U-20ニュージーランドW杯2015中米予選、第4節。VSグアテマラ。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

U-20ニュージーランドW杯2015中米予選、第4節。VSグアテマラ。


 「勝利以外は予選敗退」 

 W杯出場への可能性を繋ぎ止める事ができるか…?あるいは道半ばで夢はついえてしまうのか…?生きるか、死ぬか。文字通り「人生が懸かった」運命の一戦を迎えました。※引き分けでも予選敗退(引き分けだと残りの2試合で勝ち点で予選突破圏内の「4位」以内に追い付けないため)。

 これほど重要な試合はない。…にも関わらず、チームの雰囲気がおかしい…。僕はホテルからスタジアムへの移動のバスの中から、すでにチームの「異変」を感じ取っていました。

 いつも試合への移動のバスの中ではみんなで「勝利の歌」を歌ってモチベーションを高めるのですが、この日はどうも歌声が小さい…。いつもは激しいくらいに盛り上がるのに、今日はやけにみんな大人しいのです。この時点で、「何か嫌な予感」はしていました。

 スタジアム入りしてからも、異変は続きました。重要な試合前なのに、(悪い意味で)緊張感が感じられない…。何か、練習試合のような雰囲気。どうしてこんな事になってしまったのか…?実はそれには、この試合の前日練習に原因がありました。

 ただでさえ、重圧がかかる試合。スタッフ陣は「少しでも重圧から開放してメンタル面を楽にしてあげたい」と考え、試合前日の練習で「選手VSスタッフ陣(ホペイロやトレーナーなども含む)」のミニゲームを行う事を決断しました。リラックスムードで行われたこのミニゲーム。至る所で選手やスタッフの笑い声が響きます。僕もGKとしてこのミニゲームでプレーしたのですが、ピッチの中でこの時のチームの雰囲気を肌で感じ取り「これはマズイな」と心配になりました。

 これが日本人選手のようにプロ意識が高くて「リラックス」する時と「真剣」に戦う時の区別がきちんとできる…気持ちの切り換えができるのなら、何も問題はないのです。しかし…ホンジュラス人は違う。ホンジュラス人は「リラックス」と「真剣」の区別、気持ちの切り換えができません。特にU-20代表のようなまだ全員が10代の若い選手たちなら、なおさら。試合前日にスタッフ陣がリラックスした(ふざけた)雰囲気にもっていけば、選手たちは「あ、俺たちリラックスしても(ふざけても)良いんだな」と思い込んでしまい、翌日の大事なグアテマラ戦にもそういう緩慢なメンタル状態で臨んでしまいます。こういうホンジュラス人のメンタリティーは、日本人である僕以上にホンジュラス人である監督や他のコーチングスタッフがよく分かっているはずなのですが、なぜか「絶対にやってはいけない」アプローチを行ってしまいました。


 こうして「勝利以外は予選敗退」という超重要な試合に、我々U-20ホンジュラス代表は、まるで練習試合のようなフワ
~とした緩い空気で入っていきました。

 それでも、戦術的には見事に狙いが的中し、試合開始直後から相手の弱点をことごとく突いて再三チャンスを作るなど、完全にホンジュラスが試合の主導権を握ります。グアテマラはここまで無敗の3位に着けていましたが、やはり実力はホンジュラスが上。前半の終盤には今予選で初めてホンジュラスが先制点を奪い「1-0」!!今日の試合展開からすると、あと2、3点は入ってもおかしくない。逆に前半にグアテマラが得たチャンスは、ほぼゼロ。「今日こそは勝てる」…そう確信しましたが…。

 
 後半に大きな「落とし穴」が待っていました…。


 「1-0」1点リードで迎えた後半。試合は引き続き、ホンジュラスペースで進んでいきます。前半から他にも得点チャンスはありましたが、クロスやラストパス、シュートが雑で追加点をどうしても奪えません…。緩慢なメンタル状態で試合に入ってしまった事で、やはり肝心なところでの集中力が、今一、足りない…。


 すると、後半20分過ぎ…。またしても、信じられない出来事が起こりました。


 何と、ホンジュラスの選手が2枚目のイエローカードを食らい、退場処分に…。パナマ戦に続き、またも1人少ない10人で戦わなければならない窮地に追い込まれました。

 下の試合動画を見てもらえれば分かるように、退場になった2回目のファール自体は本来ならイエローに値しないようなファールで、退場はあまりにも厳し過ぎるジャッジ。しかし、1枚目のイエローカードが遅延行為という、(時間帯や試合展開を考えれば)全くすべきではない、いやする必要がない、あまりにも無駄なイエローカードで、結局、その時の言動で審判への印象が悪くなっていた事が2枚目のイエローカードにも繋がっており(1枚目と2枚目のイエローカードの間は10分くらいしかなかった)、完全に自業自得…。弁解の余地はありません。きちんと試合に集中できていれば、起こらなかった出来事。「緩慢なメンタル状態」で試合に入っていってしまった事が、この退場劇を生んでしまった…。

 こうして残り25分間以上(ロスタイムも含むと30分近く)を数的不利の10人で戦う事になってしまったU-20ホンジュラス代表…。それでもホンジュラスの力をもってすれば、10人でも充分にパスを繋いで自分たちで主導権を握って試合を進める事はできます。

 しかし、まだまだ経験不足のチームは10人になってしまった事で完全に萎縮してしまい、過度に相手を恐れてズルズルとDFラインを下げて守りに入ってしまいます。そして、せっかくボールを奪っても、充分にパスを繋いで組み立てられるのにロングボールに逃げては相手に拾われて…を繰り返す事により、グアテマラはホンジュラスが11人の時とは打って変わって「これはいけるぞ」と自信をもって一気に攻め込んできました。相手に付け入る隙を自ら与えてしまう…。グアテマラの波状攻撃が始まりました。

 こうなると修正は難しい。試合は完全にグアテマラペースに。ホンジュラスは防戦一方…。しかもホンジュラスは、FWがコンディション不良で全く走れないため相手DFラインへのプレッシャーが全くかからず、実質「9人VS11人」で戦っているのと同じ状況に陥ります。ほぼ、サンドバック状態に…。

 いつ失点してもおかしくない、ピンチの連続…。ホンジュラスのリードは僅かに1点。グアテマラに1点決められて同点になった時点で、我々の「W杯出場」の夢は絶たれます。万事休すか…?


 この絶体絶命の危機に立ちはだかったのが、前節のエルサルバドル戦に続いて先発出場したホンジュラスGKでした。


 相手CKからのグアテマラ選手の完璧なヘディングシュートを、奇跡とも言える脅威の反応でスーパーセーブ!!その後も雨あられのごとく降り注ぐシュートを完璧に抑えます。特に素晴らしかったのが、「ハイボール(クロス)処理」。実はこのGKはハイボール処理が苦手で、パナマ戦でもクロスをファンブルして失点するという致命的なミスを犯していました。それがこの試合では、勇気ある飛び出しと確実なキャッチ、パンチングで相手のハイボールをことごとく阻止!!ずっと課題として練習に取り組んできたハイボール…ようやくその成果が試合で花開いた瞬間でした。

 パリーヤス・オネ時代に指導したGKマリオやレアル・ソシエダ時代に指導したGKギエン同様、これまで「弱点」だったプレーを練習で強化して逆に「武器」に変えて大事な試合で活躍する姿に、僕は「このGKも、とうとうここまできたか…」と感動して涙が出そうになりました。

 ただ、GKが活躍しているという事は、それだけ相手に攻められているという証拠…。ホンジュラスの「サンドバック状態」は依然続いており、いつ失点してもおかしくない紙一重のピンチの連続…。刻一刻と時間が流れて試合終盤を迎えても、その展開は変わりません。リードは僅かに1点。「1失点した時点で予選敗退」という極限状態…。未だかつて感じた事がないほどの大きなプレッシャー…。戦術的な指示の声だけじゃなく、魂込めて大声でチームを鼓舞し、あとはもう「神様、頼む…。勝たせてくれ…」と祈る事しかできませんでした…。





 そして…。





 試合終了!!!!!「1-0」、ホンジュラス勝利!!!!中米予選突破の可能性をギリギリで繋ぎ止める!!!!!

 ヨッシャァァアアーーーー!!!こんなところで終わってたまるか!!!絶対にW杯に行くんじゃぁぁああーー!!!

 思わず、吠えましたよ!!「
1失点した瞬間にW杯出場の夢が途絶える」という試合終盤の極限状態は…本当にもう…生きた心地がしませんでした…。勝てて良かった…。本当に、良かった…。

 そんな極限状態の中で、選手みんな本当に…本当によくやってくれました。特にGKコーチとして、GKには感謝の気持ちを伝えたい。パナマ戦で致命的ミスを犯して戦犯になったGKが、エルサルバドル戦に続く神懸り的な活躍で、「2試合連続無失点」を達成。この日の勝利のヒーローとなりました。彼がパナマ戦でミスして敗北の戦犯になった時は各方面から大きな批判を浴び、彼はもちろん、GKコーチである僕も言葉にできないほどの屈辱、悲しみ、悔しさ、ショックを受けました。あの苦しみをGKとGKコーチで共に力を合わせて乗り越えて、やっと掴んだ今予選の「初勝利」がGKの最高のプレーで「2試合連続無失点」…。試合終了の笛が鳴った瞬間は、感無量で言葉になりませんでした。「実力的には厳しい」と考えていたGKが、パナマ戦のミスから立ち直るだけじゃなく、この短期間でここまで一気に別人のように成長・進化するとは…。GKコーチとしてこんなに嬉しい事はないですし、また改めて選手のもつ「無限の可能性」を彼の成長と進化から学ばされました。チームと自分を救ってくれて、本当にありがとう…。

 
 確かにチームとしては、試合の入り方を間違え、それにより決定機を外したり退場者を出したりして、もっと楽に勝てるはずだった試合を自ら難しくしてしまうなど、改善しなければならない点はまだまだ多いです。

 しかし…。それでも我々は、勝った。

 この試合は、前回のエルサルバドル戦後のブログにも書いたように「どんな形でも良いから勝利が必要」でした。内容は確かに良くなかったけど、最大の目標だった「勝利」を成し遂げ、「W杯出場」への可能性を繋ぎ止めた意味は、あまりにも大きい。勝利したからこそ「反省」もできますが、これが勝ててなくて予選敗退していたら、もう続きがないのだから反省する事さえできませんでした。「勝つ」か「勝てない」かで、僕の人生は大きく変わっていました。

 この日の初勝利により、やっと「中米予選突破圏内」である「3位」に浮上(突破圏内に入ったのは、今予選で初めて)。あとは残り2試合に勝ちさえすれば、「他チームの試合結果に関係なく中米予選突破」というところまで、きました。


 が…。この「残り2試合」が、簡単にはいかない。


 この「残り2試合」も今節のグアテマラ戦同様「勝利以外は予選敗退」という厳しいシチュエーション(順位が下のライバルたちと勝ち点が僅か「1差」なので、この2試合共に勝たないと最終的に抜かれてしまう)。残り2試合「2連勝」が中米予選突破の絶対条件になります。


 次なる相手は、ベリーズ。

 夢の「W杯出場」への過酷な道のりは続いていきます…。



※試合ハイライト動画。白がホンジュラス(最後に順位表も)チームで最も身長が低い選手が改心の決勝ヘディングゴール!前述のGKのスーパーセーブは「4:30」。エルサルバドル戦に続く神懸り的活躍に、これまで一度もGKを褒めた事のないアシスタントコーチが試合後「Yoji、GK、最高だ」と言ってきました。彼のGKに対する「初めて」の賛辞でした。監督も試合後、今までで最も力の入った握手を僕にしてきました。言葉にはしなくともこの握手から監督のメッセージを受け取りました。今後もGKと共に力を合わせて結果を出していきます!





① 【U-20ニュージーランドW杯2015中米予選、第1節。VSパナマ

② 【U-20ニュージーランドW杯2015中米予選、第2節。VSコスタリカ

③ 【U-20ニュージーランドW杯2015中米予選、第3節。VSエルサルバドル





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