改正検察審査会法で医療訴訟は増えるのか | 永田町異聞

改正検察審査会法で医療訴訟は増えるのか

「医師が必ず起訴される制度が始まろうとしている」と、日経メディカルオンラインで、棚瀬慎治弁護士が懸念を表明している。


5月21日から司法制度改革の一環として施行される「改正検察審査会法」により、医療事故に関して一般市民の判断で、医師を起訴できるようになるというのだ。


これを理解するにはまず、検察審査会について語る必要がある。検察審査会は地方裁判所またはその支部の所在地におかれる機関で、有権者の中から無作為に選ばれた11人によって構成される。


その役割は、起訴の権限を独占している検察官の判断が妥当かどうかを審査することである。例えば、ある事件について検察官が不起訴や起訴猶予とした場合、それを不服とする人の求めに応じて審査する。被害者が泣き寝入りする事態を防ぐのが大きな目的だ。


これまでその審査結果に法的拘束力はなかったが、法改正により、5月21日から、審査会が必要と判断すれば、裁判所指定の弁護士の手で起訴できるようになった。


棚瀬弁護士は、この法改正は医療崩壊を加速する重大な問題をはらんでいるという視点で、国民に議論を呼びかける。


棚瀬弁護士は主に医療者側に立った弁護活動を行ってきている。「刑事裁判手続は医療事件を扱うのに適していない」とも主張している。


そうした立場と、医療被害にあった患者やその家族の思いが相容れないことを十分に踏まえたうえで、棚瀬弁護士の問題提起を受け止めてみたい。


棚瀬弁護士は「患者遺族からの告訴で捜査された場合、いくら検察が不起訴にしても、最終的には一般市民の検察審査会が起訴するか否かを判断することになってしまう」と述べる。


勝手な推測だが、ここには、患者遺族が少しでも疑念を感じたら医師を起訴に追い込むことができ、むやみに医療訴訟が増えるのではないかという不安がのぞく。


そして、医学知識のない一般市民に正しい判断が可能だろうかという根本的な疑念があるのだと思われる。下記の論述がそれを示している。


「(審査員は)どうしても患者側の視点で判断してしまうであろう。患者の立場にたった経験がある一方、医師の視点から症例を検討した経験を有しないからである。また、医学的知見や法的知識が不十分であることにより、安易に起訴がなされる恐れも否定できない」


「殺人や窃盗といった典型的故意犯についてはともかく、専門的な知見をもとに過失や因果関係の判断を求められる医療事件については、そのままあてはめると不当な起訴事例を積み重ねていってしまう恐れがある」


確かに、もし医療界の訴訟がさらに多発することになれば、いっそう医療の萎縮をもたらし医師不足に拍車をかける危険性は否定できないだろう。


ただ一方で、中にはデキの悪い医師、倫理観や人間性の欠乏した医師もいて、医療過誤をなくするのは容易ではない。被害患者の家族が泣き寝入りしない制度もまた必要である。


厚労省は昨年6月、医療事故死の原因を究明するための調査委員会を設置する基本方針を発表した。調査委は悪質な事例について捜査機関へ通知することになっているが、検察審査会に調査結果を報告するかどうかはわからない。厚労省と法務省という省庁の壁が取り除かれないかぎり、難しいかもしれない。


これまで、弁護士は医学文献から情報を集め、必要に応じて第三者的立場の医師に鑑定意見書を作成してもらって、検察に不起訴とするよう働きかけてきた。今後は、一般市民にもわかるような平易さで資料を作成する必要がある。


弁護士には文章表現を平明にする工夫が要求されるが、それは裁判員制度など司法改革の流れのなかで、法曹関係者すべてが心してかからなければならないことだろう。


医療崩壊といわれる現実は、医師の過重労働を招き、疲労による医療ミスが起きやすい状況をつくり出している。その結果、訴訟沙汰が増え、さらに医療崩壊が進むという悪循環に陥ることは、国民の不幸である。


医療事件に限っては、検察審査会のメンバーを無作為選出で決めるのではなく、医療界以外の有識者による審査会にすることも検討する必要があるのではないだろうか。


いずれにせよ、5月の改正検察審査会法スタートを前に、今一度、議論を深める必要がありそうだ。


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