ジョン・S・ベアード監督、ジェームズ・マカヴォイ主演の『フィルス』。R18+

原作は「トレインスポッティング」のアーヴィン・ウェルシュ




Clint Mansell & Coco Sumner - Creep
“Creep”は『ソーシャル・ネットワーク』の予告でも使われてました。Creepとは「キモい奴」という意味。


クリスマスシーズンのスコットランド。刑事のブルース・ロバートソン(ジェームズ・マカヴォイ)は妻キャロルの望みどおり警視昇進を狙っている。そんな中、日本人留学生殺害事件を担当することに。ここで点数を稼いでおけば昇進がさらに確実なものとなる。しかし彼はアルコールとヤクに溺れる最低のクズ(フィルス)だったので、同じく昇進を目指す同僚たちに嫌がらせを繰り返すのだった。


ジェームズ・マカヴォイについては、初めて彼を観たのはTVドラマ「デューン 砂の惑星II」。映画では『ナルニア国物語 ライオンと魔女』。

X-MEN:ファースト・ジェネレーション』と『声をかくす人』がよかったので(『ウォンテッド』は個人的には不満)、最新作にも興味が湧きました。

ちょっと前に公開された『トレインスポッティング』のダニー・ボイル監督の新作『トランス』は未見なので、久々に観る主演作。

知らなかったんだけど、18禁のようで。

予告篇も観てなかったけどどうやら汚れ役ということで、これまでわりと真面目なキャラのイメージが強かったのでどんな演技を見せてくれるのかと楽しみにしてました。

18禁ってことは、さぞかしエロかグロ満載なんだろうなぁ、とそちらも期待して。

この映画はけっこう人気があるようで、しかもお姉さまがたがこぞって褒めていらっしゃる。

なるほど、マカヴォイヴォイ人気あるなーと。

んで、観たんですが。

以下、ネタバレがありますのでご注意ください。



原作は読んでいません。

だから映画についてのみ述べます。

んー。

まず、残酷シーンというのは特にない。

じゃあ、エロの方はというと…コピー機で直撮りした大小さまざまな大きさのチ○コが映りました。

R18の理由ってこれかよー!!!(>_<)

しょうがないんで、マカヴォイが演じる最低のクズぶりを堪能させてもらおうじゃないか、と思ったのだが。

 


…うん、最低の男でした。まさしくクズだった。

主人公ブルースは警視への昇進レースで同僚たちを蹴落とすためにありとあらゆる卑劣な手を使う。

どうやらそれらが笑いどころのようなのだが、そしてみなさん「大笑いした」と仰ってるんだけど…ううん…そんなに可笑しい、かな(困惑)。

確かにときどきクスリとすることはあったけど。

この映画は“クライム・コメディ”と紹介されていて、堕落した悪徳刑事の話を軽ーいノリで描いてて、そこんとこを笑う作品なんだということはもちろんわかる。

僕も悲惨だったり、もはや笑うしかない、というところまで主人公や登場人物たちを突き放した作品というのを想像していた。

だけど観終わって、何やら妙に単純な教訓話だったように感じられて。

鏡の中の自分の顔が醜いブタに見えるというのも、なんともわかりやすい。

調子に乗ってた奴が最後におのれのクズさを思い知って、首くくって死ぬ。

「俺を反面教師にしろ」とメッセージを残して。

そんだけ。

演じてるのがジェームズ・マカヴォイというのがミソで、彼がつねにアルコールとクスリを摂取しては同僚たちを陥れ、彼らの妻ともハメまくりイタ電かけたり好き勝手やる様子を愛でる、そんな映画ということだろうか。

この映画を褒めまくってる女性が思いの他多いのも、マカヴォイの調子コキぶりと作品を包むテンポのいいポップな味つけが彼女たちを魅了するんでしょう。

わからないので想像で言ってますが。

ダニー・ボイルが監督した同じ原作者による『トレインスポッティング』は、僕はかなり昔にヴィデオで観たきりなんで内容はよく覚えていないけど、やはり無軌道な若者たちがヤクに溺れていく様をアップテンポで描いていたと記憶している。

流れる音楽が気持ちよかった。

『トレインスポッティング』(1996)
出演:ユアン・マクレガー ケリー・マクドナルド ユエン・ブレムナー ロバート・カーライル




で、この『フィルス』もバカが無茶をやる映画だというのは観る前にわかってたからそこに期待していたにもかかわらず、観ていてなんとなく不快感が募ってきた。

その不快感はもちろん主人公のクズっぷりのせいだが、何がイラ立つって、そういうクズにもそうなるわけがあったんだ、みたいな理由付けをしてるところ。

冒頭から彼の妻キャロルが登場するのだがそれはどうもイメージ映像のようで、主人公のブルースは妻と幼い娘を失ったらしいことが次第にわかってくる。

 


そのせいで酒やクスリに溺れるようになったということか。

途中まではキャロルは亡くなったのかと思っていたのだけれど、しかしどうやら死んだわけではないことが終盤になって判明する。

警視への昇進を望んでいたのはキャロルではなかった。

映画の冒頭で網タイツを履いた挑発的な格好をして夜道を歩いていたのは、キャロルのことが忘れられないブルース自身であった。

キャロルは娘を連れてみずからブルースのもとを去っていた。

ブルースが自暴自棄になっているのはそのせいだが、映画のラスト間近で彼がスーパーマーケットでキャロルと再会する場面での彼女の怯えた表情と新しい夫らしき男性の反応から、二人の別れのときにはひと悶着あったのだろうと想像できる。

僕はキャロルのあの態度からブルースは以前から問題を起こしていたのだろうと思ったし、彼は子どもの頃に嫉妬心から幼い弟を死なせているので、やはりいきなりある日を境に転落したのではなく、もともとかなり「クズ」の傾向があったのだろう。

だから観ていて何一つ彼に同情心が湧いてこない。

だって奥さんや可愛らしい娘がいて警察でもうまいことやってる、まったくもって恵まれた環境にいたのに、心の弱さ、というより人間性に問題があったためにそれをフイにしてしまうなんて、最初から劣悪な環境で育ったバカよりもよっぽどたちが悪い。

映画評論家の町山智浩さんが仰るように、映画というのは別に道徳を教えるものではないので、バカや『スカーフェイス』のアル・パチーノみたいな基地GUYが無茶やって反省もせず自滅していく作品があったってそれはかまわないと思う。

キューブリックの『時計じかけのオレンジ』みたいに、一見暴力を肯定しているような刺激的な映画だってある。

そういう作品を観ることで自分の中に鬱積したものをなんとか誤魔化して生きている類いの人間もいるのだし(って、俺のことか)。

ただ、それはどこか悪徳への憧れや憂さ晴らしなど、現実にはできないからこそ映画の中で描かれる傍若無人で破壊的な行為に溜飲を下げられるんであって、ブルースのようにただただ自分よりも知恵が回らない相手に裏で陰湿な嫌がらせをする様子を見せられても、弱い者いじめしてる同級生を眺めているようで面白くもなんともないのだ。

これのどこが笑えるんだろう。

観ていてスカッとする暴力シーンもないし(ブルースが日本人留学生殺害の犯人を窓からぶん投げる場面は爽快だったが)。


あと、この映画でブルースや一部の仲間たちは女性を性的奴隷のように扱ったり黒人やゲイ、そして殺された日本人留学生(「トラブルは探してません」などとカタコトの日本語を喋る。「問題は望まない」という意味か?)をコケにしまくるんだけど、ゲイをあれほど見下して差別しまくってたブルースは映画の終盤になって女装した“ヒゲガール”姿で男とベロチューするし、キャロルの新しいダンナは黒人の男性である。

さんざん性の捌け口にしてきた女性たちからも、しっぺ返しを食らうことになる。

このように物語は因果応報的な結末を迎えるのだが、日本人留学生への「たかがジャップ」「スシ野郎のことなんか知ったことじゃない」という侮辱についてはほっとかれたままだ。

スコットランドの警官にとっては、日本人が殺されようがどうなろうが興味がないということ。

イギリス映画って差別的な表現をストレートに描く傾向がある気がしていて、それがポリティカル・コレクトネスを気にする偽善的なハリウッド映画と違う、と褒めそやされてたりもするようだし(この辺、僕の勝手な偏見が入ってます)、“コメディ”にいちいち文句つけるのは野暮だと思われるかもしれないけど、なんかさぁ、あのジェームズ・マカヴォイの口から日本人に向かって「スシ野郎」とか言われると僕は少なからずショックだったんですよね。

仮にもX-MENで人類とミュータントとの協調と平等な世界の実現を説いてきたプロフェッサーXを演じた人なんだしさぁ。

いや、もちろんどちらもフィクションですけども。

この映画に出てくるイギリス国歌やフリーメイソンなんかで先だって再結成のニュースがあったコメディ集団モンティ・パイソンを思い浮かべたりもするけど、パイソンズはイギリス人もスコットランド人もその他の外国人も金持ちも貧乏人も健常者も障害者もヘテロもゲイも都会の人間も田舎の人間も、王族から平民まですべての種類の人間をコケにしまくってたから可笑しかったんで、日本人だけを一方的に見下したまま放置されるのはとても不愉快だ。

差別するなら平等に差別しろよな。

まぁ、理想を掲げるアメリカ人と違って現実を極めてペシミスティックに見ている、というのもイギリスだのスコットランドだのに住む人間の特徴なのかもしれないけど。

奴らが日本人と中国人の区別がつかないのと同様に、僕にもイギリス人とスコットランド人の区別なんかつかないし、興味もないんでどうでもいいんだが。

差別は歴然としてそこに存在する、とでも言いたいんだろうか。

でも、映画なんだから、フィクションなんだから何言ってもオッケーだとは僕は思わない。

しゃちほこばった“社会派映画”なんかよりも、何も考えなくてもいいような娯楽作品の方にこそ、しばしば送り手の思想や信条が含まれるものなのだから。

原作者や映画の作り手たちはどういうつもりがあって劇中でチンピラにわざわざ日本人の留学生を殺させて、おまけに警官たちに差別的な言葉を吐かせてなんのフォローもなくそのままにしておいたのか、とても気になる。


ともかくこうして自分のことをヤリ手だと思い込もうとしていた男が、最後にはいじめていた人々に同情までされて、結局自分こそがもっとも「クズ」だったことを思い知る。

いつも年増扱いして見下していた女性の前で弱音を吐いた途端に相手が冷めて「人生は残酷なのよ」と言い捨てられたり、同僚で犬猿の仲の女性刑事には「あなたはクズよ」「しっかりしてよ」と言われたり。

過剰に調子に乗ってたり強がってる奴が実は内心不安に怯えている、というのはよくあることで、やたらとチン○の大きさを気にするのも自信のなさの表われでしょう。

コピー機で自分のイチモツを拡大コピーする場面なんかは、ブルースという人間のすべてを物語っている。

興味深いことに、映画の中でブルースはまわりの女性たちを次々と攻略していくのだが、夫を亡くしたメアリー(ジョアンヌ・フロガット)以外では、唯一女性刑事のアマンダ(イモージェン・プーツ)にだけは手を出さない。

 


彼女は他の女性たちよりも若くて美人であるにもかかわらず。

ブルースは、アマンダは昇進のために上司のボブ(ジョン・セッションズ)にカラダを使って取り入っていると思い込んでいる。

「男が下半身を出すと捕まるが、女が出すと出世する。不公平だ」(似たようなこと言ってるバカが日本にもいますが)

自分の中の空虚さを埋めるために女を抱くが、彼女たちの人格は認めたくない。なので自己主張してくる女が嫌い。女はみんなすぐに股を開く“売女”だと思いたい。

この男のミソジニスト(女性嫌悪主義者、女性差別主義者)ぶりがうかがえる。

後半でのブルースとのやりとりから、アマンダは真面目で聡明な女性であることがわかる。

そんな優秀な刑事である彼女にブルースは嫉妬しているのだ。自分よりも頭がよさそうだから。彼女と自分を比べると惨めな気持ちになるから。


この映画を観て「泣いた」という人もいるようなんだけど、勝手に想像するに、それはブルース・ロバートソンという男の愚かしさの中に哀しみを見たからなのではないか。

ブルースの主治医であるドクター・ロッシはブルース自身の「良心」だろう。

ブルースは弟やキャロルを失ったことなどから孤独感や焦燥感にさいなまれて、それが彼を他者への迷惑極まりない行動へと駆り立てる、というふうに一応説明されている。

そしてブルースの良心の呵責が、彼が助けることができなかった男性の妻とその幼い息子への、とても同じ人間とは思えないような思いやり溢れる言葉と態度になって表われる。

ジェームズ・マカヴォイが見事に演じ分けてみせる、人の迷惑など顧みない最低のクズと、真剣に人の言葉に耳を傾けその人の助けになろうとする男の、同じ人間の中に共存する相反する性質。

そこに心打たれる、というのはわかる気はする。


マカヴォイが主演したことがこの映画の成功におおいに貢献しているのは確かだろう。

原作者はもっと中年のむさくるしい男性をイメージしていたらしい。

この映画でブルースが若者を小僧扱いしたりするところなど、もともとは「おっさんキャラ」だったのだと思えば納得がいく。

マカヴォイ見てて「あんただって小僧に見えますが?」と思ったもの。

ブルースの妻キャロルを演じるショーナ・マクドナルドはマカヴォイよりも年上に見えるし、同僚たちも若手のレイを除けば男性陣はブルースよりも年長の者ばかり。

だからその奥さんたちとのプレイも、まるで熟女マニアなのかと思ってしまうほど。

もしも主人公に原作者のイメージどおりのむさくるしい中年オヤジ的な俳優がキャスティングされていたら、お姉さまがたは果たしてこの映画をこれほどまでに支持しただろうか。

監督のベアードによると、ジェームズ・マカヴォイという俳優は映画の中のナイスガイなイメージとは違って、実際はけっこう険があったりそれなりにハードな人生も歩んできた人物らしい。


いかれた『フィルス』の愛すべき世界

もちろん役作りのためなんだろうけど映画の中でマカヴォイは身体がムチムチしていて、なんかおばちゃんみたいなポチャポチャした尻も披露している。

人によってはタマランのでしょうな。


ブルースがフリーメイソンの会合で出会ったビン底眼鏡の会計士クリフォードを、ロバート・ダウニー・Jr.主演「シャーロック・ホームズ」シリーズのレストレード警部役で知られるエディ・マーサンが演じている。

 


レストレードとは正反対の、つねに男性性を脅かされている気弱な男を好演している。

その妻で、ブルースから卑猥なイタ電をかけられ続けるバンティ役のシャーリー・ヘンダーソンは、「ハリポタ」シリーズで“嘆きのマートル”を演じてた人。

 


甲高い声の幽霊少女役だったけど、実は現在40代後半。

「ハリポタ」のときは素晴らしいコスプレっぷりだったけど、さすがに今回はトウが立ったおばさん役(でもやっぱり声は甲高い)。

ドクター・ロッシ役は『クラウド アトラス』のジム・ブロードベント

 


この人も最近映画で顔をよく見る。

ブルースの同僚でチン○の小ささを気にしているレイ役は、『リトル・ダンサー』のジェイミー・ベル

 


懸命にバレエダンサーを目指していたあの少年が、今ではコカイン吸って3Pやってる立派な大人になりましたw


観終わった直後には正直残念な気持ちでいっぱいだったんだけど、こうやって「俺はどこが不満だったのか」「これは何を描いた物語だったのか」などを検証していくうちに、なんだかよく出来た映画だったよーな気がしてきました。

でもティンコの映像はもういいや(^_^;)



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