「おい」
急ぎ足で歩く文雄の後ろから、声がした。
声の主は、かなり苛立っている。
文雄は足を止め、後ろを振り返った。
うら寂れた路地には、誰もいない。
「そんなに、速足で歩くんじゃねえよ」
不思議そうに辺りを見回す文雄文雄の足下から、声が聞こえてくる。
「ついていくのが、大変じゃねえか」
文雄は驚いた。
文雄の影がしゃべっているのだ。
「な、なんなんだよ」
影に向かい、上ずった声を出す。
「なんだじゃねえよ。いつも速足で歩きやがって。ついていく、俺の身にもなってみろよ」
「おまえ、俺の影のくせに、なに文句言ってんだよ」
なにがどうなっているのかはわからないが、自分の影に文句を言われて、文雄はキレた。
「チッ。もう、お前とはやってらんねえよ」
舌打ちと共に捨て台詞を吐くと、影は文雄の許から離れていった。
自分の影が、消えた。
文雄は驚くと同時に、影がないなんて、吸血鬼みたいじゃないかと思った。
そう思った瞬間、太陽に照らされた文雄の身体が溶け出した。
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その仔猫を拾ったことから、男の人生は変わっていった。
小さな命が織りなす、男の成長と再生の物語。
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