先日よりトマ・ピケティ氏の『21世紀の資本論(の要約版)』のまとめ&感想を書いておりますが、前回までの話をご覧になっていない方は合わせてそちらもお読みいただけますと、より理解が深まるのではないかと思います。
その0http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11891951450.html
その1http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11892151580.html
その2http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11894579109.html
その3http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11894753877.html
その4http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11894820263.html
今回はPart2:資本と不平等の歴史(1700年~現在)の最終回でございます。
前回は大戦間および第二次世界大戦直後の期間(1914~1950年)についての話でございましたが、今回は第二次世界大戦後から現在にいたるまでの話になります。
14.1950年~1980年
戦後は戦争による損害からの反動もあり、アメリカでは経済成長率は1.5%→2.4%へ、西ヨーロッパでは0.7%→4%へと大幅に上昇しました。
産業革命以降の1人当たりGDPの成長率
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F2.3.pdf
1970年代に入ると成長率が鈍化するのですが、一つは戦後の復興も終わり、アメリカ・ヨーロッパが経済のトップランナーになったということがあげられます。やはり途上国は先進国をまねるだけで急速に成長を果たすことができるのですが、先進国は自ら新技術を生み出していったりしなければならない分、どうしても成長率が鈍化するのはしかたないところです。
しかし、ピケティ氏は成長率の鈍化は巻き返し期間が終わったことによる回避不能なものであったわけではないと指摘します。
やはり、累進課税の強化や、国有化、自由市場の規制が成長率アップに貢献していたということなのでしょうか?
15.1980年~現在
まず、市場の規制緩和についてですが、大恐慌や災害の記憶が薄れるにつれ、規制の意味を人々は忘れていきました。また、1970年代に発生した「スタグフレーション」に対してケインズ主義的な需要刺激策は奏功しませんでした。また、高度成長の最中、国の役割をいつまでも大きいままにしていて大丈夫なのか?という疑問も発生してきました。そして、後発国の成長が先進国に追い付いてきつつあったことに焦った先進国はとうとう市場の規制緩和を始めていったのです。
あ~あ、やっちまったなぁ・・・(;^_^A。
さらにはアメリカとイギリスは累進課税を弱めることにもしました。フランスとドイツは所得税の最高税率がだいたい50~60%で落ち着いていたのに、アメリカとイギリスは80~90%あったのを30~40%に下げました。
所得税の最高税率の推移 1900-2013年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F14.1.pdf
フランスを筆頭に民営化も推進され、民間資本が増大。先の累進課税の緩和も合わせると、資本の重要度がより増し、格差が拡大していったというわけです。
富裕国の民間資本/所得比 1970-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F5.3.pdf
これらの政策が成長を鈍化させたとのことですが、要するに資本の重要度が増したということで、労働よりも資本よりの収入が重視されることになり(あるいは消費よりも資本への投資が重視されるようになり)、また格差拡大によって消費の盛んな中間層が消えてしまったことが、経済成長にブレーキをかけてしまった大きな原因の一つなんだろうと思います。(そこまで詳しくはこの要約版には記載されていませんでしたが)
そして経済成長率の低下はさらに資本の重要度を高め、資本の蓄積及び偏在を促進させていくことになったというわけですね。
また、世界的に賃金格差も拡大してきており(特にアメリカ)、これも格差拡大を促進させました。
アングロサクソン諸国における賃金格差(上位1%のシェア)の推移 1910-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F9.2.pdf
アメリカにおける賃金格差(上位10%のシェア)の推移 1910-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F0.I.1.pdf
資本/所得比の推移については戦後から現在にかけて以下のように増大しました。
(戦後→現在)
アメリカ:3.5→5
イギリス:2→5.5
フランス:3弱→6強
ドイツ:2強→4強
ヨーロッパにおける資本/所得比の推移 1870-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F0.I.2.pdf
また、富の偏在については以下の通りです。フランスの場合は累進課税の緩和がされなかった分、格差の拡大は軽めであったようですね。
(戦後→現在)
仏国 上位10%:60%→63%
上位1%:21%→25%
英国 上位10%:60%強→70%
上位1%:20%強→30%弱
米国 上位10%:60%強→70%強
上位1%:30%弱→35%
フランスにおける富の偏在 1810-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F10.1.pdf
イギリスにおける富の偏在 1810-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F10.3.pdf
アメリカにおける富の偏在 1810-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F10.5.pdf
というわけで、規制緩和やら民営化やら累進課税の緩和やらやってしまったおかげで、1970年代以降、成長率は鈍化し、格差が拡大してきているというわけですね。
今回の部分はちょっと短めだったので、おまけで日本の累進課税についても調べてみました。
日本における所得税の最高税率の推移(Wikipediaより)
1974年 (昭和49年) 75.0%
1984年 (昭和59年) 70.0%
1987年 (昭和62年) 60.0%
1989年 (平成元年) 50.0%
1999年 (平成11年) 37.0%
2007年 (平成19年) 40.0% (課税標準1,800万円以上)
2015年 (平成27年) 45.0% (平成25年度の法改正によるもの)
2007年までは右肩下がりで下がり続けて、その後少し反転しているようですね。まぁ、もちろん最高税率を課せられるのは、ごく一握りの人ではありますが。
それでは、みなさんにちょっとだけクイズです。現在の所得税の税率は以下のようになっています。
~195万円 :5%
~330万円 :10%
~695万円 :20%
~900万円 :23%
~1800万円 :33%
1800万1円~ :40%
では、問題です。所得が1000万円の人と、所得が900万円の人で所得税を引いた分の手取りの金額が多いのはどちらでしょうか?答えは最後の方で。
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それではクイズの答えです。
そりゃもちろん1000万円の人に決まってるじゃないですか(‐^皿^‐)
結構勘違いしている人が多いかもですが、1000万円の所得の人のうち33%の税率がかかるのは900万円を超えた部分のみなので、900万円の人の手取りよりも67万円分だけ1000万円の人の手取りは多くなります。
ちなみに900万円の所得の人から所得税を引くと756万6000円に、1000万円の所得の人から所得税を引くと823万6000円になります。
くらえもん的ドラえもん解説