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おじさん
「いてっ！！
なんだよ、お前は！」
ある少年が、ふらつく自転車で中年のおっさんにぶつかったのは、
誰かを求めたくなる、寒い寒い冬の曇り空の下だった。
おじさん
「おいおいおい、しかもなんでぶつかって来たお前の方が泣いてるんだよ。
どうなっとるんじゃ、いったい。」
少年
「ごめんなさい、考え事をしていたら、前がよく見えなくなって。」
おっさん
「前が見えない状態で、一番乗ってはいけない乗り物が自転車じゃねーか。
習っとけよな、学校で。
ブリジストンも、ちゃんと説明書に書いとけばいいのに。
ブツブツ、ブツブツ・・・。
・・・。
で、なんで泣いてるんだよ？」
少年
「き、聞いてくれるの？」
おじさん
「聞いてくれない選択肢を与えないくらい、泣いてるじゃねーか！
ったく、厄日だ。
いいよもう、ついでだ。
これも何かの「縁」だから、その悩み、聞いてやるよ。
こう見えてもおじさん、幸せの謎解きは得意なんだよ。」
少年
「今日は、ほら、バレンタインデイでしょ？
僕には、好きな子がいるんだ。陽香ちゃんっていう。
好きだから、昨日手紙を書いたんだけど、
今日、まだチョコをもらえてないんだ。」
おじさん
「なんと無茶な。
2月13日に女の子に手紙を書くなんて、勇気のカタマリじゃねーか。
なんでそんな大胆な事が出来るくせに、女々しく泣いてんだよ。」
おっさんがどれほど茶化しても、少年は泣き止まない。
おじさん
「なぁ、もらえないものを考えて、いつまでも泣いているより、
もうすでに貰っているモノを考えたほうが、楽しくないかい？」
少年
「貰ったもの？彼女から？
そんなのまだ何も無いよ。
手紙の返事も、返ってこないんだから。」
おじさん
「そんなことは無いさ。
君のポケットをよく調べてごらん。
世界一のギフトを、君は既に貰っているはずだけどなぁ～。」
少年は、ポケットをまさぐってみた。
少年
「なんにもないよ、空っぽじゃん。だまさないでよ！」
おじさん
「君は、陽香ちゃんの事が好きでたまらないんだろ？
その子の事を考えただけで、胸がドキドキするんだろ？
それって、どういうことだと思う？
素敵な体験をすでにあの子からもらえているということなんだよ。
片思いかもしれないけど、
そのドキドキする胸の高鳴りは、誰もがもらえるモノじゃないんだぜ？
そしてそのドキドキは、チョコレートなんかより、貴重なギフトだ。
おじさんもさー、去年食べた超高級ゴディバのチョコの味は忘れたけど、
20年前の、初恋のドキドキはまだ思い出せるもんなー。
今でも、「あの日」がどこかで生き続けているみたいだよ。
まぁ、君と同じく、せつない初恋だったけど、貰えたモノは貰えていたんだよ。
だから、今でも思い出せるんじゃないか。
思い出せると言うことは、ココ（胸をドンドン）に持っている。
ココに持っていると言うことは、貰えていた証拠だ。
あの頃は、君と同じように「もっと欲しい！もっと欲しい！」と無いものをねだっていたけど、
素晴らしい体験をココロに貰っていたんだなぁ。
なまじチョコなんて貰わなくて、良かったぜ。
あんな味、一瞬で忘れちまうんだからな。」
少年
「うんうん、グスン・・・。
分かる、それ分かるよ」！！
あるよ、ココ（胸をドンドン）に・・、ココに確かに貰っているよ！！
彼女のことを想うだけで、胸が熱くなるんだから。
彼女が誰を好きでも良い、チョコなんてもらえなくても良い、
もう、貰えている素敵なものが、僕のココには、あったのか。」
おじさん
「そうだ、それでいい。
いいかい、ぼうず。
チョコレートを欲しがって泣いている男はかっこ悪いけど、
あの子を胸に想い、そのドキドキだけで十分だと言える男は、なんだかかっこいいぞ。
君が今、あの子からもらえているそれは、一生きみのココに残るんだからな。」
そう言うとおじさんは、少年の胸をドンドンと二回叩いた。
少年
「ありがとうおじさん！
僕、もう十分だよ！！
あの子から、こんなに素敵なモノを貰えていたなんて、夢にも思わなかったよ。
もう、不足は見ない。有るものを大切にして、生きていくよ！」
おじさん
「よく言った！もう、泣くなよ。
第一、泣き顔を大好きな子に見られちゃったら、どうすんだよ。
いいか、
有るものを見て不足を見ない君の目は、もっともっと幸せ（有るもの）を見つけ始めるだろう。
するとどんどん、幸せは入ってくるだろう。
例えば、ほら。
話ししている間じゅう、後ろでずーっとおじさんをニラんでいるあの女の子、
君に何かを渡したいんじゃないのかな？」
少年が振り返ると、大好きな陽香ちゃんが、照れながら笑っていた。
彼の胸に、既に大切なモノをくれていた彼女が、
ポケットにも入れれそうな物を手に持って、近づいてきた。
かかとに、にじむ血をタオルで拭いて、
おっさんはびっこをひいて歩き出した。
おじさん
「一日前に手紙書くような奴を好きになるとは、
あのお嬢ちゃんも、かなり変わった女の子だな。
変わり者同士、お似合いってか。
あぁ、痛い痛い、足が痛い。」
足の痛みよりも、２０年前のドキドキを思い出させてくれた少年に、
おっさんは本当は感謝しているようだった。
完
※大好評の、サラリーマンシリーズを、
ジャンルでくくりました。
これからもみつろうおじさんは、
色んな場所で、子どもたちと幸せの謎解きをし続けることでしょう。
『伝説のサラリーマンシリーズ』
※他にもサラリーマンシリーズあったら、教えて
↓無いものは、無い。それ以上は、無い。
有るものは、有る。余るほどに、有る。
不足を見ると、どんどん不足が現れてきます。
人間は、信じたものだけが見える生物だから。
「ないないない」と唱えれば、無いものが、よりクッキリとその目に写るでしょう。
幸せとは、有るもののことです。
不幸とは、無いものを見ている時の状態名です。
それなのに、既に有るものを見ず、無いものを見続ける人類に、
今年もセイントバレンタインデーがやって来ました。
※みつろうおじさんは、読者からのチョコを受け付けてませんので、
贈りたい方は、ジャニーズ事務所へ送りましょう。
「トラック何台分」という表現を、彼らは喜んで話してくれます。
「今年のstvに好きな人から、何ももらえないかも。」
と、片思いの人は想うかもしれません。
でも、とんでもない勘違いです。
好きな人から、何ももらえないかも？？？
じゃあ、好きな人なはず無いじゃん！！
胸のドキドキを貰ったからこそ、その人を好きなんでしょ？？
あなたが、好きな人から、何ももらえない可能性なんて0％です。
もう、もらえとるっちゅーねん。
だから、好きなんじゃい！
不足を見て悲しむよりも、胸に貰ったそれを大切にした方が、人生.楽しいはずです。
あんたのココ（胸をドンドン）に、もうメッチャ貴重なモノ、もらえてんだから。
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