ヴァイオリン がユダヤ系の人々にとって馴染みの楽器とは、
ミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」なんかでも感じ取れるところですし、
マルク・シャガール が故郷ヴィテブスクを描いたりするときにもよくヴァイオリンが登場してたなと
思うところでありますね。
それで思い出すのが、というより単に書きそびれておっただけですが、
先に訪ねた高知県立美術館 は知る人ぞ知る?シャガール・コレクションがあるのですなあ。
コレクション展が展示替えの最中で見られなかったとはいいましたけれど、
ちゃあんとシャガール専用の展示室は開いておったのありますよ。
コレクションの中心は版画作品で1,200点余りを所蔵して、
折々の展示替えで見せてくれているとのこと。訪ねたときにはテーマを「夢の旅路」として、
ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」に寄せた挿絵版画が展示されておりました。
物語を追って並べられた版画作品はでいかにもシャガールという鮮やかな色使いのリトグラフで、
「ほおほお」と興味深く見ながら辿っていったですが、やはり極め付けはこれと別に
5点所蔵されている油彩画でありましょうねえ。
版画の所蔵数に比べるとわずかに5点とはなりましょうけれど、
それぞれ1908年、1910年、1935年、1934-46年、そして1949年という制作年代のばらつきは
シャガールが完成していく(とは大袈裟ですが)のをたどるのにちょうどよいといいますか。
一点目は1908年作の「村の祭り」で、ゴーギャン に心酔していた頃の作品であると。
そう聞けば、塗りはゴーギャン風でもあるかなと思うところながら、
全体を覆っている暗い色調は、二十歳そこそこのシャガールが偶像否定のユダヤ教にあって
描くことへの蟠りの表れとも、またユダヤ人に対する差別的に意味合いの表現ともとれますね。
だいたいタイトルが「村の祭り」と言いながら、葬列が描かれてもいるのですし。
続く2点目は1910年作の「空を駆けるロバ」。
「村の祭り」とはたった2年違いでしかありませんけれど、キュビスム風味が漂うと同時に、
バレエ・リュスの舞台芸術を担当していたバクストが当時のシャガール作品を見て
「色彩を発見した」と讃した色鮮やかさが出てきたようでありますよ。
次いで3点目は「路上の花束」と、シャガール作品に多く見られる花束のクローズアップ。
ここでは、やはりシャガールらしさのひとつである「浮遊」を見ることができますね。
シャガール作品ではいろんなものが浮遊して描かれて、
例えば抱き合う男女が浮遊している場合には人の気分、「浮遊感」といったものを
視覚化していると言えないこともないですが、これがモノとなりますとどうか。
感情がありませんので夢見心地の浮遊感とはいえないわけですが、
むしろシュルレアリスム 的な配置の違和感てなふうにも考えられようかと思うところです。
そして4点目は「花嫁の花束」と、やはり花束ですな。
(上のリーフレットに使われている作品です。小さくなってますが…)
1934年に描き始めて、1946年まで手を加え続けたというのが特徴的なところでして、
第二次大戦を挟んでいる期間ですが、ナチス から逃れてアメリカへ亡命したり、
最愛の妻ベラを亡くしたりと心穏やかならぬ日々が続いたのでありましょう。
この一組の男女を祝福し、その象徴として前面に大きく花束の描かれた絵が完成したのは
ヴァージニアという女性の献身があったようですね。絵の完成年である1946年には
ヴァージニアとの間に息子が生まれているそうですから、親密度合いは伺えようかと。
(もっともシャガールが後に再婚したのはヴァージニアではなかったのですけれど)
最後に1949年の一枚は「オルジュヴァルの夜」という作品。
「花嫁の花束」では「赤のシャガール」と言われたのに対して、こちらは「青のシャガール」。
祝祭的な印象はやはり一組の男女の祝福とも思えるところですけれど、先ほどのように
花束がクローズアップされておらずに、散りばめられたモティーフから勝手に想像すれば
ユダヤ教とキリスト教の淵源の合一なんかを言いたかったのかなとも。
いずれもちゃあんと画像をご覧願わねば「なんのことやら…?」とは思いますが、
高知県立美術館のシャガール・コレクションにはシャガールの足跡をたどれるような
5枚の油彩画があって、高知を訪ねる際にはぜひどうぞ!というお話なのでありました。