場所は相手チームの本拠地球場。
今日も熱狂的な相手チームファンが
40,000人近くの入場者のほとんどを占め
その選手たちの活躍と、そして
チームの得点と勝利を期待し見守っている。
そんな中でライオンズは2点のリードを持ち
ゲームは終盤の攻防へと舞台を移していきます。
ところが、7回・8回とそれぞれ
イニングの先頭打者を出塁させながら
どちらも併殺打でランナーを失うなど
得点に結びつくことができないまま。
当然大観衆はその守備にどっと湧き
なんとかそのいい気分のまま
お気に入りの攻撃陣が一気に逆転する姿を期待し
固唾をのんでフィールドを見守っています。
ここまで好投を続けてきており
1点しか挙げられていない相手投手でも
どこかに落胆や動揺が生じてきて
そこをついて一気に打ち崩せるのではないか。
ぐんと集中力が高まるその裏の攻撃。
打者もそうですが、審判も同じように
“これは何か起こるかもしれないな”、という
球場全体を包み込む“期待”を共有しています。
当然、ここまで普通にストライクのコールだったり
打者がどんどんスウィングをしていた投球も
投手は慎重にコーナーを狙って投げ
打者は高い集中力でそのボールを選ぼうとし
審判も厳しくコールしようと見ていますから
当然のことながら、四球という結果が
こんなシーンではよく見られます。
こうやってランナーが出塁すると
やっぱり相手投手にはプレッシャーがかかっている、
これは得点をもぎ取ってゲームを逆転する
千載一遇のチャンスだ、という期待がますます高まり
ストライクをとってもらえない際どいコースは
投手はどんどん投げづらくなり
逆に打者はそんな球を捨てることで
甘く入った“失投”を絞って狙い撃ちできますから
当然結果は打者に有利に働くことが多く
ここまでなかなか得点を奪えなかった投手から
一気に大量得点を奪って逆転し
その投手をマウンドから引きずりおろすシーンが
“よく”見られるのでしょう。
・・・これが相手のミスから“流れ”を持ってきて
一気にその“流れ”でもって相手チームを飲み込み逆転し
このゲームの勝利をもぎとることにつなげるという
一連の“流れ”のメカニズムを
ざっとかいつまんで追ってみたものです。
しかし、本来こういったシーンでこそ
逆に自分の最高の“魅せどころ”と捉え
大崩れすることなく1つひとつアウトを重ねていき
最少失点に抑えてこそチームの屋台骨を支え
軸として安定して活躍し続ける中心選手、
一流の "clutch pitcher" と言えるでしょう。
もちろん、このシーンでマウンドにいるのが
ワクさんでもシコースキーさんでもなく
他の“中継ぎ”投手であったとすれば
根負けして痛打されていたでしょう。
特に8回のワクさんの投球はそれこそ
"money time" になる素晴らしい1球1球でした。
1アウトから連続して3四球という結果は
もちろん慎重にコーナーを狙いすぎて
その慎重さが打者に、そして審判に伝わり
ストライク・コールをもらえずに招いた結果。
しかし、この1アウト満塁で
打席に4番の新井選手を迎えた窮地の場面で
それでも自分のこれまでの投球を疑うことなく
同じようにゾーンぎりぎりの素晴らしい投球を続け
無失点という最高の結果で残りの2アウトを取り
このイニングを終わらせることに成功しました。
この場面、もう四球は絶対にだめだとか
自分で招いた窮地だからこそ絶対に無失点だとか
そんな完璧主義の投球をしていたとしたら
まず間違いなく“流れ”に飲み込まれてしまい
痛打されて逆転、という悔いの残る結果が
その投手を待っていたことでしょう。
ライオンズ先発投手陣は特に今シーズン、
窮地の場面でこそ気負いすぎることなく
“もう1点”を防ぎつつ大量失点だけは避けながら
イニングを概ねどんどんと消化していき
そのしごとをなんとかうまくこなすとともに
順調にうまくチームの勝利を、そして勝ち星を
重ねて行くことに成功し続けています。
それはまさに窮地に強い
"clutch pitcher" の姿ですが
窮地を自分の最高の魅せ場にしてしまう
そんな選手たちとは
窮地だからこそいつも以上のちからで、
そして集中力で完璧に抑え続けることを
アタマのなかに描き、その計画通りに
手も足も出ないほど完璧に抑えるのではなく
窮地でも変わらずに
じぶんのなすべき“しごと”を最優先に置き
決してあれもダメ、これもダメ、と
自ら自分の首を絞めるような自滅には陥らず
じぶんの担うしごとをなんとかこなし
全体として結果をうまくまとめあげる、
そういった選手たちのこと。
ものごとは、どれだけ意気込んで
オーヴァーヒートするくらい集中しても
その思い通り最高の結果になることは
とても珍しいもの。
逆にそれだけ緊張の糸が切れる寸前の状態だから
1つのミスや1つの四球といった
“些細な”思うようにいかない1つのできごとで
まるですべてがうまくいかなくなったかのような、
そんな思い込みを誘発して
アタマを、そしてカラダを支配し
あれよあれよという間に流されて
気がつけば最低の結果、となるものです。
今日のワクさん、8回をはじめ4・7回も
すべて無失点に切り抜けたこと自体は
“ひとにぎりの運”のおかげであって
信頼して任せてくれた首脳陣や
打球をキッチリ処理してくれた守備陣、
そういった様々な人たち、そして事象に
じゅうぶんに感謝する場面なのですが
6イニング以上を投げ自責点3以内と
きっちりQSをクリアしながら
チームのリードを保ったまま
8回を投げ切った後マウンドを降りたことは
自分がじゅうぶんに素晴らしい投球を展開し
このゲームでなすべき役割を果たした故の
素晴らしい結果だとじゅうぶんに誇るべきもの。
これからも“ひとまかせの図太さ”とともに
その与えられた役割を何とかこなすことに
最大限集中し、専念しながら
“窮地”を自分の最高の“魅せ場”へと
これからも数多く演出していってほしい、
そう願っております。