みなさま こんにちは。
彫刻工房くさか 日下育子です。
今日は素敵な作家をご紹介いたします。
彫刻家の原 透さんです。
前回登場の小淵俊夫さんからのリレーでご登場頂きます。
第4回目の今日は、社会との接点について、
科学などの他分野と美術の関わりについて想うとことをお聴かせ頂きました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
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特異点のある石
85×80×80㎝
赤御影石 2013年
特異点のある石6
28㎝×28㎝×28㎝
大理石 2012年
特異点のある時空2
ワトソン紙、鉛筆、木炭、チャコールペンシル
91㎝×73㎝ 2012年
時間旅行者のためにNo.0203
88㎝×45㎝×67㎝
赤御影石 2008年
時間旅行者のためにNo.0204
200×70×120㎝
赤御影石 2008年
日下
私は、作品のテーマやその造形表現から、
原さんはとても理科系の方という印象を持っていましたが、
お話をお聴きしていると、とても自然に
時間に関する、物理の理論と向き合っていらっしゃるんだなぁと感じます。
原 透さん
文系の分野に理系の要素を持ってきているということをやっていますね。
僕は理系の専門畑から出てきたのではないので、
理系の友人にいろいろ教えて頂きながら、
そういう知識を得ようとしている過程で、彫刻とか
ドローイングのヒントが出てくるという制作パターンです。
決して物理学の法則を説明しようとはしていないんですよね。
いろいろ専門的な方に教えて頂いた時の「ああ、なるほどね!」というところを
立体にしたり、絵に描いたりということをやっています。
日下
そうでいらっしゃるのですか。
原 透さん
そういう科学に対するアレルギーみたいなものを持っている人は多いと想いますが・・・。
その辺の話をすると「いや、美術ってそういう分野じゃないんじゃないの!?」
という方もいらっしゃいます。
僕は科学というのは、人間がいろいろ疑問に持っていることに
かなり答えてくれる分野だと想っています。
美術はそういう要素をあまり持っていないなと・・・。
日下
私には無い感性で制作していらっしゃるところが羨ましいとも想います。
アートという分野は、何か感性任せになってしまいがちなところもあるかと想うのですが
きちんと科学の裏打ちのあることをテーマにしていらっしゃることで
「彫刻ってどういうことなのか?」という問いも孕んだ制作をされているように想います。
そういう問いかけの力を持っていらっしゃる彫刻なのかなと感じます。
原 透さん
そういう理論の本を読んでいると実は書いていないことがたくさんあって
行間がかなり空いているということがあります。
その解釈で、行間が空いちゃったところは
自分なりの言葉で埋めて行くしかないんだなということがあります。
何百年か前のヨーロッパではアートと科学は、意外と近いところに
あったような気がしますよね。
日下
はい。
原 透さん
以前は科学の最前線のところにアートも一緒にいたのですが
アートの方が近年全く離れてしまいました。
科学者、哲学者、宗教家、美術家っていうのは
交流を持ちながら、お互いの持っているものを出し合い、
人間のもっている疑問をお互いに意見交換し合う
という時代じゃなくなっちゃっているという・・・。
様々な方向性で、バラバラに追求するのではなくて
お互いにもっと交流を持つべきじゃないかなと想います。
特に美術の場合はジャンルの中に壁を作ってしまっているように
感じるというところはありますね。
日下
そうですね。
だから、美術はあまりメジャーな分野でなくなってしまったんでしょうかね。
原 透さん
その通りですね。
本当に昔は、ルネッサンスなんかそうだと思うんですけど
最先端の人間が様々な研究していることを学び、自分の制作に取り入れていました。
いつの間にか美術って最先端とかそういうものじゃなくなってしまいましたよね。
答えの出るわけのない「美術とは何ぞや?」という
命題のだけに焦点を当てているような気がしています。
僕はこの流れには疑問を感じていますね。
「美術とは何ぞや?」をやり始めたがゆえに
他ジャンルからは相手にされなくなったんじゃないかなと想っています。
日下
原さんは、アートはもっとかつてのようになればいいのに、
という想いでいらっしゃるでしょうか。
その答えが出るわけじゃない事を問うよりも
もっと違う事をした方がいいというような。
原 透さん
そうですね。科学の分野は「私たちはどこから来て、何者で、どこへ行くのか」
という大命題を真剣にやっていますよね。
哲学と宗教はその辺が弱くなったと思います。
物理学の本では「哲学者は何をやっているんだ!」と書いている人もいます。
美術も何を求めてやっていくかというのが非常に明確じゃなくて
その上に美術畑にいる人間だけでまわっているような
ジャンルになってしまったような気がします。
何とかしたいような気はするんですけどね。
あとは日下さんが感性まかせだとおっしゃったのはまったく同感ですね。
日下
ええ。それは私自身、何をよりどころに自分は作っているんだろうと
悩みながらやっていているという実体験を込めて、ですが。
原 透さん
この物理の領域の人と話をすると
必ず検証と実際のすり合わせを同時にしていかないといけないらしくて。
考古学とか物理系の人とかは理論と裏付けとか理詰めでやりますよね。
考古学だったら、仮定という理論に対して発掘をやったり。
彼らの世界は、確実な世界というか確証のある世界だと思いますね。
僕らの美術という世界は何でもOKなので
非常に感性まかせになってしまうところがあります。
ところがそれがまたいいところで
何でもOKなので何をどう考え、どう作ってもOKなので
それがすごく自由でいいところでもあると想います。
だから他分野の方たちは美術を逆に羨ましく思えるんじゃないかな。
彼らの自由にならない部分を僕らは自由にしてあげてもいいのかなと
想いますね。
日下
それは美術の素晴らしい生き方ですね。
原 透さん
科学の分野の人たちは非常に困っているというか
何か裏付けが無いと何も言えないような。
例えば、美術では天動説を元に絵を描いても良い訳ですよね。
日下
ああ~!そうですよね。(驚き!)
原 透さん
物理の人たちがそんなことを言ったら
「いやいや天が動いているわけは無い!!」となってしまいますが。
でも絵だったら、描いたって良い訳ですよね。
だからそういう自由さがあるので、
ああかな、こうかなということは
いろいろやっていい、どんどんやりましょうと想います。
日下
ああ~、素晴らしいですね。
とってもポジティブに考えていらっしゃるんですね。
原 透さん
美術という自由な分野ゆえに、
「ちょっとアート畑が解釈を示せるんじゃないの?」
みたいなことを想うんですよ。
そんな風に捉えないとこの美術という分野に長所がないので、
やっぱり長所を生かしてやっていかないと。
日下
なるほど~。本当にそうですね。
原 透さん
やはりそういうところは対社会を考えると明確になっちゃってますね。
新聞に良く出ていたりしますが、物理の大きな研究は国家プロジェクトですよ。
美術の世界は個人でこんなこと考えているよ、あんなこと考えているよ
という点と点しかありません。
社会がバックアップしてくれていない・・・。
日本でもスーパーカミオカンデとか国家プロジェクトで巨大な研究施設を作ったりとか、
ドイツで大きな加速器を作ったりしています。
やはり世界にはちゃーんと観ている方がいて、
これは人類にとって大切な方向性だと思うと、国を上げてバックアップしてあげているようです。
ところが美術は個レベルで何か言っているような感じなのかな。
日下
本当にそうですね~。(納得)
今日はとても本質的で内容の濃いお話をありがとうございました。
王妃のためにⅡ
68㎝×35㎝×37㎝
大理石 2009年
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
次回は、宇宙のお話(人間原理のこと)など、
とっても内容の濃いお話をお聴かせ頂きます。
どうぞ、ご期待下さいませ。
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今回、小淵俊夫さんのご紹介で
初めて、原 透さんとお話をさせて頂きました。
原 透さんと小淵俊夫さんはすいど-ばた美術学校という美術予備校で
ご一緒で仲が良かったのだそうです。
実は私は、卒業制作で一度だけ国画会に応募したことがあるのですが、
その時、東京都美術館の中で、仙台から応募した見ず知らずの私の作品搬入を
原さんが手伝って下さったということがございました。
今回、原 透さんはとても丁寧に明快にお話をお聴かせ下さいました。
原 透さんは現代物理学の領域である、
「時間軸」、「特異点」というテーマを彫刻の造形で表現される、
貴重な彫刻家でいらっしゃいます。
私は、原 透さんが
「ルネサンス期のように、もっと美術が科学と共に最先端を行っていいのではないでしょうか。
科学者たちが理論の裏付けが無いと発言出来ないような事を、美術の分野で、
自由な解釈を示してもいいのかな。」と仰ったことがとても印象に残りました。
みなさまもぜひ原 透さんの作品を
ご覧になってみてはいかがでしょうか。
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◆原 透さん卒業の東京都立芸術高校
◆原 透さん作品が見られるWEBぺ―ジ
◇ 国画会
◆原 透さんの今後の活動
◇ 第19回十日町石彫シンポジウム
・2013年7月27日(土)~8月18日(日)
・参加作家 北島一夫、 橋本恵吏、 原 透
◇原透、西山瑠依展
□9月2日(月)~9月7日(土)
〒104-0061東京都中央区銀座6-13-7新保ビル3F
TEL:03-3541-2511
※原 透さんさんは昨年、「ドローイングとは何か」第3回展 で準大賞を
受賞されています。
★☆ アーカイブス ☆★
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