(1985年・アメリカ)
〈ジャンル〉アクション
★☆☆☆☆
・シュワルツェネッガーが大活躍する名作アクション。
・違和感のある設定やユニークな台詞。
・もはや伝説となった名言(迷言)の数々。
(オススメ値の基準)
★1つ…一度は見たい
★2つ…良作だと思う
★3つ…ぜひ人にオススメしたい
★4つ…かなりオススメ!
★5つ…人生の一本、殿堂入り
〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介
〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉
《あらすじ》
『かつて腕利きのコマンドー部隊の指揮官を担っていたメイトリックス。退役して娘と共に静かな生活を送っていたメイトリックスだったが、謎の武装集団が襲い掛かり、娘をさらって人質にとってしまう。犯人たちの目的は、バル・ベルデ共和国の現大統領をメイトリックスに暗殺させることだった。娘の命を人質にとられたメイトリックスは仕方なくバル・ベルデに向かう旅客機に乗り込んだ。だが、一瞬の隙をついて同行する見張りの男を殺して飛行機から脱出。娘を奪還するために、敵のアジトを探し始める。まずメイトリックスは彼を空港まで見届けにきたサリーと名乗る男を探し出した。サリーが口説いていたシンディに無理やり協力してもらいながら、メイトリックスはサリーの跡を追う。』
〜許せない‼︎奴らは、ただでは済まさぬ!〜
《監督》マーク・L・レスター
(「処刑教室」「炎の少女チャーリー」「プテラノドン」)
《脚本》スティーヴン・E・デ・スーザ
(「バトルランナー」「ビバリーヒルズ・コップ3」「ストリートファイター」)
《出演》アーノルド・シュワルツェネッガー、レイ・ドーン・チョン、ヴァーノン・ウェルス、アリッサ・ミラノ、ほか
【疑惑の正義のヒーロー】
歴史ある名作アクションだけど、そんな大したもんじゃないという印象だった。
引き込まれるようなストーリー展開やあっと驚くオチもない。鑑賞から数週間経った今、もはやどんな映画だったかすら記憶に定かではない。
あれだけ派手に暴れて、あれだけ豪快に敵を倒していたのに、ここまで印象に残さないのも逆にすごいではないか。
では、なぜ星一つで「一度は見たい」と評価したのかというと、それはズバリ本作が有名だからである。
ネームバリュー以上の期待は不要。むしろそれを軽く下回る。ところが、本作はその単純明快なストーリーがお茶の間受けしやすいと思われたのか何度も地上波テレビで放送された。
結果として認知度が高まり、今やアーノルド・シュワルツェネッガーの『ターミネーター』に次ぐ出世作と言っても過言ではない。
もちろん、公開当時もかなりのヒットを飛ばした。
それはやはり主演のアーノルド・シュワルツェネッガーの手腕が大きいだろう。
本作公開の前年、彼はその後伝説的シリーズとなる『ターミネーター』の一作目に出演している。『ターミネーター』では未来から送り込まれた殺戮ロボットとして主人公たちを追い詰める悪役を演じていた。
そんなシュワルツェネッガーが、翌年には本作に主演し、今度はその鍛え上げられた肉体を正義のヒーローとして活躍させたのである。
昨年までターゲットを殺すために執拗に追いかけていた恐怖のロボットが、翌年は娘を守るために必死に戦う戦闘パパに大変身。
イメージを覆す主演抜擢に公開当時、人々が期待しないわけがないではないか。
それでも本作のポスターを見ると、どうしてもシュワルツェネッガーからは『ターミネーター』のような無機質な鋼の肉体が映し出される。正義のヒーローとは程遠い出で立ちだ。
黒い背景に傷だらけの身体、傭兵スタイルに物騒な手榴弾、そして影のある顔……。
このポスターを見て、当時の人々も「本当に正義のヒーローになるの?」と訝しがったのではないだろうか。
しかも、皮肉なことに本作で娘を奪還するために"マジ"な顔をして孤軍奮闘するシュワルツェネッガーは、全然、正義のヒーローの顔付きではない。
敵を容赦なくなぎ倒し、過剰防衛とも取れる攻撃で軽々しく命を奪い、善良な市民の車を無理やり強奪してかっ飛ばす。
主人公にしているから共感できるが、やっていることは客観的に見れば完全に連続殺人犯なのだ。
娘の命が奪われないためには、自分が逆襲してアジトに近付いていることを敵組織に電話などで報告されてはならないという、絶対不利な設定があるからこそスリルが成り立つストーリーだった。
【本格アクション……コメディ??】
本作がこれほどまでに時代を超えて愛されているのは、地上波放送されるたびに大いに盛り上がるというツッコミどころ満載の台詞や展開の数々だ。
そんなわけあるかと素人でも口にしたくなる違和感たっぷりのシーンや名言…いや、迷言に溢れている。
軍を退役したジョン・メイトリックスは山岳地帯の奥地で愛娘と二人で幸せに暮らしていた。
ある日突然、事件は起きる。メイトリックスと共にコマンドー部隊に所属していた元隊員たちが次々と殺害されていたのだ。そしてついに、メイトリックスの元にも謎の武装集団が現れた。護衛についた現役軍人たちが次々に殺され、メイトリックスは娘を拉致されてしまう。
犯人たちの正体は失脚したある国の独裁者で、現大統領の暗殺をメイトリックスに強要するため彼の娘を人質にとったのだ。
武装集団に見届けられながらメイトリックスは仕方なく彼らの指示に従って飛行機に乗り込むが、一瞬の隙をついて見張りの男を殺害。旅客機から飛び出して、娘の奪還に向かうのだ。
もちろん、敵に自分が脱走したことが知られてはならない。旅客機が目的地の飛行場に着くまでの11時間の間に、どこに囚われているかも分からない娘を奪還するため、僅かなヒントを頼りに奔走する。そして、自分が生きていることを目撃した敵がいれば、アジトに報告される前に息の根を止めなければならないのだ。
人質にとられた娘を助けるためなら、何者であっても妨げるものは容赦しない。傭兵や警備員、警察までも倒していく。事情を知らないでメイトリックスを逮捕した警察車両にロケットランチャが放たれるのだ。
いやいやいや……なんて罪深い!!
どこに囚われているのか分からない娘の元にたどり着くには、犯人の手下を捕まえて彼らの口から吐き出させなければならない。
それなのに、メイトリックスは怒り心頭で娘の居場所を聞き出す前に相手を殺してしまうのだ。
一番有名なのは、メイトリックスを空港に送り届けた男に吐き捨てた台詞だろう。
メイトリックスが反抗しないと察知した男が、彼を愚弄しながら優位に立った態度で接していた。メイトリックスはそんな彼に「面白いやつだ、殺すのは最後にしてやる」と言い放つ。
ところがその後、メイトリックスは飛行機から脱走。数分後には男の跡をつけており、カーチェイスの末、崖の上で男の足を持って宙吊りにするのだ。
そして、命乞いをする男に容赦なく告げる。
「お前を最後に殺すと約束したな……あれは嘘だ。」
そう言い放ったメイトリックスは男の足を手放し、崖から転落させるのである。敵とは言え、おぞましい裏切りである。だが、悪党には容赦のないシュワルツェネッガーの態度にニヤニヤせずにはいられない。
でもこれ、本当にヒーローなのか……??
メイトリックスはこんな調子なので、いつまで経ってもヒントと車を乗り換えていくばかりで、なかなか本丸に辿り着けない。
そんな猪突猛進なメイトリックスが本作最大の魅力だろう。メイトリックスはそういう人なのだ。自宅の武器庫の暗証番号が2桁な人なのだ。
暗証番号2桁の人に、小賢しい知恵やあっと驚かせる作戦なんて不要である。
対して、メイトリックスと対峙する最大の敵ベネットもすごく馬鹿である。
クライマックスの一騎打ちでは、やめときゃいいのにメイトリックスの挑発にまんまと乗せられて銃を捨ててナイフで対抗する。
そのくせ、素っ頓狂な気合いを入れてメイトリックスに切り掛かっていくその顔が、明らかに敵の強さに怯えた恐怖の表情なのだ。
大体、ベネットの服装からして何となく大事な頭のネジが何本か抜けているような気がしてたのだ……。
主人公も敵もいたって真面目なのだが、真面目だからこそ両者の作戦の粗さや台詞の珍妙さが際立って面白くなってしまう、空前絶後のユニークなアクション映画であった。
(92分)