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ブルーバレンタイン』のデレク・シアンフランス監督、ライアン・ゴズリングブラッドリー・クーパーエヴァ・メンデスデイン・デハーンエモリー・コーエンレイ・リオッタマハーシャラ・アリローズ・バーン出演の『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』。2012年作品。PG12



The Snow Angel


ニューヨーク州の町スケネクタディ。移動遊園地でバイクのスタントショーの巡業をしているルーク(ライアン・ゴズリング)は、かつて一夜をともにしたロミーナ(エヴァ・メンデス)と再会する。彼女にはルークとのあいだに1歳の息子ジェイソンがいた。わが子の存在をはじめて知ったルークは、意外な行動に出る。


ライアン・ゴズリングがライダーを演じる映画、ということで、なんとなく『ドライヴ』っぽい雰囲気の作品なのかな、と。

じっさい観る前は、てっきり『ドライヴ』の監督ニコラス・ウィンディング・レフンの最新作だと思っていた。

そしたら、これもライアン・ゴズリング主演の『ブルーバレンタイン』のデレク・シアンフランスの新作でした。

そうすると、『ブルーバレンタイン』がそうだったようにストーリー性が希薄な映画なのかと思いきや、これがけっこう意表を突く展開のあるじつに面白い作品で。

そんなわけで、この映画はなるべく予備知識がないまま観た方が楽しめると思うので、ちょっとでも興味があるかたは、ぜひ劇場に足を運んでみてください。

とりあえず、ライアン・ゴズリングかブラッドリー・クーパーのファンなら必見です。

上映時間は141分。でも長さは感じさせない。

ちなみに、バイクとパトカーのチェイスシーンはあるけど、アクション映画ではありません。

では、これ以降は『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』および『ブルーバレンタイン』のストーリー上の重大なネタバレをふくみますのでご注意ください。



映画のタイトルの“THE PLACE BEYOND THE PINES”というのは、舞台となるスケネクタディ(アメリカ先住民のモホーク族の言葉で「松林の向こう側」という意味)の英訳なんだそうな。

冒頭でライアン・ゴズリング演じる“ハンサム・ルーク”が歩く後ろ姿がしばらく映って、やがて彼は鉄球のなかにバイクとともに入り、仕事仲間たちといっしょにものすごい速さで内部を走りつづける。

この場面だけで「うぉ、かっけぇ!!」といっきにアガった。

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いいところで終わっちゃいますが。ちなみにこのワンカットのシーンは、ゴズリングがバイクに乗ってフレームアウトしたときにスタントマンと交代している模様。



まさに『ドライヴ』のバイク版といった感じでこの主人公がどんな活躍をみせてくれるのか期待が高まるのだが、エヴァ・メンデス演じる元カノ、ロミーナと1年ぶりぐらいに会ってから、ストーリーは思いもかけない方向に逸れていく。

元カノといっても、ひさしぶりに会ったルークにロミーナが「わたしのことおぼえてる?」とたずねるように、ふたりはいわゆる“行きずりの関係”だったのだが。

ロミーナには、ルークとのあいだにできた幼い息子がいた。


そういえば、シアンフランスの前作『ブルーバレンタイン』でも、ミシェル・ウィリアムズ演じる妻が学生時代におなじ大学の男とのあいだに子どもができるエピソードが描かれていた。

そこでライアン・ゴズリングは、うまれてきた血のつながらない女の子を妻とともにわが子同然に育ててきた夫を演じていた。

今回のルークとは役柄の立ち位置は異なるが、良くいえば少年のような心をもった、悪くいえば幼稚さの抜けない男、という点で共通している。


ロミーナにはすでに別のパートナーの男性コフィ(マハーシャラ・アリ)がいて、彼らはロミーナの母親とともに4人で暮らしている。

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エヴァ・メンデスって、失礼ながら僕には『マチェーテ』で素っ裸になってアソコにケータイかくしてたエロいおねえさん、というイメージしかなかったんですがσ(^_^;)この映画の彼女の演技は、疲れを感じさせながらもけなげに生きる母親の感じがよく出てました。

「子どもができたことをなんでいわなかった」とロミーナを問い詰めるルークだったが、「あなたはどこかに行ってしまって、音信不通だったじゃない」と返される。

流れ者の自分に息子がいた、という事実がよほどショックだったのか、ルークは突然スタントショーの仕事を辞めてしまう。

…えっ?と思うが、どうやら彼はロミーナと息子のジェイソンとともにこの町に腰をすえたい、と思ったようだ。

そんなこといってもロミーナにはコフィがいるのだが、ルークにはまるで彼が見えていないようで、コフィとロミーナが住む家にやってきては母子とふれあおうとする。

いちおう息子の実の父親なので、ロミーナもルークのことを邪険にはできなくて付き合うのだが、彼女の夫であるコフィ(結婚してるのかどうかはよくわからないが)にしてみたら迷惑な話だ。


修理工のロビン(ベン・メンデルソーン)のところではたらきはじめたルークは、ロビンから銀行強盗の話をもちかけられる。

はじめはまじめに生きるつもりでことわるが、金欲しさにロビンの甘言に乗ってしまう。

かつてのオンナと息子に執着しはじめたルークは、別にロミーナは経済的に困窮しているわけではないのに、勝手に彼らを養うために銀行強盗に手を染める。

一見クールにキマッててカッコイイんだけど、やってることは妄想に駆られたストーカー。

正体をかくすためなのか、銀行でやたらと声を裏返らせてどなるのが可笑しい。

この金でロミーナとジェイソンに家を買ってやって、家族で幸せに暮らすんだ。

…いや、だからロミーナにはもうダンナがいるんですが^_^;

なんといえばいいのだろう。

映画がすすむにつれて、ルークの愚かさがどんどん加速していくのだ。

この人はイケメンだしライダーとしての腕もあるのだが、どうやらバカなのであった。

銀行強盗で手に入れた大金をロミーナにわたして、めでたしめでたし。

…と思ったら、途中からルークの妄想だった、という『中学生円山』並みの驚愕のオチがつく。

銀行強盗は成功したが、コフィの家に上がりこんでジェイソンのベビーベッドを勝手に設置。

言いあらそいになってコフィを殴打して警察にしょっぴかれる。

保釈金で有り金ぜんぶうしなって、2度目の銀行強盗。

ロビンは降りたために1人で決行。当然のごとく失敗する。


さて、なかなかブラッドリー・クーパーが出てこねぇな、と思ってる人もいらっしゃるでしょうが、この映画はじつはライアン・ゴズリングとブラッドリー・クーパーの共演シーンはほとんどない。

というのも、ゴズリング演じるルークとクーパー演じる警官エイヴリーが出会ってほどなく、主人公だとおもわれていたルークは映画から姿を消すのだ。

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こういう場面はありません。


これまた予想外の展開。

映画の後半の主役は、ブラッドリー・クーパーに交代する。

銀行強盗を失敗して逃走、民家に立てこもったルークを射殺したエイヴリーは、相手の弾丸をうけて負傷。

凶悪犯を退治した英雄として世間で騒がれるが、一方でそのまま警察を辞めるか異動かの選択をせまられる。

レイ・リオッタ演じるデルーカら同僚の警官たちは、ルークが銀行からうばってロミーナにわたしていた金を押収する。

正義感にあふれた男たちかと思えばさにあらず、金を発見したことは内緒で仲間内で山分けする。

「成功報酬だと思え。警察からはなにも出ないぞ」といわれて、分け前をうけとったエイヴリーだったが、良心の呵責にたえかねて金をロミーナに返す。

押収品の保管庫で勤務することになったエイヴリーは、同僚たちからヤクを流すように催促されるが上司に密告。

同僚たちを“売った”見返りに地方検事補の職を得る。

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レイ・リオッタの顔が怖すぎ。


こうやってストーリーをず~っと解説してても観てない人にはわけわかんないでしょうが、いったいこの物語はどこにむかってるのか、と惹きこまれるでしょう?

エイヴリーは、保身ばかり考えている署長から「われらがヒーロー」と冗談めかしていわれる。

事実、彼は正義感の強い人物として描かれていて、警察内部の腐敗にも憤りを感じている。

ルークに片足を撃たれて重傷を負い、妻のジェニファー(ローズ・バーン)に心配されながらもエイヴリーは警察にとどまる。

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出番はわずかながら、妻役のローズ・バーンも好演。


しかし、エイヴリーは自分が“ヒーロー”などではないことをよくわかっている。

誘惑に負けて一度は金をうけとった。

また、殺したルークに自分の息子AJ(エイヴリー・Jr.)と同い年の幼い息子がいたことを知って、罪の意識にさいなまれる。

そして、15年後


…えっ?

何度目の「えっ?」だろうか^_^;

いきなり15年経ってしまいました。

いまや政治家として頭角をあらわしているエイヴリー。

大事な選挙を間近にひかえて、一家でスケネクタディの町に移り住むことになる。

息子のAJ(エモリー・コーエン)は16歳に成長し、学校でルークの息子ジェイソンと出会って、たがいに父親同士の因縁を知らぬまま友人となる。

その後の展開は、まぁなんとなく予想がつくわけですが。

終盤は彼らが主役になる。

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それにしても、このAJがまた絵に描いたような金持ちの調子コイたボンボンで、そのみごとなまでの単細胞ぶりには恐れ入った。

妙にマッチョで、あのまじめな両親からは想像もできないほど粗暴。

エイヴリーの息子ではなくて、ルークの息子なんじゃないのか?と思ったぐらい。

家では親の目を盗んで大勢の友人をよんで夜通し乱痴気パーティ(ハリウッド映画でよく見る光景だけど、あんだけやりたい放題やってて親は気づかんのか?)。

ジェイソンといっしょに売人からヤクを買って、警察にパクられる。

自分のカラッポさを親の金の威力でおおいかくし、クラスメイトたちには偉そうにしてるが父親には頭があがらない。

親父にお灸をすえられてシュンとしてたかとおもえば、なにひとつ反省もせずにジェイソンをパシらせてLSD代わりに鎮痛剤を盗んでこさせる。

マジでこいつは死んでよし!とムカムカしながら観ていた。

父親にかまってもらえなくてグレた、みたいな描写になってるけど、甘ったれるにもほどがあるだろう。

経済的に何不自由なく暮らせてて、別にそれ以外の部分でなにか深い苦しみを味わっているわけでもない。

たとえ父親と疎遠だったとしても、多くの人々はそれでもなんとか毎日やっている。

僕にはこのクソガキになにひとつ共感できるものがない。

逆にルークの息子ジェイソンは、やはり頭はあまりよくないものの父親ほどには腕っぷしは強くなくて、自分の実の父親を殺した警官の息子がAJだったと知って彼を問い詰めるが反対に一方的にボコられる。

これはこれでふがいなさすぎて観ていて腹が立つ。

ジェイソン役のデイン・デハーンとAJ役のエモリー・コーエンのふたりの若手俳優たちの演技はすばらしかったですが。

その後は、僕はこのジェイソンがAJやエイヴリーをいつ殺すのか、とハラハラしながら観てました。


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Miserere Mei



因果は廻(めぐ)る。

邦題の副題は「宿命」となっているけど、まさしく「因果」の方がふさわしくないだろうか。

もとをただせば、あの移動遊園地でロミーナがルークに声をかけたのがはじまりだった。

また、ロビンがルークを銀行強盗にさそったことがその後の悲劇を生んだのだ。

まぁ、ああいうバカはいつかかならずなにかやらかしたんだろうけど。

くだらないにもほどがあるいくつかの偶然があって、それはある者には死をもたらし、別の者には出世を、直接罪のない息子たちには心の傷をあたえた。

ジェイソンが最後にとった行動が、せめてもの救いといえるかもしれない。

愚かな父親のように破滅の道をえらぶのではなく、彼は旅立つ。

しかし、乗っているのは父のとおなじバイクだ。

なにかが克服されて、なにかが受け継がれる。


『ブルーバレンタイン』がひとつの家庭の終わりを描いて、それがはたして残された幼い娘にどのような影響をあたえたのか最後まで気がかりだったように、この『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』もまた、親が残したものによって息子たちが理不尽なまでの影響をうける物語だった。

それにしても、たとえまったく記憶に残っていなくても、自分の生みの親というのは気にかかるものなんだろうか。

そして、その親を殺した相手に憎しみを感じるものなのか。

ジェイソンの育ての親であるコフィがダース・ベイダーの声真似で「おまえの父は、わたしだ」といって笑いあうシーンは微笑ましく、そしてしずかに心打たれる。

そんな義理の父を慕ってもいたはずのジェイソンは、なぜそれでも生みの父を探しもとめたのか。

ロビンは、たずねてきたジェイソンにルークのことを「いい奴だった」という。

ルークがいかに愚かな男だったのかは教えずに、「彼のバイクの腕は最高だった」とだけ伝える(ロミーナとよりをもどすチャンスだ、とルークを焚きつけたのはこの男なのだが)。

息子のなかでは、見知らぬ父は“ヒーロー”となったのだろうか。



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※レイ・リオッタさんのご冥福をお祈りいたします。22.5.26


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