ジョシュ・トランク監督、デイン・デハーンアレックス・ラッセルマイケル・B・ジョーダン出演の『クロニクル』。2012年作品。PG12



シアトルに住む高校生のアンドリューは、従兄弟のマット、パーティで知り合ったスティーヴと洞穴のなかで謎の物体を発見する。スティーヴがそれに触れた瞬間、彼らに不思議な力が宿った。3人は身につけた超能力でいたずらを繰り返すが、やがてアンドリューはずば抜けた力を発揮しだす。


ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『クローバーフィールド』などのファウンド・フッテージ、もしくはポイント・オブ・ヴュー(POV)と呼ばれる形式で作られた作品。

監督のジョシュ・トランクは、2007年にYouTubeに投稿した動画によって才能を認められたという。


Stabbing at Leia's 22nd Birthday



レイア姫の22歳の誕生パーティの最中にいきなりライトセイバーで斬り合いがはじまる、という、まぁ他愛ないっちゃ他愛ない短篇。面白いけどね。

でも、これで『ブレア・ウィッチ』の監督たちみたいなシンデレラ・ストーリーがはじまったんだから、ハリウッドはなかなか夢がありますね。

以前、ラジオで町山智浩さんのこの作品に対する高い評価を聴いていたので、日本でも公開されると知って楽しみにしていました。

しかし、当初は東京のみ2週間限定公開ということで、「ふざけんな」と思ってたところ、評判がいいので地方でも拡大公開されることに。

で、さっそく公開初日に行ったら…なんとすでに満席で入れず。

そこそこ客席数もあるシネコンでまさか売り切れで入れないなんて想定してなかったので、おもわず受付のおねえさんに「マジでっ!?」と聞きかえしてしまった。

しかも1日1回の上映だからこの回が観られなきゃアウト。観る気まんまんでいたところをおもいっきり腰骨へし折られた気分で、脱力しながらすごすごとシネコンをあとにしたのだった。

なんじゃあそりゃあ!!!

まぁ、土曜だったし連休の初日ということもあって、運が悪かったとしか言いようがないが。

結局、日をあらためて鑑賞。

正直、この手の映画って画質が荒くて手ブレし放題だしすっごく観づらいので好きじゃなくて、『クローバーフィールド』以来、話題にもなった一連の心霊モノとかもまったく観ていない。

この『クロニクル』も、映画がはじまってしばらくはそういった従来の手法が使われている。

ただ、途中から使われるキャメラの性能が良くなるんで画質は気にならなくなるし、非常にユニークな方法でキャメラが登場人物たちを写しつづけるので手ブレについても解消。

そんなわけで、僕とおなじく『ブレア・ウィッチ』や『クローバーフィールド』がシンドかった人もこの映画は大丈夫なんではないかと。

では、これ以降はネタバレがありますので、お気をつけください。



これはよーするに、“童貞こじらせ映画”である。

つねにヴィデオキャメラで自分や人を撮影しつづけているアンドリューは冴えない少年で、学校でも同級生たちにからかわれたりキモがられたりしている。

家では親父はケガで職をうしなって飲んだくれて息子に暴力をふるう。

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母親は重病で寝込んでいるが、薬を買う金にも事欠くありさま。

アンドリューには友だちがいないが、最近になって従兄弟のマットとつるむようになった。

でも、マットに連れられてクラブのパーティに行っても、女の子に声かけるどころか黙々とキャメラ回してて居合わせた男に小突かれてベソかいたりしている。

このように彼の生活は閉塞感に満ちていたが、パーティの夜、マットと彼の友人のスティーヴとともに洞穴のなかで謎の物体を発見してから一変する。

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何一つ自慢できるものがなかったアンドリューに、超能力が備わるのだ。

いじめられっ子と超能力。

なんか最近似たような映画を観たな、と思ったら、スーパーマンを描きなおした『マン・オブ・スティール』がまさにそれだった。

僕は『マン・オブ・スティール』という映画は「中坊が見た妄想」、つまりものすごく金かけた『中学生円山』だと解釈してるんですが(^o^)

僕が観たかったものをことごとくハズしてくれたということでは、なかなか罪深い作品だと思っています。

どちらも「ヒーロー誕生譚」だが、『クロニクル』にはマンスティに決定的に欠けていたものが描かれていた。

それが観られただけでも僕は満足ですね。


また、『マン・オブ・スティール』では、自分をいぢめる地球人たちを信用せず33歳まで「自分探し」をしていた主人公が最後に人類を救うためにたたかうことを決意する、という展開にまるで説得力がなかったけど、この『クロニクル』では少年の自意識の肥大と暴走、その後の悲劇的なカタストロフという形で挫折とその克服、厨二病からの決別が描かれている。

自意識過剰で人づきあいが苦手でおまけに童貞のアンドリューと、哲学書を読みまわりの人間たちに適度に自分を合わせることもできるし女の子ともヤることはやるマットは、若者の2つのタイプをあらわしているが、あるいは「一人の人間の成長前と成長後」ととらえることも可能なんではないだろうか。

3人のなかでも一番明るくて人当たりが良く、いじめられっ子のアンドリューにもまったく偏見がないスティーヴは、ある意味「理想の大人」の姿かもしれない。

スポーツマンでカノジョもいるし交友関係も広いスティーヴがアンドリューたちとつるんでいるのは、彼が誰とでも屈託なく付き合える大人で、おなじ超能力仲間だからでもある。

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スティーヴとマットが二人で未熟なアンドリューの成長をうながしている感じ。

だがしかし、そのアンドリューにとって貴重な友人であるスティーヴは映画の終盤で退場することになる。

怒りを抑えることができないアンドリューは、そのせいで彼を心配して空まで追ってきたスティーヴを死なせてしまう。

スティーヴの墓の前で後悔の涙を見せるでもなくキャメラを廻しつづけるアンドリューは、なにかが決定的に壊れている。

マットでなくても、そんな彼を怒鳴りつけたくなるだろう。

なにしろ、この映画でアンドリューがダメになるきっかけが童貞喪失の失敗なのだ。

一人の人間がヤケをおこして壊れていくのに、これほどアホみたいな理由があるだろうか(;^_^A

スティーヴとマットの計らいで、空を飛び、物を自由自在に動かす超能力を利用して、学校のイヴェントで手品を披露するアンドリュー。

それまで彼を小バカにしてあざ笑っていた同級生たちは、手のひらをかえしたように褒めそやす。

ホームパーティではカワイ子ちゃんまで声かけてくるし。

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得意満面のアンドリューを見ていたら、嫌な予感しかしない。

案の定、ついにその子とベッドイン!というところで、アンディはなんとゲロ吐いちゃうのだ。

大失態(>_<)

そんで、またいじめられっ子に逆もどり。ゲロ吐き男としてバカにされることに。

もちろん童貞のまま。

たしかに同情はします。でも悪いけど笑ってしまう^_^;

いつも思うんだけど、アメリカの学校って苛酷ですね。学校だけじゃないんだろうけど。

弱い立場の者が一気にスターダムにのし上がるチャンスがある反面、ちょっとした失敗ですべてをうしないもする。

つねに自分を“クール”に見せていないと、あっというまにナメられて笑い者にされる。

人に対する周囲の評価があんなふうにコロコロ変わるんじゃ、おちおち安心して学校にも通えないよなぁ。

つくづく日本に生まれてよかったと思います。


さて、いいかげんブチギレたアンドリューは怒りに歯止めが効かなくなり、超能力を使っていじめっ子に仕返しをする。

童貞を捨てるのに失敗したことにくわえて、父親からマットとスティーヴのことを「あいつらがほんとに友だちだと思ってるのか?お前はコケにされてるだけだ」と言われてさらに錯乱。

息子の口ごたえに腹を立てて殴りかかってきた父親をぶちのめす。

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そしてスティーヴの死。

母親の薬代を手に入れるために近所のチンピラを襲い、ガソリンスタンドに押し入ってレジの金を奪うが、店主のライフルを“力”で飛ばしたら火薬がガソリンに引火、爆発して大怪我を負う。

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入院先に父親があらわれて、息子のことで涙しているのかと思えば「お前がいなくなって探してるあいだに母さんが死んだ。お前のせいだ。謝れ」とベッドに横たわってる息子を責め立てる。

すいません、僕がアンドリューだったらその場でこの親父の息の根を止めてますが。

アンドリューはお世辞にも賢いとはいえないけど、それでもよくここまで耐えてきたなぁ、と思う。

もしも僕が彼の立場なら、とっくの昔に父親やいじめっ子、近所のチンピラたちを“力”で懲らしめてるもの。

ずっと自分を抑えつづけてきたからこそ、いったんキレると行くとこまで行ってしまう。

病室を破壊して親父の首根っこつかんで宙に浮かぶアンドリュー。

それに気づいたマットはアンドリューのもとへ。

「俺は頂点捕食者だ!」とかわけわかんないこと言って暴れだすアンドリューは、小学生のときにいじめられっ子だったのが中学にあがっていきなりヤンキーデビューする奴や、厨二病がマックスにまで達してついに通り魔と化すキ○ガイみたいだ。

自分は生態系の頂点に君臨する選ばれた者である、ということを延々とヴィデオキャメラに向かって力説するあたりもかなり重症。

その後の展開は、大友克洋監督の『AKIRA』をおもわせる。

アンドリューを演じるデイン・デハーンは鉄雄みたいな「デコ助野郎」だし(前髪クネ男にも似てますが)。

監督も『AKIRA』の影響について言及している。

パシフィック・リム』につづいて(って、作られたのはこっちの方が先だが)またしても日本の文化遺産はハリウッドによって見事に実写化されてしまいましたな。

後半のスペクタクルもそうだけど、とにかく人が宙に浮いたり空を飛ぶということの不思議さをあらためて映像で実感させてくれた作品でした。

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もっともっと派手な場面が登場する映画はほかにたくさんあるけど、こういうふうに丁寧に映像を作り上げてるものはそれほど多くない。

なかなか見ごたえある映画でしたよ。

クライマックスのたたかいを見ていると、マットはほとんどアンドリューと対等の力を持っていることがわかる。

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ちなみに、マット役のアレックス・ラッセルはクロエ・グレース・モレッツ主演の2013年版『キャリー』で、クロエ演じる主人公のキャリーをヒドい目に遭わせる男ビリーを演じている。

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『クロニクル』でのマットとはまるっきりキャラが違うので、とても同一人物とはおもえない。

名優の気配のする若手俳優ですね。

いじめられっ子と超能力を描いた『キャリー』の内容は、『クロニクル』と大いに通じるものがありますが。

アンドリューは「俺が一番強い」と厨二病全開でイキってたけど、マットは大人だから自分の力を人に誇示することはなくて、アンドリューが“力”によって自分の取り柄をみつけて自信をつけるのを見守っていたんだろう。

残念ながらアンドリューは器以上のチカラを手に入れてしまったために、それを制御できなくなる。

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もう、アンドリューのイタさには涙を禁じえなかった。

さすがに僕は思春期にあそこまで追い込まれてはいなかったけど。

最終的には大破壊が繰り広げられはするのだけれど、それでも観終わってどこか清々しいのは、これが思春期の恥ずかしい失敗や情けない経験、とりかえしのつかない過ちなどを描いたまぎれもない青春映画だったからだ。


主演のデイン・デハーンは、『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』でも似たような感じの暗い目をしたいじめられっ子役だった。

若い頃のディカプリオや『ターミネーター2』のときのエドワード・ファーロングのようなちょっと陰のあるまなざしがいいですな。

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童貞役ばっか演じてるけど^_^;

今回も高校生役だし童顔なのでふつうに10代に見えるけど、じつは26歳でわりといい年なんだよな。

実際の彼はモテモテですでに彼に目をつけたニッポンのおねえさんたちもハァハァしてるみたいだし(若くしてすでにおでこの後退が心配ではあるが)、今後のさらなる活躍が楽しみですね。

そして若干29歳のシンデレラボーイ、ジョシュ・トランク監督の次回作にもおおいに期待しています。



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