驚くべき染色体異常頻度 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

今年発表された論文に衝撃的なものがありましたので、ご紹介致します。妊娠できる確率の高い良好胚の割球ひとつひとつを分析したところ、7割以上の胚でモザイク型の染色体異常がみつかりました

Hum Reprod 2013; 28: 256
要約:体外受精で健康な児を出産された9名の35歳未満の女性で、その時の採卵周期に凍結保存したトップクオリティーの胚14個(妊娠した時と同じランクの形態をもつ胚)を用い全ての染色体をCGH法でくまなく調べました。day 3の胚の割球の91個全て(6.5割球/胚)を分析したところ、10個の胚(71.4%)でモザイク型の染色体異常を認めました。胚毎に同じパターンを示したモザイク型異常はなく、分析できた割球の55.7%が正常染色体で44.3%が異常染色体でした。異常染色体を持つ胚では29%に構造異常を認めました。

解説:受精卵(胚)の染色体異常の有無を調べる検査(着床前診断)として、PGDやPGSがあります。この検査ではday 3の割球を1~2個採取して5~10個の染色体をFISH法で調べるものであり、全ての染色体を調べてはいません。PGDやPGSを行って異常なしであれば胚移植をするのですが、これには全ての割球が同じ染色体であることが前提になります。割球毎に染色体が異なるとすれば、1~2個だけ調べても何の意味もありません。当然のことですが、全部の割球を調べることはできません。細胞が無くなってしまうからです。
本論文から明らかとなった重要な事実は下記の2つです。
1 割球毎に染色体のパターンが異なる
2 トップクオリティーの胚でもモザイク型の染色体異常が70%以上に認められる(モザイク型の染色体異常とは、異常なものと正常なものが混ざっていることを言います)
これほどの確率でモザイク型の染色体異常が認められるということは、おそらく発生の過程で異常割球が自然淘汰されていると考えられます。現在、最も確実な着床前診断は、胚盤胞の胎盤になる部分(TE)の全ての染色体をCGHで検査することです。この検査ができる施設は極めて限られています(私の知る限り、現在日本にはありません)。