アトピーは、シャワーの回数を増やしたほうがいいのか? | 子肌育Blog アトピーに負けない生活。

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アトピーは、シャワーの回数を増やしたほうがいいのか?


こんにちは。橋本です。


「アトピーが、汗でひどく悪化する時もあるような……」


経験からそう感じる人も多いかと思います。


だったら、汗をかいたらシャワーを浴びるようにしたほうがいいような気がします。


でもそこで心配なのが、シャワーを使い過ぎると肌の保湿成分まで、過剰に洗い流されて、「余計に肌が乾燥してしまわないか?」ということ。


ものの見方ひとつで、「いいか悪いか」が変わってしまうんですよね。


汗や汚れへの対策として、アトピーは、夏に昼間のシャワーの回数を増やしたほうがいいのか?


もっともらしい理屈をつければ、結論はまるで違ったものになってしまいます。


アトピー:シャワー


そうではなくて、実際に効果があるのか、ないのか。


本当にアトピーにシャワーが効果があるのかを知るには、実際にシャワーを「使った場合」と「使わなかった場合」で比較試験をするのがいちばんです。


「なぜ比較試験しなければ効果が分からないのか?」はこちら:

「体験談」という落とし穴

ランダム化比較試験…治療法に効果があるか知るには?


アトピーに対するシャワーの効果を調べた比較試験は少ないのですが、それぞれ別の報告者による、次の2つの試験があります。


 


比較試験1: 5月、6月、平日の昼休みにシャワー


1つめの試験は、アトピーの小学生を対象に、5月から8週間、平日の昼休みにシャワーを実施した子どもと、実施しなかった子どもを比較した試験です 1)


試験内容:


対象者


・ 6~11歳(平均7.8歳)


・ アトピー軽症から重症


・ 16例(2名が途中から脱落)


・ 脱落理由は、治療中の外用薬を変更したため


 


2つの群にわけて比較


・ シャワー使用群…9名


・ シャワー非使用群(シャワー浴が8週間のうち2回以下)…5名


 


シャワー浴の方法


・ 5月からの8週間、平日の昼休みに3~5分の微温水による全身のシャワー浴


 


期間


・ 12週間後まで調査


 


評価方法:


・ 全身を25のブロックにわけ、それぞれの湿疹の重症度を点数づけ


・ 保護者や教諭が皮膚症状を評価


 


試験結果:


・ シャワー使用群は、すべてのケースで、シャワー浴実施後、2週間で重症度の点数が低くなった(改善した)


・ その後もシャワー浴実行中は、良好だった


・ シャワー非使用群は、重症度の点数が変わらなかった


・ シャワー使用群で、結果的に家族の満足度が高かった


 


比較試験2: 9月、運動会の練習時期


2つめの試験は、小学校1年生から中学校2年生のアトピーの子ども58名を集め、9月始めの時期におこなわれた比較試験です 2)


9月始めという時期は、学校ではちょうど運動会の練習なども重なり、汗をかきやすい時期だったようです。


 


試験内容:


対象者


・ 7~14歳(小学校1年生から中学校2年生)


・ 58例(途中脱落者なし)


・ アトピー中等症以上


 


4つの群にわけて比較


・ A群(シャワー浴非実施)…15例


・ B群(4週間シャワー浴実施)…22例


・ C1群(前半2週間シャワー浴実施)…11例


・ C2群(後半2週間シャワー浴実施)…10例


 


シャワー浴の方法


・ 学校でシャワー浴を実施


・ 石鹸を使わず、温水シャワー浴のみ


 


期間


・ 4週間調査


 


評価方法:


・ SCORAD(スコラッド)といわれる、湿疹の範囲、強さ、自覚症状などを数値化し点数にして、重症度を測る方法で評価


・ 9月始め、2週間後、4週間後に皮膚科医が症状をSCORADで評価


 


試験結果:


・ どの群も4週間後には、SCORADが低下した(改善した)


・ 前半2週間での変化をみると、シャワー浴であきらかな改善がみられた


・ あきらかな改善は、B群とC1群のみ


・ 重症度別でみると、重症度以上の例で、シャワー浴の効果があきらかに出た


 


2つのシャワー試験からみえてくること


1つめの試験は、対象になった人数が16例で、試験の規模があまり大きくありません。


しかも、「シャワー使用群は、家族がシャワー浴によるスキンケアの希望があった子どもから選んだ」と報告されています。


試験結果が正しく出るようにするには、対象者の条件、重症度、個人差などで、どちらの群に振り分けるか決めない。


かたよりなく振り分ける、いわゆる「ランダム化」という振り分け方をしますが。


ここでは、そのランダム化がされていないわけですね。


人数も少なく、ランダム化されていない。


そして、経過していく症状の評価を専門の皮膚科医がおこなっていない(保護者や教諭が皮膚症状を評価)。


その点で、この試験の結果が、確信に近い答えかというと、残念ながらそうは言えません。


とはいうものの、日中のシャワーが、アトピーのケアに有効である可能性が、経験によるものだけでなく、比較試験によってみえてくるというのは重要です。


2つめの試験は、参加人数がさらに多くなり、ランダム化もされているので、より結果の信頼度は高くなっています。


そして、結論は「アトピーにシャワーは有効」という点で、2つの試験は一致しています。


2つめの試験で、さらにみえてくるのは、汗対策としてのシャワーの効果です。


より汗をかく、9月前半2週間での改善が、あきらかだったことから、そういった可能性がみえてきますよね。


「誰にでも合うベストな、ただひとつのスキンケア」というのはありません。


それでも、こういった比較試験が、これからさらに数多くおこなわれるようになれば、より的確なアトピーのケアがわかってくるのかな、と思います。


 


通常の治療もきちんとおこなっている


もうひとつ重要なのが、「シャワーがアトピーを治療するものではない」ということ。


あくまでも、


適切なアトピーの治療をした上でなら、シャワーを積極的に使っていくことで、症状が良くなっていくケースも多いのではないか


ということです。


2つの比較試験ともに、皮膚科医の目の行き届く試験にかかわっている子どもたちということで、通常の適切な治療も受けているだろうと思われます。


つまり、通常の治療をきちんと受けているからこそ、シャワー浴による効果がよりはっきり出てきたのではないか、ということですね。


そういう意味では、今ある湿疹をきちんとおさえてあげることが、やはり優先です。


その上でなら、シャワーを賢く使ったりすることも、ぜひやってもらいたいわけです。


もちろん、必要なら保湿剤によるケアも忘れずに、ですね。


 


 


 


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参考文献:

1) 望月 博之, 滝沢 琢己, 荒川 浩一 ほか: アトピー性皮膚炎に対する小学校でのシャワー浴の有用性. 日本小児科学会雑誌 107(10): 1342-1346, 2003.

2) 亀好 良一, 望月 満, 高路 修 ほか: アトピー性皮膚炎に対する学校でのシャワー浴の効果. アレルギー 57(2): 130-137, 2008.