リューベックの旧市街
を廻り込んで目指していたのは聖アネン博物館でありました。
南端にある大聖堂を行き過ぎますとほどなく到着となりますけれど、
そこへ至る途次、かような建物に出くわしたのですね。
古びた煉瓦が積み重なったまんまという建物が多い中で、これはモダンな!
ユーゲント・シュティール、入っちゃってる感、あるねと。
装飾の傾向が必ずしも同じではありませんけれど、
ウィーンで見るオットー・ワーグナーのマジョリカハウスを思い出すなという感じ。
近寄ってみると「Statius von Düren Haus」とあって説明書きのドイツ語から推測すると
どうやら北ドイツというところはテラコッタでも有名だったようですなあ。
と、思わぬめっけものに立ち止まったりしながらも、聖アネン博物館に到着しました。
元々は修道院か何かの建物で、それを博物館、美術館に利用していたようなんですが、
全体的な改装を経て、ミュージアムクオーターとしてリニューアル・オープンとなったようです。
博物館と美術館が一体化したのはいいですが、展示室がたくさん細かくたくさんあって、
だんだんとどこを歩いているのか、さっぱり分からなくなる。
たぶん見落としてしまった部屋なんかもあるんだと思いますですね。
(受付で尋ねれば、たぶんフロアマップもあったのでしょう)
まあ、何度ぐるぐるしても構わないわけで、疲れたときには中庭で一休みがよろしいかと。
中世の修道院にタイムスリップした雰囲気。
彫像が多くおかれているのが美術館然としてますが。
博物館的な部分では歴史を踏まえた展示があれこれ、あれこれあるんですが、
個人的に一番興味を興味を惹かれたのはパイプオルガンに関するあたりでしょうか。
パイプオルガンは、この後の旅の中でもあちこちの教会でお目にかかり、
それぞれにオルガン自慢をしているふうが窺えるのですけれど、
教会そのものが市民主導となっていたリューベックなどのハンザ都市では
自分たちの教会の凄さ、偉さをオルガンで勝負してたみたいなところがあるようで、
競って豪壮なオルガン製作を依頼したそうな。
北ドイツにはアルプ・シュニットガー始め、腕っこきのオルガン職人がいたのも
後押しになったというか、需要があったから、そうした有名職人が出てきたのか。
とまれ、オルガンも弾かれてこその楽器ですから、
これまたどんなオルガン奏者を連れて来るのかも肝心な点で、
リューベックにはブクステフーデ(1637?~1707)という、
当時のスーパースター・オルガニストがいたのですね。
どのくらいのスーパースターかと言いますと、
かの大バッハ(1685~1750)がまだ二十歳と若い頃、
オルガニストを務めていたアルンシュタットの町から
(生まれ故郷アイゼナハとワイマールの中間くらい)
ブクステフーデの演奏を聴き、あわよくば師事し、さらにあわよくば仕事も欲しいと
リューベックまで出掛けていった…というくらい。
しかも18世紀初頭のことで、若干二十歳の若者の旅となれば徒歩でありまして、
アルンシュタットからリューベックまでをGoogleマップでルート検索をすると、最短ルートで378Km。
だいたい東京からだと名古屋まで歩いていったということになりましょうか。
とまあ、リューベックのオルガンはそれだけのものでありましたから、
こうして博物館でも解説されたりすることになるわけですね。
一方で、美術館の部分ですが、これは建物の元々が元々ですから、
古いキリスト教美術の品々がたくさん展示されておりました。
祭壇のレリーフなんかは教会だとあんまり間近に近づきにくいですが、
ここでは細部にわたってじっくりと眺められ、
素朴ながらもその精巧な技に感心しきりになりますですよ。
そんな展示作品の中からポストカードを買ってきた3点ほどご披露申し上げますです。
ひとつめはリューベックの聖霊病院にあった「Marienalter」(1525)の中央部分。
本当は祭壇全体としても見事なところを思い出したいところなんですが、
大きなものですので、ポストカードでは縮こまってしまうのか、売ってなかったのですね。
お次はハンス・メムリンクによる祭壇画(1491)。
中世絵画はともすると、表情や動きが静かさ故に止まって見えますが、
これは実に生き生きとして、また表情も豊かでありました。
そしてもうひとつがヤーコプ・ファン・ユトレヒトの三連祭壇画から聖母の部分(1520)。
聖母マリアの柔和な表情が独特だなと思いましたし、
またお乳が張ってしまって血管が浮いているのも、ずいぶんとリアルな表現だなと。
こうした宗教画、レリーフ、彫像などがてんこ盛りの美術館であるわけですが、
それだけで終わることなく、リアルタイム現代の企画展示コーナーまであるとは。
訪ねた時には、Günther Ueckerという作家の作品が展示されていて、
この作家はシュヴェリンの美術館でもコーナー展示されていたということは、
今が旬ということなのでしょうか。
板に膨大な釘を打ちつけて、何となく形が見えてくるような、こないような…
面白い作品でした。
ということで、いろんな意味でかなり見応えのある聖アネン博物館ですが、
どうもガイドブックなどでは積極紹介されていないような。
もったいないなと思うものの、よく考えれば、そもそも北ドイツ自体、
情報が少ないなぁ…と思いますですよ。