着床前診断(PGS)はCGHからNGSへ | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

CGHによる着床前診断(PGS)次世代シークエンス(NGS:Next Generation Sequencing)へ移行しようとしています。本論文はCGHとNGSの相同性についてPGSで検討した初めてのものです。

Hum Reprod 2014; 29: 2802(イタリア)
要約:2013年に体外受精を実施した55名(32~46歳、平均年齢39.3歳)計192個の胚盤胞について、着床前診断(PGS)を実施しました。PGSは、検体をダブルブラインドでCGH法とNGS法を行い、結果を照合しました。CGH法とNGS法の一致率は胚あたり99.5%(191/192)、染色体あたり99.98%(4333/4334)であり、特異度、感度、陽性的中率、陰性的中率ともに100%でした。1本の染色体のみに不一致(誤り)が認められましたが、この胚は9本の染色体に異常が認められていました。47名の方に50個の正常胚を移植したところ、34名に妊娠反応が陽性で(妊娠率72.3%、着床率64%)、30名が出産(出産率63.8%)、3名が化学流産、1名が流産となりました。

解説:良好形態胚移植を行っても妊娠率が頭打ちになっている最大の原因は、形態による評価では染色体異常の有無を区別できないためです。たとえば、PGSを行ってみると、3CCの胚が正常で、4AAの胚が異常であることも少なくありません。しかし、当初行われていたPGSである「分割胚のFISH法」では、出産率を増加させることはできませんでした。分割胚にはモザイクが多いため割球診断が不正確であること(2013.2.9「驚くべき染色体異常頻度」を参照してください)、FISH法は数本の染色体のみしか診断できないこと、がその大きな理由です。そこで、24種類全ての染色体を診断できるCCS法の一種としてCGH法が2008年頃に登場し、胚盤胞の胎盤になる部分(TE)を検査することで、過去の検査の不備を克服しようと考えられました(2013.3.16「☆胚盤胞のABCのグレードでは染色体異常の予測はできない」を参照してください)。CGH法は確かに有用な方法ですが、多くの検体を処理することができないことと、費用が高いことがネックになり普及を阻みます。CGH法のデメリットを克服すすものとして、NGS法が2013年頃に登場しました。しかし、CGH法とNGS法を比較した研究はありませんでした。本論文は初めて、CGHとNGSは99.9%同じであることを示しており、NGS法に移行が可能であることを示唆します。

NGS法のメリット
1 一度に多数の検体を短時間に処理できるため、費用が割安になる
2 染色体の部分欠失(一部分のみの欠如)の検出も可能
3 モザイクの検出も可能
4 検査の自動化が可能であり、人的ミスが抑制される

これまでのCGH法ではPGSを普及させることができませんが、NGS法では広く普及が可能になります。これからは、PGSを避けて通れない時代になるのは疑いの余地はないと思いますので、NGS法の名前の由来でもある「次世代」へ向けた新しい方法として注目すべきものだと思います。

なお、PGSを行っても出産率は約2/3ですので、着床の問題を含め不明な部分の解明が必要であることは間違いありません。下記の記事も参照してください。
2014.12.18「☆着床前診断について」
2014.12.29「☆着床前診断(PGS)したらどうなる?」