世界を感動させた誇り高き「英雄」たち。<ホンジュラスVSブラジル> | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

世界を感動させた誇り高き「英雄」たち。<ホンジュラスVSブラジル>


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -<ホンジュラスVSブラジル>2012年8月4日(土)①



 その瞬間、地鳴りのような大歓声で、ホンジュラス全体が揺れました。


 1人少ない10人のホンジュラスが「世界最強」のブラジルに対して追加点を奪い「2-1」と奇跡の勝ち越し!ホンジュラスの勝利を誰もが願い、そして、信じていました…。しかし…。


……………………………………………………………………………………………………


 「ロンドン五輪2012」において、グループリーグでモロッコと「2-2」引き分けスペインに「1-0」勝利日本に「0-0」引き分け…で、「史上初」となる「世界大会」で決勝トーナメント進出を果たした、我らがホンジュラス。

 歴史を塗り替えた戦士たち。迎えた決勝トーナメント初戦。相手は「世界最強」のサッカー王国・ブラジル。

 「歴史を塗り替えた」とは言え、ホンジュラスの選手たちに全く「やりきった感」はありませんでした。彼らは「このチームならもっともっと上を目指せる」と本気でメダルを狙ってましたし、実際、今回のホンジュラスにはそれだけの「力」がありました。

 老若男女…ホンジュラスを応援する者全員が一致団結し、ブラジルを倒そう!!!歴史を更に塗り替えよう!!!


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -<ホンジュラスVSブラジル>2012年8月4日(土)③



 ロンドン五輪2012・決勝トーナメント初戦…

 <ホンジュラスVSブラジル>…

 ついに、キックオフです!!!




「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -<ホンジュラスVSブラジル>2012年8月4日(土)⑤



 立ち上がり…。やはり「ブラジル」が相手という事でか動きの硬さが見られるホンジュラス。ブラジルに押し込まれ、ピンチを招きます。

 しかしそこを、GKホセ・メンドーサの好守などで何とか凌ぐと、徐々に本来の「ホンジュラスらしいサッカー」を取り戻し、「前半12分」…早くも歓喜の瞬間が訪れます!!

 ブラジルの攻撃を鋭い読みで遮断したMFロへル・エスピノサがそのままブラジルDFを抜き去ってチャンスを作ると、最後は「左利き」のマジシャン・MFマリオ・マルティネスが浮き球を反転しながら利き足とは逆の「右足」でダイレクトシュート!!!ブラジルGKが見送る事しかできないスーパーゴールが決まり、ホンジュラス先制!!!

 ゴールの瞬間、そこが「殺人発生率世界一」の都市であるサン・ペドロ・スーラだという事も忘れ、思わず外に飛び出して吠えましたよ!!

「ホンジュラスがブラジル相手に先制したぞぉぉおおおおお!!!!!」

 すると、他の場所からも雄叫びが聞こえてきました。この日ばかりは強盗も、警察も、一般庶民も関係ない…。全員でホンジュラスを応援しよう!!全員で歓喜を共にしよう!!


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -<ホンジュラスVSブラジル>2012年8月4日(土)④



 「前半の早い時間帯での先制点」は、「歴史的勝利」を挙げたスペイン戦と一緒。「今日もいける!」僕はもちろん、ホンジュラス国民全員の期待と希望が大きく膨らんだ瞬間でした。

 ゴールを決めたマリオ・マルティネスはこれで完全に波に乗り、この4試合の中でも最高の「切れ味」と「テクニック」を披露!!ブラジル人選手にとって最も屈辱的と言われる「股抜きドリブル」で突破し、高い技術が売りのブラジルを手玉に取るシーンも…。

 「流れはホンジュラスにある。勝てる」

 そう思われた、前半33分…。ホンジュラスにとっては「悲劇」としか言いようがない、試合を決定づける出来事が起こってしまいます…。

 何と、DFウィルメル・クリサントが僅か1分以内に2度のイエローカードを受けて、まさかの退場!!ファールじゃないとまでは言いませんし、確かにクリサントが軽率な面もありましたが、あれが果たしてカードに値するプレーなのか…?ホンジュラスにとっては、あまりにも…あまりにも厳し過ぎるジャッジで、「世界最強」のブラジルに対して試合の半分以上の時間を1人少ない「10人」で戦うという、絶体絶命、圧倒的不利な状況に陥ってしまいました。

 しかも、これで動揺してしまったか「悪夢の退場」から僅か5分後の前半38分…。ブラジルにゴールを許し、「1-1」の同点に追い付かれてしまいます…。んんん…。決して、防げない失点ではなかったが…。

 前半はどうにかこのまま「1-1」の同点で凌ぎましたが、やはりブラジル相手に数的不利はどう考えても厳しい。後半からブラジルの怒涛の猛攻が始まり、ホンジュラスは防戦一方に追いやられ、失点を重ねる…。世界中の大半の人が、そう思ったはずです。普通は、そうなります。ブラジル相手なら…。

 しかし、そうはならなかった。ここから「10人」のホンジュラスがその実力と魂をいかんなく発揮し、世界を「驚嘆」と「感動」の渦に巻き込んでいく事となるのです…。


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -<ホンジュラスVSブラジル>2012年8月4日(土)②



 「運命の後半」が、ついにキックオフ…。そして、その直後のプレー…。

 これが、「ホンジュラスのメッセージ」だったのかもしれません。


……………………………………………………………………………………………………



 後半からは、4年前の北京五輪で知り合った「万里男」と共に、サッカー好きが集まる有名な飲食店へと移動しました。

 しかし、万里男がゆっくりしており、後半開始に若干、遅れてしまいます。慌ててTVを見ようと走って席に着こうとした、その時でした…。


 「オッ、オオオッ、オオオオオ!!ウォォォオオオオオオオ!!


 まるで地鳴りのような、割れんばかりの大歓声で、ホンジュラス全体が大きく揺れました!この大歓声を聞けば、例えTVを見てなくとも、何が起こったかは分かる…。

 「10人」のホンジュラス、後半開始3分にMFロへル・エスピノサの正に魂のスーパーゴールでブラジル相手に「2-1」奇跡の勝ち越しだぁぁあああああ!!!!!


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -<ホンジュラスVSブラジル>2012年8月4日(土)①



 先日、放送されたTBSの「ひるおび!」でも、僕はこう言いました。「(ホンジュラスは)守るべき場面でも攻めてくる事がある(何をするか分からない)」

 通常、ブラジルを相手に前半の内に退場者を出して1人少ない数的不利な状況で、さらに「1-1」同点で「攻める」でしょうか?そもそもこの状況下で、「攻める」という発想が出てくるでしょうか?
てか、「世界最強」のブラジル相手に、数的不利な状況で攻めれるでしょうか?

 普通であればこの状況下、この相手(ブラジル)であれば、もう貝のように自陣ゴール前に閉じこもって引いて守り、猛攻に何とか耐えて…という事しかできないはず。例え攻めたくても10人でブラジル相手に攻めるなんて、一体、世界のどの国ができるというのでしょうか?

 しかしホンジュラスはこの状況下でもこの相手(ブラジル)でも本気で「勝ち」にいきました。

 この後半開始早々のエスピノサのスーパーゴールと、このゴールに至るまでのプレーは、ホンジュラスの…


 「例え10人でも、相手がブラジルでも、攻めて勝ちにいくんだ」


 …という、強烈なメッセージのように感じました。



 ところが、「歓喜」の僅か2分後…。またしてもホンジュラスに、悲劇が起こってしまいます。

 自陣ペナルティエリア内でブラジルFWを倒したとして、PKを取られてしまう…。

 これをネイマールに決められ、「2-2」…。再びブラジルに同点に追い付かれる…。

 先制すると退場者が出て、それでも10人で何とか奇跡的に勝ち越すと、その直後にPKを取られて同点に追い付かれてしまう。歓喜→失望→歓喜→失望…。ホンジュラスにとってはあまりにも厳しい展開、厳しい判定…。


 さすがのホンジュラスもショックを受けたか、この10分後の後半15分…。一瞬の隙を突かれてブラジルに勝ち越しゴールを奪われ、「2-3」…。ついに、逆転されてしまいます。

 1人少ない数的不利のホンジュラスにとってはあまりにも重過ぎる、痛恨の1点…。

 ただ、それでもホンジュラスは、諦めませんでした。

 数的不利なので確かにブラジルに押し込まれるシーンもありましたが、ブラジルに攻められれば攻め返し…とても1人少ないとは思えないほど果敢に攻撃に出るホンジュラス。おそらく後半だけを見た人は、ホンジュラスとブラジルが「10人VS11人」で戦ってるとは、気付かなかったのでは?それくらいホンジュラスは、10人でブラジルと対等に渡り合っていました。

 それは「データ」にも表れています。試合全体の<ボール支配率>が、ブラジルの「56%」に対してホンジュラスは「44%」と、10人にも関わらずほぼ互角。<シュート数>はブラジルの「16本」に対してホンジュラスは「10本」とリードされていますが、<枠内シュート数>ではホンジュラスが「6本」でブラジルの「5本」を上回っています。

 何度も言うようですが、ホンジュラスは前半の内に退場者を出し、「10人」で戦っています。

 10人でブラジルと対等に戦う…それを可能にしたのは、言うまでもなくホンジュラス人選手の能力の高さ。ネット上では「ホンジュラスは10人なのに最後まで全く体力が落ちない!!半端ねえ!!」って声がたくさんありましが、それは「前回ブログ」でも書いたように、例えば1ヶ月オフ無しでトレーニングをしたりと日本の常識では考えられないようなスポーツ生理学を超越(無視)した過酷な練習や試合を小さな頃から行う事によって身に付けた、超人的な身体能力の賜物。僕も実際に現地で経験があるのですが、この常軌を逸したトレーニングを繰り返す事により、肉体の限界を越えた更にその先にエンドルフィンが出てきて、頭で考えるよりも前に体が勝手に動く…みたいな「グラップラー刃牙」状態になるのです。

 そんな「規格外」のホンジュラス人選手の中でも、特に活躍が際立っていたのが、オーバーエイジのMFロヘル・エスピノサ(MLSカンザスシティ所属)。「10人」のホンジュラスが11人のブラジルと対等に戦えたのも、このエスピノサが1人で2人分を走っていたからこそ。とにかく運動量と戦術眼が半端ではなく、献身性が持ち味の日本人もビックリするほど、縦横無尽のスタミナで走り回って、献身的に好守の大事な場面に必ず顔を出し決定的な仕事をします。技術も非常に高く、この日のゴール(ドリブルでブラジルDFをかわし、最後は倒れながら股の間にシュートを通して決めた)は正にスーパー!!!彼は日本戦は累積警告で出場できず、戦前のブログにも「この素晴らしい選手を日本の皆様にお見せできないのが残念でなりません」と書きましたが、ネット上では、このブラジル戦や他の試合でエスピノサのプレーを見た日本人の方が意外と多く、その誰もがエスピノサを絶賛していました。彼の素晴らしさは目の肥えたイギリスの「フットボール」ファンにも伝わったようで、エスピノサが(不可解な判定で)退場になってピッチを去る際、スタジアム全体が割れんばかりの温かい賞賛の拍手喝采で包まれました。
僕は、レッドカードで退場になった選手が、これだけの拍手喝采で見送られるシーンを、未だかつて一度も見た事がありませんでした。本当に、感動的なシーンでしたし、「エスピノサの活躍」と「審判への不満」を観客がストレートに感情表現した、この試合を正に象徴するシーンでした。


※退場後、スタジアム全体から拍手喝采で見送られるロヘル・エスピノサ。





 実質、この終了間際のエスピノサの退場で、試合は終わりました。ブラジルとネイマールはその能力の高さよりも、派手に転ぶ「ダイブ」の上手さばかりが目立ち、審判はそのダイブを見抜けずカード連発。スタジアムの観客のブラジルとネイマール、審判に対するブーイングは凄まじかったです。逆にホンジュラスに対しては、終始、温かい声援が送られていました。目の肥えたイギリスの観客は分かっていました。どちらが「勝者」に相応しかったかを…。

 「世界最強」のブラジル相手に試合の半分以上を数的不利の「10人」で対等に戦い、最後はエスピノサの退場で「9人」になりながらも死力を尽くしてその実力を世界に証明、多くの人を感動させたホンジュラス…。僕はこの「英雄」たちを誇りに思います。

 日本のネット上では「ホンジュラス強すぎ!」「ブラジルよりホンジュラスの方が強かった」「ホンジュラスに引き分けた日本は凄い」「ホンジュラスVS日本が事実上の決勝戦だった」「最もメダルに値するメダルに届かなかったチームはホンジュラス」…と、ホンジュラスの強さを認め、その健闘を称える賞賛の声が大半を占めていました。ホンジュラスサッカーの実力と素晴らしさが多くの日本人に伝わり、感無量です。ちなみに「ホンジュラスへの賞賛」と共に日本のネット上で9割を締めていたのが「ブラジルと審判への批判」でした。「第3者」である日本人が、ホンジュラスとブラジルの試合でここまで怒るのも珍しいです。

 ホンジュラスはこれまでも「選手の能力」は極めて高かったですが、「準備」に問題があり、なかなか世界大会で好結果を収める事ができませんでした。改めて今回のロンドン五輪で、「ホンジュラスは良い監督の下で良い準備さえできれば、世界大会でも良い結果を残せる」事が判明しました。

 現在の僕の最大の『夢』は「ホンジュラス代表のGKコーチになる」事。必ず実現し、世界の舞台で、今回のロンドン五輪で勝てなかった日本とブラジルを倒します!!必ず!!

 本当に、ありがとう。ホンジュラスの誇り高き「英雄」たち…。


※<ホンジュラスVSブラジル>全ゴール・ハイライト動画。




☆連絡先メールアドレス → cafehondurasyoji@hotmail.co.jp

(返信できない事もございますので、悪しからずご了承下さい)