統合失調症には加齢による睡眠時間短縮がみられないこと | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症には加齢による睡眠時間短縮がみられないこと

ヒトは加齢により睡眠時間が短縮することが知られている。

一般に高齢になると早寝早起きになり睡眠時間が短くなる。質的にも深い睡眠が減少する。レム睡眠は睡眠の後半に診られる傾向があるが、高齢者では前半にも混入し、レム睡眠の分布の偏りが若者より少なくなっている。

初老から高齢の統合失調症さんの患者の睡眠の特徴を掴むのはやや難しい。睡眠の特徴、例えば睡眠時間やレム睡眠の多寡は服用している睡眠薬に影響されるからである。

つまり、例えばたいていの統合失調症の患者が長い睡眠をとっていたとしても、現場の医療従事者は服薬している睡眠薬によるものと思いがちであり重要視しない。

普通、精神科病院の消灯時間は午後9時が多い。もう少し遅い精神科病院もあるかもしれないが、消灯時間は看護師のシフト勤務から制限を受け、このくらいの時間にしないと勤務体制に影響が出る。

慢性の統合失調症の初老から高齢者の全てが睡眠薬を飲んでいるわけではない。注意して彼らの睡眠状況を観察していると、睡眠薬の服薬の有無は彼らの平均的睡眠時間にはさほど影響していないように見える。つまり統合失調症の患者さんは睡眠薬のあるなしにかかわらず、同年齢の統合失調症でない高齢者より遥かに長く眠っている。

普通、生理的に睡眠時間が短縮している高齢者が長く眠るのは難しい。従って、統合失調症の人たちは、自然な状態で長く眠っている。これはこれである種の「正常でない所見」だと思われる。

例えば在宅やグループホームに入所している人を診ていると、重い神経症、人格障害、双極性障害の年配の患者さんには、眠剤のあるなしにかかわらず普通に生理的睡眠時間短縮が生じているのがわかる。非定型精神病の人もそうなので、非定型精神病は統合失調症より双極性障害の方が遥かに親和性が高いのであろう。これは遺伝的な知見からもそうなので辻褄が合っている。

これに対し睡眠薬を飲んでいない初老から高齢の統合失調症の人の睡眠時間が長いことは特徴的である。

過去ログに統合失調症の人には加齢臭がないと言う記事がある。これは統合失調症に関して良く言えばトリビア的なもので、きわめて枝葉末節なものである。このようなことは、統合失調症の症状として列記されるほどの価値がないのである。(つまり所見として挙がらない)

統合失調症の人に、健康な高齢者に比べ睡眠時間が長いという所見もどちらかというと、枝葉末節なものに入る。1つは確認しにくいことがあるし、既に戦いを終えた慢性期の統合失調症の患者さんは長く眠る傾向があるからである。(ただし、急性期や再燃時には不眠が出やすい)

この健康な人にみられる加齢による睡眠時間短縮が、統合失調症の人に診られないように見えることは意外に重大な所見だと思っている。

単純に考えれば、統合失調症の人は睡眠の効率が悪いため、長い睡眠時間をとらざるを得ないと考えるのが自然である。一般に、統合失調症の人は若い頃から深い睡眠(ステージ3及び4)が少ないからである。これが高齢者になってもなお、大きな影響を与えていると考えると説明は可能である。

本来、若い人が高齢者より睡眠時間を多く必要とするのは成長と関係していると言われている。高齢者は既に成長の必要性がないので睡眠時間も短くて済むと言ったところだと思う。

しかしながら、発病時から長期にわたり睡眠に異変を生じている統合失調症の人では状況が異なる。「統合失調症の人に睡眠時間短縮がみられないように見える」ことは、成長や老化の本質に関与し、彼らに癌が稀なことや加齢臭が診られないことなどとも無関係ではないように思っている。

参考
統合失調症と加齢臭
統合失調症の加齢と睡眠リズム (過去ログに同じような記事を発見しショック)
統合失調症の人の癌の罹患率
リウマチの人は統合失調症になりにくいという謎
XファイルのSleeplessと宇宙戦艦ヤマト2199
眠らないヒトはなぜたくさん食べるのか?