セトウツミ

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此元和津也の漫画を実写映画化した作品。原作は未読です。

片や真面目で成績優秀な内海、片や不良っぽい感じで勉強にも興味がなさげな瀬戸。性格は正反対だけれど、どこかウマの合う2人は、いつも、放課後に、河原で話をしながら暇つぶしをしています。くだらない言葉遊びや、思いを寄せる女子へのメールの内容、時にはシリアスなことも語り合う姿が描かれます。

結構、笑える場面が散りばめられ、面白かったです。下らない話があるかと思えば、意外に知的な場面もあり、けれど、極端に嫌味だったり下品だったりということはなく、全体にバランスよく纏まっています。こんな風に、無駄にダラダラと時間を過ごせるのも学生の特権かもしれません。社会人になってしまうと、やはり、時間に縛られる部分は多くなりますから...。時間を無駄に過ごす。本当は、それこそが最高の贅沢なのかもしれません。ダラダラおしゃべりしている若者たちの姿に懐かしさが感じられたりもしました。

よくある青春映画と違って、部活があるワケでも、喧嘩があるワケでもなく、熱い青春もありませんが、これもひとつの青春。というより、むしろ、学校生活の全てを賭けられるようなものを持っている高校生の方がレアで、特に目標もなく、宿題や試験対策に追われながらも何となくダラダラと日々を過ごす方が一般的で、リアルなのかもしれません。

思わず笑ってしまった場面の後にふと感じる切なさも青春チックでした。高校生って考えていないようで考えているし、考えているようで現実が見えていないし、子どもなようで大人なところもあるし、ほぼ大人な年齢のはずが意外に幼いし...。微妙な年代の特徴が丁寧に描かれていると思います。

内海役の池松壮亮、瀬戸役の菅田将暉、この2人の雰囲気がこの物語にぴったりだったことも、本作の面白さの大きな要因となっているのでしょう。ごく自然な印象の遣り取りが繰り返される中で、それぞれの個性が浮かび上がってくる辺り、脚本や構成の巧さも感じさせられます。

2人以外の登場人物の絡み方も良かったと思います。全体的に構成が巧く、バランスの取れた作品になっていると思います。

75分という短めの作品ですが、内容的にぴったりの長さだったと思います。もうちょっと見ていたいと思えるところで纏められていて、ちょうど腹八分目の適度なところでのエンディング。敢えて映画館のスクリーンでなくても、DVDになってからでもよいかとも思いますが、程よく楽しめました。


公式サイト
http://www.setoutsumi.com/
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はなれ瞽女おりん

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はなれ瞽女おりん [東宝DVD名作セレクション]/奈良岡朋子
¥2,700
Amazon.co.jp


水上勉の同名小説を映画化した作品。原作は未読です。

大正時代。母を亡くし、1人になった盲目の少女、おりんは、薬売りの男、斉藤に、盲目の女たちが芸を売りながら暮らす瞽女屋敷に連れて行かれます。瞽女は、阿弥陀様に仕える身ということで男と契ることは許されていません。けれど、おりんはその禁を侵し、瞽女屋敷を追い出され、"はなれ瞽女"として、1人で野宿をしながら旅芸人として生きていくことになります。やがて、おりんは、1人の大男、平太郎と出会い、旅をともにするようになります。おりんが飲み屋の客相手に芸を披露し、平太郎は客に酒を注ぎ、投げ銭を拾い集め、日々の糧を得ていましたが、平太郎は下駄を作り、それを売るようになり、おりんは幸せを実感していました。ところが、ある時、露店での商売のことで土地のヤクザと喧嘩になり、警察に捕まってしまい...。

瞽女屋敷に入り7年たてば出世名をもらい、その翌年の8年目で姉(あね)さんと呼ばれるようになり、さらに3年で年季が明け一人前の姉さんとなるという厳しい修行の世界。そして、初潮を迎えれば、阿弥陀様との祝言。その後は、阿弥陀様に全てを捧げ、男と身体の関係を結ぶことなく、日本各地を歩いて旅をし、三味線と唄で生活の糧を稼ぐ。瞽女たちの生活が丁寧に描かれます。

目が見えない人々の生活の工夫も描かれています。多分、視覚に頼った生活に慣れ切っている私たちは、目が見えない生活をとても不自由で不幸なものと捉えてしまいますが、視覚以外の感覚を研ぎ澄ました瞽女たちは、自分たちの力でしっかりと生活をしています。裁縫をするために針に糸を通すシーンなど、瞽女たちの生活の細部まで丁寧に描くことで瞽女たちの生活力の高さを示し、季節や自然を嗅覚や触覚で感じ取る瞽女たちの姿で彼女たちの日々の豊かさを示しています。おりんは生まれながら目が見えないとのことですので、目が見える生活を知らないだけ、"目の見えない不自由"も知らないということになるのでしょう。間違いなく、彼女は、私たちとは少し違う形で日々の喜びを得ていたのでしょう。

幼い頃に天涯孤独の身となり、頼った瞽女屋敷も追い出され、やっと掴んだ幸せも長くは続かず...。幸薄いおりんですが、物語は、おりんの不幸を強調することもなく、全体的に淡々とした語り口で描かれていきます。おりん自身に自らの不幸を嘆く様子が見られず、むしろ、小さなことに喜びを見出し、僅かな幸せに感謝しながら、運命を受け入れている雰囲気が物語に温かさを生み出し、また、背景になっている北陸の風景の美しさが、物語に不思議な幸福感を付け加えているのかもしれません。

さらに、おりんは、自身の欲に正直な面も見せ、単に抑圧されているだけではない逞しさも感じられます。その辺りも、おりんの人生が不幸一色に染まらない理由の一つなのかもしれません。一時期、おりんと行動を共にするやはりはなれ瞽女のたまの明るさ逞しさも、瞽女たちの生活の意外な豊かさを感じさせてくれます。

そして、阿弥陀様に仕える身として大切にされながらも、一方では、盲目の女として低く見られている瞽女たちの社会的な立場も描き込むことで、物語の味わいを深めています。

聖と俗を行き交うおりんという1人の瞽女の人生を描きながら、陰りを帯びながらも美しい北陸の風景と、その中で繰り広げられる人々の営み、社会の不条理の中での市井の人々の苦悩を表現しているような作品です。

哀しく絶望感が漂うラストを日本の原風景のような懐かしさが感じられる美しい映像が包み込み、悲劇を際立たせています。そして、逆に、おりんが僅かでも心の底から幸せを感じる時を得られたことを祝福したくもなります。頭蓋骨まではやりすぎ(杖と三味線と着物だけで十分だった)とも思いますが、心に沁みるラストシーンでした。

ちょっと化粧や衣装が綺麗すぎる感じもしますが、おりん役の岩下志麻が熱演です。その周囲を平太郎役の原田芳雄、おりんの師匠であるテルヨ役の奈良岡朋子、たま役の樹木希林など、名優たちが固め、説得力のある演技で魅せてくれています。

日本映画史上に残る1本と言って間違いないと思います。一度は観ておきたい作品です。
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晩白柚ゼリー

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晩白柚(ばんぺいゆ)というのは、ザボンの一種の柑橘類。ザボン類は、比較的、果実が大きいものが多いようですが、晩白柚は、その中でもかなり大きく、小さい子どもの頭くらいなことも。

そして、皮が厚くて、剥くのが大変。結構、四苦八苦して皮をむいて食べることになるのですが、甘味と酸味のバランスが取れたちょっと淡く上品な感じの味わいがなんとも言えず美味しかったりします。

日本では熊本産が97%を占め、多くは八代市で生産され、1月中旬位から出荷されるそうです。たまに、いただくことがあり、何度か食べたことがあるのですが、東京に住んでいる私にとって、お店で並べられているところを見ることはほとんどない果物です。

で、今回は、その晩白柚のゼリーです。

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たまたま入ったお店で見つけて買ってみたのですが、晩白柚の美味しさが巧く生かされていて、なかなか美味しかったです。

晩白柚の果汁のゼリーの中に、シロップ漬けされた果肉が入っています。程よい甘さと適度な酸味。生の晩白柚そのもののスッキリ感が生きています。甘さが疲れを和らげ、程よい酸味が気持ちをスッキリさせてくれて、夏の暑い時期にも嬉しい一品。冷蔵庫にストックしておきたいと思います。

製造元の彦一本舗のサイトからも購入できます。


彦一本舗公式サイト
http://www.hikoichi.co.jp/
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太陽の蓋

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2011年3月11日、午後2時46分。東日本大震災が発生。被害の大きさが徐々に明らかになる中、震災の影響を受けて福島第一原子力発電所で事故が起きます。日本中が大混乱に陥り、種々の情報が錯綜する中、新聞記者の鍋島は、菅直人首相らの官邸内での様子と原発事故を追い、情報収集に奔走し...。

3月11日から、福島での事故が起き、深刻さを増していく中、混迷の度合いを深める官邸、そんな中でも事実から目を背けようとする人々、十分な情報が得られない中で翻弄される人々...。

菅首相の他、枝野幸男内閣官房長官、福山哲郎内閣官房副長官、寺田学内閣総理大臣補佐官といった官邸中枢で活躍した面々が実名で登場することもあり、なかなか緊迫感がありました。そして、官邸の場面を中心とするドキュメンタリー的な部分と福島で東京で生活する普通の人々が登場するフィクションの部分がバランスよく組み合わされ、福島原発の事故とその影響について、全体的に俯瞰するような作品となっています。

どこまで真実に迫れているのか、これ以上、隠されたことが本当にないのか、判断しかねますが、まだ、多くの人が当時のことを思い出すこともできないほど、遠い過去のものとしてはいない今の時期にこうした作品が公開されたことは意義深いことだと思います。

自然の驚異が予想以上に人間の生存を脅かすことも
あまりに楽観的な予測の上に作られた計画が役に立たないことも
都合の悪い情報に目を瞑ることで益々事態を悪くすることも
新しい技術が必ずしも人間を幸福にするわけではなことも
企業や人の生命よりも利益を重視することがあることも
権力を持つものが保身のために責任を逃れようとすることも
上層部の混乱により現場に過度な負担がかかることも
結局、市井の人々が一番痛い目に遭わされることも

私たちは知っていたはずです。どれも、私たちにとって初めての経験ではありません。これまでに、様々な場面で幾度となく繰り返されてきたことです。歴史から学ぶということがいかに難しいことであるかを実感させられます。本作の中でも、鍋島に対して彼が教えを乞うた横山がそのことを指摘しています。政治家も企業経営者も、確かに問題なのですが、そこに私たちの責任がないとは言えないのです。

これまで、似たような過ちを繰り返し、様々なものを失っても、その後の努力で取り戻し、更に社会を発展させてきました。けれど、この先、同じことを繰り返せば、今度は日本という国を、下手すれば世界を破滅させるかもしれないのです。私たちは、それだけのパワーを手にしてしまいました。その力に見合ったコントロール力を手にしていないにも拘らず。

勿論、徒に不安を煽るのは問題でしょう。けれど、これ以上、同じ過ちを繰り返さないためには、この地球上で人類を存続させるためには、不都合な真実に目を背けず、冷静に様々な可能性を検討することが大切なのだと思います。

電力会社が仮名になったこと、官邸を持ち上げ過ぎな感じがあること、原発の現場の描き方が薄かったことなど、不満も残りますが、それでも、こうした作品が撮られたということ自体に意義があるのだと思います。一度は観ておきたい作品です。


公式サイト
http://taiyounofuta.com/
フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白 [DVD]/ドキュメンタリー映画
¥1,523
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フォード自動車の社長、世界銀行総裁、そしてアメリカ国防長官と輝かしい経歴を持つマクナマラが85歳になり、戦争とともにあった自分の人生を振り返り、アメリカが関わった20世紀の戦争について語るドキュメンタリー作品。

語り口は巧妙な感じがします。真実を語り、歴史の裏側を隠さず明かしているという雰囲気を出していますが、特に、本作を観ないと分からないような事実が語られているわけではなく、肝心のところはボカされていたりもします。国防長官時代も、重大な責任問題になるような嘘はつかず、けれど本当のことも明らかにせず、それでいながら、いかにも誠実な感じで語る能力を駆使したのでしょう。その力は今でも健在なようです。

勝てば官軍、負ければ賊軍。それは、時代を問わず、洋の東西を問わない真実なのかもしれません。常に、歴史は勝者の側から作られ、勝者は正義として敗者は悪者として描かれることになります。そして、第二次世界大戦の歴史は、勝者である連合国の視点から書かれ、戦争時であってもなお非道と思われるような行為を命じたマクナマラは罪に問われません。

で、東京大空襲で夥しい数の民間人を殺すことも、戦争のルールとして明確に禁止がされていない以上、そして、戦争に負けていない以上、戦争犯罪とは言えないとのこと。アメリカの罪を認めるような姿勢を見せつつも、自身の戦争犯罪は明確に否定しています。(負ければ戦争犯罪であるならば、ヴェトナム戦争については、アメリカは戦争犯罪を認めるべきってことでいいのでしょうか?それとも、ヴェトナム戦争は負けていないと言い張るつもりなのか...。)

内容的には、マクナマラへのインタビューと当時の記録映像が並べられているだけ。本来ならば、マクナマラの発言を裏付けるなり、否定するなり、関連する資料を持ちだしながら検証して欲しかったところ。せめて、もう少し、インタビュアーに突っ込んで欲しかった気がします。一方的に、マクナマラが話すだけでは、どこまでが事実なのかも疑わしい感じがします。

全体にルメイを批判する内容になっていますが、ルメイを貶めて自身を持ち上げようとしているだけなようにも思われます。そして、最終的には、マクナマラ氏の自慢話に聞こえてしまうようなところがあり、信憑性については疑問が拭えません。

とは言え、本作は、戦争になれば、こうした指導者の下で、(特権階級に属さない)多くのごく普通の若者たちが、権力とは離れたところにいる市井の人々が命を落とすことになるのだという事実を明確に示していると思います。物足りなさがあり、疑問に思われる部分も少なくありませんが、戦争というものの本質を捉えていることも確かだと思います。一度は観ておきたい作品だと思います。

チャイナ・シンドローム

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チャイナ・シンドローム [Blu-ray]/ジャック・レモン
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人気TVキャスター、キンバリーはカメラマンのリチャードと、原子力発電所の取材中、偶然、"事故"を撮影します。スクープとして大々的に放送されることを期待していたキンバリーたちでしたが、TV局により放送を禁止されます。調査後、原発は運転を再開しますが、ベテラン技術者のジャックは、原発の血管に気付いていました。それを知ったキンバリーたちは、ジャックの協力を得て、事故について世間に公表しようとするのですが...。

原子力発電所に限ったことではありませんが、何かの計画を進めようとする側は、そのリスクを過少に、そこから得られる利益を過剰に見積もりがちなもの。どうも、人には、無意識のうちに見たくないものから目を背け、あたかも、それが取るに足らないものであるか、あるいは、存在しないもののように扱い、都合のよい情報をより重要なものとして受け取る傾向があるようです。これまでに私たちが体験した"想定外"の事故や事件についても、多くの場合は、事前に何らかの可能性が指摘されていたりするもの。

本作では、原発での事故と、その後の隠ぺいについて描かれますが、本作の公開から30年以上経って、福島で同じようなことが繰り返されています。映像が古びていて、登場人物たちが欧米人であるため、福島を描いた作品ではないことが分かりますが、内容的には、東日本大震災後の福島について描いているようにさえ思われます。

本作が公開された12日後の1979年3月28日にスリーマイル島原子力発電所で事故が起き大ヒットしたそうですが、それからさらに30年以上の月日が流れて日本でも同じようなことが起こるとは、私たちが歴史から学び、その教訓を未来に活かすとの難しさを実感させられます。

スリーマイル島、チェルノブイリ、福島を連想させられ、そのためにいろいろと考えさせられる作品となっています。正統派の社会派作品ですが、それ以上に、現実の原発事故とは無関係の映画作品としても見応えのある作品になっていると思います。

事故に関わる人々。マスコミ側、企業側、当事者となる住民側、それぞれの立場がバランスよく描かれ、利益を求める者たちにより真実が歪められていくことの危うさが描かれ、大きな事件に居合わせたことでジャーナリストとして成長していくキンバリーの成長が丁寧に描かれ、出演陣が好演し、作品に厚みを加えています。

私たちが生きるこの日本の中で起き、まだ解決に至る道筋させ見えてこない福島原発の事故や、今後の原発について考えるためにも、一つの映画作品として楽しむためにも、観ておいて損はない作品だと思います。

ブラック・スキャンダル

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ブラック・スキャンダル ブルーレイ&DVDセット(初回仕様/2枚組/デジタルコピー付) [Bl.../ジョエル・エドガートン
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1970年代、サウスボストン。非情で残忍なチンピラ、ジェームズ・"ホワイティ"・バルジャーに、FBI捜査官のジョン・コナリーが接触してきます。彼はイタリア系マフィアを駆逐するために手を組もうとジェームズに持ち掛け、密約を交わすことに成功。両者の連携により、イタリア系マフィアの勢力を弱めることには成功しますが、一方でジェームズは、アイリッシュ・マフィアのボスとしてのし上がり、勢力範囲を広げ...。

ジョニー・デップが演じるジェームズ・"ホワイティ"・バルジャー(ジミー)は、実在の人物だそうですが、なかなかのサイコパスです。で、躊躇うこともなく、些細なことで気に食わない者たちを殺していく冷酷さをジョニー・デップが見事に表現していて、作品全体に、ジミーという人物の怖ろしさを漂わせています。そして、コナリーを演じたジョエル・エドガートンも、利用しようとしたジミーに逆に翻弄され、蟻地獄に引き摺り込まれていく焦燥を見せ、説得力がありましたし、ジミーの弟で上院議員のビリーを演じたベネディクト・カンバーバッチも、登場するシーンが少なかったのは残念でしたが、しっかりと存在感を出していました。

ジミーが、ちょっとしたことで人を殺す場面は、勿論、怖ろしいのですが、それ以上に、妻、マリアンの息子の死に関する言葉が気に入らず、一瞬のうちに感情を害し、妻の顔を撫でるシーン、秘伝だと言っていたステーキソースのレシピを教えたコノリーに対する揚げ足取り的な嫌悪感の見せ方など、一見、抑えた感じの怒りの見せ方が、より、ジミーの冷酷さを際立たせています。

そして、ジミー、コノリー、ビリーの関係。コノリーは、ジミーから情報を得るためにジミーを自由にさせ、彼の犯罪に目を瞑ったワケですが、実際には、ジミーからは有益な情報を得ることはできず、ジミーがボスとしてのし上がることに手を貸すだけで終わってしまいます。コノリーは、かつて助けられたことの恩義を感じているということもあるのかもしれませんが、ジミーに対して一定の信頼を寄せており、ジミーが自分を助けてくれることを期待せずにはいられない様子。けれど、ジミーは、コノリーへの情報提供に全く熱心ではなく、身勝手に振る舞います。ジミーのコノリーに対する友情や信頼というものは見えてきません。ビリーは、兄であるジミーに対する愛情を失っているわけではないようですが、自分の立場を利用してまでジミーを助けようとはしません。ビジネス的にはしっかりと距離を置いています。

淡々と進む物語が、逆に、いつどんなことで機嫌を損ねるかを予測できないジミーの恐ろしさを引き立てていて、ジミーの異常性を描き出すという点では、本作はかなり成功していると思うのですが、一方で、彼が何を目指し、何のために組織を広げていこうとしているのか、どういう形で南ボストンを支配しようとしていたのか、彼の野心の動機や目的はどこにあったのか、その辺りがあまり見えてこず、物語自体は浅くなってしまった感じがします。

そして、ジミーの近辺については描かれるのですが、彼の組織がどれだけ大きくなっているのか、彼の組織が社会にどのような影響を与えたのか、この事件のインパクトがどれ程大きなものだったのか、その辺りも、実感できるような形で見えてきません。その分、ジミーの孤独や冷酷さが際立っている感じはするのですが、ジミーのこと、彼とコノリーとの関係の描写に集中し過ぎて、物語の全体像がボケてしまったのかもしれません。

演技に支えられた作品で、決して、悪い作品ではないのですが、ジョニー・デップを始めとする出演陣の熱演が生かし切れていないのは、何とも残念。

ジャックポット

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ジャックポット [DVD]/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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カルフォルニアのカードゲーム・クラブで、ビルはギャンブラーのチャーリーと出会います。コンビを組んだ2人は順調に勝ち続けますが、自由奔放なチャーリーは、ある日、突然、姿を消してしまいます。それと同時に、ビルの博打運は急落。負け続けの日々で借金取りに追われるようになります。絶望の末、彼は持ち物のほとんどを質に入れて、人生を賭けた大勝負に挑みます。そこにチャーリーが現れ...。

ギャンブラーの生態を描いた作品という感じがします。勝って大金を手に入れて、負けて元手をなくすことを繰り返すグダグダな日々を送るギャンブラーたち。そして、ビルにしても、チャーリーにしても、ギャンブルにはまることに対する罪悪感はあまりなさそうで、ギャンブルをすること自体は生活に欠かせない行為として日常に溶け込んでいる様子。

ポーカー、競馬、ボクシング...、一つのジャンルに固執することなく、様々な賭け事に手を出す2人。相方であるチャーリーがいなくなり、ツキもなくしたビルは、ギャンブルのために本来の仕事もおろそかになり、借金も抱え...。そんな状況を改善する方法もギャンブルしか考えつかないのは、ギャンブラーのギャンブラーたる所以。

ギャンブラーたちの姿が、いかにもな感じでリアリティがあります。そして、そんなダメダメな人々に注がれている視線に温かさが感じられます。

ラストはあっけない感じもしますが、ありがちな形で感情を爆発させるチャーリーと、自身でも予測していなかった形で状況を受け止めるビルの対比にドキッとさせられます。ビルの姿に包み込む寂寥感。この先の展開を考えさせられ、ギャンブルから抜けられない者たちの悲劇も実感させられる印象的なラストだと思います。

バーでの酔っ払いたちの遣り取り、ビルとチャーリーが出会った娼婦たちの上客を追い出すシーン、借金取りたちとの遣り取り...。そんな部分にも、彼らや彼らを取り巻く人々の息遣いが感じられます。

観終えて"で、だから何???"って感じもしますし、全体に地味ですが、登場人物たちの描写が丁寧に積み重ねられ、ギャンブラーの世界、そして、市井の人々の世界を味わい深く感じさせてくれる作品です。

プレイタイム

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ジャック・タチ「プレイタイム」【DVD】/ジャクリーヌ・ル・コンテ
¥4,104
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ユロ氏を主人公とするシリーズの第3弾。第2作の「ぼくの伯父さん」と第4作の「トラフィック」については、以前、このブログで感想を書いています。第1作の「ぼくの伯父さんの休暇」は未見です。

パリ、オルリー空港。近代的なロビーで働く人、降り立つ人や旅立つ人々。アメリカから来た団体客たちは、バスに乗り込みパリの街へ。様々な人々が行きかう中、就職のためにパリへやって来たユロ氏が現れ...。

という設定ですが、きちんとしたストーリーがある物語が描かれているわけではありません。アメリカ人観光客の団体とユロ氏がパリの街を歩き回る状況が映し出されていきます。そして、観光客の団体があちこち動き回るのに、エッフェル塔とか凱旋門といった数々の観光名所はほとんど登場しません。背景の彼方に、ビルのガラスに映り込んだり、ほんのちょっと姿を見せるだけ。

ユロ氏たちが歩いたパリは、40年前から見た近未来のパリ。"昔の映画の近未来"って、その未来の時期を過ぎてから観ると、どこか可笑しな印象を受けたり、無理に未来的にしようとしている点が却って古臭くみえたりするのですが、本作のパリはかなりモダンでお洒落な感じがします。ジャック・タチは、現実の"未来"よりも、より良き未来を描くことに成功しているのではないでしょうか。

映像が実にお洒落で、丁寧に細部までこだわりをもって作られていて、見飽きません。物語がどうこうとか、ユロ氏がどうなるとかということではなく、のんびりと映像を眺めて楽しむべきなのでしょう。

そして、本作は、ユロ氏や観光客たちを追うというより、パリの街を描くことに主眼を置いているように思われます。ユロ氏も、観光客たちも、街の隅々をカメラが映せるように動き回っているような...。ユロ氏が主人公...のハズなのですが、あまり前面には出てこず、パリの街、それも、"ジャック・タチが作り上げた近未来のパリ"を主役にした作品となっています。

お洒落な空間でドリフのコントをゆるくしたような温い感じのドタバタなギャグが繰り広げられています。映像の中には、あれこれ、小ネタも仕込まれて、隅々まで見ようとすると、結構、集中力が必要で疲れたりもするのですが、なかなか楽しめました。

こうしたストーリーらしいストーリーがあるワケでもなく、全体に緩いギャグ満載の作品に、これだけの手間暇をかけ、細部まで凝りに凝って一つの世界を作り上げる。これこそが、粋ってものかもしれません。

なかなか他でない味わいが楽しめます。一度は観ておきたい作品だと思います。

海すずめ

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処女作で新人賞を受賞し、小説家として生きていくため、故郷の宇和島を離れ東京に移り住んだものの、次作が執筆できずにいた赤松雀。宇和島市の実家に戻った彼女は、元ロードレーサーの岡崎賢一や、上司の娘でアルバイトの原田はなととともに市立図書館自転車課働いていました。希望者に自転車で図書を届ける仕事をする中で、かつて市立図書館の場所にあった私立伊達図書館で働いていたというトメ(吉行和子)と知り合います。そんなある日、宇和島伊達家400年祭の武者行列に使う着物の刺繍模様を復元するための資料として、図書館にあるはずの古文書の行方をめぐる騒ぎが起き、さらに自転車課の廃止案が持ち上がり...。

少しずつの挫折やら心の傷を抱えている主人公たちが、困難に直面し、最終的に周囲の協力を得てそれを乗り越え、成長していく物語が、割とシンプルにありがちに展開し、予測できる通りの結末に向かっていきます。それ自体は悪くはないと思います。そして、主人公たちが自転車で駆け巡る宇和島の各所の美しい風景と自転車の疾走感。なかなか爽やかな雰囲気の作品ではあると思います。

ただ、いろいろと雑な部分が目立ってしまっていて、なかなか、物語に集中できませんでした。

まずは、雀のしょ~~~もなさ。しょっちゅう遅刻しているようだし、出勤時は従業員用の出入口を利用するとか基本的な規則も守れない様子だし、表玄関前に放り出した自転車はそのままみたいだし、明らかに自分に非がある遅刻を注意されて謝りもせずキレるなんて社会人としてあるまじき行為というより、人間としてあまりに未熟だし、かなり仕事に関しても日常生活においてもいい加減で無責任で...。冒頭の部分でのあまりのグダグダ振りに主人公に気持ちを寄せにくくなってしまいます。ここまで、どうしようもない設定にする必要はなかったような...。あまり他人の気持ちを理解しようとか、自身の言動を反省しようとかいう気がなさそうな彼女の言動から、小説を書くという姿が想像しにくかったです。そして、雀自身が、このあまりの未熟さを認識して猛省することのないままにメデタシ、メデタシっていうのもあまりに中途半端。

まぁ、ちょっとした賞をもらったくらいで、合格していた地元の大学への入学を辞退していきなり東京へ行ってしまうくらいですから、雀は、元々、かなり衝動的で後先を考えない人なのでしょう。家族からの反対を受ける中、東京で生活するための費用をどうしたのかも疑問です。あのお父さんがいる中、全てを親に出してもらうというのは難しいでしょうし...。

上司の原田も何かというと部下の話をまともに聞くこともなく「無理、無理」と連発する無能な感じたっぷりのグダグダ振り。資料の探し方についても、あまりに行き当たりばったりで運任せの探し方しかしていないように見受けられます。効率が良く、実効の有りそうな探し方を考えようとしないのはどうしなのか気になりました。この図書館は、しょ~~~もない人材の集まりなのか...。

図書を届ける先にも違和感ありました。自宅に届けるというのは分かります。職場に届けるというのも、まぁ、アリだと思いますが、それにしても、そこか???と違和感たっぷりなケースも見られました。まぁ、宇和島の様々な美しい風景を映し出したかったのでしょうけれど、もっとストーリーの中で無理なく処理して欲しいものです。

古文書などをきちんと手洗いもせずに、しかも、かなり手荒く扱うのはどうかと思いますし、蔵の中で皆でおにぎりを食べて、そのまま作業なんてとんでもない。蔵の外に出て食べてきちんと手を洗ってから丁寧い扱わないと...。やたらと指の腹を使って頁をめくるのも観ていてハラハラしてしまいました。そもそも、タイトルが分かっている書物を探すのに、何故、中身を確認しなければならなかったのか...。表紙や背表紙を確認するだけで済むはず。そして、貴重な文献を船の上で頭の上に掲げて振り回すなんてあまりに酷い。

自転車で宇和島を走り回る疾走感は、本作の魅力となっているとは思うのですが、肝心な場面で船に乗っていたりして...。折角、自転車に重きを置いているのですから、クライマックスでも自転車での走りをガッツリ見せて欲しかったです。

神は細部に宿ると言われる通り、物語の世界をしっかり構築するためにも、物語に説得力を持たせるためにも、細部を丁寧に描くことは大切なのだと思います。

基本的なストーリーは悪くはないと思います。細部を大切に、きちんと描いていれば、もっと見られる作品になったと思うのですが...。残念な作品です。


公式サイト
http://umisuzume.com/