先日よりトマ・ピケティ氏の『21世紀の資本論(の要約版)』のまとめ&感想を書いておりますが、前回までの話をご覧になっていない方は合わせてそちらもお読みいただけますと、より理解が深まるのではないかと思います。
その0http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11891951450.html
その1http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11892151580.html
その2http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11894579109.html
その3http://ameblo.jp/claemonstar/entry-11894753877.html
前回からPart2:資本と不平等の歴史(1700年~現在)に突入しておりまして、前回は農耕社会~産業革命~第一次世界大戦までの期間を取り上げました。今回は大戦間および第二次世界大戦直後の期間(1914~1950年)に起きた資本(および格差)の縮小についての話でございます。
10.戦争による物的破壊
ヨーロッパにおける資本/所得比の推移 1870-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F0.I.2.pdf
上図のように、第一次世界大戦がはじまると資本/所得比は急激に減少します。これは戦争によって資本(建物、工場、インフラetc.)が物的に破壊されたからなのでしょうか?
もちろん、一部はそれで説明できるのですが、フランスではGDP1年分、ドイツではGDP半年分、イギリスに至っては、あまり戦争による物的被害は出ていないとのこと。それにもかかわらず資本/所得比が約4(6~7→2~3)も減少、つまりGDP4年分の資本が失われてしまったと。
というわけで、物的破壊以外の要因についてもきちんと見ていく必要がありそうですね。
11.第一次世界大戦
第一次世界大戦が始まると交戦国の政府は負債を大量に積み上げるのですが、戦後にこれを返済する手段としてとられた方法は大きく分けて2つありました。
1つは累進課税(所得税・相続税・資産課税etc.)です。
フランスでは所得税の最高税率は2%→72%へ、ドイツでは3%→40%へ、アメリカでは7%→77%へ、イギリスでは8%→60%へ上昇しました。
一方、相続税についてもフランスでは7%→30%、ドイツでは0%→35%、アメリカでは0%→40%、イギリスでは15%→40%へと第一次世界大戦後に上昇しております。
所得税の最高税率の推移 1900-2013
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F14.1.pdf
相続税の最高税率の推移 1900-2013
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F14.2.pdf
いやぁ、負債返済のためとはいえ、これまた急激に税率を引き上げたもんですね。こりゃあ富裕層の資本に大打撃をあたえてしまうわけだ。
もう1つは通貨発行によるインフレ誘導によって負債を薄めるという方法です。開戦直後、主要国は金本位制をやめておりますので、輪転機で大量の紙幣を刷ったというわけですね。もちろんインフレの亢進という副作用が発生しましたが・・・。(銀行に現金がブタ積みになっている現在の日本では通貨をいくら発行しようがインフレにはなりませんが、当時は資金需要がかなりありましたので、通貨を発行したそばからお金がどんどん使われていたようです。)
産業革命以降のインフレ率の推移
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F2.6.pdf
1913~1950年の平均でフランスのインフレ率は13%(物価が100倍)で、ドイツのインフレ率は17%(物価が300倍)という厳しいインフレに見舞われた一方、アメリカ、イギリスでは損害や政治的不安も少なくインフレ率は3%くらい(物価が3倍)で留まったようです。
また、政府はインフレ対策として家賃統制なども行ったおかげで、不動産価格も下がり、結果として資本/所得比が激減したということです。
資本家にとってはかなりの大打撃だったでしょうが、もともと労せずして積み上げた富ですからね、社会の安定を考えると、これくらいの格差の方が健全なのかもですね。
それにしても政府の力ってすごいですね。自然に際限なく拡大していった格差を短期間で是正してしまいましたからね(;^_^A 戦争のおかげというのもありますが・・・。
12.1929年の株式市場崩壊と大恐慌
さらに追撃として大恐慌が資本家を直撃します。株式市場の大暴落でさらに資産価値が下がってしまったというわけですね。
政府は自由市場というものの危険を察知し、各種規制を設けたり、累進課税を強化したり、民間資本の国有化を進めたりしていったというわけですね。ちなみにヨーロッパでは国有化がメインで、アメリカでは自由市場の規制がメインで行われたようです。
まぁ、資本家にとっては踏んだり蹴ったりですが、政府の政策には一定の理があるように思えますね。
13.第二次世界大戦およびその直後
13a.第二次世界大戦およびその直後
そして、二回目の大戦においても第一次世界大戦同様、物的破壊や通貨発行にともなうインフレなどでさらに資産価値が減少し、結果として資本/所得比はヨーロッパでは第一次世界大戦前には6~7あったのに、1950年には2~3に、アメリカではヨーロッパ程の損害はなかったのですが5から3.5へ下落しました。
資本の重要度が落ちただけでなく、これは当然格差の是正にもつながります。なぜかというと、資本は富裕層がめちゃめちゃ持っていたからです。逆に言うと、資本をほとんど持たないものにとっては、ダメージが少なかったというわけですね。
フランスにおける富の偏在 1810-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F10.1.pdf
イギリスにおける富の偏在 1810-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F10.3.pdf
アメリカにおける富の偏在 1810-2010年
http://piketty.pse.ens.fr/files/capital21c/en/pdf/F10.5.pdf
第一次世界大戦前と第二次世界大戦後の上位10%と上位1%の人々が占める富の割合を比較するとこうなります。
(WW1前→WW2後)
仏国 上位10%:90%→60~70%
上位1%:60%→20~30%
英国 上位10%:90%→60~65%
上位1%:70%→20%
米国 上位10%:80%→65%
上位1%:45%→30%
だいぶ減りましたが、それでもまだ十分持ってますねぇ(;^_^A
何はともあれ、政府の政策によって資本の重要度が下がり、格差も縮小したというわけですね。
13b.富裕層の没落と中間層の浮上
上位10%が占めていた富はどこかに流れたというわけではありませんが、その影響か上位10~50%に位置するところに、いわゆる「中間層」と呼ばれるグループが出現します。
これによって、仕事と勉強を頑張れば資本を持つことができるという社会が形成され始めます。
また、戦後も富裕層への累進課税等は持続していたので、政府は負債を返済したあと、その巨大な税収を得ることができていました。政府はこれらを教育や福祉に充てることで、低所得者層の生活の質も改善させていましたが、やはり、資本の再分配という意味では、仕事に励んで比較的高い賃金を得ることができた「中間層」が、この社会では最大の恩恵を受けていたと言っても過言ではないでしょう。
今回は両大戦間の期間ということで、どのように資本/所得比が下落し、格差が縮小したのか。また、中間層と呼ばれるグループの出現についてみていきました。次回はPart2.の3回目ということで、その後から現在に至るまでの歴史についての話になります。
政府の政策が格差にかなりの影響を及ぼすことを改めて認識したという方はクリックお願いします。
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