リューベック旧市街の北辺 をぶらりとした後は、ひとつ美術館に入ってみることに。
先に見上げた聖ヤコビ教会にもほど近い場所にある「Museum Behnhaus Drägerhaus」、
それぞれに隣り合ったベーン家とドレーガー家のブルジョワ邸宅がひと続きの美術館になっています。
18~19世紀のブルジョワの暮らしぶりを見るという点で、展示には博物館的要素もありますが、
全般的には美術館と捉えて差し支えのない内容だと思われますですね。
実際には「それどころか!」というコレクションだったとは思うところですけれど、
どうしてこういう美術館をガイドブックでは取り上げてくれないのでありましょうかね(聖アネン もですが)。
ともあれ、まずもって惹きつけられたのはフリードリヒでありましょう。
フリードリヒは、この後、ハンブルクでじっくり拝見!と最初から思っていたですが、
ここでもお目にかかれるとはうれしい誤算といいますか。
「Kügelgens Grab」(1821/22年)という一枚は、
いかにもフリードリヒらしい冷ややかな墓場の風景ですけれど、
これが不可思議な抒情と湛えているといいますか、
その場の空気に取り巻かれるような感覚になるのですなぁ。
そしてまた不意打ち的にめぐり合ったファイニンガー、
「Lübeck, Alte Häuser」(1931年)と言いますから、リューベックの古い家並みを描いたものですね。
キュビスム基調であるものの、
眩惑された風景を見るような画風と淡い色彩がリューベックの迷宮に誘い込まれるかのようです。
キルヒナー作品のことは、
シュヴェリン での特別展のことを後でハンブルクでも見た展覧会と併せて書こうかなと思ってますが、
ここでは一点だけ、「Emmy Frisch im Schaukelstuhl」(1908年)に触れておこうかと。
他のところで見たキルヒナーに油彩作品が少なかっただけに、
相当に強烈な描写と色遣いのこの作品にはキルヒナーらしさ全開を見たような気が。
「Schaukelstuhl」(安楽椅子、揺り椅子)と言いながらも、
それらしい形状はむしろ全体のうねりの中に埋もれてしまっているかのように凄い作品でありました。
お次はマックス・リーバーマン。
ベルリンという北ドイツ仲間の作家だからか、方々で見かけましたけれど、
この「Wannseegarten」(1915年)が最も印象に残る一枚でありまして。
ダイナミックですよねえ。
・・・てな具合に、ここで取り上げているのはいずれもポストカードが手に入ったものだけでして、
それ以外にもムンク がトラヴェミュンデ の海岸を描いた作品や、
面白いところではルノワールのレリーフによる「パリスの審判」なんかがありましたですよ。
ルノワールはレリーフになっても、やっぱりルノワール調の三美神なんですなぁ(笑)。
最後にちとまとめて触れておきたいのが、
これまであまり知らなかったゴットハルト・キュール(1850-1915)という画家の作品。
リューベック生まれということで、リーバーマン以上にご当地ものとなれば、
わりと多めの展示があっても当然ですかね。
いいんですよねえ、なんかこう、ほのぼのして。
19世紀後半ですから、かつてのハンザ都市の盟主たる栄華はそこにはないわけで、
もはや普通の都市の普通の庶民の暮らしが描かれているような。
よおく考えれば、時代的にそんなほのぼのしてばかりの世相ではない…
てなことではあったとしても、その時々の庶民はそれなりにたくましく生きている。
そうした側面をむしろ明るく描くことがあってもいいわけですよね。
例えばですが、ノーマン・ロックウェル が描いたアメリカ のように。
先に見てきたフリードリヒやファインニンガーとはおよそタイプは違いますが、
これはこれで見る者の心や気持ちに何らかの揺らぎを与えるものではありますね。
とまあ、ここもまた遥かに予想を上回って興味深かった美術館だったわけです…
とまとめに掛かって、ここで思い出した!
ベーンハウスの側には裏庭を抜けて行く別館がありまして、
小さいながらも現代作品の、これまたユニークな展示がなされておりした。
あれだけいろいろな作品がありながらも本館部分でさえガラガラだっただけに、
この別館はほとんど開店休業状態。
それだけに、受付のところに座っていたおじさんが一所懸命に
英語とドイツ語のちゃんぽんで(応じるこちらもそうですが)説明してくれましたですよ。
う~ん、いい美術館だったなぁ。