死後の世界―「あの世」とはなんとすごい世界なんだ
¥1,575
Amazon.co.jp




魔王祭


それから、私たちは堅固な岩に覆われた大洞窟へ下った。


強い山羊の異臭がそこから漂い、気味の悪い物音が聞こえてきた。


そこには裸の木が二、三本あるだけで、未知の化け物が上空を舞い'光景をいっそう無気味なものにしている。


随伴者は言った。


「今夜、サタンが年に一度の祭りを行います。
見るものを記憶に刻み付けなさい」


洞窟がゆっくり口を開-のを見ていると、炎の舌が突き出し、魔物たちが中から罪人を引き出した。


地上で非常に残忍だった者たちである。


サタンは、特定の罪人たちしか出席させず'残りは何世紀も待たされていた。


大祭はかつて善良な大天使だったサタンが、大胆にも神に反逆した日を記念して、年に一度行われている。


彼はこの祭りで気を紛らわしているが'天の永遠の至福を失ったことを思い出せば'彼のプライドを満たせるものは何もなかった。


一人の美女が洞窟から投げ出された。


髪は火に包まれ'両手を伸べている。


邪悪に満ちた目はサファイアのように怪しく輝き、燃える赤毛を頭の上で卵形に結っている


彼女は蛇のように地を這いながら岩陰に隠れた。


火の中から別の女が現れた。


髪は炭のように黒-、目は石炭のように燃えている。


彼女は悠々と最初の女に近づきその頭に手を置いた。


最初の女は岩場にしがみつき、震えながら泣いて、そこから離れない。


別の洞窟から背中を丸めた白髪と自髭へ濃い眉毛の老人が出てきた。


驚いたことに、二人の女に近寄ると、彼に付いていた魔物が柾れた。


彼は顔を上げて強い意志力で周囲を見回した。


目には並々ならぬ英知が見える。


静かに下を向-と胸が白い髭に覆われた。


それから憤怒に燃える魔物の一団が'別な年寄-を引き出して'背中を殴りつけた。


禿げた背の低い肥満体の老人である。


魔物は狂ったように彼を鞭打ち、蹴り'怒鳴った。


「何も信じなかったおまえ、地上の人生がすべてだと思い込んでいたおまえ、国を駄目にして、好きなだけ人殺しをしたおまえ。

それについて釈明しなければならないことを思いもしなかった。
ようやくわかったか。
サタン自らが'おまえのために、一番の苦しみをご用意くださった。
さあ、御前に行け」


それから、彼は'絶叫と騒音のする大洞窟に引いて行かれた。

私は洞窟の入口を見守った。

さらに一人が加わり、兎の横に立った。
彼は背が高く細面で、鼻はよ-整い、頬はこけている。


異様で恐ろしい姿の生き物の群れが、騒がしい洞窟から出てきた。


老人は顔を上げて身震いしたが、他の二人は顔を背けた。


そのときに、かすかな音が聞こえてきた。


音は次第に大きくなり羽ばたく音に変わった。


有翼の魔物の大群が、罪人たちめがけて飛んで来た。


全員は空中に移されてから、大きなロを開く洞窟に、まっ逆さまに投げ落とされた。


随伴の天使が言った。


「あなたはここで、もう一度一人になるのです。
勇気を持ちなさい。
何が起きても'私は近くにいます」


地下の玉座私の前で、非常に深く、暗い、切り立った崖がロを開いた。
谷底でちらちら火が燃えているのが見える。
降りるにつれて、火は次第に輝きを増し、強くなってきた。
最後に奇岩の並ぶ荒地に来た。

ほど遠くないところにも光の漏れる亀裂があり'そこに底知れぬ下り坂を見つけた。


そこを降りると'大通りが開けて、先に入口が見えた。

そこに近づくにつれ、鼓膜が破れるほどの絶叫がしてきた。


光の漏れてくる方へ歩いてゆくと'多くの入口のある大広間を見た。


サーカス場のような大広間の中央に立派な玉座があったが、非常に陰気で、金属のような黒いキューポラが天井についている。


言葉に表せないほど醜い魔物の群れが'ザワザワ音を立てながら'辺りをうごめいている。


そこは罪人の群れを一望できる大円形劇場で'全体を照らす大きな光の柱もあった。


黒い玉座の左で、ぎらぎらする赤銅色の髪の美女が'脚にもたれている。

やせていて、巨匠の手になる彫刻のように美しい。


黒い瞳をもつ気位の高そうな女がもう一人いた。


黒髪は黒い玉座に調和し、黒い瞳は大勢の視線に憤るかのように憎悪に燃えている。


彼女は巨匠が描-王家の血を引-婦人のように見えた。


サタンの祭-のために洞窟から引き出された女の姿も見た。

円形劇場の前は、罪人たちで混雑している。
彼らは普通の罪人ではない。


もっともひどい罪で人生を汚した者たちで、階級はなかった。


みな同罪だったからである。


私はまた、不愉快なハゲの男と弟子を見た。

彼は生粋のポーランド人で、まさしく獣だった

また、悲しげな顔の白髪の老人を見た。

この人は次の聖書の言葉を思い出しているようだった。


「私を信じるこの小さい者たちのl人にでも、蹟きを与えるような者は、大きい石臼を首にかけられて、湖の深みで溺れ死んだほうがましである」 


彼は地獄に来てはじめてこの言葉の意味を知ったのだ。