内部留保対策は簡単 | 秋山のブログ

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日経ビジネスに内部留保に関する記事が出ていた。内容にはかなり異論があるが、政府の考えを知り対策を考える上でなかなか有用な記事であったのでここに紹介し、考察する次第である。

引用しよう。
『なぜ日本経済は成長しないのか。企業が稼いだ利益をせっせと内部に溜め込んでしまうからだーー。これが安倍晋三内閣がアベノミクスに着手する段階での分析だった。』
経済の好循環実現検討専門チームの中間報告でも内部留保の問題は指摘されている。この内部留保が大きな要因であることは、まさにその通りであろう。
ところが、磯山友幸氏の何故内部留保が悪いのかという理解は、どうもおかしい。『企業に再投資させよう』『もっと配当などの形で株主などに利益還元させよう』という意図の政策がおこなわれ、『給与の引き上げを繰り返し要請しているのも、この流れの中にある』としている。本来、好循環を実現するために必要なのは、有効需要を増やす政策であって、消費者の収入すなわち労働者の給与を上げることそのものであるはずである。しかし氏は単なる内部留保を吐き出す手段のような書き方をしている。氏の書き方から判断できることは、氏は全く性質の違う設備投資と株式投資を一緒くたに投資とした上で、投資は成長に繋がるからこれが成長戦略だと考えたのだろう。生産関数を信じて思考を放棄するというよくあるパターンだ。設備投資は、お金を使ったという意味ではプラスの効果もあるが、生産力が上がっても需要不足では意味はない。好循環には当然繋がらない。繋がると考えるのは、すなわちセイの法則を肯定することに等しいだろう。株式投資はもっと成長に繋がらない。株価が上がることは成長とも好循環とも全く関係がない(同時におこったのを観察して、簡単に2つの事象を結びつけてはいけない)。給与を下げてその分配当に回す傾向になれば、確実に景気は悪化するだろう。日々の収入から消費を抑えて、その分株につぎ込むようになっても、景気は当然悪化する。株価は上がっても、好循環にはもちろん繋がらない。外国人が株を買うのももちろん意味が無い。

次に企業の純利益が増えたことを書いている。『1年間の純利益は41兆3101億円と10%も増えた』のだそうだ。純利益というのは、賃金を払った後の利益である。好循環に重要なのは、売上高と賃金であって純利益は重要ではない。配当に回す率が低く、そのため内部留保が増えたといっているが全く馬鹿げた話である。前年度よりは配当に回す率があがったが、以前の率より低いのでまだまだ低いなどと言っている。状況、条件が様々違うところで、単純に率を比べて評価することの愚かさに気づいていないのだろうか。だいたい配当に回す率を決めて内部留保の額が決まったというより、内部留保を決めて残りが配当になっているのであろう。

次に書いてあることは、労働者の賃金が上がっていないことに共産党が噛み付いたことと、企業の設備投資が減価償却の範囲程度しかなされていないことだ。繰り返しになるが、賃金を増やさないから、需要が増えない。需要が増えないから、新たな設備投資は必要ない。これは極めて当たり前の話だ。『成長できない理由の一つは再投資の不足』などとも言っているが、全く的外れである。

企業が賃金を上げずに内部留保を貯める理由についても書いている。景気回復がいつまで続くかわからないから等々の話がある。もちろん会社が安定するためには、借金をしているよりも、貯金がある事の方がはるかに有利だ。しかしこれにはもっと大きな気付かれていない理由がある。実業よりも金融投資のほうがしばしば儲かってしまう現状だ。ピケティが実証したように、労働者と資産家の格差は広がるばかりである。これは企業活動に関しても同様のことが言える。本来、企業は借金があって事業をしているのが本来の形であって、インフレと成長よりなる名目成長率よりもリスク分と若干の経費を除けば低い利率で借りて活動していたのである(時間と共に目減りする)。借りるのが得な状況だから借りていたのだ。ところが、投資家に有利なように、つまり貸すほうが有利なように改悪されていった。貸すほうが有利になれば、当然借りることは少なくなり、内部留保も貯めるだろうということである。(成長率金利論争もこう考えると分かりやすい)

農業や医療をして、規制を撤廃すれば新しいビジネスチャンスがあるのは間違いないなどと言っているが、これは単なるイメージで言っているだけで具体的な話は何もないだろう。市場の機能が上手く働いていれば儲けはむしろ少なくなるというのは、経済学の教えてくれる真理の一つである。価格は、独占性によってより大きく利益を上乗せするしろものだ。つまりこの場合の規制緩和というものは、独占を防いでいた規制を無くして、独占し易くするといったものになるだろう。

安倍内閣発足前の財務省の分析は興味深い。日本経済が成長しない理由として、日本の構造がグローバル化に適応できなかったことと、企業が内部留保を増やし続けて再投資しないことをあげたそうだ。まったく磯山氏が最初に述べていたことと同じ構造である。投資こそ生産、成長の要因であり、生産すれば需要はついてくるという新古典派の馬鹿げた経済学に官僚も毒されているのがよく分る。
グローバル化に適応できなかったことが原因などというのは海外からの直接投資を増やしたいという意味だ。証券の購入という形の海外からの投資に関しては、あまり意味がないことを多く人が気付くと思うが、この直接投資も望ましいものでは全然ない。残念なことに、確かに安倍総理はこれを鵜呑みにしてしまったようだ。今回のニューヨーク訪問でも日本への投資をよびかけている。

さて、すごいのは最後の話だ。訪問を受けたヘッジファンドから、内部留保への課税を提案されたらしいのだ。ヘッジファンドにとっても折角求めてきた法人税減税を、政府や世間一般の人を騙して実現しても、内部留保されたのでは利益にならないからだ。ずうずうしいことこの上ないが、内部留保減少は本来インフレによって実現されてきたもので、またインフレによって実現すべきものである。市場経済がある程度整っている国においては、マネーストックと物価の関係は安定している。投資家にとってインフレは税金のようなものなので、とにかくそれは避けたいので、これもまた様々な嘘を流して政府や世間一般の人を騙してきたのである。マネーストックは、企業が借金をする信用創造で増えるが、国が借金して使うお金を増やしても増加する。インフレとマネーストックの関係は安定しているので、例えばハイパーインフレが起こるなどというのは、全くもって馬鹿げた主張である。
政府が借金してつかうお金を増やしても、それ以上に誰かが貯金してしまってはインフレはおこらない。投資家に渡る配当利子は、ピケティが示したように取りすぎなので、そこから取り返す方策も強化しないといけないが、国はその貯金以上に使わなくてはいけないだろう。そして適切なインフレになれば、金利が成長率より低い正常な状態になり、企業も内部留保でなく借金で経営するようになっていくだろう。需要が十分になって企業が健全な経営をおこなえるようになれば、その時は十分に税収も増えているだろうから、インフレ等の程度に合わせて政府の財政も調整できるだろう(そもそも収束させなくてはいけないという考え自体、家計との混同で意味はないが)。