消費者心理とマーケティング -テレビCMの効果No4 Part1- | 消費者心理学とマーケティング - 消費者心理学・消費者行動論の研究より -

消費者心理とマーケティング -テレビCMの効果No4 Part1-

消費者心理とマーケティング -テレビCMの効果No4 として、テレビCM効果を認めない立場 (weak theory) を取り上げます。

前々回、前回にて、テレビCM の効果を主張する立場 (strong theories) を取り上げました。Strong theories の説明力の高いケースと説明力の高くないケースにおいて取り上げました。その中で、消費者が繰り返し購買するような商品に関して効果を主張する立場のモデルの説明力があまり高くない話をしました。

今回は、消費者が繰り返し購買するような商品に対する説明力が高いモデルを取り上げます。

(証券)アナリスト時代に広告宣伝を非常に増やしてもなかなか効果がでない企業もよく見てきました。その際はブランド力の向上には長期的な視点が必要と自分自身に言い聞かせてきました。

しかし、自分自身の買い物する際の視点を考えると釈然としないこともありました。つまり、日用品などを購買する際に、私はCM などまったく参考にせずに、過去の使用経験(値段に対する使用満足など)を基に次回に購入するものを決めているからです。

テレビCM効果を認めない立場 (weak theories) 消費者の関与が低い (Low involvement)、つまり商品に対する興味・関わりが低い、ケース(例、消費者が繰り返し購買するような商品である日用品など)に説明力があります。

この立場の中心は、Ehrenberg を中心とする研究です。

1. Double Jeopardy Trendの概略

Double Jeopardy Trend という概念を理解することが重要なので、Ehrenberg 達の論文 (Ehrenberg , 1990; Uncles, Ehrenberg, & Hammond, 1995)を基に研究結果の概略を説明します

シェアの浮き沈みの少ない市場 (stable markets) においては、下記のことが実際のパネルデータを用いた分析で判明しました。

個々のブランドのマーケットシェアは、そのブランドを買う人数と大きな相関関係がある。つまり、シェアの高いブランドはより多くの購入者がいて、シェアの低いブランドはより少ない購入者がいる。

個々のブランドの購入頻度は非常に少ししか変わらない。シェアの高いブランドがほんの少しだけ購入頻度が高い。

他のブランド(最も購入する頻度の高いブランド以外の全て)を購入する頻度の方が、最も頻繁に購入するブランドを購入する頻度よりも高い。

100% 特定のブランドにロイヤルティーを持っている消費者は非常に少ない。更に、シェアの低いブランドに100% 特定のブランドにロイヤルティーを持っている消費者は、シェアの高いブランドに対してロイヤルティーを持っている消費者よりも少ない。

2. コメント

ブランドロイヤルティーを重視する近年のマーケティングの潮流からすると異質な研究結果ですが、実際のパネルデータなどを用いた様々な研究で実証されています。

コーヒーや洗剤などのシェアの浮き沈みの少ない市場 (stable markets) による実証研究が中心です。これらは消費者の関与が低い (Low involvement)、つまり商品に対する興味・関わりが低い、商品と言えます。

3. テレビCM 効果

上記のトレンド(Double Jeopardy Trend) を基にして考えると、テレビCM の程度に関わらず、消費者は一定の種類のブランドを、(多少の頻度の差がありながらも)順番に購入しているということになります。

Ehrenberg の過去の研究にATR モデルがあります(Ehrenberg, 1974)

ATR モデルでは以下の順序を踏みます(消費者心理とマーケティング -テレビCMの効果No1-より抜粋)

1. CMによるブランドの認知の形成 

2. 初めての(購入・消費)トライヤルの実施 (CMでの説得は想定してい ない。むしろプロモーション効果などを想定)

3. 一部の商品のみ、習慣として繰り返し購入される

4. 大部分の購入される商品は、従来の習慣として購入していた商品(CMされたものとは別の商品)に戻る

ATR モデルでは、CMの効果はブランドの認知に限定している点がポイントです。消費者は、習慣的に購入される(同一カテゴリー内の)数種類の商品を中心に消費するとしています。

そして、CMによってトライヤルされた商品の内、実際に消費して満足などした商品(例)のみが習慣的に購入されるセットの中に組み込まれるという論理です。

Ehrenbergの前提は、消費者はCMによって説得されるような)無知な存在ではなく、過去の十分な消費経験より、実際の使用時に他の商品とのささいな違いを理解し、それに基づく満足度によって、購入する商品を決めているというものです。(Ehrenberg, 1974)

4. 補足

上記のEhrenberg 達の研究の前提になっている概念に、考慮するセット(Consideration set) という概念があります。これは非常によく知られている概念で、消費者は通常、考慮するセット(Consideration set) を持っていて、通常はそこに含まれている商品 (例、3 or 4 種類) から考慮・選択して商品を購入するという考えです。そこに含まれていない商品は通常は考慮にも入りません。


Part2へ続く