先日よりトマ・ピケティ氏の『21世紀の資本論(の要約版)』のまとめ&感想を書いておりますが、前回までの話をご覧になっていない方は合わせてそちらもお読みいただけますと、より理解が深まるのではないかと思います。
その0http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11891951450.html
その1http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11892151580.html
前回までのおさらいですが、資本の重要度を表す指標としてピケティ氏は資本(ストック)/所得(フロー)比を挙げておられまして、この値は資本の利益率が経済成長率を上回ると上昇し、下回ると低下すると。そして、長期で見ると資本の利益率はだいたい4~5%で、経済成長率は1~2%であるので、放っておくと自然に資本/所得比は上昇し続けていくだろうということでした。
それでは基本事項の確認でありますPart1.の後半部分を今回は取り上げてみたいと思います。
5.資本/所得比 再考
5a.長期にわたる資本/所得比の増加傾向
さっき述べましたように、長期で見ると資本の利益率は経済成長率をはるかに上回っております。とすると資本/所得比はどんどん増加していく、つまり資本の重要度が(労働と比較して)どんどん高くなっていくというわけですね。
ピケティ氏が重要視しているポイントとして、この結果は「市場の失敗」ではなく、資本市場にもともと内在されている性質であるということです。さらには経済学者の感覚としての資本市場が完璧であるほど資本/所得比はより高まっていくとのことです。
この経済学者というのは主流派経済学者のことと思われますね。つまり自由な市場に任せておくのがよいのだ、政府はなにも介入するな的な考えですね。しかし、自由に任せておくほどに資本の重要性はより高くなるということなのでしょう。
5b.資本(および資本/所得比)の成長の限界
まず、ここでは資本の成長には限界があると述べられています。つまり、儲けれる投資先がなくなれば、それ以上は資本は増えにくくなると。
まぁ、特定の商品に資本が集中すると金利が下がっちゃいますからね。資本の成長速度には限界があるということでしょうね。
ただし、ストックの資本金の額としては、積み上がっていくことは可能なわけで、資本/所得比はどんどん高くなることが可能のようです。
ヨーロッパにおける資本/所得比 1870-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F0.I.2.pdf
ヨーロッパでは第一次世界大戦前に資本/所得比6~7(ちなみにアメリカでは大恐慌直前がピークで5くらい)を記録した後、一時急激に下がりますが、1970年以降徐々に上がり始め、現在では5~6となってきております(ちなみにアメリカでは5弱)。
アメリカに関するグラフは載っていなかったので、本文の記載をもとに書きましたが、ヨーロッパの方が資本/所得比が高めなのがちょっと意外でした。
ピケティ氏は今後の予想として21世紀末には20世紀末のヨーロッパのように資本/所得比は上がり続けて7くらいになるのではないかと言っているようです。
世界全体での資本/所得比 1870-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F5.8.pdf
いずれにせよ、資本の重要度は特に大きな変化でもない限りは右肩上がりの傾向であるというわけですね。
6.資本/所得比の格差:資産分配の格差
6a.資産分配の格差
資本/所得比が高いということは資本の重要度が高いというだけで、本来は格差が開いているということを意味するわけではないのですが、現実には資本/所得比が高い程、格差も開く傾向があるようです。
本書によれば2010年代のヨーロッパでは富裕層のトップ10%が富全体の60%を占め、逆に下位50%が占める富の割合はなんと概ね5%未満だと。さらにアメリカでは上位10%が富の72%を占め、下位50%が占める割合はたったの2%!!!!!
そりゃ、暴動もおきるはずです(;^_^A
フランスにおける富の偏在 1810-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F10.1.pdf
イギリスにおける富の偏在 1810-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F10.3.pdf
スウェーデンにおける富の偏在 1810-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F10.4.pdf
アメリカにおける富の偏在 1810-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F10.5.pdf
上記グラフの推移に関する説明はPart2.以降に譲るとして、やはり持つ者と持たざる者の差というのはどこも激しいようですね。特にアメリカはひどい・・・。
日本についての富の偏在に関するグラフはなかったのですが、所得格差についてのグラフはありました。(といっても上位1%および上位0.1%のデータだけでしたが)
それによると、上位1%がGDPの9.5%を、上位0.1%がGDPの2.5%を占めるということで、上位陣のシェアとしてはスウェーデン、フランスより高く、ドイツより低いといったところですね。
フランス、ドイツ、スウェーデン、日本における所得格差(上位1%の割合) 1910-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F9.3.pdf
格差の問題は欧米だけでなく日本も現在の問題として考えた方が良いのかもしれませんね。
6b.資産分配の格差の理由(格差拡大の理由)
では、なぜ格差は拡大するのか?
労働による賃金の格差はどうか?
賃金格差
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/T7.1.pdf
2010年代のヨーロッパでは上位10%が25%のシェアを占め、下位50%が30%を占めており、一方、アメリカでは上位10%が35%のシェアを占め、下位50%が25%を占めているようです。やはり、労働による賃金においても格差というものは生じているようです。
そして、この下位50%の層は賃金はすべて生活費に回さざるを得ず、資産への投資が困難であるというわけです。確かにそりゃそうだ。つまり、これが富の偏在を生む原因の一つというわけですね。
さらに、ピケティ氏のデータによれば金持ちほど金融商品への投資が多く(ほとんどの場合、利益率が高い)、さらには経営コンサルタントやファイナンシャルアドバイザーを雇って、より投資効率を高めることができ、さらに元手が多いとリスクも取りやすいというわけで、賃金の格差以上に富の格差は開きまくってしまうというわけなのです。
資本の利益率は4~5%という話を前回しましたが、富裕層にとってみれば、その利益率は6~7%くらいになるようです。
さらに、資本に回すお金の元手は労働による賃金の格差だけではなく、相続によるものもあります。つまり、相続の有無も莫大の格差の大きな要因になるというわけですね。
フランスの総富における相続分の割合 1850-2100年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F11.7.pdf
富のうち相続によって得られたものが現時点で7割くらいあるとは・・・。人は生まれながらにして不平等にさらされるというわけなのかもしれませんね。ちなみに上記グラフは未来については資本の利益率と経済成長率の差が大きいパターンと小さいパターンの2通りの条件で予測がされていますが、差が大きいパターンだと21世紀末には相続の割合が9割を超えるようですね。
というわけで、Part1.は主に基本事項および現状についての確認を主にやってきました。次回からのPart2.では歴史的に資本と富がどのような要因で変化してきたのかをたどっていくことになります。それでは、お楽しみに。
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