章というDM(案内状)
を送ったことがあります。
普通、個展のDMって、写真だけが多いですよね。
僕は現代物理学の本を読んだりするのが割と好きです。
今一番、ショッキングな領域のひとつは現代物理学だと思います。
自分もその辺の領域をヒントにした作品を作りたいと想って始めました。
日下
「時間軸」の作品群も独特ですが、「特異点」の作品もさらに独特ですね。
原さんが文章の中で書かれているように
「自然を観察して、その要素を抽出し、様々な素材の特性を生かして表現する方法」
というのが彫刻の一般的なアプローチだと想います。
その中で原さんの作品は、
「特異点」という題材そのものをよく体現していらして、
科学にも裏打ちされた理知的なアプローチを感じます。
原 透さん
ありがとうございます。
自然の要素を抽出するというのが美術の伝統では長くやられています。
僕は物理系の本を読みますが、実際には専門でないので
わからない事だらけです。
学校の講師もしているのでそこで知り合った、
大学で物理学、量子学などを専門にしてきた友人達に
いろいろ教えてもらっています。
数式がでてくると、その都度
「これってどういうこと言っているの?」とか聴いて・・・。
とにかく数式が一杯でてくると文系の人間としてはかなりお手上げなので(笑)
日下
私もそうです。文章で書いてあっても大分お手上げです。(笑)
原 透さん
そうやって、教えてもらっていろいろ知識とか入ってくると
自分の中に視覚的な映像みたいなものが浮かんでくるので
それを彫刻にしたり、最近はドローイングにしたりしています。
だから物理理論を彫刻で説明しようという気は全然ありませんね。
僕は専門外なので。
よく雑誌の中でイラストレーターの方が理論を説明するための絵を描いたり
模型を作ったりしていらっしゃいますけど、
それは僕には全然ピンとこないというか、面白くないです。
だから理論を基にして、全く自由に発想したものを表現しているという
かたちですね。
日下
その像が浮かんでくるというのはすごいですね。
作品の完成形に近いかたちでイメージが浮かんでくるのでしょうか?
原 透さん
自分でも不思議なのですが、浮かんできます。
何かそういう本を読むととても刺激されるんですよね。
自分の頭の中に浮かぶ風景というか画像、イメージを
ドローイングは描き移しているという感じですね。
紙、鉛筆、木炭、チャコールペンシル
37㎝×27㎝ 2012年
紙、鉛筆、木炭、チャコールペンシル
37㎝×27㎝ 2012年
特異点のある時空2
ワトソン紙、鉛筆、木炭、チャコールペンシル
91㎝×73㎝ 2012年
原 透さん
「特異点」はドローイングから始まったテーマなのですが
それは発表する機会が無くて・・・。
昨年の3月に銀座のYYギャラリー※
で個展をやりました。
これまでは立体の作品を並べるというのが多かったんですけど、
画廊のオ―ナ―さんが「好きなものを並べていいですよ」と言って下さったので、
初めて平面主体でドローイングと彫刻小品の展覧会をしました。
立体では表しきれない部分を平面でと想ってやっていました。
その個展でたくさん並べて見たら、友人たちに好評だったので、
発表も少しずつ増やしているということですね。
また9月にも展覧会をやるんですけど。
日下
ドローイングはとても繊細で、透明感、空間の感じが素晴らしいですね!
もっと間近で拝見してみたいと想いました。
原 透さん
彫刻家のデッサンって立体を作るための準備デッサンが多いですけど
一番有名なのがヘンリー・ムーアものですよね、
僕の場合は立体から独立してしまって、
全く別の作品としてドローイングで表しています。
よく、この二つの整合性はどうなの?というのを聴かれますが
僕の中では立体で足りないものをドローイングで補っているということです。
日下
そうですか。ありがとうございます。
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今回、小淵俊夫さんのご紹介で
初めて、原 透さんとお話をさせて頂きました。
原 透さんと小淵俊夫さんはすいど-ばた美術学校という美術予備校で
ご一緒で仲が良かったのだそうです。
実は私は、卒業制作で一度だけ国画会に応募したことがあるのですが、
その時、東京都美術館の中で、仙台から応募した見ず知らずの私の作品搬入を
原さんが手伝って下さったということがございました。
今回、原 透さんはとても丁寧に明快にお話をお聴かせ下さいました。
原 透さんは現代物理学の領域である、
「時間軸」、「特異点」というテーマを彫刻の造形で表現される、
貴重な彫刻家でいらっしゃいます。
私は、原 透さんが
「ルネサンス期のように、もっと美術が科学と共に最先端を行っていいのではないでしょうか。
科学者たちが理論の裏付けが無いと発言出来ないような事を、美術の分野で、
自由な解釈を示してもいいのかな。」と仰ったことがとても印象に残りました。
みなさまもぜひ原 透さんの作品を
ご覧になってみてはいかがでしょうか。
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◆原 透さん卒業の東京都立芸術高校
◆原 透さん作品が見られるWEBぺ―ジ
◇ 国画会
◆原 透さんの今後の活動
◇ 第19回十日町石彫シンポジウム
・2013年7月27日(土)~8月18日(日)
・参加作家 北島一夫、 橋本恵吏、 原 透
◇原透、西山瑠依展
□9月2日(月)~9月7日(土)
〒104-0061東京都中央区銀座6-13-7新保ビル3F
TEL:03-3541-2511
◆原 透さんの コンセプト文章
特異点(singularity)
石を素材にした彫刻を制作していると、石の中に宇宙に繋がる根源的物質の
要素、時間の概念を感じることがあります。
特異点という言葉は物理学と数学の両方で用いられます。
ある基準下で、その基準が適用できない点です。物理学では、一般相対性理論
の帰結であり、密度が無限大、体積が0、時空の歪みが無限大になります。よ
って、その点では物理法則が破綻しています。現代の宇宙論によると、私たち
の宇宙の始まりも特異点に収束されてしまいます。これを回避するため、様々
な理論的試行錯誤がおこなわれています。また特異点は、重力崩壊した星から
できるブラックホールの中にも存在すると推測されます。
相対性理論は光を物差しとして、時間と空間の関係を説明しています。彫刻
が内包している問題とかなりの接点があります。この作品のシリーズでは、相
対性理論を彫刻に組み込むことにより、私達の日常では目にすることのない、
形、構成を視覚化しようと考えています。これは単に物理学の法則を説明する
のではなく、その要素から生まれてくる現象の実態を表現するということです。
「特異点のある石」では、石の中に特異点があるものとして構成しています。
その強い重力で外側の形が中に引きずり込まれています。原子から惑星まで、
すべての物質は、内部の力と外部の力がせめぎ合って形態を維持しています。
したがって、このような構成はヒューマンスケールでは起こりません。自然を
観察して、その要素を抽出し、様々な素材の特性を生かして表現する方法では
作りえない構成です。
作品のよりどころになっているのは、相対性理論の「特異点は質量と体積の
関係で成り立ち、質量の大きさを規定していない」という定義です。質量が変
わらず、体積を縮める方法があったならば、すべてのものは特異点になります。
ただし、物質密度は非常に高くなります。地球を縮めたとすると、半径約9ミ
リでブラックホールとなり、その中心に特異点が生まれます。
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