DIOR HOMME 2014 S+S !!!
続いては、DIOR HOMME(ディオール オム)のコレクションのリポートと参りましょう。
今回パリ郊外のテニスコートに用意された舞台は、鏡で作られた広大な迷宮でした。真っ白の床に反射する強い光が、夏の海の日差しを思わせ、アーティスティックに飾られた数多くのミラーはさながら、コンテポラリーアーティストのインスタレーションを思わせます。
今回、クリエイティブ・ディレクターのクリス ヴァン アッシュが掲げたテーマは『ミニマムとバロックの融合』です。様々なルールが多いメンズウエアの世界において、基本に忠実に、さらに遊び心をプラスした、何事にも縛られる事のない新しいスタイルを作り出した今回のコレクションは、クチュールメゾンとして培って来たフランスを代表するこのメゾンのテーラリングのテクニックにベースを置きながらも、スポーツテイストやコンビニエントな香りも感じさせる意欲的なアイテムが並びました。
ミニマムとバロックという相反するテーマは、スタイルの中で独自の不協和音を奏でます。美しく整理されたテーラードスーツには今回メインのテクニックとなる、カラーブロックのハイブリッドなデコレーションが施されます。同じく相反するテーマはフォーマルウエアとビーチウエア、基本と遊び心等の矛盾する感覚を使う事でスタイルにオリジナリティー溢れる新鮮なムードを吹き込み、現代人が抱えるバランスとアンバランスの独自の美しさを奏でます。
今回デザインをクリエイトする上で重要なメソッドとなったのが、対位法と呼ばれる西洋音楽の伝統的な理論で、複数の旋律をそれぞれの独立性を保ちつつも、互いに調和をさせ1曲の中に盛り込む形式を取ります。古くは中世の教会音楽や聖歌、ルネサンスやこの理論の父とも呼べるバッハが活躍したバロック音楽、古典主義やロマン派、現代でも沢山の作曲家によって研究、発表が繰り返されるエターナルなテーマです。
普遍的なルールにより一音一音奏でられる音楽の考え方は、緻密な計算により一針、一針糸を紡ぐように丁寧なテクニックでアイテムに落とし込まれます。一歩間違うとトゥーマッチになってしまう、どこかピンと張った緊張感も残しつつ、アイテムには不思議なリラックスしたムードも漂うのは、そのラグジュアリーなマテリアルのお陰でしょうか?
それでは、作品を見て行きましょう。コレクションのファーストルックに登場するのは美しいバーガンディーのスーツです。ボディに程良いリラックスしたボックスシルエットを描くジャケットは、シャープな箱ポケットやフラップが印象的で、小さめに作られたカラーやラペルのミニマムなデザインはディオール オムならではです。
まさに程良いと呼ぶにふさわしいシルエットでルックは構成され、ストレートラインのパンツはルック全体をスクエアにまとめ、クリーンなものにします。新鮮ナこのバーガンディーのカラーが、華やかなバロック的なムードを醸し出した素敵なルックでしたね。
今回メインで登場するデコレーションがこのカラーブロックを使ったハイブリッドなエンブロダリーです。ラグジュアリーなウールのベースに、サテン等の様々な生地をボンディングにして固定させます。
ブロック同士を繋ぐブラックのラインも生地をカットしたもので、全く縫い目や縫い代の存在が無い状態に仕立てられ、究極にフラットなテクスチャーを作り出しているのがビックリでしたね。
様々なバリーションを見せるカラーブロックのエンブロイダリーのメソッドは、こちらのジャケットのように少しミニマムなバージョンでもアレンジされ登場していましたね。ラペルと箱ポケットを同色のサテンで、前立ての比翼の部分をブラックにして、さりげなくカラーブロックのテクニックを楽しみます。
今回様々なルックに登場するサテンは、ムッシュ・ディオールの時代からこのメゾンでを代表する重要なマテリアルです。ラグジュアリーな気分を盛り上げる、この独特な光沢は、制約の多いメンズウエアに取入れる事によって、新しい感覚のクールなスタイルを作り上げていましたね。
相反する矛盾というテーマを一番色濃く表現しているルックの一つが、こちらのビーチウエアとフォーマルウエアの新しい融合のアイテムではないでしょうか?袖をカットされたジャケットは、ボックスシルエットのリラックスムードを保ちながらも、クールで実にスタイリッシュです。
ショートパンツとコーディネイトする事で、軽さを表現し、オールブラックのコーディネイトでフォーマル感もプラスします。本来融合する事が不可能なテーマを美しく、緻密に表現した、意欲的なルックですね。
今回コレクションに登場したバッグで大注目なのが、こちらのエンヴェロープ(封筒)型のデザインのアイテムでしたね。シンプルでエターナルなデザインは独自の感性で解釈され、ビジネスシーンでも活用出来るデザインが新鮮でしたね。
ハンドルとクロージャーに今回の重要なカラーバーガンディーを使い、拘り男子達を納得させる、美しいデイテールのアイテムでした。先に出て来たクラッチバッグも登場していて、そちらは大きなレザーのエンヴェロープを持っているようで、クールでしたね。
カラーブロックのテクニックは、ニットにも登場していましたよ。程よいストレートラインを描くシルエットは、打ち込みの強いニットでベースが制作され、ヒート加工によりカラーブロックのディテールが施されます。
ベース自体が光沢を放ち、そらにそこにサテンの光沢をプラスして、メンズウエアの中で新しいラグジュアリーを提案しています。他にショートスリーブもあり、こちらもスポーツウエアとフォーマルウエアという矛盾したテーマを見事にミックスしていましたね。
こちらもスポーツウエアのテイストを取入れたルックですね。上質な張りのあるナイロンをベースに、フード付きのパーカーを仕立て、フラップの付いたアウトポケットを4つも取り入れ、とてもアクティブですが、センタープリーツのピシッと入ったショートトラウザーをコーディネイトする事で、独特のアンバランス感が絶妙ですね。
実用性から生まれたデザインを好み、様々なクチュール的なテクニックをさりげなくデザインに取入れるスタイルが得意なクリス ヴァン アッシュならではの、ミニマムなデザインで、ディテールのシャープなムードが素敵でしたね。
夏に着るレザーウエアもラグジュアリーメゾンのディオール オムに取っては欠かせないアイテムですね。驚くような柔らかさで仕立てられたショートジャケットは、まるでシャツのような感覚で着る事が出来ます。
軽く柔らかくトリートメントを施され、今回の重要なキーワードとなっている光沢感を、新たなムードでコレクションにプラスしていましたね。
いやぁ、、、こちら夏にサラリと着て頂けると、相当お洒落ですよね~。もちろん同じレザーのタック入りのショートトラウザーもありますし、スポーツ感覚にフォーマルなムードをプラスしたテーラードカラーのプルオーバー等も登場し、エレガントでしたね。
まさにビジネスにはピッタリのブリーフケースのデザインのバッグにも、今回のテーマカラー、バーガンディーとブルーが取り入れられます。マチの部分にバイカラーを施しさりげなくトレンド感を取入れていましたね。
他にオールブラックで、裏側に施されたジップの内側にだけブルーを使ったバージョンもあり、よりポライトな状況が求められるビジネスシーンにはピッタリでしたね。
こちらのマチの部分だけバイカラーを施すデザインは、少し小さめのショルダーバッグにも取り入れられていましたよ。外付けのポケットにはタブレッドがきちんと収納出来て、大きなバッグが多かったディオール オムには珍しく小さめのサイズで、身体の小さい日本人男子にはピッタリのアイテムなんじゃないでしょうか?
今回、新たな風を吹かせていた、ハイブリッドなカラーブロックのエンブリダリーのテクニックは、クリス ヴァン アッシュの高い美意識によるフィルターで何度も漉され、また新しいディテールを持つ個性的なアイテムを沢山登場させました。こちらのブルゾン風のジャケットも実に良く出来ています。
シンプルなデニムのブルゾンのようなエターナルなデザインは、襟にサテン、ヨークの切り替えにナイロンを用い、後はボトムスのショートトラウザーまで、同じ上質なウールだけでコーディネイトしていました。
襟に施された機能的なマーチンゲールや、スクエアなフラップ等デザイン的にもルックの一部分にのみデザインを集中させ、後はシンプルにまとめる辺り、まさにムッシュ・ディオールのオートクチュールのドレスのような感覚を、コンテンポラリーにメンズウエアに落とし込んだルックですね。
今回カラーブロックのジャケットにコーディトされていたのは、同じテクニックが施されたショートトラウザーで、こちらもハイブリッドなエンブロイダリーが施されていましたね。
もちろん、セットアップで全身で着て、アーティスティックなムードを味わうもも素敵ですが、トップスにブラックのニット、トングサンダル等を合わせてサラリと着るのもオシャレですね。
身長の低い方は、カラーブロックのディテールは少し小さくなってしまいますが、是非、きちんと丈を詰めて着用する事をおすすめします。
今回繰り返し登場するこのカラーブロックのモチーフは、ジャンク・アートを代表するアメリカのアーティスト、John Chamberlain(ジョン・チェンバレン)の作品からインスパイヤされました。
ジャンク・アートとは、20世紀初頭レディーメイド・アート等の作品を発表し、その後のコンテンポラリー・アートの先駆けともなったMarcel Duchamp(マルセル・デュシャン)の作品を事実上の起源としたアートで、主に廃品等を使って作品が制作されています。
第二次世界大戦後1950年代後半から廃品を使って作品を制作するアーティストが欧米で登場し、アメリカを中心に活躍したジョン・チェンバレンの他に、フ ランスでは、直接人が触れる事が出来る廃品や、同じ種類物を大量に集めて作品を制作した、Armand Pierre Fernandez(アルマン・フェルナンデス)、くず鉄を溶接し、人体彫刻を制作したり、廃車をプレス器で圧縮して彫刻を作ったCésar Baldaccini(セザール・バルダッチーニ)らは、後にクライン・ブルーで有名なYves Klein(イブ・クライン)らと、同じ思想を持つアーティト集団のヌーヴォー・リアリスムという団体を立ち上げる事になります。
アッサンブラージュ(廃品利用芸術)と呼ばれる彼の作品は廃車を利用した彫刻等が有名で、アメリカ等で絶大な人気です。2011年に死去してからはグッゲンハイム美術館で大回顧展が開催されました。
今回、クリス・ヴァン・アッシュが注目したのは、彼の作品の中でもメタルを使った作品や、さらにマイアミのアールデコ建築の建造物等もその要素に含まれます。もちろんその要素は今回のショーのセットにも取入れられ、フューチャリスティックなミラーのラビリンスを作り上げています。
クチュールメゾンならではのハイブリッドなエンブロイダリーのアイテムは次シーズン、間違いなく大注目になりそうですね。
こちらもカラーブロックのエンブロイダリーのテクニックを使った、オーバーサイズのジャケットのルックです。同じパターンもカラーやアイテムが変わる事により、また違った魅力を発揮します。
こちらはグレーベースにブルーのサテン等があしらわれているので、心なしかクールな印象を受けますね。また絶妙なこのグレーのトーンが!!!さすがですねぇ~~~!!!!
今回、コレクションに登場したシューズは、トラディショナルなウィングチップシューズを、遊び心たっぷりに再解釈したこちらのシューズです。ラグジュアリーなレザーを使用し、レースアップのアイレットの位置でコントラスと付け、独自の順番で紐を通す事でオリジナリティー溢れるリズムを生み出していましたね。
トウやシューズのサイドに使われたメタルワークスは、実はラッカー加工が施されたパーツの為、軽く仕上げられ、コンビニエントな作りになっています。
バーガンディー、ブルー、グレーと美しいハーモニーを描いて来たコレクションは、後半ブラックでシックにフィナーレへと奏でられます。ブラックフォーマルにおいてジャケットのラペルや、即賞等にポイントとして使われるサテンは。今回メインのアテリアルとして大ヒューチャされていましたね。
こちらのコートはトレンチコートをハイブリッドにしたアイテムで、胸元のヨークや見返し、襟等にサテンを使い、ベースのウール素材とのコントラストを楽しみます。デザイン的にはスポーティーでカジュアルですが、サテンを取入れる事で、独特のフォーマルなムードを取入れています。
もしかしたら次シーズンのサマーパーティー等にはこのハイブリッドなショートパンツスーツを着たイケメン君達を見かける事になるかもしれませんね。
今回、コレクションには登場しませんでしたが、毎シーズンディオール オムのショップにはハイブリッドなスニーカーの秀作が沢山並びます。
若い感性を持つクリス ヴァン アッシュは、ミニマムでフューチャリスティックな感性も兼ね備えている為、とても素敵なアイテムが沢山登場し、実はかなり狙い目ですね。今回はテーマカラーのバーガンディーやこちらのブルーをシャイニーなマテリアルに落とし込んだ、ハイブリットなデザインが素敵でしたね。
アンクル部分にデザインのポイントを持って来る辺りも実に洗練されていて、モードなスタイルにも取入れ易いエレガントなアイテムでしたね。
得意のミニマムなスタイルの中にも、さりげないデコラティブな部分も取入れ、さらに新しいステージに突入した感のあるディオール オムのコレクションでしたが、また新しいメンズウエアを提案し、とても意欲的に感じる事が出来ました。
クリス ヴァン アッシュは今回のコレクションを制作するに辺り、まず対照的な物、矛盾したものを集めデザインを始めたそうです。機能性と美しさ、フォーマルウエアとスポーツウエアの融合、マテリアルの部分でもサテンやレザー等のラグジュアリーな素材とニットやナイロン等のハイブリッドな素材の融合。そしてその中に、制約の多いメンズウエアのジャンルにおいて、より自由に開放的にスタイルを楽しむという究極の力強い矛盾が随所に感じられましたね。
新しい感性を持つファショニスタ達が待ち望んだ、実にアーティスティックで洗練されたスタイルは、遊び心や人間性までも取り戻す事の重要さを示し、豊富なヴァリエーションは着る人の自由を尊重していましたね。
しっかりとしたクチュールのテクニックが施された、美しいちゃんとした服。しかも軽くコンテポラリー。沢山の条件を要求する、レベルの高い世界中のファショニスタ達をも唸らせる、美しいディオール オムのコレクションでした。
2013-14 F+W DIOR HOMME PARIS MEN'S COLLECTIONはこちら からどうぞ。
2013-14 F+W Christian Dior PARIS Prêt-à-Porter COLLECTIONはこちら からどうぞ。
2013-14 F+W Christian Dior 東京でのプレゼンテーションのリポートはこちら からどうぞ。
2013 S+S Christian Dior PARIS Haute Couture COLECTIONのリポートはこちら からどうぞ。
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