百年の子

古内一絵 小学館 2023年8月





 

 



人類の歴史は百万年。だが、子どもと女性の人権の歴史は、まだ百年に満たない。

舞台は、令和と昭和の、とある出版社。コロナ蔓延の社会で、世の中も閉塞感と暗いムードの中、意に沿わない異動でやる気をなくしている明日花(28歳)。そんな折、自分の会社文林館が出版する児童向けの学年誌100年の歴史を調べるうちに、今は認知症になっている祖母が、戦中、学年誌の編集に関わっていたことを知る。
世界に例を見ない学年別学年誌百年の歴史は、子ども文化史を映す鏡でもあった。
なぜ祖母は、これまでこのことを自分に話してくれなかったのか。その秘密を紐解くうちに、明日花は、子どもの人権、文化、心と真剣に対峙し格闘する、先人たちの姿を発見してゆくことになる。





小学館と思われる出版社をもとに作られた物語。


文林館で働く明日花は、女性ファッション誌から、学年誌の編集部に新しく配属されたのが不満だつた。


そんな明日花が、学年別学年誌に次第に興味を持ち、仕事にやる気を出していく様子は、仕事小説として読みごたえがある。


これは、作者が、取材を繰り返し書かれた作品なのだろう。

当時の出版社の様子がリアルに感じられた。


戦争に翻弄された時期もあっただろうが、

出版社を始めた社長の思いや

より良い学年誌にしようとする編集者の思いが熱かった。



明日花、母待子、祖母スエ。

誤解をまねいていた三人の関係が修復されていく様子は、心が暖かくなる。


明日花がインタビューした彬の話が、スエとつながった時、感動!



お気に入り度⭐⭐⭐⭐


ミノタウロス現象

潮谷 験 KADOKAWA 2024年2月





 

 

目の前には三メートル超えの怪物、背後には震える少年。好感度を何よりも重視する史上最年少市長・利根川翼は、人生最大のピンチに陥っていた。だが、その危機からの脱出直後、「異様な死体」が発見される――。容疑者の一人になってしまった翼は、自身の疑惑を晴らすために謎解きを始める。



あまり強くない怪獣って、どうなの?

今までにはない話?


ミノタウロスのような牛頭の怪獣に、最初入り込めなかったが、その仕組みというか、実験の話になり、その設定がおもしろく、話にのめりこんだ。


こんな突拍子もない発想よく思いつくものだ。


この作られた世界の中で、殺人事件の犯人を探す物語。


女性市長-翼が、どこかとぼけた感じ。

秘書の羊川との会話がおもしろい。


スリルを味わうというより、設定を楽しむといった物語だった。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐



校庭の迷える大人たち

大石大 光文社 2023年6月





 

 

小六の息子の授業参観で母校を訪れた幹太は、自分がこの小学校に転校してきた時の奇妙な出来事を思い出す。(「シェルター」)担任する児童の誰かが手のかかる児童ということで、「危険業務手当」をもらっている真奈だが――(「危険業務手当」)学校に集う大人たちに起きた、5つの奇談。



この作家さんの本は初めてで、内容も知らずに、題名に惹かれて読んでみたのだが、私好みの話だった。


学校内で起きる出来事を大人目線で描いている。



学校には不思議な部屋があり、そこにいる間は身代わりが授業を受けている。


月30万もらえる危険業務手当。どんな危険なことがあるのか?


 予算計画で物品購入希望が多く、参っている事務 の先生。


妖精 が学校に忍び込み私物を持ち去る。返してくれる時に不思議な力が宿り、才能が引き出される。

我が子に才能を与えたく、妖精に盗んでもらおうと、大荷物を持って学校に行く親たちの姿が滑稽だった。



退職の日までカウントダウンする校長。

何度も同じ日を繰り返す理由とは?




奇妙な出来事ばかりだが、現実に通じるものがある。

 ちょっとした驚きもあり、最後には、それぞれが、前向きにがんばろうとしているところがよかった。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐


財布は踊る

原田ひ香 新潮社 2022年7月





 

 

会社の同僚と平凡な結婚をし、ひとり息子にも恵まれ、専業主婦として穏やかに暮らす葉月みづほ。彼女はある夢を実現するために、生活費を切り詰め、人知れず毎月二万円を貯金していた。二年以上の努力が実り、夢を実現した喜びも束の間、夫に二百万円以上の借金があることが発覚して――。様々な事情で「今より少し、お金がほしい」人達の、切実な想いと未来への希望を描く!



ヴィトンの財布が、さまざまな人を渡り歩く…


葉月みづほは、生活費を切りつめ夢のために貯金。それなのに、夫の借金が発覚。

 

この夫って頼りにならない。


工夫 して節約していたみづほだから、新しくお金を作ることにかけても、努力を欠かさないだろう。




借金、奨学金の返済 等に悩む人たちを描き、お金の作り方を物語の中で、紹介している。



お気に入り度⭐⭐⭐


幻告 

五十嵐律人 講談社 2022年7月





 

 

裁判所書記官として働く宇久井傑(うぐい・すぐる)。ある日、法廷で意識を失って目覚めると、そこは五年前――父親が有罪判決を受けた裁判のさなかだった。冤罪の可能性に気がついた傑は、タイムリープを繰り返しながら真相を探り始める。しかし、過去に影響を及ぼした分だけ、五年後の「今」が変容。親友を失い、さらに最悪の事態が傑を襲う。未来を懸けたタイムリープの果てに、傑が導く真実とは。リーガルミステリーの新星、圧巻の最高到達点!




父親の冤罪に気づいた裁判所書記官の宇久井。


タイムループを繰り返すが、

過去を変えると未来が変わる。


父親の冤罪を晴らすと

最悪の事態が待っている。


タイムループを繰り返す中で、宇久井は、最悪の事態を回避できるのか?

どんな未来にたどり着くのか?




万引きにも、万引きする品物や動機により、罪の種類がいろいろあることを知る。

法律に関しての説明も興味深い。



裁判官の鳥間、一番いい答えを出すことに強い葛藤があっただろうな。



ややこしくて、こんがらがる部分は 多々あったけど、宇久井が、 少しでもいい未来にしようと、奮闘する姿がよかった。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐



青空と逃げる

辻村深月 中央公論新社 2018年3月





 

 

深夜の交通事故から幕を開けた、家族の危機。押し寄せる悪意と興味本位の追及に日常を奪われた母と息子は、東京から逃げることを決めた――。



 父親が起こしたトラブルから、東京から逃げることにした母と子-力。


さまざまな土地を転々とするが、どの地でも、親切な人達に囲まれて、そこで精一杯生活していく様子は、たくましい。



子どもでできないことがあれば、大人に頼る。

助けて下さいと言うことにも勇気がいっただろうけど、力は、よくがんばったよ。



母も 力も、成長していったと思う。

その土地土地での人のあたたかさがよかった。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐


タクジョ!みんなのみち

小野寺史宣 実業之日本社






 

 

運転手とお客さん。タクシーの車内で響き合う、一期一会の心もよう……
人生の機微を紡ぐ名手が贈る 味わい深い人間ドラマ。新人女性タクシー運転手の物語『タクジョ!』待望の続編!

[主な登場人物]
●東央タクシー東雲営業所の仲間たち
高間夏子(26) 女性客が安心して乗れるよう、自分が運転手になると決め、四年目を迎える。
姫野民哉(28) イケメンでお調子者。航空会社の仕事が肌に合わず転職。ドライバー歴六年。
霜島菜由(26) 夏子の同期ドライバー。内勤業務に職種変更をしようか迷っている。
永江哲巳(26) 夏子の同期で、採用課所属。「コロナ後」を見据え、人材発掘に尽力。
道上剛造(56) ベテラン運転手。強面の風貌から元スジ者と噂されるが、実はほろ苦い過去が…

●道央タクシー
川名水音(38) 夏子の元同僚。再婚後に転居した札幌で、ふたたびタクシー運転手に。




東央タクシーで働くタクシードライバーたち。
お客さんを乗せての仕事の様子、仲間たちとの交流などの日常を描いている。
失敗や悩みもあるだろうけど、それぞれに真面目に仕事をしている様子がよくわかる。

お客さんとの会話、人生相談みたいなのがあったり、夫婦げんか聞こえてきたりとおもしろい。

私は、タクシーあまり乗らないし、乗っても運転手さんとほとんど話をしないけど、こんなタクシーなら、長距離を運転手さんと話をしてみたいと思った。

「タクジヨ」の主人公の高間夏子のその後も知ることができ、ずっとタクジヨとして働きたいという彼女を応援したい。

あのコロッケ店 !!
ここで登場とは、にくい!

お気に入り度⭐⭐⭐⭐

ブックジャーナリストの内田剛さんの講演を聞いて来ました。


本屋大賞が設立された理由は、

本が売れなくなってきた

アメリカで、このような賞があった

直木賞に違和感を感じた

現場の本屋をもりあげたい

という理由から、本屋大賞が始まった。


書店員のコメントを読んで、集計しているのは、手間のかかることだと思いました。

それだけに信用できる。



歴代の受賞作品の話では、


今までの本屋大賞の 中で得点が一番多いのは、

第15会 辻村深月「 かがみの弧城」 


本屋大賞と直木賞のダブル受賞は

第14会 恩田陸「蜂蜜 と遠雷」のみ


本屋大賞候補にあがった作家

伊坂幸太郎 13回

森見登美彦 6回

三浦しをん 5回

西加奈子  5回


デビュー作で大賞 受賞は

第6回 湊かなえ「告白」

そして、今回の

第21 回 宮島未奈 「成瀬は天下を取りにいく」


この大賞は、納得です。

成瀬の人柄に惚れたもの。


今回の11位の作品が、加藤シゲアキ「なれのはて」だったそうです。


もし、この作品が、10位内に入っていたら、上位に入ったかもと思うのは私の見解。


今回 10作品の内、まだ、5作品しか読んでないので、これから、読んでいきたいと思います。


別冊の本屋大賞のこの本↓は、1票でも入った作品も掲載されていて、昨年どのような本が読まれたかのことがよくわかるというこでした。

 

 




 講演は、裏話もあり、「成瀬は天下を取りにいく」が印刷された黄色いTシャツを見せてもらったりと、2時間あっという間で、貴重な時間でした。


婚活探偵

大門剛明 双葉社 2017年6月





 

 

私は今日もさがす、未来の妻を――。不惑を過ぎた探偵・黒崎竜司は元警視庁の刑事だった。
ある事件がもとで辞職し、いまは新宿の探偵事務所に勤めている。
そして密かに結婚相談所に登録し、婚活をしているのだ。
事務所では強面のハードボイルドを気取っているので、明かせない。
そんな苦労をして婚活に励んでいるのに、勘違いやタイミングの悪さでトホホなことばかり。
竜司は妻を娶ることが出来るのか!? ユーモアとペーソスあふれる連作短編。





ドラマ化されたけど、見ていない。

大門剛明さんの小説だから読んだ。


黒崎は、探偵の仕事にも、婚活にも、一生懸命なのがよくわかる。



結婚相談所に行っていることも隠している黒崎。


女性 とつきあったことがなく、恋愛には不慣れな黒崎。


アドバイザーに教えてもらい、タバコをやめるとか、スーツを新調するとか、ふりまわされながら、婚活を成功させようとしている様子がおかしい。


さまざまな女性と出会うが、結婚相手は見つかるのか?


強面だけど、女性に優しく、誠実に接している黒崎に、好感が持てた。


ユーモアいっぱいの中にちよっとしたオチもあり、楽しめる小説。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐




花ざかりを待たず

乾ルカ 光文社 2023年4月







 

 

末期がんが判明した椎名利夫の余命は一年。予期せぬ宣告に家族や周囲の人々は戸惑いを隠せなかった。利夫のために何をすべきか焦燥は募るばかり。妻は夫に四十路の娘の晴れ姿を見せるために結婚を求め、娘は自分の思いを曲げようとはしない。すれ違いながらも、それぞれの脳裏によぎるのは利夫との思い出の数々。だが、想像を絶するスピードで彼の体調は崩れ始め……。別れの日を前にした人々の思いが胸を打つ、感動の傑作。




俊夫はガンで余命一年と診断される。

その時、妻、ふたりの娘に何ができるのか?


俊夫に花嫁姿を見せてほしいと躍起になる慶子。


親は、娘の花嫁姿をみたい。安心したいという気持ちはわかる。

でも、圧力かけすぎ。


結婚しない、由紀子のような生き方もある。

本人がそれで幸せなら、それもあり。

これも、多様性。


この由紀子と結婚して子どもふたりいる真理子の姉妹の関係、いいなと思った。



俊夫は病院から、定時に毎日かけてくる電話。

家族に心配かけまいとする俊夫のことを思うと苦しくなる。



病が進んでいく後半は、つらかった。


俊夫は、慶子に、普段、子どもたちのこと、育て方が悪いと悪態ついていたけど、最後の言葉に救われる。




お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐