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煉獄(煉獄)
どのようにしてかはわからないが'私は自分が平地の中央にいるのを知った.
木は1本もないが、方々に不思議な形の茂みとさまざまな大きさの石が転がっている。
空は、景色と同様に陰影だ。
見渡す限り、丘も川もなく、鳥、獣、虫の影さえ見えない。
ただ、多くの人影だけを見た。
放浪し、あるいは座-ながら誰もが無表情に遅々とした運命に深い郷愁を懐き、何かに憧れている。
私は特殊な勇気と憂奮さ、得られない何かの溜息のようなものを感じた。
郷愁の思いは神に向けられていた。
周囲のすべてが死の静けさに覆われている。
空気は非常に熟かったが、地獄よりは呼吸しやすく'ときどき新鮮な空気が空から降りてきた。
突然、上空に青白い光を見た。
光はどんなに遠-にいる人も照らし、疲れた人々の顔に限りない歓びと愛を映しだした。
その光に大きな期待を寄せると彼らの気持ちは高揚した。
そのときにもこの光が社れた魂に捧げられた祈りであることを私は理解した。
それは聖体奉挙式の行われている大聖堂の上を飛んだときに'随伴者から説明されていたものである。
ミサが行われているところでは'どこでも'愛する者たちへの祈りが捧げられている。
この祝福された光は長-は続かなかったが'それでも彼らは希望に浴した。
見ていると随伴者が横に現れた。
いつも通り、静かで優しい。
私は彼を見て思わず脆き'言い知れぬ歓びに震えた。
「あなたがいないと、どんなに苦しみと恐怖に耐えなければならないことでしょう」
「わかっています。
今はその話は止めなさい。
守護者である私を信頼し'落ち着きなさい。
私はいつもあなたの側にいたのですから。
あなたの見たことを'みな心に留めなさい。
それは通らなければならないものです。
あなたは、深く心に刻むために、ときどき一人になる必要があるのです。
今は地獄から遠いところにいるので、恐ろしい光景に悩まされることはありません」
「神をほめたたえて良いのですか。
地獄にいたときには何と苦しんだことでしょう。
自分が見たことが本当のことだなんて、信じた-ありません」
「あなたが見たことは恐るべき現実です」
と彼は言った。
それから、私の前に最後の審判のときに見た'眩しく輝く三重冠を被る大天使が姿を現した。
違う装いをしているが'顔は善と恵みに光っている。
彼は、悲しみに沈む女に'優しく言葉をかけた。
「子よ'勇気を持ちなさい。
あなたを助けに来たのです。
光が降りたときに'あなたのために私に託された祈りを聞かなかったのですか。
誰があなたのために祈ってくれたのかを。
主は私があなたを助けることをお許しにな-ました。
付いて来なさい。
天の住まいに案内します」
彼は感謝に目を潤ませ、泣きながら十字を切った。
「私のような哀れな罪人をお許しくださるとは、何と神様は恵み深い方でしょう」
大天使は昇天し、彼女も小さな雲のように彼に従って消えていった。
それから、この惑星の別な半球に移され、半透明の火の海を見た。
火は地上に見るものとは較ベられないほど不思議なもので、私に深い印象を与えた。
私は悪霊の群れが空を旋回しているのを見た。
彼らの爪には罪人たちが逆さづ-にされていたが'爪からずり落ちて地上に叩きつけられた理由がわからない者たちがいた。
悪霊は落ちた者を探しに来たが'見つけられぬまま、他の獲物を求めて去っていった。
随伴者にこの意味を聞くと彼は言った。
「この惑星の表面に落とされた者たちは'地獄に行くほど邪悪ではないかといって、天国に行くほど善良でもない人々です。
悪霊たちは、地獄に向かう途中で、地球から直接この場所に着きます。
彼らは罪人たちの魂を運びますが'完全に死んでいない者たちはこうして地獄を逃れへここに残されるのです」
私は彼らが惑星の上空を飛ぶ悪霊の存在を知らずにいるのに驚いた。
彼らは火の苦しみも受けていない。
神の恵みに望みを託す、溜息と憧れと悲しみの声だけが聞こえてきた。
私たちはこの謎めいた惑星の上を飛行し続けた。
半分は透明な火に覆われ他の半分は悲しみに包まれている。
灰色の石と荒涼たる砂漠はへいつまでむいた-ないという気を起こさせる。
そのとき、静かで厳粛な歌声の中で、聖母マリアがお出でになるのを見た。
聖母は清く、輝かしく'神々しい光のベールを支える大天使たちに囲まれ'麗しい天上の微笑を浮かべている。
その輝かしい光がすべての霊魂を清めた。
聖母の取次ぎにょって救われた一人の罪人が現れた。
聖母は彼に声をおかけになった。
「母の涙があなたの魂を洗ったのです。
全能の神が支配される天にあなたを導きます」
聖母がお近づきになると、魂が寧え、私は脆いて、ただひたすら願った。
「どうか、おそばにおいてください」
悦惚としてつぶやく私に聖母は答えられた。
「安らかに限りなさい。
永遠の栄光の支配の中で目を覚まします」
私は聖母のお言葉をすべて理解してお膝の上でまどろんだ。
天使によってこの場所から天に'主が栄光の中で永遠に支配する天の王国に運ばれることを夢見つつ。