社会保障と税を考える(4.消費税10~15%分の収支改善と、経済成長が必要) | 霞が関公務員の日常

社会保障と税を考える(4.消費税10~15%分の収支改善と、経済成長が必要)

 さて、今回は「歳入と歳出のギャップ」=「プライマリーバランスの赤字の額」がどの程度なのかについて。

 2011年1月に内閣府が発表した、「経済財政の中長期試算 」という資料を分析していきます。


 内閣府はいわゆる「官庁エコノミスト」の集団で、学究肌の人が多いです。
 財務省のような「増税したい」という意図は(あまり)持っていませんので、信用してもらって大丈夫だと思います。



1.収支ギャップは、慎重シナリオでGDP比▲4.2%、成長シナリオで▲2.5%
 収支のギャップは、経済成長がどの程度になるかで異なってきます。
 内閣府の資料では、次の2つのシナリオを置いて試算しています。


○慎重シナリオ
 GDP成長率は、実質で約1%、名目で約1.5%(物価がその差の0.5%上がる)


○成長戦略シナリオ
 GDP成長率は、実質で約2%、名目で約3.5%(物価がその差の1.5%上がる)


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 「実質」と「名目」の違いを家計で例えると、年収1,000万円の人が翌年1,100万円になったら、名目では10%成長、その一方で物価が3%上がっていたら、実質では差し引いて7%(正確には110÷103=1.068)。

 単にGDP成長率と言えば「実質」を指し、経済学的にはその方が正しいのですが、家計の例でも分かるように、名目の方が実感に近いという意見もあります。

 例えば、2000年代に、名目GDPは503兆円から479兆円に4.7%減りましたが、物価が11.2%下がった(←デフレ)ので、実質GDPは7.3%増加しています。
 給料が503万円から479万円に4.7%減ったけど、お米もパソコンも11.2%安くなったから、7.3%豊かになったと思えますか、というお話。


 また、歳入は消費税増税のような特別な増減税はしない前提で、歳出は社会保障支出が高齢化要因の分だけ増加、それ以外は横ばいという前提を置いています。


 それぞれの場合のプライマリーバランス(基礎的財政収支)が、次のグラフ。


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 2020年時点で、慎重シナリオの場合でGDP比▲4.2%(赤字)、成長戦略シナリオの場合で▲2.5%


 グラフのタイトルが「国と地方の基礎的財政収支」とあるように、この数字は国と地方自治体の合計。経済学的には国家政府と地方政府を分ける意味はないので。
 いちおう国と地方に分けた数字も書いておくと、慎重シナリオで国▲4.6%、地方+0.5%、成長戦略シナリオで国▲3.2%、地方+0.7%です。


 プライマリーバランスが赤字なので、当然、借金の残高のGDP比は増加していきます。


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2.「慎重」の▲4.2%は消費税10.5%分、「成長」の▲2.5%は6.3%分
 次に、慎重シナリオのGDP比▲4.2%、成長戦略シナリオの▲2.5%を、単純に消費税増税だけでまかなうとすると、税率何%分に当たるかを試算します。
 内閣府の資料にはなく、私が超適当に試算したので、信用性は落ちますが。


 消費税は1%で2.5兆円の税収があります。GDPは約500兆円なので、GDPの1%(5兆円)は消費税2%分ということですね。
 したがって、慎重シナリオの▲4.2%は消費税8.4%分、成長戦略シナリオの▲2.5%は消費税5.0%分となりそうですが、そう単純ではありません。


 消費税を1%増税しても、1%分まるまるプライマリーバランスは改善しません。
 その理由は2つ。1つは、増税による経済成長の低下、もう1つは、政府も消費税の支払分の支出が増えるからです。


 これが数字としてどの程度の影響なのかは、私には試算は難しいです。


 ただ、後者については推測はできます。今回の消費税5%増税の政府案では、1%分は消費税増税に伴う支出増に充てるとされていました。
 つまり、プライマリーバランスを消費税4%分改善するには、5%の増税が必要ということ。


 それを単純に比例させると、慎重シナリオは消費税10.5%分、成長戦略シナリオは6.3%分となります。

 実際には、増税による経済成長の低下を相殺する必要もあるため、もうちょっと大きくなるでしょうが。



3.経済成長とデフレ解消が絶対に必要
 消費税10.5%分とか6.3%分とか聞いて、どう思われたでしょう。
 いろんな感想があるでしょうが、「思ったより小さい増税で足りるんだなぁ」と感じた人も多いのではないでしょうか。少なくとも私はそうです。


 理由は2つ。1つは、プライマリーバランスが±0で十分としているから。
 実際には、GDP比200%に近い債務残高があることを考えれば、数兆円程度は黒字にする必要があり、消費税率にして2~3%は上乗せが必要でしょう。


 となると、必要な消費税の増税は、6.3~10.5%に2~3%を足して、さらに基礎年金の国庫負担1/3→1/2に必要な1.5%を加え、10~15%。

 このように、現行の規模の社会保障を維持するとして、それを消費税増税だけで賄うなら、10~15%増税して15~20%にすることが必要と想像しています。


 もう1つは、経済がそれなりに成長し、デフレも解消する前提になっているから。
 仮に、経済成長がゼロとかデフレが今後も続くというシナリオがあったら、超悲惨な数字になっていたと思われます。

霞が関公務員の日常 ←「超悲惨」のイメージ画像


 プライマリーバランスの改善に経済成長が絶対に必要であるのは、過去のデータを見るだけで容易に推測できます。


 「国・地方の基礎的財政収支」と「実質成長率」のグラフを並べて見てください。

 2003年から2007年にかけての「小泉・竹中路線」による構造改革の時代、成長率は2%前後を維持し、その間にプライマリーバランスは急速に改善しています。


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 私は、消費税の増税は必要だと思います。しかし、それと同等かそれ以上に、経済を持続的に成長させることが必要なのは明らかです。

 今回の連載で消費税増税を語るならば、経済の成長に向けた戦略も同じ分量だけ語ってしかるべきだと思います。


 しかし残念ながら、それを語る能力は私にはまったくありません。
 したがって、ここで「経済成長が絶対に必要だ」と10回繰り返すことで、それに代えることといたします。


「経済成長が絶対に必要だ」
「経済成長が絶対に必要だ」
「経済成長が絶対に必要だ」
「経済成長が絶対に必要だ」
「経済成長が絶対に必要だ」
「経済成長が絶対に必要だ」
「経済成長が絶対に必要だ」
「経済成長が絶対に必要だ」
「経済成長が絶対に必要だ」
「経済成長が絶対に必要だ」



4.まとめ
 今回のまとめは2点。


(1)消費税率にして10~15%相当の収支の改善が必要
 2020年時点のプライマリーバランスの赤字は、消費税にして6.3~10.5%相当。
 既に多額の債務があり、数兆円の黒字が必要であることなどを考え合わせると、消費税率10~15%相当の収支の改善が必要。


(2)経済成長が絶対に必要
 増税は、増税してもなお経済成長を持続できて、初めて意味がある。


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 みなさんどう感じますか?

 私の感覚では、深刻だけど絶望的ってほどでもないんだね、という感じ。


 ちなみに財務省は、「日本の財政関係資料」というパンフレット の中で家計に例えて次のように説明しています。


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 ローンの元利払いも収入の範囲内で賄う必要がある印象を与えていて(それが間違いとは言わないが)、やや絶望感を強調しすぎと感じます。


 大仰に破綻だリセットだと騒ぐ必要はなくて、地道な収支の改善と経済成長の両立を追い求めれば、そこには狭いながら十分に道はあると感じています。