第1235作目・『SUNNY 強い気持ち・強い愛』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

テーマ:
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』

(2018年・日本)

〈ジャンル〉ドラマ/青春




~オススメ値~

★★★★☆

・90年代の懐かしい音楽やカルチャーに浸る。

・オリジナル版に忠実なリメイク作品。

・笑って、泣けて、誰でも楽しめるドラマ。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『専業主婦の奈美は母親の見舞いの際、同じ病院で高校時代の同級生、芹香と再会する。芹香は奈美が転校した先の学校にいたリーダー格で、仲良しグループの"サニー"に内気な奈美を入れてくれた友達だった。淡路島から来た田舎っぽさを抜け出せなかった奈美に流行りの服や遊びを教えてくれた懐かしい仲間たち。しかし、独身の芹香は末期ガンに冒されていた。サニーのメンバーに会いたいとお願いされた奈美は、探偵の中川に依頼してサニーのメンバーを探し始める。やがて、一人ずつ見つかっていったメンバーはそれぞれの波瀾万丈な人生を辿っていた。』


〜青春と、再会する。〜


《監督》大根仁

(「モテキ」「バクマン。」「SCOOP!」)

《脚本》大根仁

《出演》篠原涼子、広瀬すず、板谷由夏、山本舞香、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美、富田望生、池田エライザ、三浦春馬、リリー・フランキー、ほか




【プレイバック 90's

意外にもPG12。犯罪性の高いシーンがあるからか?とは言え、本作は感動に包まれる青春映画である。90年代を生きた人々ならその感動もひとしお強くなるだろう。

元々、オリジナル版の韓国映画『サニー  永遠の仲間たち』は大ファンである。ソフトも持っている。
不治の病、高校時代の仲間たちとの再会、ポップな音楽、波瀾万丈な人生……感動できる要素に溢れた傑作であった。
舞台を日本に移してリメイクしたということで、公開当時はファン心理ならではの期待と不安が入り混じった複雑な心境だったのだが、懐メロを推して妙なミュージカルシーンが挟まったぐらいで、あとはオリジナル版に忠実で非常に良かったと思う。
『モテキ』や『バクマン。』の大根監督、オリジナル版を大切にしながらリメイクしてくれたのだなぁ。

90年代を舞台にしているため、当時のカルチャーが再現されているのも懐かしい
安室奈美恵の『SWEET 19 BLUES』を始めとするJ-POPの数々、当時のお菓子やジュースなどの小道具、街中に設置されたCCレモンの看板に至るまで最高だ。初期の頃のシンプルなプリクラも懐かしい。
令和風にいうならば、"エモい"作品である。

また、当時のカルチャーのみならず時代情勢を反映させた設定も感じられる。
主人公の阿部奈美は田舎から転校してきた地味な女子高生だった。彼女が元々住んでいたのは淡路島で、阪神淡路大震災の影響を受けて東京に引っ越し、父は慣れない土地で仕事を見つけ出したのだ。
困窮する経済状況の中、アニメオタク(これも時代の先駆けと言える)の兄や言葉遣いの悪い祖母や両親と暮らしており、奈美は流行りのルーズソックスを買うお金がないことから自分で靴下を広げたり、祖母のセーターをカーディガン代わりにして羽織ったりしてやり過ごすのだった。
主人公の経済状況や転校から震災の爪痕を感じさせるのもリアルな設定で非常にうまい。

↑流行りのルーズソックスにするため自分の靴下を無理やり広げる奈美。翌朝、ただのダボダボの靴下が完成していた。


韓国のオリジナル版も好きだったが、オリジナル版の世界観をそのままに、設定が日本人の私たちに馴染み深くなったのだから感動しないわけがない。
強いて挙げるなら、ライバルチームたちに街中で絡まれてナミ役シム・ウンギョンが発狂するあの稀代の怪演を広瀬すずにやらせるのはちょっと本人のイメージと似合わなかったが、その他のキャスティングも絶妙であった。
特に池田エライザは可愛さと色気を兼ね備えて若手女優枠でも唯一無二の存在を確立させつつある。

ちなみに、芹香役の最初のキャスティングは真木よう子だったようだ。本作で芹香を演じた板谷由夏も毅然とした女リーダーっぷりがよく合っていたが、そっちのパターンも見ておきたかったものだ。

【20年ぶりの再会】

専業主婦の阿部奈美が、ひょんなことから高校時代の親友、芹香と20年ぶりに病院で再会する。キャリアウーマンとして働いていた彼女は余命1ヶ月の宣告を受けていることを告白した。
芹香の願いは、高校時代にいつも一緒にいた「サニー」の仲間たちと再会すること。既に連絡を取り合っていなかった奈美は、彼女たちを探すため母校に訪れる。
通学する生徒たちを見て、この高校に転校してきた当時を思い出す奈美。淡路島の田舎から転校してきた奈美は流行りの服に追いつけず、初日のクラスで浮いた存在になっていた。
しかし、そんな彼女を仲間に引き入れ、おしゃれやメイクを教えてくれたのが芹香たち「サニー」のメンバーだったのだ。

学校に時折訪れているという、梅の連絡先だけ知ることができた奈美は、ブラック会社に勤めている梅と再会。二人は相談の末、探偵に人探しを依頼することにする。
しばらくすると、探偵の中川が「サニー」の一人である裕子を見つけてきた。豊胸手術を受けて様変わりしていた裕子はセレブ妻を気取ってかつての仲間たちとの再会を喜ばないのだが、夫の浮気が中川の調査で発覚すると奈美、芹香、梅も加わって報復。離婚に踏み出し、再び「サニー」のメンバーの前に現れるのだった。

なかなか見つからなかった心も中川の調査で発見される。
心は元夫によるDV被害とアルコール依存によって、自分の子供と一緒に過ごすことが許されなくなり、借金まみれの場末のスナックで昼間から酒を浴びている状態であった。
心が抱える苦しみに寄り添い、奈美は心を芹香の元へと連れて行く。

ところが、最後の一人の奈々だけがなかなかみつからなかった。
高校当時、モデルとしても活動していた奈々は奈美の「サニー」メンバー加入を嫌っていた。奈々は奈美の田舎者のような雰囲気を嫌悪していたのだ。
それは彼女の家庭に原因があった。母の死後、間も無くして父は再婚して新しい女性を連れてきた。家庭に居場所を感じられなくなってしまった奈々。その継母が奈美のような方言で話す女性だったのだ。
お互いの悩みや苦悩を屋台で素直に吐露した二人は、これまでの壁を壊して遂に打ち解けるのだった。

↑オリジナル版でも好きなシーン。不良娘2人が屋台で酒を飲みながら本音で語り合う。屋台の親父が未成年飲酒を見て見ぬ振りしているのも時代を感じる。

そんな奈々が「サニー」のメンバーと音信不通になってしまったのは文化祭の日のことだった。
賞金で旅行に行こうとダンスコンテストの優勝を目指す「サニー」のメンバーたち。だが、その日、芹香のかつての友人で「サニー」と敵対するチームのリーダーでもある鰤谷が事件を起こす。
クスリに手を出したことで芹香との縁を切られていた鰤谷は、これまでも何度か「サニー」のメンバーに喧嘩を絡み、奈美をいじめの標的にしていた。
その度に逆襲にあって敗北を喫していた鰤谷は、精神的に追い込まれ、再びクスリに手を出してしまう

文化祭の日、鰤谷は薬物に染まった状態で奈美にクスリを飲ませようとする。
そこに駆けつけた奈々が奈美を救うのだが、鰤谷が逆上。反撃した勢いで、奈々の顔に大きな傷を負わしてしまった。流血した奈々は救急搬送。
モデルとしても致命的な傷を負ってしまった奈々は学校を退学し、そのまま「サニー」のメンバーも音信不通になってしまったのだ。

高校時代のそんな事件を超えて、再び20年ぶりに再会した「サニー」のメンバーたち。
1ヶ月が経ち、やがて芹香は亡くなってしまった
葬儀場に集まるメンバーたち。中川が芹香の頼みを受けて、大々的に「サニー」再結集の新聞広告を打ち出していたが、そこに奈々の姿はない。
家族がいなかった芹香は「サニー」のメンバーに遺言を残していた。梅の業績を支えるために不動産の契約を、心の夢と子供との時間を取り戻すため芹香の住んでいたマンションや美容室の開店資金を贈与する。
そして、奈美は「サニー」の新たなリーダーに任命されるのだ。

20年前の文化祭で踊れなかったダンスを葬儀場で芹香に送るメンバーたち。
あの時の思い出に浸りながら、達成感に包まれる一同がふと振り返ると、そこには大人になった奈々が静かに現れていた

↑「サニー」の一同は芹香の葬儀で再結集する。最後の一人、奈々も遂に彼女たちの前に姿を現すのだった。


奈美たちが高校時代に生きていた時代は90年代のコギャル全盛期で、女子高生たちが社会の中心にいた時代だった。
すべてのトレンドも社会問題も彼女たちの文化から生まれていたエネルギッシュな時代
自分自身、当事者ではなかったものの、同じ時代を生きた人間としてその雰囲気はとても懐かしかった。

何が面白かったのかは分からないが、何から何まで笑ってはしゃいでいた騒がしいコギャルたちと比べて、奈美らがファミレスで見たように、現代のJKたちは皆で集まってもスマホで比較的静かに遊んでいると対比的に描かれる。
どちらかと言えば、下品が服を着て歩いていた時代よりも周囲に迷惑をかけずに大人しくなった今の方が良いようにも思われるのだが、学校の先生がこぼしていたように問題が表面的に見えなくなってしまったというのが教育的には深刻なのだろう。
奈美たちの時代は、問題が表面的で「分かりやすかった」のだそうだ。
時代が変われば問題の在り方も変わる。そういうものなのだろう。

↑騒がしい奈美たちの時代。周りの迷惑もお構いなしに騒ぎまくる。しかし、そんなコギャルたちからトレンドが生まれていた。

90年代の音楽を懐かしむのみならず、オリジナル版もそうであったようにしっかり笑えて、最後にはちゃんと涙も出るのが本作の素晴らしいところ
そればかりではない。奈美の高校時代の胸キュンエピソードも見逃せない。

奈美が当時、恋に落ちた相手は梅の兄の友人である渉である。三浦春馬演じる渉は奈美から比べて少し年上の憧れの青年。
ダンスホールのDJをこなす渉は、奈美が鰤谷らのグループに絡まれているところを助けてくれる白馬に乗った王子様なのだ。
渉の跡をつけて入り込んだ慣れないダンスホールで、その姿を見失って困り果てる奈美に後ろからヘッドホンをかける渉。オリジナル版を忠実に再現しているのだが、本作ではヘッドホンからCharaの『やさしい気持ち』が流れる
渉がこんなにキュートな曲を聴いているのもギャップなのだが、振り返って渉と奈美が見つめ合う胸キュンシーンにはベストな選曲だ。

そんな渉への恋心は、ある日、あっけなく散ってしまう。
渉が付き合っていた相手は奈々だったのだ。いつものように渉のことを目で追っていた奈美は、彼が奈々と寄り添って話す姿を目撃する。奈美の切ない恋心は、叶うことなく散っていった
逃げ出すようにその場を去った帰り道。涙を流す高校時代の奈美に、大人になった奈美が寄り添って理解し合う過去と現代の重なるシーンも印象的な演出だ。

当時青春を生きた人もタイムスリップして楽しむことができ、当時を知らない人も笑って泣ける名作だ。
世代の枠を超えて愛される映画ではないだろうか。


(118分)