悔しさと怒りだけが残る終焉 「ホンジュラスVSスイス」 <後編> | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

悔しさと怒りだけが残る終焉 「ホンジュラスVSスイス」 <後編>


※右SBで今大会「初出場・初スタメン」を果たし、奮起するアミーゴのマウリシオ・サビヨン

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→?」 -「ホン<br />ジュラスVSスイス」2010年6月26日(土)10


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「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→?」 -「ホン<br />ジュラスVSスイス」2010年6月26日(土)9


 グループリーグ突破のためには「3点差勝利」が必要なホンジュラスが、ついに第3戦目にして初めて「攻撃的姿勢」を見せた。守備的な1トップ戦術から、本来の慣れ親しんだ攻撃的な「4-4-2」システムに戻し、DF能力に長けた右SBセルヒオ・メンドーサに代え、北中米カリブ海地区予選突破の立役者となった超攻撃的SB…我がアミーゴのマウリシオ・サビヨンをスタメン起用!! ※詳しくは→<ついに見せた攻撃的姿勢…

 そして……この采配が、ズバリと的中する!!!!!

 試合開始直後から、まるで「水を得た魚」のように、魅力溢れる攻撃的サッカーを展開するホンジュラス!!テンポ良く、リズミカルに繋がるパス、高い身体能力を生かした切れ味鋭い突破…。同じく「勝利」以外に道が開けないスイスを、完全に手玉に取る!!

 チャンスを量産するホンジュラス…。得点は時間の問題…。誰もがそう思っていたが…。

 押し込みながら得点を奪えないまま、迎えた後半。「世界最速のサッカー選手」と言われるエドガルド・アルバレスが魅せた!華麗なフェイントでスイスDFを一瞬で抜き去ると、中央で待ち構える「ホンジュラスの英雄」ダビド・スアソにピンポイントの完璧なクロスを送り込む!

 ゴールまでの距離は僅かに2m…。完全に、どフリー…。あとは、本当に押し込むだけ…。決まったぁあああ阿あ亜アあ!!!!!

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 「ホンジュラスの南アW杯初ゴール」…そう思ったのも束の間…ダビド・スアソのヘディングシュートは、無情にもゴール横へと外れてしまう…。なぜ!?ナゼ!!?何故!??イタリアで100ゴール以上決めた世界屈指のストライカーが、どうしてこんな簡単なシュートを決めれないのか!?これが「W杯」なのか…!?深い溜め息に包まれる…。

 それでもまだ時間はタップリある。この日のホンジュラスの調子なら、必ずこの後も決定機が訪れる…。大丈夫だ。絶対にゴールを奪って勝利してくれる…。

 その気持ちに応えるかのように、ホンジュラスが再びビッグチャンスを掴む!!!

 今度はさっきの逆パターン…。右サイドでボールを受けたスアソが絶妙のパスを、中央に走り込んだアルバレスに通す…。ワントラップから慎重かつ冷静にコースを狙ってシュートを放つアルバレス…。目の前はGKのみ…。今度こそ、決まったぁアぁ阿ああ亜ぁ唖ああ!!

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 ところが…このアルバレスの決定的シュートも、スイスGKディエゴ・ベナリオの「超」が付くほどのファインセーブに防がれ、得点ならず…。

 これだけ押し込んでるのに、何をどうやってもゴールだけが奪えない。南アW杯で優勝したスペインに唯一、黒星をつけたスイスの鉄壁守備陣を破る事ができない…いや相手守備陣は完全に崩しているものの、ボールがゴールに入らない…ただ、それだけなのだ。

 「まさか、こんなに素晴らしい内容で一方的に攻め込んでるのに、無得点に終わる…勝利できずに終わるなんて事ないよな…!?」

 不安が頭をよぎる。いくら「良い試合」をしても、そんなものはみんなすぐに忘れるし、この試合を見てない人には何も伝わらない。大事なのは「勝利」という結果を出す事。それ以外に世界の人々を認めさす方法は無い…。

 同時刻に行われている「スペインVSチリ」は、「2-1」でスペインリード…。しかも、チリは退場者を出し、ここから逆転して、ホンジュラスがグループリーグ突破を果たせる条件である「2点差勝利」をスペイン相手に飾るのは、極めて困難な状況…。

 しかし、もはや「グループリーグ突破」とか、どうでも良かった。…とにかく、今、こんなにも素晴らしいサッカーを披露しているホンジュラスに、何点差でも良いから勝って欲しかった。何としてでも「W杯初勝利」を挙げて欲しかった…。ただ、その想いだけだった…。

 何度となく決定的チャンスを掴むも得点できないまま、ついに試合はロスタイムに突入…。ここでホンジュラスは、CKのチャンスをモノにする。

 正に「ラストチャンス」。試合は現在「0-0」。ここで得点を奪えば、「1-0」で勝利できる。キッカーは、W杯後に中国の強豪・北京国安への復帰が決まったワルテル・マルティネス。ホンジュラスの「W杯初勝利」の「夢」を乗せたキックは、鋭い弾道で堅守を誇るスイスGKとDFの間を抜け…中央で待ち構えるオスマン・チャべスジョージ・ウェルコメのもとへ…。

 2選手は共に、完全なる超どフリー。シュートすると言うか、体のどこでも良いからボールに当たれば入る。ホンジュラスの「南アW杯初ゴール」が、とうとう決まったぁ唖ア阿ア亞あ!!

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 …かと思われたが、何とこの絶好のチャンスも、チャベス、ウェルコメ共にボールに触る事さえできない。「急にボールきた」…いわゆるドイツW杯の柳沢選手の「QBK」ホンジュラスバージョンかと言いたくなるほど、悔やんでも悔やみきれない決定機逸…。そして…。

 この直後に無情のホイッスルが鳴り響く…。試合終了。「0-0」の引き分け。ホンジュラスの南アフリカW杯も、同時に終了した…。

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 試合後、最後のCKを蹴ったマルティネスが、ボールに触れなかったウェルコメに対して、厳しい表情で言葉をブツけていた。ホンジュラスに関わる全ての人が納得いかない…悔しさと怒りだけが残る終焉となってしまった。

 絶対に、「引き分け」で終わらせてはならない試合だった。グループリーグ突破のためには「3点差勝利が必要」と書いたが、この試合は少なく見積もっても「3-0」で勝てた。同じく、グループリーグ突破のためには「勝利」しかないスイスを相手に、幾度となく決定的チャンスを作って完全に内容で圧倒したが…W杯の歴史に残ったのは「0-0」という「結果」のみ。良い試合をしただけに、こんなに歯がゆい事は無い!!


※初戦でスペインに勝利し世界を驚かせたスイス…。しかし、ホンジュラス相手に成す術なく引き分けに終わり、グループリーグ敗退が決定した。ホンジュラスは、「目の前で突破を決められる」という屈辱だけは、何とか回避したが…。

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 この日は、3戦目にして始めてホンジュラスらしい「攻撃サッカー」を披露した試合だった。原点に返り、守備的戦術から攻撃的戦術に戻した結果…スペインに勝利したスイスを内容で完全に圧倒したのだ。…この「事実」が、より一層、悔しさを増大させる。では、なぜチリ戦スペイン戦も「攻撃的戦術」で戦わなかったのか!?…と。

 チリとスペインに過度の敬意(悪い意味での)を抱くあまり、最初から攻撃を放棄してガッチガチに引いて守る戦術を採った結果、相手の猛攻を最後まで受け続ける事となった。しかしこの日のスイス戦は、ホンジュラスが攻撃的戦術を採って開始から攻めまくった事で、逆にスイスは前に出れなくなり、守備に専念せざるを得なくなった。つまり、ホンジュラスの「攻撃」が相手の「攻撃」をも遮断したのだ。正に「攻撃は最大の防御」…。

 そして、それこそが「ホンジュラスサッカー最大の魅力」なのだ。

 確かにスペイン相手に攻撃的姿勢で試合に臨むのは難しいかもしれない。イングランドとアルゼンチンに「4-0」で大勝したドイツでさえ、スペインを恐れて引いて守っていた。だが、何者も恐れず、奇想天外かつ破天荒な攻撃を仕掛けるのがホンジュラス伝統のサッカーであり、スペインやチリとも激しく得点を奪い合うホンジュラスの姿がどうしても見たかった…。

 理想はナイジェリアと「3-3」の壮絶な打ち合いを演じたシドニー五輪、「準備期間0日」で参加し「3位」に輝いた「2001年コパ・アメリカ」(ブラジルやウルグアイにも勝っている)…。当時のホンジュラスは世界的にも認められ、「FIFA年間最優秀チーム」にも輝いている。


<動画><2000年シドニー五輪 「ホンジュラスVSナイジェリア」>





<動画><2001年コパ・アメリカ 「ホンジュラスVSブラジル」>





 ホンジュラスは、やれるのだ。しかし、南アW杯のホンジュラスは、やろうとさえしなかった。絶対にに欠かせない主力が相次ぐ怪我で離脱する不運もあった。そして、持ってる能力の半分も発揮できないまま「28年ぶり」に出場したW杯は終わってしまった。その事が悔しくて悔しくて…本当に悔しくて仕方がない。

 この「悔しさ」と「怒り」は、4年後のブラジルW杯で雪辱してもらうまで晴れないだろう。こういう「悔しさ」や「怒り」が、新たな「歴史」を築いていく…。

 4年後のW杯では、ただ応援するのみでなく、ホンジュラスの勝利に正式なスタッフとして直接、関われる人物になる事を目指す。2年前の「北京五輪」でも今回の「南アフリカW杯」でも叶わなかった、今の僕の最大の「夢」だ。

 待ってろ、ブラジル!!!!!!!

 ホンジュラス代表スタッフの一員として、必ず4年後のW杯に出場する!!必ず!!


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→?」 -ホンジュラス代表サイン入りユニフォーム。