社会保障と税を考える(20.社会保障を充実するか削るかの議論が欠けている) | 霞が関公務員の日常

社会保障と税を考える(20.社会保障を充実するか削るかの議論が欠けている)

 以上、社会保障について、連載12回を費やして長々と述べてきました。
 ここまで書いてきたことをまとめておきます。



1.ここまでの連載のまとめ
(1)プライマリーバランスの黒字化のため、景気回復とデフレ解消を実現してもなお、20兆円(GDP比4.2%)分の支出カットまたは増税が必要


4.消費税10~15%分の収支改善と、経済成長が必要  



(2)社会保障以外の支出カットは、どれだけ徹底的にやっても3~4兆円が上限


5.「200兆円組替えで20兆円」「天下り12兆円」は嘘  

6.社会保障以外のカットの上限は3~4兆円



(3)年金(給付額約50兆円)は、2階部分が保険という本来の機能に比べて大きく、削る余地がある
 政府は、現行制度をベースに約15%の給付カットと約35%の負担増を決定済で、今後ともその形での制度の維持は可能。
 現行制度をベースとしない抜本改革案(積立方式化、基礎年金税財源化、2階部分の掛け捨て)もあり得るが、練り込み不足で対案となり得ていない。


9.年金の本質から見て大きめな2階部分

10.年金制度は破綻していない……と思う

11.「抜本的な年金改革案」は練り込み不足


(4)医療・介護(給付額約40兆円)は、現在の規模は小さすぎ、拡大は不可避
 政府は、現行制度をベースにした「効率化」による費用抑制を決定済で、今後ともその形での制度の維持は可能。
 「効率化」を超える、現行制度をベースとしない抜本改革案(高度医療の自由診療化、少額部分の保険免責制)もあり得る


12.日本の医療、介護の規模は小さすぎる

13.医療費抑制の行き着く先は混合診療か保険免責制


(5)生活保護(給付額約3.5兆円)は、見直す余地は大きいが、大きく拡大傾向で、年金・医療に比べ絶対額も小さいので、財政収支改善への寄与は期待できない
 政府は、現行制度をベースにした生活保護の「適正化」による費用抑制を決定済で、今後ともその形での制度の維持は可能。
 「適正化」を超える、現行制度をベースとしない抜本改革案もあり得る。その形は、セーフティネットの拡大・抑制のどちらを目指す場合でも、BIや負の所得税的な発想から生まれるものとなりそう(なお、BIや負の所得税そのものの実現は困難)。


14.諸外国より小さい生活保護、低い捕捉率と高い給付額
15.生活保護、抑制すべき? 拡大すべき?
16.ベーシックインカムは数字上は実現可能
17.ベーシックインカムは現実には不可能、老人・子供限定なら可能
18.負の所得税の3類型、消費税還元、生活保護代替、ワープア支援
19.負の所得税はかな~り不条理


2.まとめのまとめ
 これをさらにまとめると、


(1)景気回復と社会保障以外の徹底した支出カットを前提にしてもなお、16~17兆円の財政収支の改善(=増税と社会保障の支出カット)が絶対に必要


(2)政府の社会保障の見直し案は、現行制度をベースにした「効率化」「適正化」。16~17兆円はそのまま増税で確保することを想定(消費税にして8%相当)。


(3)年金、医療、セーフティネットのいずれにも、現行制度をベースにしない、支出カットをさらに追求した抜本的な代替案があり得る。
 具体的には、年金:基礎年金を税財源化して2階部分を大幅縮小、医療:自由診療化や保険免責制で自己負担を増やす、セーフティネット:個々人のニーズに応じた支援から低額一律の現金給付への移行、といった形。


ということになります。



3.「社会保障は充実すべきか徹底的に削るべきか」という本質的な議論が必要
 おりしも先日、消費税の増税と社会保障の改革についての法案が、衆議院で可決されました。


 小沢氏の造反とか、自民党と民主党の社会保障改革案の違いとか、景気回復やデフレ解消やシロアリ退治が優先とか、そういうことには私はあまり興味が持てません。


 どの政治家も、社会保障は充実している方がいいという共通の前提のもと、いつ増税するかという技術的なくだらない議論をしているようにしか見えないからです。

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 景気回復やデフレ解消が実現し、政府のシロアリ退治が徹底されるという最もハッピーなシナリオに立っても、現在の社会保障を基本的に維持する前提ならば、少なく見積もっても消費税8~10%分程度の増税は不可避(さらに年金と医療の保険料も増える)です。


 技術的でない本質的な議論として、社会保障は維持・充実するのか、徹底的に削るのかという主張を戦わせることが重要だと思います。


 私は、社会保障は維持・充実すべきという意見(効率化、適正化でムダを削減するのは当然にやるとして)で、徹底的に削るべきという意見には反対です。


 世論の大勢も社会保障の維持・充実を求めていると思いますが、徹底した削減を求める意見もある程度の支持者がいそうなのに、政治的な力にならず、政治の場で本質的な議論がなされないことを、とても残念に思っています。


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 以上、社会保障については終わりです。


 次回からは、社会保障の見直しが維持・充実の方向に止まり、16~17兆円をそのまま増税で確保することになったという前提のもとで、税制について考えてみます。