Christian Dior 2013-14 F+W !!! | ダイコ★ブログ

Christian Dior 2013-14 F+W !!!


ダイコ★ブログ

 続いてはChristian Dior(クリスチャン ディオール)のコレクションのリポートと参りたいと思います。今年、1月に発表された2回目のオートクチュールでは、庭園に咲く美しい花々というテーマで、繊細でコンテンポラリーな作品を発表したクリスチャン ディオールですが、今回はプレタポルテ。どんどん評価が上がって来ている、クリエイティブ・ディレクター、ラフ・シモンズによるコレクションです。

 今回、会場は爽やかな青空の床に、大きなミラーの球体が配置されています。球体に床の青空が効果的に写り込み、全てが青空の中に浮いているようなシュールな印象を観客に与えます。

 『記憶への執着』。なんだかとても意味深なテーマが付いた今回のコレクションです。記憶や感情、経験は時を越えてクリエイションに多大なインスピレーションを与えます。ラフ シモンズは記憶の概念と、それがメゾンの本質的クリエイションにいかに影響を及ぼしたという部分に注目しました。

 創設者、ムッシュ・ディオールは幼少から美しい物に囲まれて育ち、メゾンを開く前はギャラリストとしてそのキャリアをスタートしました。シュール・リアリズムの画家サルバドール・ダリや、ストイックな彫刻で人気のアルベルト・ジャコメッティ等の素晴らしい本物に触れていました。それはやがて彼のクリエイション、やがてはメゾンのクリエイションに重要な要素となり、デザイナーになってからは様々な美しいラインのドレスを発表することになります。ラフ・シモンズにとっても同じ事。彼が若い頃に感銘を受けたアンディー・ウォーホルの初期の作品は、今回ドレスやバッグを飾ります。

 感動を受け、記憶をし、それを次に自分がクリエイトする時のインスピレーションに生かす。記憶の中でファイルされたデータはもしかしたら実際の物とは少し違う形で保存される事もあります。何故ならそこには心を動かされた事実があるから。。。。個人のフィルターをかけて表現される、極めてプライベートな記憶のエッセンスは時代を超え、ムッシュ・ディオールの頃からラフ・シモンズに至る現在まで恐ろしく類似しています。

 そんな様々な感動と記憶の詰まった、アーティスティックな今回のクリスチャン ディオールのコレクションを見て行きましょう。ファーストルックに登場するのは、ムッシュ・ディオールの作品を思わせるボリューミーなボウが美しい、ブラックのスーツスタイルのルックです。

 身体にピッタリと貼り付くスーツやAラインのコート等に使われていたこのモチーフを、ラフ シモンズはコンテンポラリーなテイストで再解釈します。トップスはジャケットの堅苦しさを取り除いたゆったりしたシルエットに、シャツのようなデザインを取り入れ、小さなパフスリーブが可憐です。スカートは左側にボリュームを付けたアシンメトリーなデザインで、1月のクチュールの時から継続して続くテーマは、今回はさらに洗練されたスタイルで見る事が出来ました。

 全体的にゆったりとしたシルエットを作り出し、トレンドのリラックスムードを取入れた、でもクラシカルな要素も残した、見事なバランスの美しい作品ですね。

ダイコ★ブログ

 爽やかなオフホワイトのルックも素敵でしたね。シルクツイルのビスチェとスカートには、左側にドラマティックなボリュームを出し、緩やかなドレープを描きながらヒップ周りを華やかに演出します。

 プリントに施されたのは、アンディー・ウォーホルの1958年の作品"Female Head"。線で描かれた女性のポートレイトの中にも彼の才能を感じさせるしっかりとした強さがあり、手と花のモチーフのみに鮮やかな色彩が施された水彩画です。

ダイコ★ブログ

 今回度々登場するモチーフは、アンディー・ウォーホルの初期のイラストからインスパイヤされた物が沢山登場していました。ファッションに関わる仕事をしてる人なら当然ですが、こんな有名なアーティストを知らない悲惨な人々へ少しウォーホルについてお話しましょう。

 1928年、アメリカのペンシルバニア州、ピッツバーグにスロバキア系の移民の子供として生まれます。幼少の頃から芸術的才能を開花させ、14歳で労働者だった父を亡くした後は、アルバイト等をしながら高校を卒業し、カーネギー工科大学で広告美術を学び、卒業します。

 50年代、N.Yに移り、VougueやHarper's BAZAARのイラストレーションや、商業デザインの仕事を始め、さらに才能は開花し1952年には『アート・ディレクターズ・クラブ賞』を授賞し、この分野で成功を納めます。今回コレクションに登場するのはこの時期のデッサンやスケッチで、女性のポートレートや、バッグや靴等のアクセサリー、猫を描いたシリーズもあり、ウォーホルの作品でもこの時期の作品を熱心に集めるコレクターがいる程人気です。数年前東京の帽子ブランドCA4LAは彼が描いた帽子のスケッチを元に、作品を製作したコレクションを発表して話題になりましたね。

 60年代に入ると、彼はファイン・アートの世界に移行していて行きます。TVのように只目に見える表面的な効果の作品に求め、キャンベルスープの缶やドル紙幣、エリザベス・テイラーやスーパーマン等誰もが知ってるモチーフを使い制作を始めます。1964年にThe Factoryという名前のスタジオを始め、Art worker(芸術労働者)と呼ばれる従業員を雇い、工業製品のようにシルクスクリーンの作品を制作します。

 このThe Factory、夜はもちろん文化人達の集まるクラブのようになり、そこにはミック・ジャガー、トールマン・カポーティー、イーディー・セジウィック等当時のカルチャーを代表する人々が集いました。なかでもルー・リードとは親交も深く、後に彼の伝説的なバンド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのプロデュースも手がける事になります。

 マリリン・モンローの自殺のニュースを聞くと映画『ナイアガラ』の彼女のポートレートの作品を発表したり、デニス・ホッパーがピストルで撃った、毛沢東のポートレートを銃弾の後を残したままコラボ作品として発表したり、ホラー映画の監督もつとめ、女性団体から銃撃されるというスキャンダルもおこし、その様は映画化される程話題になりました。

 白いウィッグと黒ブチ眼鏡に繊細で優しい本性を隠し、スキャンダルと意味深な発言で世間を煙に巻いた素晴らしいアーティストです。彼の言葉は書籍等にも残ってますので、これ以上は自分で研究して下さい。

 若かりし頃、ラフ・シモンズに与えたこのウォーホルの繊細でみずみずしい作品は、今回クリスチャン ディオールという素晴らしいメゾンのテクニックで、華やかなドレスを飾ります。しかもそれがさりげない所がとにかく素敵です。

ダイコ★ブログ

 ウォーホルのデッサンはアクセサリーにも登場します。彼のシューズのスケッチは、プリントやエンブロイダリーで表現され素敵でしたね。こちらのようなクラッチや、シグネチャーのバッグ、ミス ディオールにも使われていて可愛かったです。

 ウォーホル財団と、クリスチャン ディオールという稀に見る華やかなコラボレーション。ミス ディオールファンだけではなく、注目ですね。

ダイコ★ブログ

 クリスチャン ディオールにはバージャケットと呼ばれるメゾンを代表するジャケットがあります。1947年花冠ライン(8ライン)のコレクションに登場する、後にニュールックと呼ばれるルックのジャケットがそうで、ムッシュ・ディオールの亡き後も様々デザイナーがそれぞれの時代に合わせた、見事なバージャケットを発表して来ました。

 ラフ.シモンズもいち早くこのアイテムに魅了され、ウエストのシェイプの位置を高くし、ゆったりと胸元や肩のボリュームにリラックスムードが漂う、よりリアルなバージャケットを発表して好評を得ています。

 今回は新解釈を加えデニムウールという素材がとり取入れられ新鮮でした。タックの入ったゆったりしたシルエットのワイドパンツがコーディネイトされ素敵でしたね。

ダイコ★ブログ

 1948年に発表された伝説的なコート“Arizona ”もラフ・シモンズ流の新解釈がプラスされ登場します。華やかなボウと、肩から袖へ続くトレンチコートのようなデコレーションはそのままで、袖や身頃のボリュームをよりコンテンポラリーに整理します。中にアシンメトリーなシルエットのスカートをコーディネイトし、スカートを覗かせる事によってドラマティックなムードを表現していました。

 このコート、バックスタイルが実に見事で、前から流れた分と背中にたっぷり取ったフレアーが美しいドレープを描きます。是非、美しい方に着用して頂きたい。。。。&振り向いて頂きたいですね。。。www

ダイコ★ブログ

 こちらも過去のコレクションをインスピレーションにしたドレスです。ピンクのベアのオペラドレスは、丸い花びらのようなフォルムにバックにかなり大きなピオニー(芍薬)のモチーフを飾り、花から生まれて来たような清らかなドレスでした。

 その可憐なドレスのふんわりしたドレスを、なんとラフ・シモンズはレザーで表現しました。ミニマムに作られたシンプルなビスチェには、複雑なカッティングを施し、ふっくらとしたボリュームのスカートが合わせられます。

レザーなのにこの軽さ、もちろんレザーがそもそも最高級なんでしょうが、前回のオートクチュールから続く、無重力のような構造にも何か秘密がありそうですねぇ~。。。実物が見たいです!!!

ダイコ★ブログ

 こちらも、かつて発表された『ミス ディオール』というタイトルのドレスを再解釈したルックです。ベアで華やかに広がった8ラインのドレスは、発表当時はホワイトのフラワーモチーフをベースに、パープルやアイスブルー等のカラーのモチーフをビジュー等とメランジェし、エンブロイダリーします。

 新しい『ミス ディオール』はなんとオール・ブラック。より整理されたボリュームとコンテンポラリーなブラックのパーツやフラワーモチーフは、しっかりと意志を持った現代の女性に必要ですね。

 プレタポルテでもこういう仕事が見れるのが、オートクチュールメゾン、クリスチャンディオールの良い所ですね。

ダイコ★ブログ

 様々なニットのバリエーションも今回楽しい作品で登場しました。太い毛糸で編まれたビスチェは、ウエストでボリューミーなフリルとなり、ドラマティックなフラワーモチーフへと続きます。クリスチャン ディオールでは前回のオートクチュールでも見られたような、様々なフラワーモチーフの手仕事が有名ですが、また新しいコンテンポラリーなスタイルのテクニックの作品ですね。

 程よいボリュームのシガレットパンツとコーディネイトするあたりも、ハンサムでリアル感もあって、素敵ですね。

ダイコ★ブログ

 クラシカルなかぎ針編みのニットも、ラフ・シモンズ流の新解釈で登場します。美しい縄目模様は拡大され、さらにブラック&ホワイトのカラーリングでコントラストを強調します。こちらのタートルのニットには、ウエストにボウのようなボリュームを施し、すっきりしたスカートがデザインされ、ジオメトリックな印象を受けます。

 ハウンド・トゥース・チェックやプリンス・オブ・ウェールズ等様々なメンズウエアに使われるハードな素材を、好んでレディスウエアに用いたのもムッシュ・ディオールです。ハウンド・トゥース・チェックは今回他のルックにも登場しましたが、このモチーフもそれに通じる新しいパターンとして人気が出そうな予感がしますね。

ダイコ★ブログ

 もう、、、、大好物!!!!50'Sのサスペンス映画、さながらヒッチコックの作品に登場しそうな、クラシカルでドラマティックなこんなコートドレスも登場しました。身頃から立ち上がった襟は前身頃で美しく重なるショールカラーへと変化します。肩にはトレンチコートのようなヨークのデザインが施され、ベルトは後ろへと続いて行きます。フラップの大きなポケットはウエストまわりを華やかに飾り、緩やかなフレアーに繋がります。

 襟、前立てや袖口をバイカラーのホワイトで飾り、コントラストを楽しんだデザインが素敵で、ミステリアスな印象が素晴らしいルックですね。

ダイコ★ブログ

 こちら、カクテルドレスの上に羽織るコートですが、大人っぽいグレーのアストラカンが使われ、美しかったですね。パーティーの会場で脱ぐのがもったい程素敵です。とてもリアルなアイテムなので普段使いもエレガントだと思います。お値段は普段使いじゃないでしょうが。。。。

 新しいシグネチャーバッグ、ディオール バーのベージュ、白のシューズと少ない分量でも、シックなカラーでも色遊びを楽しんだ華やかなルックです。

ダイコ★ブログ

 今回登場したシューズはヒール部分が特徴的なポインティドのものでした。前から見るとエレガントでクラシカルですが、横や後ろから見るとグラフィカルでモダンアートのよう。こちらは私の大好きなコンビタイプの物で、ホワイトとネイビーが爽やかな印象です。

 他にメッシュや、ハウンド・トゥース・チェック、スエードやレザーもあり、クラシカルとコンテンポラリーな要素が融合され、次シーズンのスーツやドレスを程よくアバンギャルドに飾っていましたね。

ダイコ★ブログ

 フィナーレのドレスもラフ・シモンズ的解釈で表現されたモダンでリアルな作品が並びました。クラシカルなシルエットを描くジャケットやコートとはうってかわって、1920年代のような柔らかなシフォンのドレスが登場します。ブラックやホワイトをベースにゆったりとした流れるようなシルエットで、歴史上の特定の時期やモチーフをエンブロイダリーやアップリケで表現しています。ラフ・シモンズはこれを『メモリードレス』と名付け、ディオールが生きた時代へ観客を導いて行きます。

 華やかなエンブロイダリーはブーツにまで施され、ドレスと混ざり合い美しいムードを醸し出しています。


 クリエイターの仕事は自分の中の感動した要素を、記憶の糸を辿るように紐解いて行く事です。感動こそが記憶として残り、年月や経験と供にそれらはどんどんフィルターにかけられ、さらに美しく昇華されて行きます。ムッシュ・ディオールが感動したシュール・リアリズムとラフ・シモンズが感動したポップアートの世界は、美しく表現され、クラシカルなのにコンテンポラリーな魅力的なコレクションを作り上げました。


 コレクションはデザイナーのスクラップブックのようなものです。ムッシュ・ディオールのブックとラフ・シモンズのブックはミクッスされ、こそこにディオールというブックもプラスされます。一見、突飛に見えるアイディアも、メゾン・クリスチャン・ディオールの素晴らしいテクニックによってさりげなくエレガントに生まれ変わります。

 遥かなる時空を超えた記憶をたどる今回のコレクション、実に見応えがあり素敵でした。ラフ・シモンズがこのメゾンと関わるようになって、幾つかのコレクションが発表されましたが、素晴らしい技術があってこそ、デザイナーの新しいエッセンスは意味があり、アトリエで切磋琢磨された時間は、早くも大輪の花を咲かせ始めてるように思えます。昔からのディオールファンも、そしてラフ・シモンズもどちらも納得させる、それでいて楚々とした、凛とした作品で綴られた今回のクリスチャン ディオールのコレクションでした。


 因みに今回舞台に使われた青空のモチーフはムッシュ・ディオールが愛したシュール・リアリズム期の画家、ルネ・マグリットからのインスパイヤだそうです。お気づきになりましたか????

 

 2013 S+S Christian Dior PARIS Prêt-à-Porter COLLECTIONはこちら からどうぞ。
 2013 S+S Christian Dior PARIS Haute Couture COLECTIONのリポートはこちら からどうぞ。

 2013 S+S DIOR HOMME PARIS MEN'S COLLECTIONはこちら からどうぞ。
 2013-14 F+W DIOR HOMME PARIS MEN'S COLLECTIONはこちら からどうぞ。

 Christian Diorのサイトはこちら からどうぞ。


 
 今回のリポートしたChristian Diorの素敵なお話も掲載されている私の初の著書、『ブランドパスポート』は、現在絶賛発売中です。シグネチャーのバッグのMISS DIOR、バージャケットのお話等も楽しめます。

 アマゾンでのお買い上げはこちら からどうぞ 
 
 産業編集センターへはこちら からどうぞ。

 

 facebookにファンページを作りました。

 アカウントお持ちの方はこちら からどうぞ。こちらで掲載していない画像等もUPしています。『イイね!』もよろしくお願いします。

 Numero.jpのブログへは、こちら からどうぞ。