やさしい心理学とその実践的応用(マーケティング・一般)No25:態度No9
やさしい心理学とその実践的応用(マーケティング・一般)No25:態度No9
今回は態度:Attitudesの第9回目です。消費者行動に焦点を当てて見ます。消費者行動のモデルにはAIDMA以外にも様々なタイプがあります。
1.態度(attitudes)の構成要素
(1)3要素
態度は(a)対象物に対するフィーリング(affect)(b)購買意図(behaviour)(c)対象物への信念・考え(cognition)の3つの要素で構成されるのはコンセンサスとなっています(Solomon, Bamossy & Askegaard, 1999)。分かりやすく言うと(a)は感じる、(b)は行動する、(c)考えるではないでしょうか。
2.消費者モデル
(1)The standard learning hierarchy (Solomon et al. 1999)
(c)対象物への信念・考え→(a)対象物に対するフィーリング→(b)購買意図→態度
日本の実務で頻繁に引用される消費者モデルであるAIDAやAIDMAはこのタイプのモデルです。初めに対象ブランドの情報を取得し、記憶内の知識と絡めて考えて、そのブランドに対する信念・考えを形成する(c)。次に考え・信念を評価することでそのブランドに対する感情・気持ちを形成する(a)。最後に購買意図が形成される。AIDMAは注意(Attention)→興味(Interest)→欲求(Desire)→記憶(Memory)→行動(Action)で、注意と興味が(c)に、欲求と記憶が(a)に、行動が(b)に該当します。
この経路を辿った態度の形成は基本的に長期間持続し、ロイヤルティに結びつきやすいです。
このモデルが有効なのは消費者が熟慮する場合です。すなわち先日紹介した
EL
Mでいう中心ルートを使用した場合です。関与(意識)が低い商品や消費者に時間的余裕がないケースにはあまり有効な理論ではありません(e.g., Barry & Howard, 1990)。
(2)The low-involvement hierarchy (Solomon et al. 1999)
(c)対象物への信念・考え→(b)購買(意図)→(a)対象物に対するフィーリング→態度
(ほとんど知られていないでしょうが)Ehrenberg のATR
モデル
(Ehrenberg, 1974)などがこのタイプのモデルです。初めにそのブランドに対する信念・考えを形成する(c)点は共通です。しかしその後、感情を持つ前に購買します(b)。そして使用した結果として満足・不満足と言うフィーリングが生じます(a)。心理学の理論ではオペラント条件付けが関連しています(関連記事はこちら
)。
消費者のブランドへの関与(意識)が低いケースに有効な概念です。そのような場合は購買前にわざわざそのブランドへの感情などは発生しません。むしろ購買後に満足・不満足と言うフィーリングが生じます。皆さん、消しゴムを買うのに購買前に感情が発生しますか?Ehrenbergの研究では繰り返し購入を繰り返すコモディティ商品の例が多いです。
(3)The experiential hierarchy (Solomon et al. 1999)
(a)対象物に対するフィーリング→(b)購買(意図)→(c)対象物への信念・考え→態度
快楽的な(Hedonic)モチベーションによって態度が形成されるというモデルです。初めに無形の商品特徴(パッケージが可愛い、CMで宣伝していた、友達が持っているなど)を評価することでそのブランドに対する感情・気持ちを形成する(a)、次に購買する、最後に対象ブランドの情報を取得し、記憶内の知識と絡めて考えて、そのブランドに対する信念・考えを形成する(c)。
ポイントは、従来前提とされていた認知(Cognition)→感情(Affect)という順番ではなく、感情が認知の先に来ることもあるとした点です(Solomon et al. 1999)。具体的には従来はそのブランドの情報を広告などで提供して初めて消費者はブランドに対してフィーリングを持つとされていましたが、このモデルは、消費者は情報を入手することなく別個にブランドに対するフィーリングを持ちえるとしました。
以前紹介したCMに対する態度(Aad)がブランドに対する態度(Ab)に結びつくというモデル(記事はこちら
)もこの類のモデルと思われます。
《応用》 いくつか質問をしますので皆さんも考えて下さい!!
(1)新車を買う若者とシニア向けのマーケティング戦略の違いを考えて下さい。
若者は(a)車の購入経験が浅い、(b)車に関する関与(興味)が高い、(c)(アイデンティティを模索する時期なので)所有するもので自分のアイデンティティを表現したがる(関連記事はこちら
)傾向があると思います。一方、シニアは(a)車の購入経験が長い、(b)車に関する関与(興味)が相対的に低い、(c)過去・ヒストリーに関するアイデンティティが強くなる(関連記事はこちら
)、(d)情報処理の能力が低下する傾向があると思います。
若者にはAIDMAなど(1)のThe standard learning hierarchyモデル及び(3)のThe experiential hierarchyが適合すると思います。つまり、雑誌広告によって車の詳細な情報を提供すると共にテレビCMによって若者に「この車に乗ったら理想の自分に近づける」などと思わせるべきだと思います。
一方、シニアは過去の使用経験が長いので以前乗っていたブランド・メーカーに満足していたか・満足していなかったかが出発点になります。基本的にシニアは車に対する関与の程度は若者よりも低いと思われるで(1)のThe standard learning hierarchyモデルは有効でないと思います。むしろ(2)The low-involvement hierarchyの方が有効だと思います。情報処理能力(具体的には作動記憶など)に低下が見られるので、シニアは車の選択する際、メーカー・ディーラー間の比較の程度は若者よりも少なく、既知のメーカー・ディーラーで再購入する傾向があります(e.g., Lambert-Pandraud, Laurent & Lapersonne, 2005)。よってCM・雑誌広告に資金を投入するよりも徹底したディーラーを巻き込んだアフターサービスの方が重要だと思います。ただし過去・ヒストリーに関するアイデンティティが強くなるので、昔流行っていた・乗っていた車の復刻版や思い出させるようなCMの効果はあると思います。
《お願い》
皆さんの実例があると、わかりやすく内容も発展しますので、皆さんの実例やコメントをどんどんお待ちしています!!下記コメント欄からお気軽に書き込んでください。
参考文献
Barry.T & Howard.D, (1990), A review and critique of the hierarchy of effects in advertising, Journal of Advertising, 9, 121-135.
Ehrenberg.A, (1974), Repetitive advertising and the consumer, Journal of Advertising Research, 14, 25-34.
Lambert-Pandraud,R., Laurent,G., & Lapersonne,E. (2005). Repeat purchasing of new automobiles by older consumers: Empirical evidence and interpretations, Journal of Marketing, 69, 97-113.
Solomon,M., Bamossy,G., & Askegaard,S. (1999). Consumer behaviour a European perspective.